第二環ー狂い始める序章
「待った…この人形金属製だぞ?木刀で切れるわけが…」
切断面を確認しても鋭い一撃が加わっていることは確かだ。
「確か、実践訓練は無いと…」
誉「はい!山の動物以外に攻撃したのは初めてです!」
「ちなみに動物の種類と対戦歴を教えてもらえないだろうか」
誉「戦った動物は虎に熊、兎に鷲と多岐にわたり、全て一撃です!」
「はい…え?熊?虎?」
誉「はい…?」
「少し確認したいことがある。この金属製の人形に手加減をして殴ってもらえないだろうか」
誉「その…手加減というのはどうすればいいのでしょうか」
「…全力で人形を殴ってみてもらえるだろうか」
誉「全力でいいんですね!」
左拳を引き、体を捻り、一気に解放する。
人形と共に、建物が4分の1消え去った。
「…」
誉「どうでしょうか!」
「まずは手加減を覚えよう…」
『全員告ぐ!災害が発生した!厳重注意すべし!』
「ここで少し待っててくれ…」
誉「わかりました!」
―
「こいつが起こしただと…?」
「はい…災害でなく人災です…これを見ていただければ…」
「なんだこれは…」
「例の子供です。とんでもない逸材です」
「誰もいなかったからいいものの…お前…しっかり管理しろよ」
「手当は付きますかね」
「この子供の育ち次第だな」
「ということだ。徹底的に手加減を覚えてもらう!わかったな」
誉「よくはわかりませんが、頑張ります!」
「それではまず、俺と同じ動きをしてみろ。まずは正拳突きだ。まずは右!」
誉「はっ!」
空間が裂けたような感覚に直後の突風。
「お前…両利きか?」
誉「いえ!右手で攻撃すると獲物が消えてしまうので慣れぬ左で狩っていました!」
それから1週間徹底的に力加減を覚えた。
最初の頃は組み手をした相手が瀕死になりかけて居たが、医術に回復魔法なるものも合わさり、治らないものはないという。ただ一つ死者の蘇生以外は…。
「力加減の精度が良くなってきたな」
誉「最初は1000分の1と言われ、その次は10000分の1と言われ、さらに100分にしろと…」
「それでやっと人間と同じくらいの力だ。それくらいが普通の力なんだ」
誉「自分はそんなにも特殊な人間だったのですか…」
「普通の人間は鉄製の人形は消し飛ばせないからな」
誉「これでやっと組み手ができるようになりましたね」
「そのことなんだが、つい先ほど伝達がありとある事件の始末をしに行かなければならない。仕事を見なければ感覚も掴めないだろうからついて来い」
誉「いいんですか?」
「責任は私が取る。気にするな」
誉「わかりました!それで事件というのは?」
「立て籠もりだな、とある社長の娘さんを拉致したみたいだな」
誉「そういう時はどうするのが正しいのですか?」
「それは現場に行かないとわからないからな。現場へ向かうぞ」
誉「わかりました!」
「おいおい、どこにいくんだ?」
誉「走って向かうのではないんですか?」
「ここから10kmも離れている場所へ走っていく阿呆が…いるな。ついて来い」
誉「?」
―
誉「なんですか?この鉄籠みたいな乗り物に馬?」
「船は知っているのに馬車は知らないのか」
誉「馬車というのですか…」
「道中何がいるかわからないからな。手加減をしっかりして乗り降りしろ」
誉「わかりました!」
―
誉「すごいですね。鉄籠が走っています!」
「後でお前も運転できるようになれればいいな」
誉「とても失礼なことを言うかもしれませんが、実際は走った方が早いかと…」
「誰でもお前と同じ体力バカだと思うなよ」
誉「はい…」
「そろそろ着くぞ」
誉「この中に罪人が…」
「古い家だな、さて…どうするか」
誉「通例的にはどうするのが正しいのですか?」
「本来であれば強引な手を取らず、時間をかけて説得せねばならないんだが、今の状態だと難しいそうだ。時間をかけすぎて相手は相当に頭に来ていて何をしでかすかわからないらしい。拳銃にナイフ…それをどうにかしないといけないんだが…」
―
誉「悪いことはやめましょう」
「お前誰だ!」
誉「お嬢さんが泣いている。離すんだ」
「調子に乗るんじゃねぇぞ!」
乾いた破裂音が外にまで響く。
「なんで誉がいないんだ…?」
最悪の状態を想定する。どんな時も考えなければいけない。
私が少しでも目を離したから…。
「誉ぇ!」
誉「なんでしょうか」
