02 ピッチリ
日常生活の方も、いろいろと騒がしかったりします。
良き家族や素敵な友人たちに恵まれた、
穏やかでもあり賑やかでもある、楽しい毎日。
つまりは、日々、少々騒がしいのです。
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「こんにちはっ、フォリスさん」
こんにちは、アリシエラさん。
何やらずいぶんとゴキゲンなご様子ですが。
「むふっ、今日はフォリスさんにお願いごとがあって参上した次第」
「今までの魔導具製作代金の、強制執行ちっくな取り立てなのですっ」
「拒否権は発動不可ですので、今日こそきっちりと、その身体で支払っていただきますよっ」
いけませんっ、アリシエラさんっ、
僕には生涯を共にと誓いあった歳上の妻と、同い歳の可愛らしいメイドさんが……
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はい、身体を張って"ツケ"を支払っております。
アリシエラさんのお願いは、
試作魔導具の試用試験のお手伝い。
えーと、人柱とも言いますよね、それ。
「いかがですか、着心地のほうは」
はい、ピッタリフィットで動作も楽々、
とっても着心地が良い魔導スーツですね。
ただ、少々見た目がピッチリ過ぎて、めっちゃ恥ずかしいのですが……
「名称『ヘリテイジ ルーズフィット ダメージレスウェア イリーガル バージョン』」
「略称、『ヘルダイバー』、ですっ」
「平たく言いますと、『量産型バリアランスーツ』!」
「あのアランさん専用魔導スーツの防御力と機能性を、出来るだけ多くの皆さんにお届けできればと考え」
「極力性能を維持したままでの、より幅広い体型へのマッチングを目指した」
「装着感重視の試作型魔導スーツなのですよっ」
なるほど、アレですか。
どうりでこんなに見た目がピッチリピチピチ……
でも、なんで僕なんです?
幅広い体型でのフィット感の確認でしたら、僕みたいなこれといった特徴の無い標準体型じゃなく、
ライクァさんのような超絶肉体美の方とか、
ヴァニシアさんみたいな猛烈わがままボディの方とか、
もっと特徴的な体型のモデルさんのほうが。
「理由はただひとつ!」
「私にとって目の毒だから、でありますっ」
「ピッチリピチピチスーツのライクァさんとか」
「体型丸見えスーツのヴァニシアさんとか」
「私のようないたいけな仔猫ちゃんには、チラ見さえもがデンジャーゾーン」
「日頃から地味を誇っているフォリスさんこそが、最良にしてお手頃感満載なモデルさんなのでありますっ」
……褒め言葉ってことにしておきましょう。
ってか、体型丸見えスーツって言いましたよね、今。
えーと確か、アランさんのバリアランスーツは、
物理・魔法を問わない防御力上昇の他にも、
本人のレベルに合わせた身体能力向上サポート能力と、
厳しい環境下でも活動可能な生存性サポート機能が付与されているんでしたっけ。
「まさにその通りですっ」
「狩人フォリスさんの、これからのワイルドライフのお供に是非!」
ありがとうございます。
確かに素晴らしい装備ではありますが、
出来れば改善点をひとつだけ。
「はいっ、なんでしょうっ」
えーと、もっとピッチリ感を和らげてくれるようなデザインにしていただければ、と。
先ほどからあちらで見ていたルルナさんが、
めっちゃ真っ赤っかになっちゃっているわけで。
本当に着ているのを忘れちゃうほどの自然な装着感なのですが、
ああいう風に、本当は着ていないみたいな反応をされちゃいますと、
さすがに恥ずかしいのですが……
「ご心配なくっ」
「実は、私も恥ずかしかったりしちゃってますよっ」
フォリス、困っちゃう……




