派手髪メイドコスのヤニカスガール
「は?お前そんなことしていいのか?」
「へ?なんでっすか?」
「だって、それほぼ仕事をタダでやってるようなもんじゃないのか?」
「はい?お兄さんそれ本気で言ってます?」
少女は心底呆れた顔をした。
「今の私は、なんか面白そうな話をしそうなお兄さんを見つけたから一緒にたばこでも吸いながら仲を深めようとしただけなんすけど?あわよくば私のこと気に入って店に来てくれないかななんて微塵も思ってないっすけど?」
「後半絶対本音漏れてたよな?」
「やだなー冗談じゃないっすか。で、火もらっていいっすか?」
少女は咥えたタバコを俺の方にむけてきた。
「厚かましい奴だな。」
俺はポケットからライターを取り出し、そのタバコに火をつけた。
「ちなみに、うちの店ではオプションでシガーキスがあるっすよ?」
「興味ねえよ。」
「つれないっすねー。私そこそこ可愛いと思うんすけど?」
少女はそういうと、たばこを吸った。俺はその姿に目を奪われた。
「なんすか?そんなジロジロみて。やっぱシガーキスします?」
「なんでそうなんだよ。」
「てっきり私に見惚れてたのかと。」
「そんなわけねえだろ。それに俺は年下の女とシガーキスする趣味なんてない。」
「じゃあなんで私と一緒にたばこ吸ってんすか?」
「お前が勝手に吸い出したんだろうが。」
「おう、そういえばそうでしたね。失敬失敬。」
そう言ってヘラヘラ笑った少女は実際可愛く見えた。と同時に、彼女が勤務しているメイド喫茶が本当に客とたばこを一緒に吸うような接客をしているのであれば、それは彼女の天職に違いないと思えた。
メイド服を着てたばこを吸いながらヘラヘラしているのが、そうしているのが当然のようにしか見えないほど、自然に見えたのだ。
「それで?」
「なんだ?」
「なんでおにいさんはこんな夜中に一人でこんな場所でたばこを吸いながら黄昏てたんすか?」
「なんでそんなことお前に話さないといけないとダメなんだ?」
「ダメってことはないっすけど。誰にも話せてないんすよね?せっかくならこの通りすがりの派手髪メイドコスのヤニカスガールに話してみないっすか?」
「そんな肩書きのやつに誰が話すんだよ。」
「こんな肩書きだからこそ、なんの気負いもせずに話せるってもんじゃないんすか?正直いうとお兄さんにお店に来て欲しいって気持ちもあるっすけど、来なければこの場だけの関係で終わるじゃないっすか。だったら私をクソみたいな感情のゴミ箱に使ってくれてもいいんじゃないっすか?」
「俺は人をゴミ箱にする趣味はない。」
「私がしていいって言ってるんです。」
少女はそう言って、俺の目をまっすぐ見つめる。
「はぁ、なんでお前が俺にそこまで言ってくれるのかわかんねえけど、わかった。話す。でもあんまり面白い話じゃないぞ?」
「そんなことわかってるっす。」
こうして俺は、少女に、このメイドコスをした派手髪の自称クソみたいな感情のゴミ箱とやらに、今日味わったこの感情を吐き出すことになったのだった。