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魔王最弱なリスは平穏に暮らしたい  作者: フィガレット
第一章 瓦解する日常
1/12

納税は義務です!

「魔王様、今日も我が魔王軍は資金難ですぅ!!」


 今日もうちのポンコツ妖精は、元気一杯に悲しい事を言っていた。

 そう、我が魔王軍は四六時中、徹頭徹尾、資金難なのである。

 しかし、逆に考えて欲しい。


 資金難ではない軍事資金とはなんぞ?


「それは何を基準に足りていないの?」


 そう、その理想は際限がない。潤沢な資本があったとして、それを上手に運用したとして、それで十分なのか?強大な力を手に入れたとして、それで何と戦うのか?


「隣の『漆黒の煉獄魔王様』に比べたら、うちの軍事資金も軍事力も十分の一以下ですよぉ?」


 なにその厨二病ネームな魔王・・・。

 うちのお隣さんは、そんな痛々しい魔王だったの?

 正直言って会った事もないし、そんな強い魔王とはお近づきになりたくないです。

 そもそも、私は心の底から平穏を望む完全無欠の引きこもりを目指していますし。


 しかし、厨二も実力が伴えば、ファンタジーでカッコいいダークなキャラに早変わり。

 鬼にならないか、と問われても男気で跳ね返してくれる事でしょう。


「お隣の煉獄さんは毎日、豪華なお弁当を沢山食べているらしいですよ!羨ましいです!」


 その呼び方はやめなさい。


「そんなにお隣さんがいいならお隣の子になればいいでしょ!!」


 と私はプリプリと怒りながらポンコツ妖精に言い放ちました。


「どこのオカンですか!!」


 まぁ、そんな感じで今日もうちの魔王城は平和です。


・・・


 そもそも、うちの領地はちっさく、なんの役にも立たない価値のない森と、この魔王城しかありません。誰も別にこんな土地を奪ったって得はないのです。

 むしろ、この森は色々と訳ありで正直いって私以外が持っていてもマイナスにしかなりません。攻められる理由も、責められる理由もないのです。


 こんな資本もない、力もない、お巡りさんがグルグルする場所もない領地に引きこもっている魔王最弱なリスが、なぜ魔王を名乗っているのか?

 それには理由があるのです。


 そもそも、魔王とはなんぞや?という話なのですが、


《魔王》

 正しい教えを害し、知恵やよい性質を失わせる、天魔の王。一般に、魔物・悪魔の王。


 我が領土にある訳ありの森の名は『怠惰の森』。

 人の気力を奪い、滅せようとすれば増え、そのポテンシャルは世界を覆う事すら恐れられるほどの曰く付きの森なのです。そして、その森を統べるのがワタクシ。


 魔王最弱、悪魔とリスのハーフであり、趣味に生きる娯楽に酔う変態と称される私です。自分で言うのもなんですけどね。しかし森を抑えられるのは私だけ。テイのよい封印なのですよ。


 おかげで私は侵略を受ける事がないのですけどね。

 私を倒せば、周囲の被害は未曾有の大災害となる事でしょう。

 それに対して、私を放置した所でなんの脅威にもなりません。なぜなら、私自身にはなんの力もない、ただただ創作を楽しむ怠惰なリスなのですから。


 私は『怠惰の森』を統べてはいますが『まとめている』だけで別に利用できるわけでもコントロールできる訳でもないのです。


「下手に力を持って周囲から害獣扱いされてもたまらないしニャー」


 私は気怠そうに机にだら〜んとしながら溢す。


「リスのくせして猫みたいな声をだすんじゃないですよぉ」

「台湾リスはワンと鳴くらしいですよ♪」

「じゃぁ、せめてワンとないて下さい」


 そんなバカなやり取りをしていると、魔王城の外から・・・


『ワン!ワンワンワンワン!!』


 別に私が泣いている訳ではありません。

 この声は、我が魔王城の番犬『ケルベロスちゃん』の鳴き声である。

 厳つい名前とは裏腹に、超絶可愛らしいだけの小型犬である。

 体重三キロ。その風貌はパピヨンという犬種に類似していた。


「また勇者でも来ましたかね?」


 ちゃんとした勇者は、事情を知っているので我が魔王城に攻めてきたりしません。

 せいぜい密林からハンコを貰いに来るくらいである。もしくは怪しいクリーンエネルギーの訪問販売か、魔王城の外壁補修の売り込みか・・・。


 何はともあれ、うちの番犬ちゃんは今日もちゃんと職務を全うしている様ですね。

 えらち!


 しかし、この日は少し違っていたのです。


 まさか、こんな事になるとは・・・。


・・・


「徴税にお邪魔しました」


 メガネをかけたとても真面目そうなエルフさんが、魔導インターホンに映っておりました。


「人違いです」


 私は『怠惰の森』の管理を盾に、ギルドを脅s・・・交渉して納税を免除されています。

 先代のギルド長を説き伏せて勝ち取ったのです。なので何かの間違いのはず!


