増える問題事
眼鏡エルフと調査団の襲来後、私は渋々と我が領土の端に調査団が滞在する事を許可しました。ギルドの許可を得ている彼らを追い返すととてもめんどくさいです。
100年も税金を免除させたのは怠惰の森を理由にしておりましたし、その調査に来た彼らを拒絶することは理屈が通らなかったのです。
まぁ、放って置いたらそのうち諦めて帰ってくれないかなぁ。
いっそバレない様に邪魔とか出来ないだろうか・・・。
『ワンワン!!ワワワワワン!!!』
今日もうちのケルベロスちゃんが五月蝿いです。
ピンポーン♪
そして魔導インターホンが鳴ります。
『本日は早速、怠惰の森の木の調査に入ろうと思います!出来ればご協力を願えませんか?』
嫌です。
とは言えませんよねぇ・・・。嫌だなぁ、働きたくないなぁ・・・。
インターホンの前にいたのは、眼鏡エルフと元気ドワーフの二人。
眼鏡エルフもどう言う訳か、調査団と共に領土の端で泊まった様です。
暇なんですか?税金の無駄です。早く通常業務に戻って頂きたいのですが・・・
「眼鏡エルフさんはこんな所で油を売っていて良いのですか?優秀な貴方を必要としている現場は他にもいっぱいあるでしょうに。心苦しいのでお帰り頂いてもいいのですよ?」
むしろ帰って下さい。
私は心の底から、そう思いながらも適度に知りもしない眼鏡エルフの能力を棚に上げてやんわりと遠ざけようとした訳なのですが、
「眼鏡エルフという呼び方はやめて下さい。私の名前は『メルフィ』です。私はギルドより貴方の徴税を目的として調査に協力する様に命令を受けております。ギルドは貴方への恩を今こそ返すべきとギルドの中でも優秀な成績を残している私を半年間、この地に送り出したのです」
ありがた迷惑、この上ないですぅ・・・。
「サヨウデスカ・・・」
「マスター涙目。わらわら♪」
ポンコツ妖精のサポちゃんは嬉しそうにケタケタと笑っておりましたとさ。
・・・
さて、こうして怠惰の森の調査にメルフィとサポちゃんと私と元気ドワーフで行く事に。ちなみに元気ドワーフの名前は『キーフ』というらしいです。
「リスさんは怠惰の森についてどこまで知っているのです?」
キーフは私に尋ねてきました。さて、どうしたものか・・・。
「よく分かっていませんねぇ」
と誤魔化しておきました。嘘は言っていません。理解とはなんと難しい事か。全てを知るなどとは烏滸がましい。つまり、この回答には嘘はありません♪
そんな事を言っているうちに森に着きました。
我が領土は、狭さにおいても最弱です。その気になれば1日で見て回れる程度・・・のはずだったのですが・・・。
あれ?
「森・・・増えてね?」
元々は、ドーム球場1個分くらいだったはずです。
我が魔王城は二階建て。むしろ城と呼ぶのもお恥ずかしいレベルの一戸建てです。
そこからは当然、森の全容などは見えず把握なんて程遠い訳なのですが・・・あれ?抑えれて無くない?まずくない?
森は楕円形に大きく範囲を伸ばしておりました。中心にあった我が魔王城は最早、端っこと言っていいくらいに知らないうちに広がっていたのです。
「気づいてなかったんですか!!?」
メルフィが驚きに声を上げていました。どうやら私が把握していなかった事に驚いている様ですね。私も驚いていますよ。何がまずいって、制御出来ないとなれば私は完全に役立たずなのである。この一方向への伸びっぷり・・・綻びがあったという事なのでしょうか・・・。調査せねば!あ、調査なうでした・・・。
「これってどれくらい膨らんでるんですぅ?」
「待って、ちょっとマップにリンクするから・・・」
私の数少ない能力の一つになっている『領土把握』で様子を見ると野球場20個分くらいの森が溢れ出しておりました♪テヘペロ。
「我々は貴方に何かあったのではと思い慌てて訪問したのですよ?ちなみにこの変化が現れたのは二十数年前からです」
「なんでもっと早く来なかったのニャ!?」
全然知りませんでしたよ!?
知ってたら流石にまずいと思ってなんとかしたかも!しなかったかも?
「手紙は送りましたよ?貴方は人嫌いで有名なのでギルドも気を遣ったのだと思います」
人嫌いではありません。面倒なだけです。
「読まずに紙ヒコーキにして飛ばしてましたねぇ♪」
ギルドからの手紙なんて碌なものじゃないと思っていたので飛ばしちゃいました。
「そもそもに一時的にでも拡大を防いだ事に対する褒賞が税金免除でしたし、その英雄的な働きに対する対価としてはあまりにも少なかったのです。土地の譲渡に関してはむしろ人柱な訳でしたし、その譲渡された土地も不毛な怠惰の森で、価値などあってない様なもの。当時、人々は貴方を英雄と称しました」
初耳ですが?
そもそも、怠惰の森の出現って見ようによっては私のせいなんですよねぇ・・・。
マッチポンプ宜しくで、広がった森。それをある程度制御する術が私にはあった、という話。
そんな状態でギルドをそそのかして安住の地を得ただけだったのですが・・・英雄!?
流石の私もちょっと罪悪感です。
「更には今、怠惰の森が拡大して行っているのは、昨今に我々を脅かしている大地の枯渇『泥欲の腐敗』が起きている土地だったのです。周囲はその脅威に晒されておりました。しかし怠惰の森が拡がった結果、その侵食が止まったのです!」
ナニソレコワイ。
怠惰の森と同様に、人々の生活圏を脅かしている『泥欲の腐敗』なるものがあって迫っていたらしいです。それを怠惰の森が止めたらしいです。煉獄さんとか豊穣さんの領地も大助かりだったらしいです。何よりです。どうやらご迷惑はかけていなかった様なので一安心。むしろ、この功績もギルドは私のおかげだと思っていたらしいのですが・・・
「私のおかげっぽいし、これで税金免除とかって事には・・・?」
「納税は義務です!」
ダメらしいです。
しかし、納得しました。怠惰の森は自衛の為に『泥欲の腐敗』の侵攻を止めるべくエリアを広げた様ですね。
「ちなみに拡がった森は貴方の領地になってますよ?」
はああああ!?いりませんよ!!?
土地が増えちゃったら税金が増えちゃうじゃないですか!近隣とのトラブルも倍増どころじゃありませんし管理なんて出来るわけがありません。先程の『領土把握』は現状把握の為に一時的に使いましたがめっちゃ疲れるんです!常時発動で把握できるのが元の領地の範囲が限界だったのです。それが領地が一気に領地二十倍?森が拡がった事に20年も気づかなかったくらいですよ?無理ですよ!
「え・・・要らないです。あげます」
貰って下さい。
「怠惰の森を管理出来るのは貴方だけです。必然的に貴方に委ねるしかありません」
オーマイゴット・・・。
そして、私は拡張された領地を確認する為に新怠惰の森へ調査に出かける事になったのでした・・・。幸い、今は護衛が二人いますし。メルフィとキーフはそこらの魔王より強いらしいですし・・・。