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浦島(53)

 

「うわぁぁぁ」


 凪沙が目の前のジャンボパフェに感動している。初美のいきつけの店である。凪沙が術師会で働くことになったので、開葉、初美、凪沙でささやかなお祝いをすることになった。


 凪沙は多聞家に当分の間、下宿することになっている。初美とはすぐ仲良くなったらしい。


「これ全部食べていいの?」


「そりゃ、そうよ、ひとり一個ずつ頼んだんだから」


「ていうより、全部食べてもらわないと、困るよ、アタシだってこれ一個が限度だもん」


 スプーンに山盛りのクリームが滑るように凪沙の口の中に消えていく。初美、開葉も相当なものだが、うっかりしていると負けそうだ。二人もスプーンを手に取り自分のパフェに手をかける。


「でさあ、水に憑く、ってどんな感じなの? 空も飛んだことあるって話だっけ?」


 大粒のイチゴを飲み込んだ初美が、凪沙にたずねる。


「え? 違うよぉ。あれは雲に憑いただけなんだ。三人がかりで支えてもらってやっとだからぁ、一人じゃ無理。飛んでたのは開葉ちゃんと晴比古さん」


「あれ、飛んだまま、家の中に突っ込んできたんだよ、あやうく巻き添え喰って死ぬところだった」


「違います。あれはキョージュが悪いの」


「そりゃ、そうだろうけどさ。部屋の真ん中が金色に光ったと思ったら、そこからもの凄い勢いで飛び出してくるんだもん。そのまんま壁壊して隣の部屋に不時着。まともに当たってたら死んでたと思うよぉ」


「ひょえぇぇぇ」


「……ごめんね。まさか、あんなことになるとは」


「あ、いいのいいの、アキハのせいじゃないから、その前に亀とか来て、だいたいの事情はわかってたから」


「え? 亀、来たの? あの亀?」


「来た来た。ぬいぐるみに乗り移って、ぐちゃぐちゃしゃべってた」


「へええ」


 ひとしきりパフェをつついて、やっと器の上から出ている分を食べきったころに、凪沙が聞いてきた。


「あのさあ、晴比古さんのこと、みんなキョージュ、って呼んでるじゃん、あれ、どうして?」


「さあ?」


 開葉は小頚をかしげた。そういえば、みんなそう呼んでいるので、いつのまにか開葉も晴比古のことをキョージュと呼ぶようになったのだが、何故そう呼ばれているのか、いままで考えたこともなかった。


「アタシ知ってる」


 そう言ったのは初美だ。


「え? ほんと?」


「キョージュってあだ名つけたのはシュンコウおばさんらしいよ」


「へええ」


「シュンコウさんなんだあ」

「キョージュがね、ちっちゃい子供のころ、ここね、頭の後ろのとことモミアゲのとこ刈り上げてたんだって、夏で暑かったからとか言ってたな。それがなんとかってバンドのキョージュって言われてた人に似てたんで、シュンコウおばさんが、キョージュ、キョージュって呼び出して、それで他の人も呼び出したんだって」


「あ、そのバンド、YMOっていうの、キョージュって坂本龍一のことだよ。テクノカット、って言ったんだよ、その刈り上げ。へええ、それでキョージュなんだ。知らなかった」


「開葉ちゃん良く知ってるね」


「そりゃ、そうだよ。なんたってアキハは好み渋いから、好きな歌手は八代亜紀だし」


「えー、ほんとー、それって、母ちゃんか婆ちゃんみたい」


「どうせ年寄り臭いですよーだ」


 開葉は頬を膨らませて、パフェにスプーンを突き刺す。それを見た二人が、やだ、かわいー、などと囃すので、少し顔に赤みまでさした。


「でさあ、ショミちゃんは失物探しが得意技でしょ。あたしは水憑きだけど、開葉ちゃん、ってそういうのないの?」


 凪沙の問いに、んふふふー、と初美が意味あり気に笑う。まずい、と思った開葉が止めるより早く、初美が言った。


「アキハはねー、生贄のスペシャリストなんだよー」


「え?」


「違う、違うのよ。凪沙ちゃん」


「違わないもん。凄いんだよぉ。アキハを生贄にして儀式をすると、ものすごい霊が大量に集まるんだ」


「え? 何それ、キモい」


「違うってばあ」


「違わない、見たもん。二回も。凄かったあ」


「へえええ、あたしも見たい。ね、開葉ちゃん、こんどやるとき見せて」


「嫌です。あんなこと、もうやらないんだってば。ショミちゃん、おかしなこと凪沙ちゃんに教えないで」


「あんなこと、って、やっぱり本当なの?」


「もう、知らないっ」


 二人の好奇の目にさらされながら、開葉は黙々とパフェを食べる。早く凪沙を多聞家から出さなきゃ、開葉は思った。あそこには初美だけでなく尊子までいるのだ。どう考えても、あの家は凪沙に悪い影響しかあたえない。



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