「え…そこのお嬢さんは?」
誉「気絶してます。犯人は確保して渡しました」
「は?」
誉「どうやら飛び道具を持って居たらしく、それが当たったように感じたらしいのでそれから気絶を…」
「あったように見えた?」
誉「おそらく空振りだったのでしょう。少し頭に塊のようなものが当たりましたが、そのまま突っ込みました」
「少しデコを出せ」
誉「こうでしょうか」
「確かに当たったようなあとはあるが…傷はない…」
鉄拳制裁。
「いってぇ…」
誉「どうされましたか?」
「ぶん殴ったら拳が痛かっただけだ」
誉「大丈夫ですか?」
「ああ、とりあえず帰るぞ」
誉「わかりました!」
「骨は逝ったな…」
「と言うことです」
「そうか…それじゃあいつは…」
「ええ、兼ねてからのあの班に行ってもらうべきかと」
「対凶悪犯係か…」
「我が大陸は他の大陸に比べ魔物の活動が少ない中、人間による犯罪が多数見受けられます。彼こそは対人間には持ってこいかと」
「君の殴った拳が砕けたという強靭さ、拳銃さえ跳ね返す頑丈さ、犯人の意識を一瞬で刈り取る俊敏さに判断力…彼は本当に我々が知っている人間か?」
「少なくとも人間である心は持っていると思います」
「そうか…君が一番近くで見て居たんだからな。そうなんだろう」
「失礼します」
「ああ、大事にな」
―
誉「手どうしたんですか?」
「少しアホをしてな、骨が砕けていた」
誉「先輩もおっちょこちょいですね!」
「実際はほとんど治っているが、一応医者が包帯を巻いとけってな」
誉「そうですか…」
「飯でも食べにいくか」
誉「パスタが食べたいです!」
「美味い場所を知っている。ついてこい」
誉「はい!」
―
「誉よ、貴殿はこれより対凶悪犯係への異動を命ずる。この1ヶ月間よく頑張ったな」
誉「ありがとうございます!」
「そして誉よ、貴殿はそこで隊長の任を与える。須く努力せよ」
誉「はい!」
「誉、おめでとう。1ヶ月だけだがお前の上官でいられて嬉しかったぞ」
誉「先輩はいつまでも先輩です!」
「そうだな…」
―
対凶悪犯係、それは程のいい掃き溜めの巣窟だった。
そう誉が来るまでは。
たった数ヶ月だったが…
「彼は道を踏み外したのかもしれない。だがそれは軌道が外れた時に正せない者たちの言い訳だ」彼を知るものは口を揃えてそう言う。彼は正義だったと。
誉「本日付で対凶悪犯係に拝任された誉と申します!みなさんよろしくお願いします!」
『…』
誉「今いるのは僕ともう一人のはずなんだけど…見当たらないな…」
―
署の中で一番端に存在する対凶悪犯係。殉職者の数は知れず。
そんな噂も知らされていない誉は職務に励む。
もう一人の職員が来たのは綺麗に整理整頓された三日後だった。
―
誉「初日からもう一人がお休みなんて…」
乱雑に置かれている書類などを整理整頓していて数時間経ったあとに一人の来訪者。
「元気にしてるか」
誉「先輩!」
「汚い部屋だな」
誉「先輩もまだ職務中では?」
「仕事だ」
誉「わかりました。話を聞きましょう」
―
二人で席に座る。先輩は先輩でも立場的にはこちらが上になってしまい、先輩的には居づらそうだ。
「先に言っておく。対凶悪犯係は他の部署でも対応しきれないものの処理を行う部署だ。断ることは死を意味する」
誉「わかっております。入る前に確認を受けました」
「それでは初めの任務についてだ。お前には簡単すぎるものかもしれないが…魔物の討伐だ」
誉「魔物…混沌の世代ですか?」
「いや、普通の魔物だ」
誉「え?それでは対魔物係で処理が可能では?」
「それがな…寄生型の魔物だ」
誉「寄生されたのはまさか…」
「人間だ」
誉「…」
「寄生された人間は人間ではない。だが人間と同じ言葉を話し人間と同じ所作をする側から見れば殺人も同然だ。それが対魔物係も請け負わない理由だ。程度の悪いことに異能力使いと来たもんだ。やれ」
誉「わかりました」
「いきなり業を背負わせてしまってすまないな…」
誉は対象者の資料に目を通す。
魔物は脳に寄生するタイプのようで、大変珍しい種類であり、検査対象としての奪取も任務内容に入っているみたいだ。
そして対象者は双王活。人並外れた力で人助けをしていたみたいだが、1週間前から様子がおかしく、人を襲うようになったという。
