きっとそこではお酒が飲める‼︎
「そこそこ可愛いと思うんだよねぇ、私。」
パソコンの画面を見ながら、ボイスチャット先の相手にボソボソと話しかける。
「まあ、お母さんに似て顔はソコソコ良いと思うよー、私程じゃないけ…あ、次頭割りね。」
「はーい、軽減入れますよっと。」
しばらくカチャカチャとキーボードを叩く音とマウスのクリック音だけが部屋に響く。
数十分後…。
「今週の消化終了ー‼︎疲れたぁー‼︎で、何の話してたんだっけお姉ちゃん⁇」
ヘッドホン越しに聴こえてくるのは2歳下の妹の声である。
「なんでそこそこ可愛い私に彼氏が出来ないのかって話。」
そう嘆く私の名前は佐々木美香。
何を隠そう彼氏居ない歴=年齢の22歳である。
「顔が良くてもさ、もう我が姉ながら駄目人間過ぎて呆れるよ。」
流石身内。容赦無い。
「とにかくお酒飲んだら超絶面倒臭いでしょ⁇」
「かといって素面だとコミュ障過ぎて会話成立しないし、挙動不審だし。」
「しかも基本ゲームの話にしか興味が無い。一般人ドン引き。」
「なのに二次元慣れし過ぎてイケメンじゃないと嫌とか高望みばっかり。」
自覚はある。確かにそうだが…いや‼︎ここは敢えて否定しよう。
「待って。確かに【今まで】はそうだったよ⁇でも私も気付いたのよ、そろそろ色々やばいってことに。」
ゲームだけ遊んで生きていければ良いなって思って今の今。
決して友達は多くないのだが、彼氏とテーマパークでイチャイチャして来たよとか、早い人ではもう結婚しました報告とか、そんなものは随分遠い方からも耳に入る。
まあ、それだけならなんとか聞かないふりも出来た。
だが先月の事だ。
「あー確かお姉ちゃんのゲーム友達の綾ちゃん、結婚して子供もできたんだってねー‼︎おめでたいじゃん‼︎」
そういう訳なのである。
高校時代で同じクラスになった綾は私並のゲーマーで、新作のエンドレスファンタジーを発売当日から寝ずに遊ぶような生涯のゲーム友達だった。
隠しアチーブをどちらが多く見つけられるかなんて競ったり…。
ダメージをカンストさせるまで育て切るのがゲーマーとしての最低条件だと意気投合したり…。
だが、過去形なのはお気付きであろう。
お互い社会人になってちょっと連絡頻度が少なくなっていたところ、久々に電話がかかって来たので大喜びで出ると…。
「私はあの電話、絶対に新作のドラゴンストーリーを買ったよ‼︎って報告だと疑わなかったのにね…。」
「そういうのが駄目なんだって…お姉ちゃんもう駄目だわ本当に。」
妹がため息を吐く。
「そりゃおめでたいことだよ‼︎私だってお祝いはするよ‼︎
必死になっている自分が居る。
「でも、まさか【美香もそろそろゲームとはちょっと距離を置いてリアルを優先した方が良いと思うよ‼︎】なんて言われるとはさ…。」
まさに会心の一撃、クリティカルヒットである。
「ご愁傷様」
私は必死に話を続ける。もう本当に必死である。
友達を失ったわけでは無いけれど、同志が減ったこの虚無感を直視できない。
「だからメイクを動画で勉強して、合コンには必ず新しい洋服も買って、いわゆる【お持ち帰りされる女はこうだ】とかいう教材も読んだし‼︎」
「うわ教材とか何それやば過ぎでしょ…。」
何でだろう、私は頑張っている筈なのに画面越しに伝わってくる妹の部屋の空気が重い。
勿論、昨日の合コンの成果はいつもの如くゼロ。
社交辞令で交換した連絡先から次回のお誘いがくることなど勿論無く。
「私もうセレストのNPCと結ばれるしか無いんじゃね⁇」
真面目にそう思えてくる程、リアルでカップル成立とか難易度高いのだが⁇
泣けてくる…。
「いや、なんかもうどうしたら良いのか私もわからない…ごめん…。」
謝るな妹よ。余計に惨めになるだろうが‼︎
「あ、思い出した。そういえばさ、このあいだセレスティアサーガのPT募集で恋愛のお悩み聞きます、みたいなのあったよ⁇」
「え!?セレストにあったの⁇何それ⁉︎」
通称セレストと呼ばれるセレスティアサーガとは、去年に発売したMMORPGで、私が主に生息している場所である。
「なんか冒険者酒場⁇のRPみたいで、マスターが話を聞いてくれるみたいだったよ⁇」
すごい。ものすごく興味を惹かれている自分が居る。
チャットを打ちながら手汗をかくほどに。
「ちょっとリアルでは難しからさ、ほら、お姉ちゃん色々…。」
「一度セレストで話聞いてもらったら⁇同じ様な駄目な人が集まってそうだし⁇」
妹がかなり酷いことを言った気がするが、今はそんなことなどどうでも良い。
きっとその冒険者酒場にはイケメンエルフィンのマスターが居て。
きっとお客さんで来ているキャッテールの可愛い女の子が居て。
きっとみんなで意気投合して仲良くなっちゃったりするんだ。
それでもってお酒が美味しいんだ。
そう、朝まで飲んでも怒られないんだ。
問題は私に彼氏ができないと言う事だったはずなのだが、少し話が脱線していることも気にせずに。
私の妄想は止まらず、口は緩んで、そそくさと妹とのボイスチャットを切り、冷蔵庫からストロングチューハイを出して来たのは言うまでもない。