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王女と過ごす最後の授業





階段教室の左手に開いた大きな窓から、花火の大きな発破音が聞こえてきた。教室で静かに授業を受けていた生徒たちは、みな板書の手を休め、一斉に窓の外を振り返った。


五階の高さにあるこの教室の窓と、小高い丘の上に立っている王城との間には、遮るものは何もなかった。窓から目を凝らせば、王城の高い尖塔の窓の一つ一つまで見える。今、あの場所では、勇者クロードが、世界各国の国賓たちから魔王討伐の偉業を祝福されているのだろう。


それは、この教室にいる生徒たちにとっても、とても誇らしいことだった。


彼らが暮らすここローラント王国は、アストレア大陸においてもっとも古い国家であり、また天使ザビエルが没した、聖者にゆかりある地でもあった。


そんなローラント王国の首都であるここローゼンハイムには、100万人を越える人々が住んでいた。この都市は、国家最大の軍事拠点・商業拠点であると同時に、世界でも有数の魔法都市でもあった。


ローラント王国の開祖であり、叡智王と崇められた魔術王ロキの偉業を称えるため、そしてその魔術の探求の成果を後世の人間が広く学ぶために、ここローゼンハイムには数多くの魔法学校が建立された。魔法学校の特徴は、はた目にすぐに分かる。赤い円錐の屋根をもつ、背の高い建物がそれだ。その真っ赤な尖塔は、石灰岩から作られた海辺の白い町並みと、強いコントラストをなしていた。


魔法学校では、貴族の子弟だけではなく、下層階級の人間からも広く生徒を募り、別け隔てなく魔術の探求に勤しんでいた。”魔術を学ぶものに貴賤なし、ただ真理の探求のみがある。”それが、ここローゼンハイムの、魔術界のモットーだった。


そんなローゼンハイムの中でもとりわけ優れた生徒達が通う、ローラント最高峰の魔術師候補生のための学び舎が、ここ国家第一魔法学校だ。今、これからこの教室で、年に一度の進級試験が行われるところであった。

 

【イエレン】───「では、いまから試験を始めます。セーラさん、前へ」


静かな広い講義室に、年かさの女性の高い声が響いた。彼女の名前はイエレンと言った。彼女はウェーブした豊かな白髪の上に黒い三角帽をかぶり、緑の翡翠をてっぺんに嵌め込んだ茶色い樫の杖を握っていた。それは、魔法使いと聞いて誰しもが頭に思い浮かべるような、いかにも保守的な魔術師の装い。彼女は、この魔法学校に長年勤めている著名な名物教師だった。


【セーラ 】───「はい!」


凛とした声とともに、セーラと呼ばれた女生徒がすくっと立ち上がった。彼女が立ち上がった拍子に、つややかに波打った金の長髪が揺れた。フリルで縁取られた青いスカートの下には、黒いタイツに包まれた細い足首が覗き、純白のブラウスの上には、スカートと揃いの青いケープを羽織っていた。茶色いローファーをこつこつと床に響かせながら、彼女は教卓の前に進みでた。


彼女は、ロードランにおいて最高峰の魔術師の家系である『ザハード家』の出身だった。彼女は、その家柄に恥じず、座学も魔法も最高の成績を収めていた。そして、その美しい容姿は、男子も女子をも虜にした。彼女の一挙手一投足は、常に全校生徒の注目の的であった。


彼女は教卓の前に立った。教卓の上には、真鍮の杯に立てられた、火のついた蝋燭が静かに灯っていた。


【イエレン】───「では改めて試験の内容を説明します。これから行う魔法、『夜の太陽を浮かべる魔法』の根幹は、再帰性能力の発現にあります。炎は、熱の力によって空気の対流を起こし、熱い炎が上空へと昇ると同時に、冷たい空気が下から入り込む。この循環において、新しく取り込まれた空気中に存在しているマナを燃料として、炎は燃え続ける。この過程を自らが繰り返すことで、炎はその形を保ち続けるのです。


改めて言うまでもありませんが、再帰性能力とは、ある魔法に使い手の意志とは離れた自己倍加能力を付与することです。それは、魔法が永久機関へと至る過程の、最初の一歩なのです。


