表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
30/58

邪馬壹(30)

 

 十日月の深夜である。


 水平線ぎりぎりに浮かぶ月が、波間を照らす。


 ウミガメの産卵期には賑わう永田浜も、いまはひっそりと夜の帳の中にある。


 浜に立って、二組の男女が海を眺めていた。


「ヤツらどうする気かな」


 岩影に潜み、じっと晴比古たちをうかがう者のことを大兄は言っているのだ。


「さあ、どうする気でしょうね」


 金紗で捲いた長尺の剣を持つ晴比古は、風に吹かれつつ、眼前の荒波を見つめていた。


「なんなら片付けるか?」


 大兄の問いに、晴比古は静かに首を振った。


「しきたりに従ってやれ、と言われてますからね。むこうが手出しする前に、こちらから仕掛ける気はありません」


「居残り組も心配だが」


「彼らのほうには田上氏が欲しがるようなものはありませんが、こちらには豊玉二つと天叢雲剣ですから、襲うとすればこちらだと思います」


「むこうを人質に取るとか」


「田上氏もそこまでバカとは思いたくはないんですが。そもそも凡海衆を人質とか、まったく意味がないじゃないですか。虎の檻に入って、この虎を殺されたくなかったら言うことを聞け、とか。バカの見本みたいなものです」


「そこまでおっかなくはないぞ、凡海衆は。賀茂晴比古じゃあるまいし」


「田上氏がそう思ってくれるのなら、その汚名、甘んじて受けるんですけどね」


 晴比古は岩影を見やる。張りついた影は動く気配がない。


「彼ら以外には見物人もいないようですし、そろそろ始めますか」


 晴比古の呼び掛けに、開葉は、はい、と返事した。


 二つの豊玉を両手に、開葉は大きく腕を伸ばし、月の光を宝珠に受けた。


 波の音が途切れる。


「よし、みんな、走れ」


 晴比古が叫び、走り出す。開葉、瞬光が後に続く。


 眼前の信じられぬ光景に大兄の思考は完全に停止している。


 海は、なかった。


 潮乾珠は遂にその本来の力を解き放ち、一瞬にして、大兄の眼前の海を干上がらせたのだ。


 前方を行く三人のはるか先には、海底から隆起した、石のピラミッドが見える。


「大兄殿」


 己の口から出た言葉によって、我に返った大兄は、あわてて、地の底、海の底にむかって駆け出した。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