第15章 — 盾…という名のビーチパラソル
カイは、自分の運命から逃げているような走り方をしていた──
というか実際に逃げていた。
砂浜は、彼の失敗した作戦たちの生きた博物館になっていた。
・倒れた網
・舞い散る小麦粉
・崩れたトンネル
・天ぷらになった魚
・役に立たなかった箱
・恋に狂った海竜
そしてその“海竜”がまたやってくる。
「カーーーイ!!」
リュウナはおやつを取りに走る子どものように嬉しそう。
「あなた、だんだん速くなってるよ! 儀式に向けて脚が強くなるね!」
「儀式ぃ!?
その言い方、悪魔の契約より怖いんだが!!」
リュウナはただキラキラ笑った。
その笑顔は──
怖くて、きれいで、危険で、ちょっと感動的で、やっぱり怖い。
カイは屋台の端でつまずき……
そしてそれを見つけた。
ビーチパラソル。
砂の上に倒れた、
カラフルで、
傷だらけで、
巨大なパラソル。
カイは理性が壊れた男の笑みを見せた。
「これだ!! これが壁だ!! 俺の最終防衛ライン!!」
彼は両手でパラソルを持ち上げた──
もちろんほぼ転びながら──
そして体の前に掲げた。
まるで伝説の盾を構える騎士のように。
リュウナは数メートル手前で止まり、感心した。
「わぁ……その丸いカラフルなやつの後ろのカイ、すっごくかわいい♡」
「かわいく見せたいんじゃねぇ!!
盾なんだよこれは!!」
カイは姿勢を正した。
「リュウナ! 近づいたら俺は……お、俺は……
これを、これを使うからな!!」
リュウナは瞬きをした。
「武器として?」 「そうだ!!」 「どうやって?」 「……まだ考え中だ!! でも使う!!」
リュウナはゆっくり近づき、
愛情過剰で恐ろしい表情を浮かべた。
「カイ……それの後ろに隠れてるの、恥ずかしいから?」 「恥ずかしいんじゃねぇ!! パニックなんだよ!!」
リュウナはパラソルを古代遺物みたいに観察した。
「これ……カイを守れるの?」 「守れる!!」 「こんなに弱そうなのに?」 「俺よりは強い!!」
リュウナはパラソルに指をふれた。
ちょん。
パラソルは紙切れのように吹っ飛んだ。
カイも一緒に吹っ飛んだ。
彼は空中で3回転し、
砂に顔面から落ちた。
ズボッ。
「いでででででえええ!!」
リュウナは急いで駆け寄った。
「カイ!? 大丈夫!?」 「大丈夫じゃねぇ!!」
顔が砂に埋まりながら叫ぶ。
「魂のほうが先に落ちてった気がする……」
リュウナは彼をそっと仰向けにした。
彼の状態は──
髪ぼさぼさ、
砂まみれ、
目が見開き、
心臓バクバク。
リュウナは優しすぎて逆に恐ろしい声で言った。
「カイ……壊れかけてるあなた、もっと魅力的……♡」
カイは飛び起きた。
「それぇぇ!!
それ言うなぁぁ!!
全然褒め言葉じゃねぇ!!」
リュウナは腕を広げた。
「カイ……抱っこさせて?」 「嫌だ!!」 「ちょっとだけ。」 「嫌だ!!」 「じゃあ印つけ──」 「もっと嫌だ!!」
カイは後ろに倒れ、そのまま海へダイブした。
水しぶき。
カイはびしょ濡れで浮かび上がり、必死に呼吸を整えた。
リュウナは水際でにっこり。
「カイ……海に入るとね……あなたのこと、もっと簡単に印つけられるよ♡」
カイの顔が真っ青になった。
「どういう意味だよぉぉ!?」 リュウナは手を振った。
「私は海の生き物♡」 「嫌な予感しかしねぇ!!」 「海は私の家♡」 「やめろやめろやめろ!!」 「あなたが中に入るとね……私、もっと速くなるの♡」
カイは全力で砂浜へ戻ろうとした。
その時、リュウナは天ぷら魚を掲げながら言った。
「カイ……行くね……♡」
そして彼女は海へ──
**スッ……**と潜り、完全に姿を消した。
カイは固まった。
彼には6秒あった。
リュウナがどこかから浮かび上がって襲ってくるまでの6秒。
6秒でできることは──
ひとつ。
パニック。




