ぼっちの踊り
誰も気づいていないようだが、私はサイコパスである。
職場では『いいひと』で通っている。
困っているひとを見るとほっておけず、千円を拾ったら交番に届けるような、そんな人間だと思われている。その通りなのだが。
ペットのフェレットと一緒に暮らし、『アキ』と名づけたその子をとても可愛がっていると思われている。その通りなのだが。
しかし、誰も知らないのだ、ほんとうの私のことを。
私はただの地味メガネ女子ではない。
一人になると、本性を現す。
「アキくん、おいでおいで」
私が呼ぶと、フェレットのアキくんがきょとんとした顔でこっちを見てかたまった。
ミルクが貰えるかもと思ったのか、ベッドの上からぴょこんと飛び下りて、嬉しそうにこっちへやってくる。
私は捕まえると、アキくんの両前脚をぎゅっと握った。
なんてぷよぷよした肉球だ。
これにお醤油をつけて食べたくなる。
きっと世界一柔らかい食感のタニシみたいな味がする。
私はサイコパスだ。愛する子の肉球を食べたくなる。
しかしほんとうに食べてしまったら後で自分が泣いてしまうことがわかっているのでしないだけだ。
それさえなければ、とっくに食べている。
『なんやねん』と、アキくんが嫌がりだしたので、床に放してやる。
『遊べや』と、ちょっかいをかけてくる。短い前脚を私の肩にかけてくる。
うざいけど、可愛い。
彼の肉球を食べたいと思いながら、私はずっとそれをできずに生きていくのだろう。
私は小説を書いている。
オチは決めずに、プロットなどなくいきなり書きはじめるのが私のふつうだ。
結末がどうなるのか、作者の私が一番わかっていない。
書きはじめてからしばらくしてわかってきたが、どうやらパニックものになるようだ。
年端も行かない兄妹が、生まれ育った異星のコロニーの外へ出てみたら、凶暴な宇宙生物に遭遇してしまった。逃げ惑う。そこへヒーローみたいなのが現れて、兄妹を守って戦う。
宇宙生物は圧倒的に数で勝っている。ヒーローは地球に無線で救助を求めた。
シェルターのような場所に籠もって3人は救助を待つ。
宇宙生物たちが押し寄せる。入ってこようとする。果たして、救助が来るまで持ちこたえられるのか!?
ここで小説投稿サイトに投稿した。
やめておけばいいのに、最後まで書ききってから投稿すればいいのに、投稿してしまった。
ポイントがたくさんつけばモチベーション上がると思って。
18ポイントついた。
ありがとうございます。
そう思いながらも、モチベーションがだだ下がった。
私はサイコパスである。
私の創造した登場人物がどうなろうと、心は動かない。痛まない。
3人とも宇宙生物の餌食にしてあげた。
バッドエンドで完結させると、私はキャラメルアイスを冷凍庫から取り出し、食べた。
アキくんが寄ってきたが、大好きなモナ王ではないと知ると、向こうへ行った。
アキくんがハンモックの上に上がり、ひとりでなんか楽しそうに遊びはじめた。
私は食べ終えたキャラメルアイスの棒をを口にくわえ、立ち上がる。
食べたらVRゲームで運動だ。
向こうから次々飛んでくるブロックを、手にしたライトセーバーでブッタ斬りまくる。
難易度はノーマルだ。ハードは無理。
バンバン、バンバン、斬りまくる。
宇宙のヒーローになった気分で、踊るように。
いちいち必要ないほどのアクションをくわえて。
でもやっぱり私はサイコパスなので、人が殺したい。
ゲームを切り替えて、闘技場へ。
外人の女の人が次々出てくる。
剣や斧や、トゲのついた鉄球を持って。
しかし私は誰よりも強い。
手にした剣で彼女らを斬って、ねじ伏せて、手足を斬り落として、死んでいる体に馬乗りになって、ぶすぶす突き刺して遊ぶ。
楽しい。
なんて楽しいんだ。
誰も気づいていないようだが、私はサイコパスである。
一人になるとぼっちの踊りを踊りだす。