永久機関、いうまでもなくそれはすべての魔術師の目標であり、人類の夢でもあります。したがってこの魔法は、学術探究の測りとしてはふさわしいと言えるでしょう。


通常、再帰性能力で付与する自己倍加係数というものは1以上のものです。そうすれば、炎は空気が存在する限り際限なく拡大を続け、理論上は地上を飲み込むほど大きくなる可能性も秘めています。


しかし、今回の試験ではそのようなことはいたしません。そもそもそんなことをすると皆さんは死んでしまいますし、そのようなことをできる力もない。


今この試験で重要なのは、炎の大きさや温度ではなく、再帰性能力の発現にあるのです。言い換えれば、炎の大きさや明るさが問題なのではなく、使い手がマナを注入することをやめた後、炎がどれほどの時間その形を保ち続けるか、それが問題なのです。ではセーラさん」


階段教室にずらりと並んだ生徒たちが見守る中、セーラは両手を蝋燭の脇に添えた。


静かに揺らいでいた蝋燭の炎は、彼女の両手の間でピタリと動きを止めた。空気の対流が止まり、炎はガラスのビー玉のように丸くなった。その真紅の光は、どこか砂嵐が吹き荒れた夜の赤い月を思わせた。


生徒たちは、セーラのの一挙手一投足を、固唾を呑んでそれを見守った。

 

【セーラ 】───「光が消えた暗黒の日 寒空に燃ゆる最後の薪 自らを灯す羊飼い 人の子に捧ぐ供物の火……」


セーラが呪文を唱えると、炎は蝋燭を離れて空中に浮かび上がり、そして大きく膨れ上がる。球体は輝きを増し、嵐のように対流する。


イレインは腕組みをしながら、うんうんとうなずいた。彼女は心のなかで思った。まったくセーラは期待を裏切らない、良くできた生徒だと。


【セーラ 】───「夜空に昇る星の灯籠 叢雲を裂く赤い鳳凰 地上を照らす不滅の炎 夜の太陽を浮かべる魔法……」

【女の奇声】───「Σ(|| ゜Д゜)んぎゃあああああああああああ!!!」


 突然、女生徒の奇声が教室中に響き渡った。セーラの集中が途切れ、火球はぽんと弾け飛んだ。


 顔をこわばらせて固まっているセーラを見て、イエレンは、深く深くため息を付いた。そして、顔を上げて教室の最後尾の席を睨みつけた。見ると、黒い長髪をおさげにした、大きな丸い黒縁眼鏡の女が、慌てて口を塞いでいた。


 彼女の名前はドアンナといった。口を覆っている手の甲は不健康なほど白く、唇は赤く爪は長い。目にまでかかる長い前髪の奥には、うぐいす色の色素の薄い大きな瞳を持っていた。彼女もまたセーラと同じく、高貴なる出自を持っていた。彼女は「白杖」と呼ばれる、国家最高の賢者の娘であった。


 彼女は、遊ぶ金欲しさに、しょっちゅう授業中に内職をしていた。本来、学生の身分では禁止されている冒険者ギルドの依頼を受け、季節外れの花や果実を咲かせる仕事を請け負っているのだ。


 案の定、今も彼女は膝の上に植木鉢を抱えていた。大方、なにか魔法操作をしくじり、植木鉢の中身を台無しにしてしまったのだろう。


【イエレン】───「ヽ(#`Д´)ノドアンナ!!!」

【ドアンナ】───「あっ、はっ、はいヾ(゜ロ゜*)ツ!うわっ(;゜Д゜)!」


 イエレンは、ドアンナを大声で怒鳴りつけた。ドアンナと呼ばれた少女は、びっくりして声を上げた。その拍子に、彼女は再び魔力操作を誤ってしまった。

 マナを強く込めすぎてしまったガーベラは、鉢の栄養を吸い付くすと、爆発的に成長を始めた。ガーベラの黄色い花弁が植木鉢から溢れ出し、あっというまに机のまわりを埋めた。それでも花は成長を止めず、その蔓はドアンナの腕を絡め取ると、今度は彼女の体をぐるぐる巻きにして締め上げた。

