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世界迷惑劇場

とりっく おあ とりーとめんと

作者: 爆微風




 昔々。

 ジャックという名前の髪結いの男がおりました。


 彼はとてもずる賢く、たまに乱暴者で、うそつきで。

 しかし猫が好きな、とても腕のいい職人でした。

 女性には『けちな男』と呼ばれましたが、彼を認める人は多くいました。


 酒好きでもあるジャックは一年の終わり(ハロウィン)の夜にも散々酔っ払っており、普段通りの姿だったため地獄から出て来た悪魔に見つかってしまいました。

 悪魔はジャックの魂を取ろうと駆け引きを持ちかけます。


「霊魂も彷徨う夜だというのに、正体を失くす程に酔っているなら、もう命に執着もないのだろう?」


 ケルト文化でのハロウィンとは、先祖や亡き友人たちが悪魔やお化けと共に地上へ訪れるのです。

 日本でいうお盆のような風習ですが、出歩く住民は全員がお化けの仮装をして、それ以外の人々は家の入り口にお墓のマーク(ケルト十字)を飾って外に出歩かないもの。


 その風習に縛られていないジャックはつまり、悪魔に会いたがっていると思われていたのです。

 悪魔の凄みに酔いが醒めた彼は、自慢の頭を働かせました。


「ならば、最期にそこの酒場で酒を飲ませてくれよ。もちろん住民には正当な報酬を頼むぜ」


 悪魔はそんな事は容易い、と魔法で住民を操ろうとしますが、そう、家屋にはこの日、十字が飾られ人々に直接の危害は与えられません。

 仕方なく身体をコインに変化してジャックに酒代を払わせようとしますが、彼は悪魔のコインを自分の財布に放り込み、十字架に押し付け悪魔をとじ込めてしまいます。


「なんて悪知恵だ、悪魔よりも悪いヤツなんて初めて会った」


 降参した悪魔は『10年間はジャックの魂を取らない』という約束を取り付け、解放されました。


 ……そして約束の10年後。

 悪魔は再びジャックの前に現れます。

 魂を取ろうとする悪魔に、ジャックは言いました。


「最期に、あの木のりんごが食べたい」


 今度こそ最期だと思った悪魔は、猿に変化してりんごの木に登ります。

 ですが悪知恵ジャックが何も用意していないワケはありません。

 持っていた十字架に縄を結び、悪魔の猿を木に縛り付けたのです。

 十字架のせいで動けなくなってしまった悪魔。


「このままでは、ハロウィンが終わってしまう、私も消えてしまう。助けてくれジャック」


「なら今後、絶対に俺を地獄に連れていこうとするな」


「解った、お前の魂は取らない。地獄に落とさない」


 約束させたジャックは、今日もお酒を飲むために酒場の扉をくぐりました……。



 時は経ち、ジャックは寿命でこの世を去りました。

 生前の行いがとても良くなかった彼は、天国には行けません。

 仕方なく地獄へ行きますが、そこで悪魔が言いました。


「お前の魂は取らないと約束したろ。それに地獄に落とさないとも。だからここには来るな」


「じゃあ俺はどこへ行けばいいんだ」


 そこに、一匹の黒猫が現れました。


 長くジャックの家にいた年寄りの猫の片割れです。

 彼の家にはたくさんの猫がいました。

 特に年寄りの白と黒の猫は、あるハロウィンの夜にいなくなってしまい、てっきりお化けに食べられたと彼は諦めていたのでしたが、その黒猫がなにかを咥えていました。


「あっ、俺のハサミ」


 猫の影は、ぐんぐんと伸びてジャックの足元で形を変えます。

 見たことがあるそれは、理髪店でお馴染みの椅子だ。

 黒猫のしっぽだった影に運ばれ、ハサミは彼の手元へ。


「なるほど、そうか。地獄に落ちた人も最後に身なりを整えたいのでは? なら、俺はここで床屋をしよう。ハロウィンの夜なら国にも帰れる。黒猫や白猫を助手に雇って、床屋のジャックを広めてやる」


 悪魔の目の前でもマイペースな男に、もう何も言うことはありません。

 しかし、白猫はどこにいったのか…… ジャックはそれだけが気になって、時々お客の白髪を見てはため息をつくのでした。




 ……知っていますか?

 ハロウィンの夜に『白猫の夢』を見ると吉兆なのだとか。


 夢を見るのは、猫か、人か。



「ジャック・オー・ランタン」

 昔話のジャック

 ……悪事ばかり働いていたジャックという男が、生前自分の魂を狙った悪魔と「死んでも地獄に落とさない」という契約を結んだ。

 ジャックは死後、生前の行いから天国へ行くことはできず、悪魔との契約のせいで地獄に行くこともできなくなり、行き場を失ってしまいました。

 彼は困り果て、悪魔にどうしたらいいのかたずねます。

 悪魔は元いた場所へ戻るように言いますが、生き返れるはずもありません。

 仕方なく来た道を引き返そうとしますが、道は暗く冷たい闇が広がるばかり。

 不安に苛まれ灯りをくれと懇願し、ジャックは地獄の小さな炎を分け与えられました。

 この灯りが消えてはいけないと思った彼は、道端に転がっていた傷んだカブをくりぬき、その中に火を灯し、ランタンの代わりにしました。


 これがジャック・オ・ランタンの由来とされています。


 ジャックは今でもどこにも行けず、あの世の境を彷徨っているのだとか……。


 この物語に登場するのはカブ。

 なぜ今日カボチャが定着しているのかというと、ハロウィンがアイルランド移民によってアメリカに伝わったとき、アメリカではカブよりカボチャの方が入手しやすかったことが一説にある。

 また、カボチャはカブよりも大きく、細工のしやすさが一因だと思われる。(食べられるカボチャ以外にも動物に与えていたパンプキンをその時から使っていたようだ)

 ろうそくを中に入れやすかった(空洞が大きい)という理由もあるのだろう。


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