表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/58

蛭子(17)

 

「どうしたの?」


 尊子はドアを開けて中をのぞいた。初美の部屋は真っ暗だった。


 初美はベッドの中でふとんをかぶって丸まっている。


「なんでもないよ」


 返事はあったが、ふとんからは出てこない。


 尊子は部屋の灯りをつけた。


「晩ご飯は?」


「いい、食べない」


 いつものこと、と言ってしまえば、いつものことだが、やはり尊子は娘のことが心配だった。


 初美は普通の娘ではない。そのことを自分でもよく知っている。普段は平然と振る舞ってはいるが、そのギャップを飲み込むことができなくなると、ひとり、ベッドで丸まるのだ。


「何か欲しいものない?」


「あるよ」


 初美はふとんから顔を出した。


「賀茂晴比古」


「あれは、やめときな」


 尊子は笑っていなそうとしたが、あまりうまくできなかった。


「ちょっと術の心得があれば、あれには誰でも惹かれる。でも、それって恋愛とかそういうのじゃないから、あの霊力に惹かれるのよ。久遠寺レイカ、知ってるでしょ。ママの知合い。あれも勘違いしている。キョージュのあれは、誘蛾灯みたいなものよ。霊力に惹かれて魂まで焼き尽くされる」


「それでもいい」


 初美はベッドの上に座り込んで言った。


「どうせ普通の恋愛とか無理だし」


「そう、あきらめたモンでもないよ。人生長いんだし」


「ママはパパがいるからいいじゃない。あのクラスは何人もいないんだよ」


「普通の人が相手でもいいでしょ」


「それはアタシが嫌なの」


「……そうだね」


 初美はベッドから降りて、勉強机の椅子に腰かけた。


「わかってるよ。キョージュには、アキハがいるんだもんね」


「そうだね」


「今度は九州に行くんだよ。二人っきりで。新婚旅行みたい」


「シュンコウも一緒だよ」


「ほんと?」


 初美の瞳は一瞬だけ輝きを取り戻したが、すぐまた、光を失った。


「アタシってば、嫌な女だよね」


「あたしの娘だからね」


 尊子は初美を引きよせ、頭を撫でた。


「でも、初美はママより素直だし、かわいいから、きっと大丈夫だよ」


「アキハ、かわいいからなあ」


 初美は立ち上がり、両手を上げて伸びをした。


「相手がアキハじゃなきゃ、もうとっくに奪ってるのに」


「キョージュの好みとかは無視?」


「えー、男なんて、若い娘のほうが好きなんだよ。若けりゃどうにでもなるよ」


「なら、奪ってみれば?」


「え?」


 初美はまじまじと尊子の顔を見た。


「いいの?」


「さあ? どうなんだろ」


 尊子は久遠寺の力を使って未来をかいま見たことがある。未来は何も定まらず、混沌としていた。久遠寺になら、あの中から何かを見つけられるのかもしれないが、尊子には無理だった。


「なるようにしかならないし、ダメモトでいいんなら、やってもやらなくても大差ないでしょ」


「そっかあ、そうだね」


 やっと初美に笑顔が戻った。


「じゃあ、アタシも九州行っていい?」


「それは、だメ」


「なによぉ、あれだけたきつけておいて、ヒドイ」


「当たり前でしょ、学校あるんだから。未成年はおとなしく勉強してなさい」



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