表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/4

File4:盟約と、秘密?



「つまりアレですか。私が“触媒”なしでファフニールと接続測ったから、魔力のフィードバックが直に跳ね返ってきたと」

「だからあんだけ手袋外すなっつってんだろコウガさんよォ!」



 ファフニール暴走未遂騒動の翌日、署内は昨日の急速な大気魔力上昇に関する騒動で、苦情の電話が鳴り響いていた。

 

 そんな中レッカは出勤早々、ヴェルムアーマー格納ハンガーにある整備班の詰所に呼び出されるなり、メカニック達から吊し上げを喰らっていた。中にはマイルズセキュリティの人間も混じっている。




「ヒューマリアやアンスライみてぇな、魔力放出の機能がない魔法士が触媒持ち歩かないって何考えてんだ馬鹿野郎」

「昨日出動の後ポッケに捩じ込んだままでした……」

「おかげで一度は大火傷してんのよレッカちゃん」

「責任問題になりかけてまことに申し訳ございません……」

 


 先頭に立つ羆のような赤毛のアンスライは整備班班長のフアン・ゴンザロ。レッカにとっては何かと怒られがちな怖い上官の一人ではあるが、今回はことの他強い剣幕である。


 そう、あの後も徹夜で仕事を続けたエンジニア達の解析の結果、事故の原因は触媒にあったのだ。軍警察の支給装備の触媒は、携帯しやすさと装着したままでも過ごしやすい手袋。基本的には外す事は想定されていないのである。

 



「なんだってこのボンヤリ娘が心臓に適応できたんだか」

「あら、レッカちゃんは軍警でも頑張ってる方よ」

「それで大事故起きたら頑張ってるじゃ済まされないでしょう」

「こっちだって好きで問題児抱えてねーよ」

「うぐ」

「なら今からでも担当者の変更を検討するべきでは?こちらとしても、適当な態度の人間の面倒を見れるほど余裕があるわけではありません」

「うが」

 



 口々に聞こえてくるもっともな意見に、レッカは思わず背中を丸め項垂れた。確かに手袋を外してしまったのが原因なら自分のミスだ。

 しかし意外なことに、これにフアンがむっとした顔で反発した。

 

 


「ああ?もうファフニールは契約者をコイツと認めてるって言ったのは、他ならぬお前さん達だろ。そっちが気に入らないから変えるつもりか?」

「そもそも、今回の件持ちかけてきたのはマイルズセキュリティさんでしょ?本来入札なしで民間さんと組む事自体かなりの問題なのに、首相権限と緊急事態で押し通してきたのわかってますか?」

「えっ何それ知らない」



 フアンの言葉を皮切りに聞こえて来る軍警整備班のブーイング。本当に初耳の話まで混ざってきており、レッカは戸惑うしかない。だがその様子に今度は、先頭にいたスピリトの担当者がぴくりと眉を吊り上げて言い返す。



「急を要するからこそ、担当者には真摯に取り組んで頂きたいんですよ。ドラゴンハートがどれほどの遺物か、昨日解析作業にあたっていた皆さんがわからない訳ではないでしょう」

「それ程あぶねーんだよアレは。本来ヒューマリアのガキにやらすモンじゃねぇから言ってんだ」

「えっ、えぇ……」


 憲兵達も一目置く威圧感でズバズバと切り込む整備班と、怯まず整然とした態度で言い返すマイルズセキュリティのエンジニア達。もはや完全にレッカを置いて口喧嘩をはじめるメカニック達だが、双方が心底険悪とは感じないのは何故だろうか。





「昨日の成果がそれ程大きかったんですよ」

「……マイルズさん、どうも」

「おはようございます、レッカさん。身体の具合はいかがですか」



 顔を引き攣らせていたレッカの肩をポンと叩いたのは、また昨日とは別のスーツを着たアーサーだった。マイルズセキュリティのエンジニア達同様、出向企業の体裁は整えるということのようだ。


 


