星間国家の相対性理論~地球では西暦2500年でも俺たちの惑星では西暦一万年~
遠い未来、だが、地球から見たらせいぜい数百年後程度の未来。
人類は天の川銀河全域に入植し、アルクビエレドライブの箱舟に乗って他の生命などいなかった虚空の星空に核融合ロケットの噴射炎で繁栄の灯を灯していた。
技術的進歩は宇宙開発のみにとどまらず健康寿命はほぼ無限になり、ほとんど不死になった市民は宇宙の熱的死まで続く永遠の日常を享受していた。永遠に日常は続くなどと勘違いしていたのだ。
技術的進歩を遂げたのは、戦争も...
俺は星、ごく一般的な地球連邦の1000億人の市民のうち、この時代には珍しく地球の東アジア地区の日本という連邦構成国で暮らす一人だ。
今日も日本はいい天気で、過ごしやすい気候だ。それもそのはずで、地球高軌道上の天候制御衛星が仕事をしているかららしい。祖父の祖父の祖父あたりの時代にはなかったらしいが、現代では太陽と我々の間に浮かぶ薄い偏光板は見慣れた光景だ。
これからもこんな日常はずっと続くんだろうなぁ、そう思って家の縁側から空を見上げる。
そこには見慣れない、天候制御衛星並みの大きさの...宇宙船?とにかく何かが浮かんでいた。
「えー、地球連邦の皆様に通告します。我々ナントカ星自治共和国に降伏しなさい。既にあなた方の宇宙軍は我々の人工ガンマ線バースト発生装置で破壊されました。」
すぐに脳にインプラントされた通信装置でアクセスできるSNSに動揺が広がる。火星軌道上で破壊された宇宙軍の画像も上がってきた。これはまずい。
「降伏しない場合、我々は地球もガンマ線バーストで破壊します。この宇宙船には小型の恒星が入っており、我々は好きなタイミングであなた方のみすぼらしい社会を破壊しつくすことができます。さぁ降伏なさい。」
市民の間には降伏すべきだという意見が大多数だった。技術的水準は明らかに向こうが上だし、降伏しなければ地球ごと殺されるだけだ。既に大統領も降伏文書に署名するために軌道エレベーターに入ったという情報もある。
だが、次の瞬間空に浮かんでいたその巨大な宇宙船は引き裂かれ、徐々に小さくなり、次第に黒い点の中に消えていった。
「...我々はホニャララ星星間帝国の第334艦隊だ。我々に降伏しろ。さもなくば、あのみじめな船のようにブラックホールの中でスパゲッティにしてやるぞ。」
市民の間には降伏すべきだという意見が大多数だった。技術的水準は明らかに向こうが上だし、降伏しなければ地球ごと殺されるだけだ。既に大統領も降伏文書に署名するために軌道上にまだ壊れずに停泊している宇宙船に搭乗したという情報もある。
だが、次の瞬間空に浮かんでいたブラックホールは徐々に小さくなっていき、焦っている様子であるホニャララ星の代表たちの声も徐々に小さくなって、最後にはぷつりと消えてしまった。
「私たちはナントカカントカ超銀河団連邦の者よ。降伏なさい!既にあのかわいらしいブラックホールは局地的に時間を速めることで蒸発してもらったわ!それに、今頃ホニャララ星の母星は重力波で粉々になっているでしょうね。降伏しなければ、地球も同じ目に遭うわ!」
高飛車なお嬢様の声でそう勧告される。
市民の間には降伏すべきだという意見が大多数だった。技術的水準は明らかに向こうが上だし、降伏しなければ地球ごと殺されるだけだ。既に大統領も降伏文書に署名するために宇宙船のアルクビエレドライブを起動させて、既に出発したという情報もある。
だが、次の瞬間
「え、嘘。何よあれ!?いや、やめて。イヤーーーッ!!!」
そんな断末魔とともに消えていった声の代わりに新しくやってきたのは...
「ようこそ我々のフィールドへ。我々は...」
「やぁ、我々はパラレル宇宙群共和国だよ、我々は...」
「どうも、複数世界線王国のものだ。我々は...」
「我々は...」
「我々は...」
「我々は...」
市民の間には困惑が広まりつつあった。
次々とスケールのでかい侵略者が現れては消えていく。こんなこと今までの歴史上であっただろうか?
大統領を乗せた宇宙船も次々と替わっていく侵略者たちを前に、最終的に誰に降伏すればいいのか分からず右往左往しているらしい。
茶菓子を食べながら今まで聞いたこともなかったような世界の構成単位を聞きながら、最後の侵略者が来るのを待っていた。
だが最後に来たのは侵略者ではなかった。
「...やぁ、全く。因果律を破らないと止められないなんて、どうかしてるよ。」
そう言ってやってきたのは今までの船と比較すれば小さな宇宙船だった。
「あー、きっと説明がほしいだろうから、説明してあげるよ。彼らは地球から離れた植民地に住んでいた人類の末裔なんだ。相対性理論は保育園で習っただろう?地球よりも早く動いている物体から見て、地球は遅く見えるんだ。つまり、彼らは未来に進む。だからあんなにオーバースケールな技術を持った侵略者が次々と攻めてきたんだ。」
市民の間には困惑か、あるいは悟りが広まっていた。