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File2:新装備と、面倒事?



 軍警察にヴェルムアーマーが配備されたのは、およそ5年前。裏市場で違法な魔法武装の流通が増加、それに伴う犯罪の増加がきっかけだった。

 特に大型の魔物やゴーストを使った魔物使い(モンスターテイマー)死霊使い(ネクロマンサー)、武装した大型人形を操る人形使い(パペットマスター)といった使役魔法の使い手による犯罪が増加し、生身の憲兵では使役対象の相手に手を焼くケースが増えた。



 


「だから大型魔物や武装人形に対抗できる大型魔法装備……ヴェルムアーマーが開発された、って認識だったんだけど」

「ええ」

「……急に何の話するんだと思ってたんですが、だとしたらこのむちゃでっけぇのはなんですか、マイルズさん」


 軍警の格納庫に帰還するなり、詰所に戻ろうとしたレッカを引き留めたアーサーが連れてきたのは、格納ハンガーの一区画。レッカの記憶には出撃前にはなかったはずのソレは、格納庫の天井まで届きそうなほど巨体を布で覆われた物体……そんなものがこの格納庫に置かれている。そして先程の話。

 レッカは嫌な予感を感じ取っていた。



「お察しの通りですよ、レッカさん。いや、軍警に入ったからには……先輩、とお呼びするべきですかね?」

「結構呑気だね!?……マジで新型?なんだってこんなハチャメチャサイズを軍警(ウチ)に。いやそもそもの話、軍警が民間警備会社なんか受け入れてんすか、課長!」



 その言葉に、帰還してから飄々とした態度だったアーサーの目つきが、スッと変わった。先程まで居た現場での、あの冷たい声の通信を思わせるような眼差しで、真横に立つレッカを見ていた。

 しかし今度そんな視線を物ともせず、レッカは真っ直ぐに巨大な布塊のそばにいる人物へ向かって歩き出す。



 アーサーのそれとも違うしなやかな長身と、それがより際立つような銀の長髪。間から覗く長い耳と切れ長の瞳が、スピリト族の長命種である事を表している。

 にこやかに佇むその男は、アルベール・マレー。ヴェルムアーマー部隊が所属する機動警務課の課長、つまりはレッカにとっての大ボスだ。



「おかえりなさい、コウガ君。それに関してはまぁ、」

「お話は彼の中でしましょうか。適性を確かめなければいけない事ですし」

「適性?」




 文句たらたらなレッカを嗜めようとするマレーの言葉を遮るように、歩いて追ってきたアーサーが告げる。


 


「巨体だけではないんです、この……“ファフニール”の性能は」






 ばさり、と布が取り払われる。

 格納庫内の照明に照らされたそれは、巨大に黒い地肌に赤いラインカラーを塗装された、禍々しい装飾が引き立つ大鎧。

 治安維持を担う警察組織に置くには、どうにも必要以上の違和感を感じてしまうのは何故?レッカの心中は益々その良からぬ感覚を膨らませていた。




「7,8m……てとこか」

「そんな所。いや〜、運用費凄そうだよねぇ」

「こちらへ」

「本当に説明なしか〜い」

「……説明は中でしますよ、レッカ・コウガ隊員」


 


 丸メガネを押し上げてレッカの目を見つめる翠の目は、目の前のヴェルムアーマーが只ならぬモノであることを、真剣に伝えようとしている。マレーも何も言わず目を細め、見守る姿勢のようだ。



「……課長。ホント、大丈夫なんですか?」

「えぇ〜、わかんない」

「ちょっとぉ」

「ふふ、ごめんって。……ともかく、頼むよコウガ君」



 

 にこやかに笑って謝る上司と、先に向かう新しい同僚の背中を交互に見て、レッカは小さく溜め息を吐く。

 捕物の後で更に疲れる事になりそうだと思いながら、頷いて後に続いた。






 





「なんーーーーだこれ」

「なんだこれ、でしょう」



 黒い竜騎士の操縦空間(コックピット)に乗り込んだレッカは、その異様さに仰天した。

 軍警の標準装備であるブラックポーンは、背部ハッチから半径3mほどのスペースに向かってスポーツバイクのような形で前のめりに搭乗し、術式の刻まれたコントロールパネルや各種スイッチで操作していた。