「問題は特に。正直、一時的に大火傷負ってたとは思ってないんですけど……」

「ドラゴンハートの影響でしょうね。申し訳ありませんが、私も肝を冷やしましたよ」

「ぐぅっ、ほんとにすみません……《ううぅ……あんな啖呵切ったのに、結局は原因自分とか流石に凹む》」


 

 がっくりと肩を落とすレッカに、思わずアーサーはふっと小さく微笑んだ。報告者で書かれているような怠惰な性格であれば、こんなに落ち込むこともないだろう。軍警の整備班達や上官のアルベールの様子も加味すると、おそらく可愛がられる程度には仕事をしているようだ。

 

 ではなぜ、報告書では“勤勉さとは程遠い勤務態度”などと書かれていたのだろう。

 


 

「マイルズ主任?格好付けてますけど、触媒と契約詠唱について確認怠った主任にも落ち度はありますからね?」

「ぎっくり」

「なーにがぎっくりだよ、しっかりしてくれや若旦那!このままだとまたバカ旦那呼びだぞ!」

「出向先でそれは勘弁して下さいって……《やめてくれ、割と本気で気にして……言ったところで余計怒られるなこれは》」




 部下達からの思わぬ流れ弾に、焦ったアーサーは思わず尻尾を丸め低頭する。このベテランエンジニア達に自分が敵わないのはいつものことだと、やれやれとため息をついた。


 

《なんか……思ってたより年下系というか、可愛がられてらっしゃる。人柄出るなァ》



 

 しかしそれはレッカにとっては新鮮に映るもので、ぼんやりとそんなことを思ってしまっていると、ふと目が合ったアーサーが恥ずかしげに目を泳がせた。

 どうやらアーサーに今のが聞こえてしまっていたらしい。



「そういえば、相談したい事ってなんですか主任」

「ああ、例の炉心との魔力接続に関しての事なんです。……その、少々厄介な事が起きてまして。軍警の皆さんにも聞いて頂きたい」

「…………」

「あん?何かあるのか?コウガ」




 また面倒な説明をしなくてはならない。レッカはぶり返してくる気まずさと共に、また少し項垂れてため息をついた。







 ※




 契約術式の副作用。勝手に繋がる思考について、マイルズセキュリティのエンジニアから告げられたのは、思いの外想定内の答えだった。

 一つの存在に対して複数人が契約する例だと、時折そういう事も起こりうる。特に連携が必要な状況で、契約主が必要と判断したのだろう……と、眼鏡を掛け直す耳の長いスピリト族のエンジニアを思い出し、レッカはデスクに項垂れた。




「あれですよね、“盟約”って奴」

「ええ、古い魔法過ぎて報告例は少ないですが、そう珍しい現象でもないそうです」

「そうなんですね。……で、その顔はそろそろ話をしていただけると思ってよろしいのでしょうか?マイルズさん」



 今までより大型化された魔法武装、特殊な炉心との“盟約”、ここ最近の死闇市場での動き、マイルズセキュリティ社内の騒動。

 その全てにつながるファフニールの操縦者二人は、警備班詰所の屋上で改めて向き合う。


 

「そろそろ、アーサーと呼んでは頂けないでしょうか」

「自分は憲兵ですので」

「もう同僚です。ほら、私もレッカと呼びますから」

「《めんどくせぇ》」

「《面倒な男はお嫌いですか?》」

「…………わかりました《頭で呼びかけてこないでよ、あーもうなんだこの人!》」



 

 どうにも調子が掴めないレッカと、してやったりとばかりに笑うアーサー。しかし、何のアイスブレイクのつもりかと言いそうになるレッカの眼前に、ひと束のレポートが差し出される。





“マイルズセキュリティ社敷地内侵入事件と犯罪シンジケート[メビウス]に関する報告”





「コード[メビウス]……」

「班が違うとはいえ、機動警務部なら警備班にも報告は共有されているようですね。……そう、昨今の闇市場を握ってるとされるシンジケート。ドラゴンハート窃盗未遂は奴らの差金でした」