 

【ドアンナ】───「ぎゃーーー!(꒪ཀ꒪)ぐるじぃぃいい」


ドアンナがそう叫ぶと、教室中が笑いの渦に包まれた。

イエレンはつかつかと足音を立てながら教室の後ろまで歩くと、出席簿でドアンナの頭をバコンと叩いた。


【イエレン】───「ドアンナさん、あなたは内職なんてしている余裕がおありなのですか?あなたの成績は、ただでさえ落第すれすれなんですよ?」


 イエレンの言葉を聞いて、彼女の両隣の生徒はニヤニヤと笑った。イエレンは目ざとくそれを見つけると、ふたりも叱りつけた。


【イエレン】───「アンナさんにレイセンさんも。あなた達も人のことを笑っている場合じゃありませんよ!友達なら彼女を注意しないと。そんなだから、あなたたちはまとめて三馬鹿と呼ばれてるんじゃありませんか?」

 

急に教室中に名指しされ、アンナはびくりとして固まった。レイセンは、顔を真赤にしながら、へなへなと身を縮こまらせた。その様子を見て、クラス中に静かな笑いが広がった。


そんな中、試験をぶち壊しにされたセーラが、つかつかと足音を立てながら教室を横切ってきた。彼女はイレインの脇を通り過ぎると、ドアンナの真横に仁王立ちになり、腕を組んで彼女を見下ろした。


【セーラ 】───「(ಠ_ಠ)……ドアンナさん?」


 そばでにらみつけるセーラに、ドアンナはそっぽを向いて答えた。


【ドアンナ】───「(  ̄^ ̄)……何よ」


 つっけんどんなドアンナの返事に、セーラは怒りを爆発させた。


【セーラ 】───「ヾ(`ヘ´)ノ゛んむむむむ(♯▼皿▼)ノノノっっきぃぃいいいいいいいい!!!」


 セーラは突然大声で奇声を上げると、丸めた拳でドアンナをぽかぽかぽかと叩きだした。


【ドアンナ】───「痛っ!痛っ!先生、このひとを止めてください!(;´Д`)」


 ドアンナが頭をかばいながら懇願したが、イエレンは冷たく言い放った。


【イレイン】───「いいえ止めません。セーラさんが怒るのも無理のないことです」

【ドアンナ】───「そんなあ(; ̄Д ̄)」


 イエレンは教卓の方を指でさしながら、言った。


【イレイン】───「なんならいい機会ですから、ドアンナさん。あなた今から試験をやってみせなさい」

【ドアンナ】───「げ」


ドアンナは、そろりそろりと立ち上がり、のろのろと教卓の前まで進み出た。彼女が教卓の前に立ち、教室中を仰ぎ見ると、男も女もひとり残らず、にやつきながら彼女を眺めていた。


彼女は最後列の自分の席を見た。すると、アンナは頬杖を付きながら、そしてレイセンは白い歯を見せながら、彼女ににまにまとした視線を送ってきた。あの野郎ども、覚えてろよ、と彼女はそう思った。


ドアンナは、一つ肩で息をついた。そして、蝋燭の炎に手をかざした。灯火の放射熱が肌を焼き、手のひらに玉の汗が浮かび上がった。しかし、彼女はためらうことなく、両手で炎を包み込んだ。そして、彼女は目を閉じ、その両手にマナを込めた。


途端、教室の中を、マナの衝撃波が通り過ぎた。


慣れているとはいえ、幾人かの生徒は、ドアンナのマナに身体を貫かれ、おもわずおののいた。最前列に座る生徒などは、直接彼女のマナに晒されて、心臓の鼓動が高まり、胸に手を当てたほどだ。


それは、急激なマナの高ぶりが生み出す、疎密波の壁だった。この莫大な力こそ、座学も実技も最下層のドアンナが、特待生としてこの学校に通っている理由なのだ。


クラスメートたちは6年間に渡り、彼女の扱う膨大なマナを嫌というほど見てきた。いや、むしろそれは、見せつけられてきたという方が正しい。


魔法使いの卵たちは、いまや口を閉ざし静まり返っていた。これから起こるだろうマナの奇跡を、皆が予感し、期待し、そして憧憬した。


静まり返った教室の様に、ドアンナは気づかない。むしろ彼女の極端な集中の様が教室にさらなる静寂を産んだ。みな、なるべく音を立てないようにと、呼吸の音すら小さくした。


