豊玉(2)
術師会第八詰所、所長の多聞尊子は、賀茂晴比古と陶開葉を前に、箱を開けた。
真球の黒水晶。
「どう? これが、オーパーツよ」
尊子の言葉に、二人は脱力して二の句がつげない。尊子は勝手に受けたと考えて、上機嫌である。
「ね、まんまるでしょ? だから、オーパーツなのよ〜」
尊子には、オーパーツが何であるのかは良くわからなかったが、ちょっと聞きかじったので言ってみたかったのだ。
「それで、どうしろと?」
晴比古は尊子に問うたが、それはもっともな疑問だった。
「うん、だからね、プレゼントなんだって、キョージュとアキちゃんに」
「誰から?」
「よくわかんない。サンタの店に誰かが来て、あんたたちにプレゼントだって置いてったんだって」
晴比古と開葉は顔を見合わせる。
「キョージュ、心当たりあります?」
「アキハさんは?」
二人は互いに首を振りあう。
「ま、何でもいいから、持ってって」
「困りますよ。ソンコさん」
晴比古は尊子に言う。
「こんな、わけのわからないもの持っていけません」
開葉も晴比古に同意する。
「わけわからなくはないわよ。豊玉だもの」
はあ?
呆気にとられる二人にはおかまいなしで、尊子が言う。
「豊玉なの、贈り主がそう言ってたって、サンタが言った」
「豊玉、って、ソンコさん、そんなもの、ますます持って帰れませんよ。本部で預ってください」
「何でよう。キョージュとアキちゃんに、って向こうが言ってるんだから、あんたたちが預るのがスジでしょう」
「何でも何も、豊玉なんて、個人で持っていて良いもんじゃないでしょう?」
「知らないわよ、そんなこと」
「ねえねえ、キョージュ」
開葉は晴比古の袖を引っ張って、小声で話しかける。
「豊玉、って何?」
「ああ、豊玉姫、っていうのがいるんです。山幸彦は知ってますよね」
「うん」
「豊玉姫は山幸彦の奥さんなんですが、その人が持ってきたのが豊玉で、満潮にしたり干潮にしたり潮の満ち干をあやつれるんです」
「しおみつのたま、しおひのたま、のこと?」
「そう、それそれ」
「これが?」
開葉は黒水晶の玉を指さす。
「みたいですね」
「本物?」
「ニセモノだという証拠はとくにないみたいです」
「いりません」
開葉は尊子に言った。
「持ち主に返してください」
「だから持ち主消えちゃったんだって」
尊子はふてくされた顔で言う。
「返すんなら、自分たちで返しなさい。キョージュとアキちゃんで」
二人は玉を持たされ、詰所から追い出された。
晴比古は、ため息まじりに、開葉に言った。
「すみませんが、サンタ君のところに行ってもらえますか、これ持って」
「はあ」
晴比古は霊力が強すぎて、生霊の三田には、直接会えない。晴比古から洩れ出す霊力が三田を焼いてしまうのだ。
「しょうがないですね」
開葉は答えた。
「これ、サンタのところに置いてきていいですか?」
「そうしてくれるなら、ありがたいんですが」
晴比古は自信なさげに言いよどむ。
「こっちに押し付けてくるぐらいだから、素直に受け取ったりしないと思いますけど」
「まあ、そうでしょうね」
中に玉の入った白木の箱は、開葉の腕の中、カタカタと嬉しそうに鳴った。