手錠も壊し、鎖も千切るその力に皆は逃走し、任務として舞い込んできたと言うわけだ。
「大丈夫だと思うが、死ぬな」
誉「行ってきます」
対凶悪犯係の部屋を出て、要請のあった場所へ走っていく。
20kmも先の場所はそれほど遠くはない。
20分もしないうちに到着する。
建物があったはずの場所には瓦礫しか落ちていない。
誉「ここにいるのか」
村の中心に立つ。風が靡く音の中にその音を邪魔する物体がいる。
その方向を見ると人間が飛んできていた。
「三十人目ぇ!」
頭目がけて右手が飛んでくる。
誉「手加減…」右手の手首を掴み、引き寄せ肘を叩き折る。
そのまま背後に周り肩関節を外し、一本背負の要領で上へ放り投げる。
誉「再生能力はなし。動けなくする」
だらりと力が抜けている双王が落ちてくる。
「イテェ…イテェ…ナァ」
自力で肩を嵌め直し、筋力で肘を固定する。
普通の人間であれば不可能であろう。
誉「できれば殺したくはない。出頭してくれないだろうか」
「イテェ…イテェンダヨ!」
話を聞いてくれるわけではないようだ。
再び殴りにかかってくる。
誉「耐えてくれ」
右拳に左拳を合わせる。
鈍い音を響かせながら双王は膝から崩れる。
「再生…シナイ…筋肉モ…」
誉「無事…ではないだろうけどもう戦闘意識は無くなったみたいだね」
「アァ…タスケテ…」
誉「君を拘束する。逃げないように」
「アァ…アアァ…」
万が一のことを考え、頭へ一瞬強い衝撃を与えると寄生型の魔物も動かなくなった。そのまま署へ連れて帰る。
誉無傷伝説の始まりだった。
その後双王活は生きて村へ帰って行った。
寄生型の魔物は現在調べられているという。
その後の双王は力を生かし、村の再建を目指したが、途中、殺されたという家族からの報復を受け、亡き者になったという。
ただ、その全てを知るものは誰もいない。
―
誉「なんとか屍人を出さずに乗り切れたけど…ずっとこんな簡単な問題じゃないだろうな…」
椅子に座り大きなため息をつく。
まさか不殺で帰ってくるとは思わなかったみたいで大層驚かれてしまった。
負傷の度合いは大きいものの再生は不可能ではないと聞き、安堵した。
双王の右半身に存在する骨はほとんど粉々になったものの、命に危険はない。すぐ開頭手術が為され、魔物を摘出、保存されるという。
自分が留意することではないが、魔物が外に出ないことを切に願う。
こうしてドタバタな1日は終わった。ほとんどは整理整頓で終わったのだが…。
まだまだ終わりそうにない。
寮へ帰宅する。
―
「まさか簡単だと思っていた任務の難易度を上げるとはな」
誉「先輩…」
「私はお前を見縊っていたのかもしれない」
誉「偶然ですよ。魔物も気絶させられなかったら最悪の事態でした」
「私はそんなお前を尊敬する」
誉「先輩…」
―
二日後、整理整頓が終わったと一つの任務が届いた。
誉「署長直々にいらっしゃるとは…」
「久しいな。いや、そうでもないか。初日からの貴殿の報告は受けている。大義であった」
誉「ありがとうございます」
「それで今回の任務だが…」
誉「やはり遊びに来たわけではなかったんですね」
「それほど暇ではないのでな。これを見てどう思う」
誉「この方は…社長の娘さん…ですか」
誉「誘拐ですか?」
「それだったらどれほど良かったか…いや、よくはないか。殺されたよ。眉間に1発どでかいのをな」
誉「一体誰が…」
「それを探そうとすると、他の者の眉間に穴が開く。すでに二人もやられてしまってな。誰もこの任務を受けたがらん」
誉「それでここに…ですか…」
「大部汚れているが資料を持ってきた」
誉「この赤黒いシミは…」
「それではよろしく頼んだよ」
誉「はい…」
―
誉「ほとんど読めないじゃないか…」
見えるのは白紙の部分と一人目の同僚の名前…。
「うわ、めっちゃ綺麗になってるじゃん」
誉「あ…」
「あ…」
誉「君がもう一人の菖蒲菖さん?」
菖「誰?」
誉「…」
―
菖「へー…上司か…生きている上司初めて見たかも」
誉「よろしくね」
菖「でも11歳の上司とか嫌なんだけど」
誉「菖さんは17歳…か」
菖「それじゃ昼寝するんで起こさないでください」
誉「これから任務なんだけど」
菖「え…?私雑務担当なんですけど」
誉「菖さんの能力早速使って欲しいんだけどな」
菖「…何をすればいいんですか」
誉「この資料をお願いしたいんだけど…」