ドアンナは深い息を吸い込み、呪文の詠唱を始めた。


【ドアンナ】───「光が消えた暗黒の日 寒空に燃ゆる最後の薪 自らを灯す羊飼い 人の子に捧ぐ供物の火……」


その声は次第に力強さを増し、まるで彼女の言葉に応じるかのように、蝋燭の炎も強さを増していった。炎は球体となり、空中に浮かび上がると、輝きを増しながら激しく荒れ狂った。その姿は、まるで望遠鏡で見る惑星の嵐のようだった。


火球はさらに膨れ上がり、教室全体を熱し始めた。しかし、ドアンナは目を瞑ったまま呪文を続けているため、周囲の変化に気付かない。彼女の並外れた集中力が、今や裏目に出ていた。


「わー!!!」

「ドアンナ、やめて!」


クラスメイトたちは恐怖に駆られ、叫び声を上げた。しかし、その叫びはドアンナの耳には届かなかった。彼女はただ、魔法の詠唱を続けた。


【ドアンナ】───「夜空に昇る星の灯籠 叢雲を裂く赤い鳳凰 地上を照らす不滅の炎 夜の太陽を浮かべる魔法!」


詠唱が終わると同時に、火球は瞬間的に膨れ上がり、爆発的に広がった。火球は天井に届くほど大きくなり、ドアンナ自身もまた炎の渦に包まれた。


【ドアンナ】───「あっち!!!」


あまりの熱さに、ドアンナはとうとう目を開けた。そして、自分を包む炎が視界に入った瞬間、彼女の集中は一気に途切れた。


【ドアンナ】───「なんじゃこりゃあ!!!」


彼女がそう叫んだ瞬間、マナは暴走し、火球は爆発した。赤い爆風が教室を駆け抜け、窓ガラスは砕け散った。爆発の衝撃が去った後も、教室はしばらく静寂に包まれていた。


クラスメイトたちは、机の下からそろそろと這い出した。ドアンナは、教卓の上で黒焦げになっていた。彼女の顔も眼鏡もすすだらけになり、長く美しかった彼女の黒髪は、炎に焦げてちりちりに縮れていた。


イエレンは深いため息をつき、ドアンナに歩み寄った。彼はドアンナの肩に手を置き、優しく声をかけた。


【イレイン】───「……(=_=)補修!」

【ドアンナ】───「ひん(;▽;)」


ついに誰かが吹き出し、教室におおきな笑い声が響き渡った。その声の大きさは、隣の教室の教師が、ドアを開いて様子を見に来るほどだった。

ドアンナは席に戻され、試験は再開された。そして、ひとり、またひとりと合格し、ついには全員が合格した……ドアンナ以外の全員は。結局、ドアンナはただ一人、補修のために放課後に残るよう言い渡された。


【イレイン】───「さて、今日で今学期の授業は終わりですが、最後にひとつ、大事なお話あります」


 教室は静まり返った。先生がこれから何を話すか、みなわかっていたからだ。


【イレイン】───「今日は、王女殿下がみなさんと一緒に受ける、最後の授業になります。王女殿下、こちらへ」


教室の、最後列右端に座っていた生徒が、席から立ち上がった。彼女の、赤く豊かなウェーブした髪が、窓から差す日の光に照らされて輝いた。彼女は、教壇の前に立つと、三角帽を脱いだ。

やがて、彼女の頭上に、黄色く輝く天使の光輪が現れた。アマンダは、ゆっくりと話し始めた。


【アマンダ】───「みなさん、今日まで私と共に授業を受けてくれて、本当にありがとうございます。みなさんと過ごした六年間は、私にとってとても幸福なときでした」


アマンダは、声を震わせて涙ぐんだ。クラスメートたちは、優しい笑顔で彼女を見守りながら、続きの言葉を待った。


【アマンダ】───「みんなのことは私の誇りです。私は、これからどんな困難が待ち受けていようとも、そのときはみんなのことを思い出して、決して諦めることなく、戦い抜くつもりです。みんなも、この学校を卒業した暁には、夢の実現に向けて力強く進んでいってください。みんなの未来が素晴らしいものであることを心から願っています。」


