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第三環ー苦悩の末

破裂した長銃。

「なん…で…倒れないんだ…」

「お前が裁いていい権利は一つもないんだよ」

「お前…誰だ」

誉「ただの逆恨みに薄っぺらい言い訳を貼り付けて人を言い負かした気になっているただのガキが」

「だから!お前は誰なんだ!」

誉「俺は…俺だ」

「答えになってねぇんだよ!」

新たな長銃を構える。両親にガキ、計六発の弾丸が誉を抉り取ろうとする。

誉「バンバンうるせえんだよ」

「なんで…なんで一発も当たってねぇんだよ!」

誉「音だけで威力がイマイチ。こんな遅い弾取れねぇ方がおかしいだろうが」

カランカランと弾が床に落ちる。

誉「遠くから撃つものをわざわざこんな近距離から打つ阿呆もいるなんてなぁ」

「は…あはは!」

誉「ついに狂ったか?」

「それじゃ本来の使い方を見せてやるよ!」

直後両肩に衝撃が走る。

誉「ああ、これで満足か?」

「あ…?」

誉「随分遠くから撃ってやがるな。1km…いや2kmか。随分手が混んでやがる。そもそも抉れない弾丸には意味がないがな」

弾を拾い、親指で後方へ弾く。

「何をして…」

誉「魂に弾ぁ打ち込んでも痛みを感じんのか?」

「まさか!」

誉「人間様が死者を愚弄していいはずがねぇんだ」

「まさみぃ!」

誉「着弾したな。妹はなんて言ってるんだ?」

「声が…声が聞こえなくなった…」

誉「違うな。聞いていた気になっていただけだ」

「くそ!クソガァ!」

誉「周りをよく見てみるんだな」

「何を言ってるんだぁ!」

誉「お前の両親何か言いたげだぞ」

誉は親指を弾いて弾を射出。計四発の弾は口元スレスレを通り、縫っていた糸を切る。

「何を!」

誉「最後の言葉だ。聞いてやれ」

「今更何…」

「一也…ごめんね…」

「え…ママ…」

「一也…恨まないで…人を…」

「そんな…ママは死ぬ前に…」

「一也…時間を得て…考えたんだ…」

「パパ…」

「人を恨んでも何もない…」

「悪かったな…こんな辛い目にまで合わせちまって…」

「ごめんなさい…許してなんて言わないわ…でも」

『もうやめて』

「そんな…もう遅いよ…僕の手は…」

誉「そうだ、過去は書き換えられない」

「そうだよ…もう…」

誉「でも未来は変えられるかもしれないな…お前が望めば…」

「僕が…望んでいいの?こんな僕が幸せを望んでいいの!?」

誉「そんなこと誰かに決められるわけじゃないだろう。自分で決めろ。復讐を決めた時のように今度はいい判断を…」

「そんな…そんな…」

誉「ほら、両親と別れの時間だ。挨拶くらいしておけよ」

「ママ…パパ…まさみ…」

誉「終わったら来いよ。それまでは待ってやる」

「ママ…パパ…まさみ…ごめんなさい…」

「あなたはこれから償えば大丈夫…待っているわ」

「まだ来るんじゃないぞ。家族旅行を楽しみにしているからな」

「お兄ちゃん…またね…」

「みんな…みんな…ごめ…」

乾いた破裂音が一つ。二つ。三つ。四つ。

『わざわざ能力を譲渡してあげたのに…残念だわ』

誉「あれ…ここは」

「お疲れさん。無事殺人犯は捕まったよ」

誉「それじゃあの子は!」

「死んだ。第三者の手によって…な」

誉「え…」

「死因は銃殺による失血死だ。と思われる」

誉「思われる…?」

「正しくはわからない。傷口はあまりにも小さいのに貫通している。今までの事件とは真逆だ」

誉「署長…」

「残念だが、誰も見ていない」

誉「そんな…」

「弾丸は他の被害者のものと一致した。よって犯人はあの子供一人というわけだが…子供一人でどうやって大人を殺せたんだろうなぁ…」

誉「そ…」

「ん?なんだい?」

誉「そ…そんなことなんてあるんですね…」

「ああ、本人でも不思議か。奇なり…」

誉(彼が死者を操れる能力があると分かれば色々されるに違いない…せめても綺麗に…)