 ところがこのファフニールは、一人どころか二人入る事ができるスペースが設けられている。それも片方は大柄なドラゴニルが楽に入れいる……とはいえ、広々という訳ではない。


 

「下の操縦席に私が乗ります。貴女には、上部で機関部炉心のコントロールと武装への魔力装填を主にお願いしたいんです」

「貴方がメインパイロット?てーか、二人羽織で操縦て……」

「ええ、少々じゃじゃ馬なエンジンを積んでおりまして」

「じゃじゃ馬……あの、まさかと思いますけど」

「はい」

「この、巫山戯てるようにしか見えないハート型のマーク付けられた部分が、機関部ですか」

「ええ、そこは一部ですけどね」

「一部ぅ!?」



 上部と下部の間に小山のように突き出たパーツを見ながら、レッカは目を瞬かせた。

 大きすぎでは?というか、魔力炉心のついたエンジンをこんな近くに配置するのは危ないのでは?

 そろそろめまいを感じながら、そっとカバー部分に手を置く。



 

 不意に、炉心の下の“ナニカ”が脈動するのをレッカは感じた。





「!?」

「……どうやら感じるようですね」

「これ、何使ってんの」

「コードネームを聞きましたよね。“ファフニール”と」

「……はは、まさかと思うけど“龍の心臓(ドラゴンハート)”だとでも?」

「……その通りです」

「ですよねそんな訳な、嘘でしょ!?」



 龍の心臓(ドラゴンハート)、この世の起源を龍とする世界における、強力で重要な聖遺物とされるもの。職業魔法師でない者達にとっては、もはや御伽話とさえ認識されている代物だ。



「バッッッッ……!?滅多な事言うもんじゃないですよ!?龍の心臓って貴方、ほぼ国の財じゃないですか!?」

「ええ。我が社、というより我が家はその一部を預かる立場にあります」

「んんんんん〜そういやドラゴニルってそういう種族でしたね」




 レッカの目の前の龍人はごく自然にそう告げ、するりと操縦席へと座った。少し長めの首をゆったりと炉心の方に向けながら、変わらず真剣な口調で話す。


 

「半年ほど前、この心臓を管理する施設のセキュリティに侵入者の反応がありました。現場警備員と共に駆けつけた所……驚くべき事に、そこに居たのは我が社の社員数名でした」

「え!?……その様子じゃ、巡回員が誤ってブザー鳴らしたって事じゃないんですね?」

「ええ。この警備と全く関わりのない筈の社員数名が、明らかに持ち出し目的で心臓の封印を解こうとしており……その中には、信頼できる立ち位置にいる専務クラスの者がいました」

「ウッワァ……何重にも面倒な予感がする奴だ」



 一呼吸置いてから、アーサーは炉心に手を置く。翠の目が少しだけ、悔しいような悲しいような色を滲ませている。

 しかし、すぐにレッカに向き直ると座ったまま襟を正した。



「幸い持ち出しは防げたものの、我々は首相閣下に即座に報告。政府関係者内で協議の上、軍警に繋いで頂きました」

「ん!?違和感自体はないんだけど……それなら何で私?てか、その件と心臓がヴェルムアーマーにジョブチェンジしてるの、どう関係してる訳?」

「うーん、確かにこの件そこを広げると、更に複雑になってしまうんですよ」

「えぇ……まだ面倒な説明あります……?」

「ふむ、そうですね。では今はコレだけ申し上げておきましょう」



コホンと咳払いをし、アーサーはレッカを見た。



「紆余曲折ありまして、心臓を炉心化して運用する事で守る事が可能である、という結論に至りました。そこで適合者を発掘して炉心の守護ついでに“問題解決”にも当てる、というのが任務です」

「………………いやだいぶキツくありませんか、ソレ」

「あれれ〜ボケてると思われてます?」

「ボケてると思われてないのがびっくりしますね、まず」



 レッカは静かに頭を抱えた。

 彼の目的はとりあえずわかったものの、真意は全く教えてもらえない。そして明らかに彼は、自分に問題を齎そうとしている。

 ただでさえ平和な街の憲兵さんから、大型魔法武装なんてものに乗せられる部隊に移された身だ。山積する面倒ごとにうんざりしていたというのに、とことん自分は、





「面倒事の邪竜様に愛され過ぎでは……?」

「大変結構。では、適正テストといきましょうか」


2025 5/23 ファフニールの描写を中心に少し改稿しました。

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