アマンダは、生徒たち一人ひとりに目を合わせながら、そう言った。生徒たちの何人かは、アマンダの言葉を聞いて、涙を流した。彼女は、最後にイエレンに向き直り、言った。


【アマンダ】───「先生、今日まで本当に、ありがとうございました」


イエレンは、目に浮かぶ涙を拭った。

ひとり、またひとりと拍手を始め、やがて教室中に、万雷の拍手が鳴り響いた。そんな中、ドアンナが立ち上がると、アマンダの前へと進み出た。

彼女は、その両手に、薄葉紙に包んだ目一杯のガーベラを抱えていた。ガーベラの花言葉は、神秘、そして希望なのだ。

ドアンナは、アマンダのそば立ち、言った。 


【ドアンナ】───「アマンダ、おめでとう」

【アマンダ】───「ありがとう」


アマンダは、両手いっぱいの花束を受け取った。それは、あまりの量が多くて、アマンダの顔が埋もれてしまうほどだった。


【アマンダ】───「……多いよ( ̄▽ ̄)」


花束越しにアマンダノくぐもった声が聞こえた。


教室は、再び笑いに包まれた。こうして、終業式の日、王女の最後の授業の日は、幕を閉じた。

た。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


ドアンナさ、、補修


そして、ドアンナの補修にみんなが付き合う


「よっしゃあ、遊ぶぞおお」


ドアンナはのこれ


はあ


なんだみんな残ってくれるのか





「ぽまいら!!!」



「なんとかの炎お



@炎!


アマンダ、見ていてね!」






突如、爆発し、コントロールを失った。


教室の窓ガラスは吹き飛んだ



―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


やがて終業の鐘がなった。皆、イレインに挨拶し、そしてそれぞれの思いを胸に、教室を去った。

ドアンナもそんな人間お一人だ。彼女も教室の扉をくぐった…ところで、むんずと襟首を掴まれた



「よっしゃああ、合格ぅぅうう」

合格じゃん


あなたねえ



「ドアンナさん、あなたは補修です」

「ひん!せっかく感動的な別れだったのに」

「だからこそですよ。あなたに厳しくすることは、これは愛のムチです

「ひ~ん」

それにいい忘れていましたが、あなた太鳳はこれで最後ではありませんよ。あなたには夏休みの間中補修で会うことになるでしょう」

「ひんひん!」



飛び降りる瞬間に見えた入れ員の買おうぁ、笑っていた。


ダイブ、ダイブ!


先生、こちらへ来てください


飛び降りる


下ではm,魔法の水の玉が浮かんでいた。ドアンナは、その水の玉に飛び込んだ。

見上げると、イレインが窓から顔を出していた。皆は、彼女に手を振った。そして、街の喧騒へと繰り出した。


「いや~まいったまいった」

「あんた、それでよく学者になろうとか思えるよね……」




城下町では、王女の戴冠を祝う祭りが開かれていた。ドアンナたちは、

街中は、人々の歓声と笑顔で溢れていた。

色とりどりの屋台が立ち並び、人々は食べ歩きや買い物を楽しんでいた。

ドアンナの鼻に、甘い匂いが漂ってきた。彼女は、匂いにつられてフラフラと通りの脇へとそれた。


【ドアンナ】───「(☆∀☆)クレープ欲しい!」


 ドアンナが、クレープ屋の行列を指さして言った。


【ドアンナ】───「(⊙ꇴ⊙)クレープ欲しい!」

【レイセン】───「( ̄Д)……じゃあ買えば?」


 金髪ボブの少女がそう答えた。彼女は、ドアンナとつるんでいるクラスの三馬鹿トリオの一人で、レイセンといった。

 彼女は、亜人だった。細く柔らかい金色の髪の間から、ピンとたった狐耳が突き出していた。膨らんだローブの裾からは、金色に輝く狐尾が覗いていた。

 彼女は、はるか東方の瑞穂の国から来た。ローラントが瑞穂と国交を結んだ際、数多くの金色の国礼に混じって、漆の棺に入れられて彼女が送られてきたのだ……つまり、彼女は愛玩品の一つだった。しかし、王は彼女を自由にした。そして、彼女は、普通の少年少女と同じ様に学校に通い、魔法使いの道を歩んだ。


