第8話 後悔という名の免罪符
正確にいうと、魔王を倒すためにはとても強い魔法使いの命が必要だった。
だけどそれは些細な違いに過ぎなかった。
——とても強い魔法使いというのは、彼女しかいなかったのだから。
だからこの話で重要なのは、世界を救うためには彼女の犠牲が必要だったということ。彼女の命を対価にすることでしか、世界を救えなかったということだけだった。
そのことを初めて知った時、僕の頭の中を過ぎ去っていったのは後悔だけだった。
どうして僕はあんなことを言ってしまったのだろう。どうして僕はあんなふうに笑っていたのだろう。
どうして僕は……。
そんなことばかりを考えた。
まったく嫌になる。
彼女が深い苦悩を抱えながら戦っているなんてこと、そんなこと、最初からずっと分かっていたはずだったのに。
どうして僕は、最後の最後になってもまだ、自分の行いだけを悔いていたのか。
本当に嫌になる。僕という人間の浅ましさを感じずにはいられない。
後悔というのは決して他人の気持ちを慮ることじゃない。ただ自分を許したいだけの免罪符にすぎないのだということを僕は理解していなかった。
あのとき僕が考えるべきだったのはたったひとつ、彼女が僕の言葉をどう受け止めていたのか。どう感じていたのか。それだけのはずだった。
僕が夢を語ったとき。
彼女はいったいどんな想いでそれを聞いていたんだろう。
僕が夢を訊ねたとき。
笑顔の裏に、どんな感情を隠していたのだろう。
いまではもう知る術はない。
思い出に浸る以外には。