第四環ー明かされる真実
菖「なんでわかったんですか」
誉「悪いけど、説明している時間がない。あと1時間半で蹴りをつけなきゃいけなくなる。口を開いていると舌を噛むかもしれないから口は閉じたままでお願いね」
菖「はぁ!?」
誉「先輩が助かるかもしれない」
地面が割れるほどの衝撃により射出された二人。
―
誉「署長いますか!」
「なんだ今いそが…」
誉「すぐ二つのことの確認をとっていただきたい!」
「落ち着きたまえ、ゆっくり深呼吸をだな」
誉「今すぐにです!」
「は、はいぃ!」
―
菖「髪の毛ぐちゃぐちゃだよ…」
誉「これから現場に向かう」
菖「もう大丈夫なんですか?」
誉「とりあえず署長には話を通しておいた。あとは菖さんに任せる」
菖「急にそんなことを言われても!」
誉「大丈夫!事実がわかれば菖さんも必然的にする行動がわかるから!」
菖「最初から答えを教えてください!」
誉「この事件は今は、極秘だ。署長がその極秘を解くまで具体的な指示ができない。でも僕の考えが正しければすぐ解けるはずだ」
菖「外れたらどうするのよ!」
誉「死刑だろうね、でも先輩が助かる唯一の手段だ。迷っている暇はない」
菖「ちょっと!!何よもう!」
―
脱兎よりさらに早く、土煙を出し、一番高い建物へ登る。
走っていくより、何もない空中を走っていった方が早い。
唯一先輩が助かる道。犯人を確保。そして犯行を食い止める。
それをするには1秒でももどかしい。
空気に稲妻が走る。
―
「ったく、一職員なのに署長を顎でつかうとは何事か…全く。あとで説教しなければならないかもしれないな。ただ、腑に落ちた。彼の考えは普通では考えられないものなのかもしれない」
「そうか、わかった。菖くんを呼びたまえ」
菖「すでにいます」
「聞き耳を立てていたのか。全く…上司といい、君といい…」
「署長、もう彼女いないですよ」
「そりゃ聞き耳立てていたんだからやることはわかるだろう。何せ彼女は優秀な対凶悪犯係の一人なんだからね」
「はぁ…」
「君もわかっているね。緊急配備だ」
「もちろんです。すでに手配済みです」
「さすがだな」
―
「そろそろ時間か…」
先輩は一人、橋の上に立っている。
人質交換に指定された場所だ。ここが海の上などであればどれだけ綺麗なことだろう。こんな汚い沼が最後の場所になると悲しみしか残らない。いや、悲しみすら残らないのかもしれない。
時間まではもうない。
どうしても彼の顔が頭に過ぎる。
屈託のない笑みのはずなのに奥底には何かを秘めているようなもの。
もしかしたら今回の犯人も救い出してくれるのかもしれない。
そんな淡い期待を寄せても文句は言われないだろう。
救えなくとも彼のせいではない。せめてそれを彼自身に言うべきだったのかもしれない。
ただ、昨日はうまく言葉を紡ぎ出せなかった。
嗚咽を堪えるのに必死で最後何を言ったのかすら覚えていない。
最後は笑顔で別れたいと思ったが…自分は笑えていただろうか。
最後に思い残すのは、彼の好きな料理くらいは知っておきたかった。
少し変な顔をしていたのはそのせいだったのかもしれないと少し反省だ。
この反省も意味がなくなるのだろう。
そう思うと堪えていた涙が溢れ出してきた。
おかしい。
こんなに人に心酔したことは初めてだ。今までそんなことはなかった。
それほど彼に魅せられるものがあったのか。
周りも署内の人が取り囲んでいる。
みんな気を遣って顔を逸らしてくれている。
せめて、せめて最後に願いを言うのであれば。
「誉に会いたい」
誉「それじゃご飯に行きますか」
「なんでお前ここにいるんだ!もう時間なんだぞ!」
誉「もう大丈夫です。凶悪犯を確保しました」
「はぁ…?」
誉「犯人は…」
―
「は…ははは…」
誉「先輩が壊れた…」
「そりゃそうだろう…なんだよ…なんだよっ!」
誉「とりあえず移動しましょう。馬車は用意済みです」
―
菖「無事確保致しました」
「お疲れ様、さすがだね」
菖「いえ、お手柄は全て誉先輩のものかと」
「ほう…成長したなぁ」
菖「茶化さないでください」
「いや、そんなつもりは全くないが」