【ドアンナ】───「(≧∇≦)買えない」

【レイセン】───「( ̄Д)なんで?」

【ドアンナ】───「(^o^)o お金がないから!」

【レイセン】───「( ̄Д)なんでお金がないんですか?」

【ドアンナ】───「( ゜∀ ゜)それは、貧乏人だからです!」

【レイセン】───「( ̄Д ̄) 奇遇ですね。わたしも貧乏ですのでお金がありません」

【アンナ 】───「ははは、まったくもう。(ノ´ー`)しょうがないわね~」


 薄紫色のショートボブをした女の子が、笑いながら財布を出し、列に並んだ。そして、三人分のクレープを買った。


「セーラ様ぁ~ぐへへへ」


「あじゃっすあじゃっす」

「」

「」


 彼女の名前はアンナと言った。彼女もまた、三馬鹿トリオのうちの一人だった。彼女はたった一つの魔法しか使えず、学校では、常に落第未満の成績しか得ることはできなかった。

 それでも彼女は進級し、そして卒業するだろう。なぜなら彼女の魔法は、特別だからだ。彼女は、闇の魔法の使い手だった。 

 闇の魔法は、本来、悪魔のみが扱うことのできる魔法だ。彼女の出自も、なぜ闇の魔法を扱えるのかも、全ては禁忌のベールに包まれていた。彼女は、本来、普通の人間が触れることのできない、国体の秘密だった。彼女は本来、日の当たるところに出ることはない人間だった。

 しかし、彼女はこうしてドアンナたちと肩を並べ、王女とともに魔術を学び、そして共に遊んだ。あるいはそれは、王たちの実験なのかもしれない。しかし、それでも、彼女がドアンナとレイセンとの、無二の親友であるという事実は揺らがなかった。

 アンナはクレープをドアンナとレイセンに手渡した。ドアンナは、クレープにぱくりと噛み付いた。


【ドアンナ】───「( ‘༥‘ )ŧ‹”ŧ‹”」

【レイセン】───「(๑°༥°๑)ŧ‹”ŧ‹”」

【アンナ 】───「( ˘ω₍˘ )ŧ‹”ŧ‹”」

【ドアンナ】───「(○`~´○)ゴックン」

【レイセン】───「('-'*)……」

【ドアンナ】───「(・ω・ )……」

【アンナ 】───「( ・ω・)……」

【レイセン】───「(゜ε゜ )ブッ!!」

【ドアンナ】───「( ´∀`)アハハハ!じゃあ、そろそろ行こっか」


 大声で笑い転げる女学生に、通りを行き交う人々はちらりと怪訝な視線を向けた。三人は、そんなことはちらりとも気にせず、再び道を歩き出した。



 道は、進めど進めど人々の雑踏でいっぱいだった。大通りでは、あちらこちらで様々な出し物が行われていた。

 高い柱の庇に、エルフの吟遊詩人が腰掛け、リュートを奏でながら歌を歌っていた。目を閉じ、金の長い髪を揺らしながら歌う歌人を、若い女の子が恍惚とした表情で見上げていた。

 その先の広場では、人々が旅のサーカスを取り囲んでいた。太った大道芸人が口から火を吹くと、人々が歓声を上げ、逆さに置いたシルクハットにコインを投げ入れた。


【レイセン】───「(゜∀゜ )あたしもあれならできる!」


 レイセンは突然そう叫ぶと、演者たちの輪に入ろうとした。ドアンナたちは、あわててその手をひっつかんだ。


【アンナ 】───「(^。^;)こらこらこら」

【レイセン】───「( ̄▽ ̄)別に冗談だっつーの」

【ドアンナ】───「(´▽`;)お前ふざけんじゃねーぞ」


 彼女達がその場を離れ、道を進むと、人だかりから歓声が上がっていた。中を覗いてみると、東方から来た踊り子たちが、ほとんど半裸の格好で踊っていた。汗を振り払いながら踊る踊り子たちに、男たちの目は釘付けになっていた。際どい衣装からは乳房がこぼれ、下着の暗い場所から女性器の膨らみが覗いていた。こんな格好は、祭りの今しか許されないだろう。