「……特捜班の話じゃ、ここ半年に流されてる違法な魔法武装の質が変わったって聞いた。それと関係が?」



 レッカがそこまで言うと、アーサーは報告書を差し出して促す。怪訝な顔で受け取ってぱらりぱらりと数枚めくったレッカは、むうと眉を顰めた。



「種類が増えて、流通量も爆増してる……」

「それも粗悪品ばかりです。扱いを間違えれば大怪我じゃ済まされないのが違法品の常ではありましたが、あからさまに質が落ちる割に数が増えている。それに伴い、この狭い都市国家の犯罪件数がどうなっているかは……貴女もご存知ですよね」



 昨晩捕物をしたネクロマンサーの強盗たち。明らかにゴーストの扱いに慣れているとは思えない彼ら の振る舞いと、仮面をつけた者の生気を一気に吸って凶暴化したゴーストを思い出し、レッカは思わず眉間を押さえて目を強く瞑った。

 


「まるでゴミ捨て……の割に半グレまで使って巧妙に流されてる。なんだ?分からない割にすごく意図的だ」

「……捕らえた社員たちは、“実験用の素材”を依頼されたと」

「実験……」

「当日の段取りから、心臓の取り扱い方法まで嫌に細かい指示があり……取締役会でも、政府の方でも、同じ考えに至りました」

「……取り扱える知識がある。もしくは()()()()()()()()()人間がいる?」

「……本当に貴女、警備憲兵なんです?」

「いやここまで出されたら流石にわかるでしょ」



 そもそもいち警備会社の開発員こそ、と言い掛けたところでレッカははたと気が付いた。

《いや、ドラゴンハート使った魔法武装の話は?》と。



「それに関しては首相閣下のアイデアです。またドラゴンハートを狙ってくる恐れがあるならば、隠し場所をいっそ開発中の魔法武装に組み込むのはどうかと」

「……国宝でお茶席設けるのと訳が違うと思うんですが?」

「なるほど、言い得て妙ですね。やはり地頭が良いようで」

「言ってる場合か 《でぇえい、やりづらいなこの人!》」



 ふふふとなんとも呑気に笑うアーサーに、思わず少し青筋を立てそうになるレッカ。しかし本当に呑気にしているのかと思えば、どうもそうでもなさそうで。




「まあ、正直あの“黒騎士”の開発担当の私も困惑しました。とはいえ、奴らがドラゴンハートにまつわる実験を行っているのであれば、簡単に手を出せない所としてうってつけなのは間違いないです」

「それで“ファフニール”か」

「そう、この世界に複数存在するとされる稀少な聖遺物、竜の心臓。この国のそれは悪名高きかの邪竜……そして、おそらく“メビウス”はドラゴンハートを扱える知識を所有しているか、あるいは」

「既に他の心臓を所有して、研究や実験を重ねている可能性が高い。……万が一そうなっていた場合を考えて、先手を打って対抗策になり得る新型武装の強化に活用するべきだ、と」

「……そういう事です」



 呑気を装っていたアーサーは、先ほどの萎れっぷりとは打って変わって察しの良いレッカの慧眼に、内心かなり驚いていた。同じ盟約のもとにある同盟者だからなのかとも思ったが、思考共有以上にレッカの立ち振る舞いは仕事仲間として想像以上に好ましく映る。

 これならきっと大丈夫だ、と改めて思いを伝えようとしたその時だった。



 Uuuuuu……


 

「あっ!?」

「警備班出動要請!……ヴェルム4!早速お呼びで!」


 

 唸るようなサイレン音と同時に屋上の階段へ走ったレッカの後を追いかけながら、アーサーも階段を駆け降りていく。どうやら個別で端末も鳴っていたらしい。

 スピーカーフォンになった支給の小型端末から、アルベール課長の声が響いた。

 

 

『こちら司令室。居住地区ポイント5にて巨大魔法武装出現の通報だ』

「は?ゴーレムとかじゃなく?」

「巨大魔法武装ですって!?」



 思わずアーサーもレッカも困惑の声が出てしまう。通信越しのアルベールは事実を淡々と告げながらも、想定外の事への驚きは隠さないまま言葉を続けた。




 『その通り。それも、ファフニールに匹敵するサイズの、未登録のヴェルムアーマーだ』


 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