菖「私たちは改めて思い知らされたんだと思います。どんな人間でも間違いを犯すのだと。それが例え署内職員でも」
「通りで犯人の行動パターンが掴めないわけだ。担当者の一人が犯人だったなんて誰も思わないからな」
菖「しかも一端の捜査官。休んでも誰も困りません」
「気づくべきだった。犯行日時に全ての日休んでいたとは」
菖「無理もありません。全て休みは体調不良など理由があり、疑う人もいません」
「言い訳にはなるが、1年に一度休む人間であれば際立つこともあるかもしれんが、常に休みを重ねていたんだ。それも何年もかけて。わかる方がおかしいのかもしれない」
菖「でも5年もかかって上官にならない時点で気づかなければいけなかったのかもしれません」
「本来であれば一定年数を超えれば上官になり、人を見る立場になるから休もうにも休めなくなるが、ある程度の仕事、そして大事な時に不祥事を起こし上官になる道をやめていたものがここまでのことをするとは思わなんだ」
菖「今話を聞いていますが、言っていることは全く分かりません。人と話していると思えないのです」
「悪魔に魂を売ったものの末路か」
菖「ですが、確実に悪魔に魂を売るきっかけがあったと思います」
「きっかけか…あるかもしれんし、もしかしたらないのかもしれん。そもそもが悪魔そのものなのかもな」
菖「聞かなかったことにします」
「このことについては箝口令を敷く。決して他のものに話さないように」
「失礼します」
「なんだね」
「署長一人で喋っておられたのでどうされたのかと」
「菖くん…?」
「話が長いと帰っていきました」
「はぁ…」
「それでお呼びの理由とは」
「口を割らせろ、今回の事件奴一人でできる代物ではなさそうだ」
「どんな手を使っても。でしょうか」
「任せる」
「仰せのままに」
―
「…」
「先ほどからずっと黙秘です。20分前くらいまではずっと喋り続けていたのに」
「喋ることに疲れたんだろう。大丈夫だ」
「それじゃよろしくお願いします」
―
「…」
「お前は何も喋らなくていい。何もしなくていい。ただ俺の問いを聞けばいい」
「…」
「一つ。今回は単独犯か」
「…」
「すべての事件を通して単独犯か」
「…」
「共犯者は何者だ」
「…」
「そうか、お前も知らない奴なのか」
「…」
「大体は掴めた。あとはお前の脳に直接聞こうとしよう」
席から立ち上がり、徐に犯人の頭を触る。
考えていることを読み取る能力。予め、その考えに近い問答をし、脳裏に刻む。
人間は一度思い出した場合、なかなか記憶を消せない。
忘れようとすればするほど思い出してしまう。悪魔のような姿を。
「なんだこいつは…」
見えた光景に驚きが隠せない。
普通の人間が見れるような情景ではない。思考も理解できない。
なぜあのようなものに与するのか。これはすぐに署長に伝えねばならない。
扉を開く。
「終わったんですね」
「ああ、今から署長に話に行ってくる。こいつを…」
「困るんですよね…あなたのような優秀な人材がいるとこちらも動けなくなってしまう…」
「まさか…お前が共犯者…」
腹部から大量の血が流れ出ている。
「その思考を読み取る能力もいただきましょう」
「…残念だったな」
腹部からの出血も床を這う血も全ては幻影。
「思考を読み取った時点で共犯者の顔も見えているんだ。何もしない手はないだろう」
「影武者か…」
「そして私が定時に帰ってこない。そうなった時所長は何を思うだろうな」
「潮時か」
「動くなよ、お前はすでに包囲されている」
「人間如きが勝てる存在だとお思いか?」
「ああ、あの景色お前は人間でないことはわかっている。そしてそれは署長と話していて予想済みだ」
「ああ、悪い、間違ったようだ。ここにくる人間が…お前の仲間だとお思いか…?」
「なんだと…」
「知っている。影武者を扱えるのは1日に3回まで。それを使ったあとはただ人の思考が読める人間だ」
「ここまでも読んでいたのか…」
雑多の足音。
「これでもまだ半分も行っていない」
向けられる銃口。それは定まっていない。
「共犯者はあいつだ!」
まさか…声色まで変えられるのか!
