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国産み(45)

 

−−ナギ、大丈夫?


−−ちょっと疲れてるかな、でも佳海姉が来てくれたから、安心した。


 距離、ということなら大兄の胸に下がった小びんとの間だからほんのわずかのはずである。だが、実際には、屋久島に待機している忌籠のメンバーを介しての意思疎通になる。何が影響しているか、はっきりとはわからないが、凪沙の意識は薄めだ。


 凪沙は憑魂してからかなりの時間が経っている。いくら術の負荷の小さい水憑きであっても辛いのに違いない。いったん外しては、とも考えるが、凪沙の疲れ具合によっては再憑が無理かもしれないので、辛抱しているのだ。


 見かけは大兄と瞬光の二人組だが、憑魂、依り主、忌籠と八人の魂が混濁した上に豊玉の力も加わっている。忌籠のメンバーがかなり調整してくれているとはいえ、気を抜くと佳海ですら意識が融け出しそうになる。


 瞬光と尊子のほうは意外なほど安定している。どういうことなのかわからないが、尊子は忌籠と憑魂を同時にこなしている。しかも、凡海側への侵蝕は意識を通せるぎりぎりまで抑え込まれており、凡海の中でもここまで術を制御できる者を佳海は知らない。まわりの評判はともかく、尊子の術師としての力量は驚くべきものだ。


 もっとも、それができるのも瞬光が尊子を自由にさせているからである。悪態をつきながらも、瞬光は己の身体に入っている尊子の魂魄にまったく制限を加えていない。普通の人間にあんなことができるものなのか? それとも、この人は、見た目とは裏腹に、本当に仏道修行をして悟りを開いているとでもいうのだろうか?


−−そう、いちいち驚くなよ。


 大兄が佳海の意識に語りかけてきた。


−−この二人は、まだずいぶん人がましいほうだぞ。賀茂晴比古が朱雀大路をかけた時には、マジで死ぬかと思ったぜ。


−−ナギは? ナギは大丈夫でした?


−−あたしは開葉ちゃんのそばにいたから、


 凪沙から直接、返事があった。


−−だから、よくわかんないんだ。みんな、あの人のことおっかない人だって言うけど、あたしにはそう見えないし。


 陶開葉によって賀茂晴比古の力は中和されるらしい。開葉がそのように言っていたのを佳海は思い出した。当人たちもその理由についてはあまりよくわからないようだったが、彼らにわからないことが佳海に理解できるはずもなかった。


−−私にもそう見えないよ。ナギ。


 佳海は凪沙に同意したが、恐くはなくても変な人であることは確かだと思う。


「まあ、むこうの二人は別格にしても、こっちの二人もかなりイカレテルよ。おとなしくしてれば、取って喰いやしないから安心してていいけどさ」


 三田が言う。


 そういえば、もう一人いた。三田はここ数日、出会ってからずっと生霊のままである、うっかりしていたが、この人もとてもまともではない、佳海はあらためてそう思った。




 結界の中である。


 女性三人が仲良く並んで寝ており、その回りを、やや、やつれ気味の男たち三人が囲んで座している。


「むこうは楽しそうだな」


 そう言ったのは、潮見である。


「ラブ、アンド、ピースだ。世界は女性を中心に回るものだよ」


 洋行の答えに返事するかどうか、潮見は二秒間思案し、無視することに決めた。


「楽しいかどうかは別にしても、元気なのは認める」


 そういう史郎が、いちばん精彩を欠いている。


「腹が減ったな」


 潮見が言った。あとの二人もうなづいて同意を示したが、立ち上がろうとはしない。


「そりゃあ、腹も減るな」


 潮見がもう一度言って、かたわらに横たわる三人のほうを見る。


「まあ、あと、もう少しだろ。飯は終わってからでもいいな」


 潮見は目を閉じた。他の二人も同じだろう。


 三人は無言のまま、身じろぎすらせずに座りつづけていた。




 瞬光がラジオ体操をはじめている。手足を伸び縮みさせて背筋をのしている。露骨に嫌な表情をしているのは、身体を動かしているのが自分ではないからである。


「さあて、そろそろいくかぁぁ」


 瞬光の口から瞬光の声で発せられたその言葉は、しかし、瞬光のものではない。


 瞬光は天叢雲剣を高くかかげてポーズをとる。


「で、どうすればいいのかな?」


 壊し屋ソンコの異名を知らぬ者ですら、その姿には言いようのない恐ろしさを感じたろう。


 もし、賀茂萬山がこの場にいたら、これだけは目にしたくない、そんな光景であったに違いない。


「豊玉の指示に従ってくれ、いちばん光の強いところに突き立てろ」


 道鏡は、これ以上に無いほど落ち着いた口調で、事務的に言った。



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