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テーマ詩集:いつか

30秒後のあたしと 半日後のあたし

作者: 歌川 詩季

 したら、後悔します。

 なんかもう ぜんぶいやだ



 三階の窓から箱ごと ほうり投げて

 がしゃぁぁんって しちゃいたいけど

 30秒後 泣きながら ひろいあつめてる あたしが見える


 ちゃんと 下には だれもいないのをたしかめて


 右


 左


 もういっかい 右


 それから えいやぁって ほうり投げたのに


 がしゃぁぁんって音に みんながふりむいて


 近くまで 顔をつきだして

 怒鳴りつけてくるひと


 遠くで ひそひそ 肩に首をうずめて

 ささやきあってるひと


 やっぱり近くまできて

 心配そうな顔をしてくれるひと


 ごめんなさい でも 泣きっつらのあたしは

 ちゃんとしたこたえを きちんと用意してなくて

 なんにも書いてない レポート用紙を

 縦長に やっつに折った紙切れを

 よくおぼえてないけど だれかに手わたした



 うけとってくれたのなら

 きっと どこかのお役所で

 偉いひとたちが ひとりずつスタンプをおして

 穴をふたつか 念のため もうふたつあけたら

 革の表紙が高そうな バインダーに

 はさまれるか はさまれないかは

 それはきっと 午後からの会議で決めるのだろう


 議長が閉会を宣言して

 ごみ箱をかたづけたら そのなかに

 なんにも書いてない

 縦長に やっつに折った

 レポート用紙が 捨ててあったけど

 このまま焼却炉で正解

 その会議を傍聴できなかったのだけが

 ただ ただ 悔やまれる


 腕章を安全ピンで とめてなかったから

 だって これはお気に入りのシャツ

 会議室には はいらせてもらえなくて

 コーヒーを買って ひとりで飲んでた



 この()におよんで

 シャツのいちまいに こだわってるんだ

 脱ぎ捨てて ずたずたにして

 どうだって 顔できたらいいけど

 なんか それをしちゃうと悲しい

 そしたら がしゃぁぁんってした 箱のなかみを

 ひとつ ひとつ おもいだしちゃって

 こんどはちゃんと泣いた


 窓からほうり投げて

 ばらばらに散らばった光景に じゃなくて

 ばらばらになった ひとつ ひとつに

 こんどは ちゃんと泣けたから

 それだけは きっと よかったんだとおもう



 ありがとう かもしれないし

 あやまりたい のかもしれない

 大好きだったか きかれたら ことばにつまるけど

 ちゃんと あのレポート用紙には書いてあった気がする

 

 

 こんな 半日後のあたしが見えたから

 もしかしたら あのときのあたしは

 窓から がしゃぁぁんってするのを

 おもいとどまれたかもしれない



 がしゃぁぁんってした あたしと

 がしゃぁぁんってしなかった あたし


 そのふたつのまんなかのあたしが いまのあたしで

 箱をかかえたまま 三階の窓から外を見てる


 窓のしたには はっきり

 30秒後のあたしと 半日後のあたしが見えた

 泣きながら、ひろいあつめることができたなら。

 まだ、ましだとさえ、おもいます。

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制作:冬野ほたる先生
― 新着の感想 ―
[一言] やられました。心配しました。 7:00でも、12:00でもなく、誰かにちょっかいする内容でもなく、。 先生、どうかしてしまったかと、、。 でも、そのくらい迫力があります。 私にも何か、がし…
[一言] がっしゃぁぁんってなるのは 箱の中の壺だったりするのでしょうか。 それとも、箱自体が比喩表現で 夢を投げ捨てようとしたのか 過去の事績を投げ捨てようとしたのか 何かしらの好き以外の感情を…
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