ふと思う。ご両親のご遺体はどこへ行ったのだろうか…。そしてまた記憶が混濁している…。

奇怪な事件は首謀者死亡で幕を閉じた。

前代未聞の低年齢犯罪に驚きを隠せなかった一部の人間が外へ漏らしてしまったらしい。

その人間がどうなったかは定かではないが、少しだけの間話題になった。

ただ、虚偽と流され、小説の一説に用いられた。

どれほどの力が働いたのだろうか。そうして奇怪な事件は忘れ去られていった。

誉「あれ菖さん居たんですね」

菖「署長にサボっているのがバレて怒られて、手伝いに行ったらあんたは倒れているし、引きずって帰って来たから体は痛いしで散々よ」

誉「来てくれてありがとうね」

菖「雨降ってるところで寝るのやめてもらえる?」

誉「好きで寝てたわけじゃないんだけどね…」

菖「子供は死んでたし、手配するのもめんどくさかったし」

誉「ご苦労様でした。ご飯でもどう?」

菖「それなら早く帰らせてもらえないですか?足痛いんで」

誉「あ…うん。お疲れ様…」

服に解れた形跡などは一つもない。引きずったのであれば痛いのは足ではなく手ではないだろうか。しっかり雑務をこなしてくれた菖さんに感謝する、

次の日、菖は休んだ。どうやら久しぶりの肉体労働で体が動かなくなったらしい。

今日も今日とて一人で書類の整理をする。

誉「あ、菖さんおはよう」

菖「まだ体が痛いんですけど…」

誉「二日間も休んでいるからね…流石に来てもらわないと」

菖「いや、男性一人を引きずって帰ってくるのは流石にキツイですから」

誉「少し運動を…」

菖「しません」

誉「そう…」

「あ、菖くんちゃんと仕事してるね」

菖「仕事中ですので」

「いや、だってこの間仕事中…」

菖「仕事中です」

「あ…ふーん…」

誉「署長どうされたんですか?」

「いや、仕事してるかなって」

誉「意外と署長もお時間があるんですね…」

「普段の仕事態度を見て環境を見直すのもオサとしての務めだからね。何かあればすぐ言いなさい。可能な限り、叶えるから」

菖「休み増やしてください」

「却下」

菖「ッチ」

「署長に向けて舌打ちしたけどどう教育してるのかな?」

誉「あー…すみません…」

「菖くん月15日の休みなんだから来た時は仕事してね」

菖「要請があれば休みでも駆り出されるので休みとはいえないと思うんですがどう思いますか」

「誉くん、どう思う?」

誉「…」

「まぁ、菖くんが休みでも相当じゃない限り要請は出してないけどね。この間要請出した時無視されたしね」

菖「存じ上げません」

誉「それって…」

「寄生型魔物回収の時だね」

菖「これですね、単独異能者との戦闘したもの。この書類不備があるのでどうにかしてくれませんか?」

「不備?」

菖「研究用に持ち出されてからの後の用途も書いてありません」

「まだ研究中だから空白でいいよ」

菖「は?そういうことをしっかりしないからあんな事件が」

「菖くん」

誉「あんな事件ですか?」

「菖くん、研究中だ。いいね。誉くんは何も聞かなかった。いいね」

菖「ッチ」

誉「はぁ…」

誉「あんな事件って?」

菖「…」

誉「不祥事でもあったのかな…」

菖「仕事してください」

誉「僕の分は終わってるんだけど」

菖「ッチ」

誉「舌打ちやめた方がいいと思うけど…」

菖「仕事やめていいですか」

誉「僕じゃなくて署長に言ってもらえるかな…」

菖「…」

誉「…仕事手伝おうか?」

菖「それならここに積んである全ての書類をお願いしてもいいですか」

誉「せめて半分にしない…?」

菖「だったらいいです。私がやったほうが早いので」

誉「そうなんだ…それじゃよろしくね。ちょっと外出てくるから」

菖「終わったら帰るんで」

誉「わかった」

今日も雨、屋上は綺麗になり死体などはあった気配すらない。

全てを洗い流してくれたのか匂いすら感じない。

少年と話していたあたりから記憶が曖昧だ。確か…銃口を突きつけられ口論をしていた時…破裂音が聞こえたような気がして…

気配…そう、後からも気配を感じた…今と同じように…

爆発音と共に体が宙を浮く。後ろからの狙撃。直撃せず、風圧だけで体を飛ぶ…。

辺りを見回す。後方は確認できなさそうだ。

鉄柵を手に取り体を捻り、狙撃者であろう方向へぶん投げる。

そして現状落ちている。下を見ると家族が通りかかろうとしている。

空中で声をかけても遅いだろう、蹴りで風圧を起こし、家族を安全な場所へ飛ばす。

あとは瓦礫の処理だ。地面へ着地する前に手当たり次第の瓦礫を把持、破壊する。

地面に着地後、再び跳躍し蹴りの一薙で瓦礫を全て粉々にしてもう一払いで霧散する。

再び見渡す。大丈夫そうだ。

空を蹴り、吹き飛ばしてしまった家族の元へ飛んでいく。

誉「すみませんでした。お怪我はありませんか」

「大丈夫です。かなり驚いていますが、助けていただいたみたいで…」

誉「どちらかというと巻き込んでしまった方だと…申し訳ないです」

「無事であれば大丈夫です。助けていただいてありがとうございました」

「にいちゃんかっけーな!」

誉「ありがとう!」

再び戻ってきたものの…現場は謎の狙撃者に爆破されたような跡がある。ほとんどが抉れてしまい、下階層が覗いている。誰もいなかったのが幸いか。

狙撃者がいたであろう場所を見る。

感覚的には4−5kmは離れていただろう。あの時感じた気配とは少し違ったようだが…。

飛び降り、狙撃者がいたであろう場所へ行く。

感覚的にはこの辺り…のはずだったんだけどどうみたって湖にしか見えない。こんなところから狙ったのだろうか。確かに空中に浮いていれば狙撃できるかもしれないが…そこまで正確に狙撃ができるのだろうか。