「100年の納税免除期間はもう去年で満期を迎えました。貴方には納税の義務があります」


 無表情で無慈悲に、美人だけど表情が乏しい残念な眼鏡エルフが告げました。


・・・え?


 100年の期限?そんなのありましたっけ?


「誓約書の二十五枚目に非常に分かりにくく書かれてますねぇ・・・」


 三十枚にも及ぶ、なんともややこしい誓約書。そんなの真面目に読んでる訳ないじゃないですか!


「ちゃんと読まないからですよぉ」


 ポンコツ妖精が呆れていた。

 しかも当時、私は100年も生きるとは思ってなかったんですよねぇ・・・。

 リスと悪魔のハーフだった件も、その時は知りませんでしたし、更には怠惰の森から流れてくる魔力の影響で歳を取らないんですよねぇ。


 だから油断していたのです。どうせ、その頃には死んでるし、とか思っていたあの時の自分をぶん殴りたい・・・。


「急に言われても払えません!」


 ゆっくり言われても払えませんけどね。


「滞納しているのは1年分の、貴方とそちらの妖精とわんちゃんの分の税金ですが半年以内に納税して頂かないと、この魔王城を差し押さえる他にありません」


 淡々と告げる眼鏡エルフ・・・。ケルベロスちゃんの分も!?

 我が魔王城にそんな資金はありません。


「そんな事をしたら私はこの森を出て行きますよ!そしたら怠惰の森は周辺領地を飲み込む事になる訳ですがいいのですか?」


 私は強気に出ます。


「働くと言う発想はないのです?」


 ポンコツ妖精が真っ当な事を言っている。


「働きたくないでござる!」


 我ながら酷い事を言っている。

 そして、この私の主張に対して眼鏡エルフはこんな事を告げるのです。


「その事についてですが、ギルドと魔王連合の研究所から優秀な調査員が派遣される事が決まりました。問題の根本解決の為にこれより住み込みで怠惰の森の研究が始まります」


 え?


『ワン!ワンワンワンワン!!』


 鳴り響く番犬ケルベロスちゃんの鳴き声。


「どうやら、また誰か来た様ですね♪」


 小柄で手足がガッチリしているドワーフの女性を筆頭に五人組の集団がインターホンに映っておりました・・・。


「丁度、調査団も到着した様ですね」

「賑やかになりそうですねぇ♪」


 ポンコツ妖精は悠長に構えておりますが、これはまずいです。

 もし、怠惰の森問題が根本的に解決してしまうと私の存在意義がががが・・・。

 しかも、この領地に住み込みで?無理です。無理ですよね?


「ここには何もありませんよ?」


 事実です。丁重におかえり願いましょう。食料も資源もないこの領地。

 まともな生活なんて出来ません!させません!


「資源が潤沢な隣接領地、豊穣の魔王ギリディさんの所から物資は搬入する手筈となっております」


 豊穣の魔王って、もはや女神の類じゃないですかぁ・・・やだぁ・・・。

 なんでそんな魔王がお隣にいるんですか?


「怠惰の森の調査に参りました!」


 さっき聞きました。インターホンには目を輝かせながらやる気を漲らせる調査団のドワーフの姿が。


 どうにか追い返せないものでしょうか・・・。

 解決されては困るのです。解決出来なくても、正直いって困ります。

 ずっと居座られたら居心地が悪いですし、色々とバレると困る事も沢山あるのです。


 しかし・・・


「貴方を縛り付けていた『怠惰の森』は私達が全力で解決を目指します!貴方一人に押し付けて長い年月を、貴方に頼り切りで無意に過ごさせた事をギルドは心より悔いているのです」


 その声には、とても強い想いがこもっておりました。

 この眼鏡エルフはとても真面目で、誠実な方なのでしょう・・・。

 だからこそ・・・私は言いたい。


 帰ってくれ!と・・・。


 何を勘違いしたのか、どうやらこのエルフの中では、私は長年に渡り怠惰の森の為に無意に過ごさせられた可哀想なリスになっている様です。


 結論から言いましょう。私は満喫しておりました。


 一生、現状維持でいいです。その一生が下手するとエターナルな訳ですが、可能な限り続いて欲しいと願っているのです。まぁ、飽きるかもですが、少なくとも現時点ではもっとダラダラしていたいのです。しかし・・・


「私達が貴方を自由にしてあげます!」

「じゃぁ、せめて納税は免除して・・・」

「それは無理です!」


 なんでやねん!


 こうして、私とポンコツ妖精とケルベロスちゃんだけだったはずの我が魔王領に・・・クソ真面目な眼鏡エルフとやる気満々なドワーフ調査団五人が加わったのであった。


 平和で怠惰な最弱魔王のリスの平穏は、こうして瓦解していくのであった・・・。


『本当に帰ってくれ!!』

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