玉依(39)
「あー、ヒマだ、ヒマだ、ヒマだ〜。何にもすることないー、ヒマー」
尊子が騒いでいる。
佳海が作った朝食を取った後、宿で待機しているのだが、尊子はすることがない。
昨晩の後片付けは術師会の庶務班がやっているので、手出しする必要がないし、そもそも尊子はそういうことは嫌いである。忌籠をやるという話で来たのだが、洋行が帰ってきてしまって、いまは凪沙しか憑魂していない。そちらも十分手は足りているのだ。
「ねえ、そこのお兄さん、もう一回、むこうに行ったらどうなの?」
「ソーリー、シスター、これだけ距離があるともう一度憑くのは無理なんだ」
「意外と不便なのねぇ」
潮見が尊子に説明する。
「洋行は凡海の中でも変わり種だからな。人に憑かずに物に憑く、そのかわり近い物でないと無理だ。俺も忌籠専門みたいなもんだから人に憑くのは苦手だ。いまむこうの連中のところまで届きそうなのは」
潮見は史郎のほうに顔を向けた。史郎は力なく笑って首を振る。
「本来なら史郎がいけるはずだが、ここまで道鏡を憑けたり里に単独で飛んだりと消耗しているから無理らしい。後は」
ここで潮見は佳海を見る。黙って見つめたまま、一言も話さない。
「私? 私はだめ」
あわてて佳海は首を振った。
「何故駄目なんだ?」
「そう何故? ボクも聞きたいな」
潮見と史郎に問い詰められ、佳海は苦しまぎれに洋行のほうに顔を向けたが、洋行は微笑んでいるだけである。
「大兄様、社長が」
佳海が言う。
「むこうにいる人で私が憑けそうなのは、社長だけですけど、社長には道鏡さんが憑いています。二人同時は無理です。社長の負担が大きすぎます」
「道鏡ははずれたそうだ」
潮見が言った。
「凪沙がそう言ってる。目的地に着いたからだろうな」
憑魂者を忌籠しているものは離れていても意識を通せる。いま凪沙を忌籠しているのは潮見なので、凪沙を通してむこうの事情が少しわかるのだ。
「ほら、行きなさいよ。ヨシちゃん。みんな行け、って言ってるわよ」
尊子が佳海をつついた。
「でも……」
「心配しなさんな」
尊子が胸を張った。
「忌籠はあたしがやるから、といってもこのお兄ちゃんの真似するだけだけどね。霊力はあまってるから、どーんと行ってこい」
尊子の能力は木霊である。他の術師が使っている術をそのまま使える。尊子は潮見の忌籠を木霊で真似ようというのだ。
「いいんですか?」
佳海はそれでも不安そうに、尊子、潮見、洋行、史郎の顔を順番に見つめる。四人は黙ってうなずいた。
「さてと」
尊子が立ち上がった。
「話も決まったし、結界張り直すよ。そこで寝てる子、ナギちゃんだっけ? ほれ、そこのとそこの、そうそう、あんたとあんた、だっこしてこっち移して、こら、乱暴に扱うんじゃないの、女の子相手になにやってんの。はい、よし。で、ヨシちゃん、あなたはナギちゃんの隣に寝る、と、待てよ」
ここで尊子は言葉を切った。
「ヨシちゃん、むこう行く前に昼ご飯作ってくれない? あたしそういうの苦手なのよ。ここにいる男共もあんまり料理上手そうじゃないし、ね。あたし好き嫌いはないから、なんでもいいよ」