たまたま…ではないだろう。

ぶん投げた鉄柵を探す。

見つかった。少しの血痕を残したまま。

こちらの攻撃には気が付かなかったのだろうか。

回収されていないところを見るとよほど焦っていたのか、もしくは見つかっても問題ない人間…なのか。

人間でもおかしくはないだろう。ついこの間浮いている家族が居たのだから…

おかしい…同じ能力がそんなに頻繁にあるだろうか。しかもあの家族と同じような構成で…。もしかすると譲渡でも奪うでもできる能力もあるのかもしれない。

鉄柵を担ぎ、帰ることにした。

誉「あの書類1時間で終わらせたのか…さすが菖さん仕事はできるな」

鉄柵を鑑定係に置いてきて、一休み。

わかったことは一つ。

僕の命が狙われている。

しかもただものではないようだ。

菖「なんでぶち壊したんですか」

誉「安全のために…」

菖「はぁ…」

誉「お手数おかけします…」

「はぁ…それで菖くんはお休みと」

誉「いやぁ…こればかりはどうも」

「いいけどさ、誉くんずっと仕事しっぱなしじゃない?月休み15日あるんだから後半まとめて取るとかやめてよ?」

誉「ゆっくりすることが見つからなくて…」

「ま、それならいいけど」

誉「最近平和ですからね…」

「平和だったら菖くんはお休みとらないはずなんだけどね」

誉「…」

誉「あれ、先輩どうしたんですか?」

「今時間あるか?」

誉「書類も全て終わっているので特に問題はないです」

「それじゃちょっと飯食いに行くぞ」

誉「わかりました」

誉「先輩がご飯を奢ってくれるの久しぶりですね」

「奢るなんて一言も言ってないぞ」

誉「え、先輩がご飯誘う時には奢られろって」

「今の階級はほとんど変わらないからな」

誉「でも先輩ですよね」

「…」

誉「ごちそうさまです」

「はぁ…パスタな」

誉「いつもの場所ですね!」

誉「それで話はなんですか?」

「せめて飯を食べながらにしないか?」

誉「わかりました…」

誉「相変わらずここのパスタは美味しいですね」

「そうだな。昔からある美味い店だな」

誉「先輩とご飯の時ここしか来ないですからね」

「お前がパスタ好きだからだろ」

誉「そんなこと言いましたっけ?」

「いや、最初に会った時パスタがいいって言ってただろう。もしかして好きじゃないのか?」

誉「あー………好きですよ」

「その微妙な間は一体なんだんだ…」

誉「いやー…好きですよ。好きなんですけど、他のものも食べてみたかったりしたいかなって…」

「そうか…」

誉「…」

「正直な意見が聞けて良かった」

誉「先輩…」

「次、帰って来られたら他の場所に行くか」

誉「先輩!」

「外に出るか」

誉「帰って来られたらってどういうことですか?」

「次の仕事、ちょっとヤバいんだ」

誉「それなら受けなければいいのでは?」

「事情が事情でな…代わりが務まらないんだ」

誉「人質交換…ですね」

「向こうは私をご指名みたいだ」

誉「どんな事件なんですか」

「事件番号MQ03指定人質殺害事件。人質にされた人間は確実に殺される」

誉「住民を人質にして署内の人間を指定、人質の代わりにさせるが確実に殺される事件…ですね」

「助かった人間は一人もいない。逃げた人間もいるが、代わりに住民が犠牲になった。未だに犯人すらわかっていない凶悪な事件。調べた者も殺される。確実に署内の人間、且つ無能力者を狙う変則的な犯人だな」

誉「先輩…死ぬ気ですね」

