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第14章 — 謎の箱(実は全然謎じゃなかった)

カイはもう限界だった。

走り疲れたというより──

心が疲れ、体が疲れ、魂が疲れ、存在そのものが疲れ果てていた。


砂浜はもはや戦場の跡のようだった。

一方は恋に狂った海竜ドラゴンマーメイド

もう一方は運動神経があまりよろしくない人間。


この戦いは公平ではなかった。


その後ろではリュウナがますます楽しそうに追いかけてきていた。


「カーーーイ!! 絶望してる時の走り方、すっごくかわいい♡」


「全然褒め言葉じゃねぇぇぇ!!」


カイは砂浜から外れ、小さな路地へと入り、

使われていない倉庫エリアへ入った。

そこには箱や道具、補給品が散乱しており──

何よりも大事なもの、希望らしきものがあった。


カイは大きな古い木箱につまずいた。

箱には色あせた文字でこう書かれていた。


「NÃO ABRIR. PERIGO.(開けるな 危険)」


カイの目が輝いた。


「俺にとっての危険か……それとも彼女にとっての危険か……?」


「カーーーイ? どこ行ったの〜?」

遠くからリュウナの声。


カイは箱を叩いた。

すると、中から重くて空洞っぽい、有望な音がした。


「なんであれ……これが最後のチャンスだ……!」


彼は蓋を開けようとした。

動かない。


もう一度。

動かない。


カイは横を蹴った。


ゴンッ。


その瞬間──蓋が勝手に開いた。


カイは二歩さがった。


「お、おい……なんだ──?」


箱の中には……


何もなかった。


本当に何も。


ただの空っぽの箱。

埃の匂いしかしない。


カイは空を見上げ、宇宙を見上げ、神を見上げ、

あるいはこの惨劇を観覧中の誰かを見上げて叫んだ。


「一回でいいんだよ!! 一回!!

一回くらい何か成功してくれよおおお!!」


そして彼は箱の中に頭を突っ込み、

存在ごと消えたくなる演技をした。


そのとき──足音が聞こえた。


倉庫の入口に、ほのかに光を放ちながらリュウナが立っていた。


「カイ! このかくれんぼすごく好き♡

なんかロマンチックだよね〜!」


「ロマンチックじゃねえ!! 必死なんだよ!!」


「かわいい♡」


リュウナはゆっくり近づいてくる。


カイは、考えた末にできる唯一のことをした。


箱の中に飛び込んだ。


そして蓋を内側から閉めた。


箱の中で縮こまり、息を荒くして言った。


「これで……これで開けられない……“開けるな”って書いてある……

これはルール……ルールは守るもの……!」


外から──


カチッ。


蓋が、紙みたいに軽く、簡単に開いた。


リュウナは箱を覗き込み、

ハムスターのように縮こまるカイを見つめた。


彼女は首をかしげた。


「カイ……何しようとしてるの?」


「隠れてるんだよ!!」


「なんで?」


「お前が噛もうとするからだよ!!」


「ほんのちょっとだけ♡」

彼女は当たり前みたいに言った。


「全然よくねぇぇぇ!!」


リュウナは箱全体を持ち上げた。


そう、箱ごと。

カイ入りの箱を、果物かごみたいに軽々持ち上げた。


「カイ、箱好きなの?」

彼女が揺らす。


「揺らすな!!」


「かわいい♡

なんか巣みたいだよね。」


「巣じゃねぇ!!」


「じゃあ……その中で印つけてもいい?」


カイは叫んだ。


「ダメだって言ってんだろおお!!!」


リュウナは少し寂しそうに微笑んだ。


「じゃあ……出てきて?」


カイは死にかけの顔で箱から飛び出し、

復活したゾンビのように走り出した。


リュウナは箱をぽとりと落として、

甘い溜息をつき、

また追いかけ始めた。


「カーーーイ!! まだ噛ませてくれてないよ〜!」


「だから噛ませねぇぇぇぇ!!!」


そしてまた、砂浜は史上最悪に可愛くて最悪にカオスな追走劇を目撃することとなった。

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