「撃ち殺せ!」
違う、私は…
無慈悲な破裂音が響き続ける。
この日、3名の職員が死んだ。署長秘書、事件犯人、取り調べを行なっていた職員。
しかし奇妙なことがあった。一人の職員はすでに体が腐り果てていると。
誉「先輩落ち着きましたか」
「ああ、取り乱してすまない。まさか同じ署内に凶悪犯が居たなんてな…想像もしなかった。だがお前の話を聞いて腑に落ちた。警備網も全て筒抜けだったわけだ」
誉「バレても体調が治ったなどを言い訳にして戻れるわけですからね」
「ああ、熟熟自分を愚かしいと思うよ」
誉「何故、悪に手を染めたのかはわかりませんが、周到に細工してあります。普通の人間ができる神経ではないかと」
「我々が戦っているのは人間の皮を被った化物か…」
誉「そうなのかもしれません…」
―
菖「お疲れ様でした」
誉「聞きました。全部根回ししてくれたみたいですね」
菖「自分にできることをしただけです」
誉「おかげで先輩を助けられました」
菖「良かったですね。おかげで色々文句を言われました」
誉「あー…どんまい」
菖「はぁ?」
誉「今日は先輩とご飯行くからこれにて解散!お疲れ様でした!」
菖「待てーぃ!」
―
誉「お待たせしました」
「まさかまたお前とご飯に行けるとはな」
誉「だから言ったじゃないですか、また行きましょうって」
「そうだな…そうだな…」
誉「先輩!」
「なんだ急に」
誉「先輩…」
「…」
誉「お腹空きました…」
「…」
「私も」
誉「あれ…菖さん…?」
「菖…」
菖「お久しぶりです。先輩の先輩」
「元気そうだな。この間行った時は姿が見えなかったから心配したぞ」
菖「対凶悪犯係は休みが多いんで」
誉「あれ?知り合いですか?」
菖「なんで先輩が対凶悪犯係に配属になったのか。先輩の先輩の推薦ですよね」
「誉なら凶悪犯に負けないからな」
菖「確かに…今のところ奇跡的に全部解決はしていますからね。因縁のあったMQ03事件ももう、終わりましたからね」
「5年か…長かったな」
菖「ありがとうございました。先輩を見つけてくださいって」
「誉がきたのはたまたまだ。菖が対凶悪犯係に行きたいと行った時は冷や汗ものだったが、今は杞憂になったようだ」
誉「あの…」
菖「意外と頭もいいんですよ。この先輩」
「そうだな、力も桁違いだが、色んな意味で桁違いなようだ」
誉「あの!」
菖「なんですか先輩」
「急に大声だすな」
誉「聞きたいこと色々あるんですけど、お腹空いたんで…」
「ああ、そういえばそうだった」
菖「どこに行くか決まってるんですか?」
「パスタ屋以外だそうだ」
菖「先輩好きな食べ物は?」
誉「まだここに来てから外食はパスタしか食べたことないんだ。だから何が好きかわからない」
菖「生まれ何処ですか」
誉「名前…知らないんだよな…」
菖「はぁ?」
誉「山の中で暮らしていたから大陸の名前とかその辺全然知らないんだ」
菖「通りで」
誉「今失礼なこと考えたでしょ」
菖「それならお肉なんてどうでしょうか」
「そうだな、心労で入るかわからないが」
菖「姉と違って生きているんです。食べれる時に食べましょう」
「そうだな…」
誉「姉…?」
菖「私の行きつけのお店があります。行きましょう」
「ああ」
誉「先輩…?」
菖「ここです」
誉「ちょっと高級そうなお店だけど…お金大丈夫?」
菖「先輩の奢りですよね」
「ごちそうさま」
誉「待ってください。今回は先輩の奢りじゃないんですか?」
「そんなこと言ったか?」
誉「いや…言ってないですけど…」
菖「いいお給金貰ってるんですから還元してください」
誉「同じ部署では値段は一緒だよ」
菖「私は休みが多くて減給されているので」
誉「…そこ維持張る場所じゃないよね」
菖「外装は豪華ですが、値段は良心的なので大丈夫ですよ」
誉「菖さんの行きつけだもんね…そうだよね」
菖「私を安い女みたいに言うのやめてもらえませんか」
誉「給金が安いのは間違いじゃないんでしょ?」
菖「くっ」
「ほら、遊んでないで入ろう」
菖&誉『遊んでないです!』
「早く行くぞ」
―
誉「色んな料理があるんですね」
菖「適当に頼めばいいんじゃないですか。先輩が払うんだから」
誉「どんな料理か教えてもらってもいい?」
菖「これは鶏肉を味付けしたものを高温の油で揚げたもの。その揚げたものを味変していく感じの料理がこの欄にあるメニューです。これは豚肉を煮た料理ですね。これは牛の内臓を香草と一緒に炒めた料理ですね」