「死にたくはないさ…だがこれはある意味死刑宣告のようなものだ」

誉「また先輩とご飯行きたいです!」

「明日、ご指名が入っている。生き残れたら…な」

誉「わかりました。それじゃご飯に行きましょう。もちろん先輩の奢りで」

「はぁ…味がするご飯だと嬉しいがな」

誉「塩っぱいご飯になりそうですね」

「お前とご飯に来られて良かったぞ」

誉「また明日。です」

「ああ、また明日。だな」

暗くて顔はよく見えなかったが、一筋の涙が見えた気がした。

声も聞いたことのないような今にも消え入りそうな揺めきに感じた。

誉「明日は休もう」

「ほう、急に休むとは何事かね」

誉「MQ03と言えばわかりますかね」

「そうか…それなら休まない方がいいぞ。休みの日の捜査権限は剥奪されるから変なことしたら捕まるのはお前だぞ」

誉「ですが!それだと犯人を捕まられません!」

「何を言っている。だから仕事をするんだ」

誉「署長!」

「対凶悪犯係に任せる。失敗は許されないからな」

誉「もちろんです!」

「今日は菖くんも仕事に来るはずだ…はぁ…また休みが増えるのか…」

誉「菖さん!」

菖「MQ03事件の資料なら全部揃えてありますよ」

誉「え?なんで知っているの?」

菖「MQ03事件は署内なら誰でも知っている事件、それがあんたの先輩となれば動かない理由がないでしょ」

誉「菖さん!」

菖「人質交換はあと3時間後。それまでに終わらせてください」

誉「わかった。菖さんは?」

菖「すでに資料の隅々まで頭に入っています。問題ありません」

誉「それじゃ見ている時間も必要なさそうだ!」

菖「私は雑務係…」

誉「今日だけは付き合ってもらうよ!」

菖「というのが事件概要です。というか、走りながらだと目が乾燥するんですけど」

誉「目瞑っててもらっても構わないから」

菖「それだと道案内ができません。あ、そこ右に」

誉「全8回に渡る凶行。内署内の人間が6人、住民が4人殺されているんだね」

菖「その初めての人質交換がされた場所がここです」

誉「死角が多い、何をするにも、もってこいの場所だね」

菖「一人目は刺殺ですね」

誉「雨風に晒されていないから現場がよくわかる」

菖「その後犯人は逃走、配備された警備網からも逃げられているみたいです」

誉「次に行こう」

菖「次は住民二人ですね。新婚ホヤホヤだったみたいです。この時初めて署内の人間が人質交換に応じず、住民が殺されています。結局その新婦の父親に殺されてしまったみたいですが」

誉「この状況から見るに爆殺だね」

菖「この焦げ跡が物語っていますね」

誉「最小限の爆発で確実に殺している。他の家も近くにあるのに被弾していないところを見るとかなり几帳面なのかな」

菖「動けないように二人とも縛られていたようです」

誉「住民は4人だったね。もう二人は?」

菖「射殺と絞殺ですね」

誉「…」

菖「どうかしましたか」

誉「絞殺された人の場所に行こう」

菖「無理です。すでに取り壊されているので何もありません」

誉「いや、興味があるのは現場周辺の問題だ」

菖「はぁ…」

菖「この家のあった場所が…」

誉「周りの家は変わってないかな?」

菖「変わった記録は無かったと思います」

誉「地図あるかな」

菖「ここに」

誉「銃殺された人の家はどこ?」

菖「ここです」

誉「それじゃ交換場所はここだね」

菖「え…はい」


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