菖「終わったら寝てもいいですか」
誉「いいよ。とは言えないけど…してもらわないと」
菖「はいはい」
―
誉「被害者は社長の娘さんと同僚二人…そして次は…」
社長の娘さんである、黒長恋華さんに続いて、慶次さん、神保さん…
殺害現場へ脚を運ぶ。
雨が降り続ける中、資料を思い出す。
全員、見晴らしのいい場所で眉間を撃ち抜かれている。
本来では威力に負け、顔が吹っ飛ぶらしいが全員顔は血塗られている以外は綺麗なものだった。
使用されている長銃はわかっていないようだ。
これほどの痕跡を残してなお、弾丸は見つかっていない。
頭の傷は水平に打たれている。
倒れていた部分は建物の屋上の端である。
柵に血が飛んでいるところを見ると…
誉「正面に建物はなし…それどころか何もない…」
周りを見回しても何も見つからない。
下に見えるのは建物に家族で団欒なのか風船というものを持つ子供が歩いている。
空に目をやっても何かが飛んでいるわけではない。
すると、風が吹く。建物に風が当たると上方向に風が発生すると先輩から教わったっけ。どうやらここだけ風が強いようだ。
また下を見ると子供の風船が風に飛ばされたようで風船が飛んでくる。
誉「やれやれ、拾って渡してあげようか」
過ぎ去ろうとする風船を捕まえる。
誉「こんな風が吹くなら風船なんて配らなければいいのに…」
風船…そもそも何故、あの子供は傘をさしていないんだ…
嫌な予感を感じた時には遅かった。
風船が破裂する。中には先ほどまで下にいた子供がそこに居た。
「また引っかかったぁ」
無邪気な笑顔とは裏腹に持っている得物が眉間を突く。
「今だに調べようとするなんて馬鹿らしいなぁ…いい加減諦めればいいのに…」
誉「何故、ここで捜査しているとわかった」
「僕の家族は全員能力を持っているんだよ…」
誉「索敵に空中歩行ってところかな」
「おお…すごいねぇ…まだ若いのにそこまで知ってるなんて」
誉「君こそまだ6歳なのになんでこんなことを?」
「そりゃあの社長がウチに金を貸したはいいが、暴利を貪る腐れ外道だとは思わなくてね…おかげでウチは破産。だから大事なものを奪ってあげたんだよ」
誉「まだ家族がいるじゃないか…」
「ふふ、両親は苦悩の末に無理心中しちゃったんだよ?えへへ、あははは」
誉「それじゃさっきの二人は…」
「遠くからだと肌の色まで見えないよねぇ…実はこんな色なんだよ」
精気を失った青白い肌は死者そのもの。笑って見えたのは縫い合わせてある…。
正気の沙汰じゃない。
「あはは、あはははははははははは」
誉「なんで死者が動いて…」
「簡単なことだよ…死霊術って知らない?」
誉「死者を甦らせるのはできないはず…!」
「バカだなぁ…死霊術っていうのは魂だけあるんだよ。生き返っているわけではないんだよ…。ほら生きている人間ならもっと肌は綺麗な色をしているだろう?」
誉「だからといって…」
「そんな事件をさ、わざわざ蒸し返そうとする人間もウザいわけ。わかる?」
誉「わからない」
「そう。みんなそういうんだ。でもさ…同時にいくつもの大切なものを失う絶望感って感じたことある?」
誉「私の育ての親である爺様と婆様は殺された」
「それを目の前で見たの?」
誉「それは…」
「そうだよねぇ…僕の両親は母がヒステリックを犯して妹と父を殺害、そして僕を残して首を吊った。最後の言葉が恨みを晴らせだってさ…」
誉「それは…」
「だったらやるしかないよねぇ!僕たちをここまで貶めた奴も!それに加担する奴らもさぁ!なぁ!そう思うだろう!」
誉は答えに詰まった。否定するべきなのであろう。
だが、自分が同じ立ち位置に立った時、同じ行動を取らないという断定はできない。
「そういうことなんだよ…所詮綺麗事ばかり並べる人間は僕たちの心を理解できないのさ…違う道もあったんじゃないか?今ならまだ間に合う?違うねぇ…せっかくの能力なんだ。盛大に使わせてもらわないと…でもさぁ…娘を殺しちゃってから引き篭っちゃってさぁ…どうしようか迷ってたんだよねぇ…」
誉「もう…」
「そうだ!娘を死霊して娘の手で殺してやればいいのかなぁ!?ねぇ!?いい考えだと思わない!?」
誉「やめるんだ!」
「思考をやめちゃったんだね、君の脳みそもその程度だったんだね」
二発の破裂音。
眉間に目掛けて放たれた銃弾と