誉「へぇ…菖さんって物知りなんだね」
菖「先輩がものを知らなさすぎなんです」
誉「あと一つ聞いていい?」
菖「なんですか?」
誉「先輩呼びでいいの?」
菖「…」
「誉、そこは触れるべきではない」
誉「え?」
菖「ねぇ!ここのメニューに書いてあるやつ全部持ってきて!」
誉「ごめんなさい!そんなにお金ないからぁ!」
誉「それじゃ改めて菖さんに聞いていいですか」
菖「なんですか?」
誉「MQ03事件の被害者、名前は見てないからわからなかったんだけど、お姉さん…被害者になっていたの?」
菖「その件ですか…」
「私から話そう」
菖「大丈夫です。もう心の整理はついてますから」
誉「聞かせてもらえるかな」
菖「わかりました。あれは5年前です。先輩と一緒に行きましたね、2回目の事件、新婚ホヤホヤの二人が爆殺されたと」
誉「まさか…」
菖「その新婦。私の姉だったんです。人質を見捨てた署に復讐すら考えました。ですが、先に父がその逃げた人間を殺しました」
誉「確かに…そう言ってたね」
菖「その時、大バッシングを受けました。私たちも被害者なんですけどね…。犯人が見つからないと目に映る加害者を叩かないと怒りの収める場所が見当たらなかったんでしょうね。地獄でした。私は何もしてないのに。姉を殺された被害者なのに。父が殺してしまったからそれからずっと私は加害者の身内というレッテルを貼られて…」
誉「さらに辛いことを聞いてしまうかもしれない。ご両親はどうしたのかな?」
菖「えっと…」
「少し風を浴びてくるといい。そこの話は私がしよう」
菖「すみません…」
菖さんは少し戸惑いながら部屋を出た。
「君はもう少し遠慮というものを覚えた方がいいのかもしれない」
誉「そうしたいのはやまやまなんですけどね…少し気になっていることがあるので」
「それで菖の両親だっけか。死んだよ。二人とも」
誉「お父上はおそらくそんな気がしていました。ですが、お母上は何か事件に巻き込まれたのでは?それもまた署内が関わっている事件に」
「なんでもお見通しか?」
誉「いえ、少し気になったんです。この間署長が菖さんに口止めした事件。未解決の事件を粗方目を通した時に気になる文字がありました。菖蒲菫もしかして菖さんのお母上ではないのかと」
「そこまでわかっているならどんな事件かはわかっているんだろうな」
誉「いえ、詳しくは覚えてません。あまりにも衝撃的だったので内容が吹っ飛びました」
「事件内容もかなりショッキングだと思うんだがね」
誉「未解決事件は7つとも全てショッキングですからね」
「事件番号CP42通称連続失踪事件だな」
誉「…」
「菖の家系は女性全員署に勤めていたんだ」
誉「お姉さんも…?そんな名前あれば覚えている気がするんですが…」
「さっき話があっただろう。結婚したんだ」
誉「ええ、聞きました」
「あー…結婚したら苗字が変わることがあるんだ」
誉「え…」
「まだ誉には早い話だからな。知らなくとも当然か。元の名前は菖蒲桜。結婚後の名前は如月桜だな」
誉「そんな制度があるんですね…」
「今は廃れた制度でもあるがな。その時は名前が変わることが珍しくなかったからな」
誉「それで、なんで菖蒲家は署に?」
「それは知らん。全ての経緯を知っているわけではないからな。だが、基本的に菖蒲家の女系は署で働いていた。菖は捜索係から対凶悪犯係に。桜は捜索係から安全係に。菫さんは研究係に…な」
誉「…ちょっと話の腰を折るかもしれませんが、先輩と菖蒲家って何かあるんですか?」
「なんでそう思う?」
誉「妙に詳しすぎると言うか、菖さんの敬称がないのはわかるのですが、そのお姉さんの桜さんにも敬称がなかったもので」
「そうだな…私は桜と幼馴染で桜の結婚相手の如月京は私の弟だ」
誉「…」
「だから小さい頃から菖と菫さんとも顔は知る中だった」
誉「ちょっと待ってください。情報量が多すぎます」
「お前が聞きたいと言った話だぞ」
誉「そもそも先輩って如月って言うんですか?」
「…は?」
誉「先輩…え…如月先輩?」
「最初に会った時に自己紹介はしているぞ」
誉「え?」
「まさか…私の名前を今まで知らなかったとは言わないだろうなぁ…」
誉「あ…」
「おい…それは本当か…?」
菖「少し落ち着いた。今どんな話?」
誉「今菖蒲家について…」
「話を逸らすな」