 レイセンがあることに気づき、二人をつつくと、指である人物を指さした。


【レイセン】───「( *´ノェ`)あのさあ、あの黒い服のおっさん見てみ?」 

【ドアンナ】───「うん?」

【レイセン】───「(*´ノo`)すげー勃起してる」

【ドアンナ】───「そんなん知りたかないわよ(´▽`;)どこ見てんだ」


三人は、また笑いながらその場を離れた。

道の先は、さらに混んできた。彼女たちは、体を半身にしながら、人をかき分けて噴水のそばに進んだ。そこには、待ち人たちが待っていた。

 

【セーラ 】───「(#゜Д゜)遅いですわよ!」

【ドアンナ】───「ごめんごめん。クレープ屋に並んでたら遅れたわ」

【 レイ 】───「お前らのんきに街歩きなんかやってるけどさ、そもそも補修は受けなくていいのかよ」


 長い藤色の髪をツーテールにまとめた女が言った。彼女の名前は、レイと言った。丈の短いスカートに、高いハイヒールを履いていた。彼女は、セーラについで常に成績は二番手で、セーラとはいつもつるんでいた。


【ミランダ】「まあまあ。今日ぐらいなら先生も何も言いませんよ。ね?」


 ミランダが言った。彼女は神官だった。腰までの丈の薄黄色の髪に、裾の長い真っ白なガウンを羽織っていた。彼女もまたセーラの取り巻きの一人であり、三人はいつも一緒に行動していた。


【ドアンナ】───「いや、先生は私らのために、一人で教室に残ってた」

【ヒルダ 】───「(; ゜∀゜`)っじゃいかなきゃだめじゃん」


 薄緑色の、嵩の多いウェーブした髪の女の子が答えた。彼女は子供だった。彼女はヒルダと言い、二年飛び級でドアンナたちと学んでいた。彼女は、いつもセーラたちの後ろに引っ付いていた。


【ドアンナ】───「いいんだよ今日ぐらいさぼっても。ペトラ、お前もそう思うだろ?」

【ペトラ 】──────「ぜったい行ったほうがいいとおもいますよ(ᓀ‸ᓂ)」

【ドアンナ】───「はあ。あいかわらず冷た」


 栗毛の巻き毛をした小人が答えた。彼女はペトラと言い、王女の侍女兼護衛だった。彼女は、普段は常いかなる時も王女のそばに付き添っていたが、今日は事情があって違っていた。。


【セーラ】───「じゃあみんな揃ったところで、いきましょうか」


セーラがそう言うと、皆一同にうなずいた。そして彼女たちは、王城へと向かった。



―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


【セーラ 】───「ここですか」


ペトラの案内で、彼女たちは橋の下の土手にやってきた。そこは、蔦の茂る湿った場所で、赤いレンガ造りの城塔の裏手だった。塔の最上階の遥か高い場所に、細い窓が見えた。


【ペトラ 】───「ここです」ペトラが返事をした。「あの窓の奥に、アマンダ様がいます」


 セーラはうなずき、荷物を方からおろして仁王立ちに成った。そして目を閉じ、両手を前に突き出して、魔法の呪文を唱えだした。


「―――――風に漂う海辺の霧 波に揺蕩う紅の髪 砂浜を噛む白磁の足 久しく(まみ)えぬ君……」




雲間に照らす赤い日差し エトピリカも鳴く晴れの兆し 空に聞こえる甘噛みの歌 人魚の涙を浮かべる魔法」


 セーラがそう詠唱し、閉じたまぶたの下で祈りを捧げた。周囲の風がやみ、蔦の影で鳴いていた虫たちも声を潜めた。

 やがて、彼女の広げた両腕の中に、ゆっくりと、青い輝きを放つ魔法の水球が現れた。




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