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日々撒かれる種。ひび割れたガラス細工~または微睡む午後のセレナーデ~

 温泉と迷宮。


 一ヶ所で二度美味しいと呼ばれる温泉迷宮都市の代表格といえば『トゥムラーバ・スクリーン』だが、ご存知の通りにトゥムラーバ・スクリーン以外にも温泉迷宮都市は勿論のこと存在する。



 トゥムラーバ・スクリーンより遥か北。

海を渡り、山を越えた、その先には。


 「神の遣い」「歩く災害」と呼ばれるカムイヒ・グマーが支配する迷宮ノヴォルベッツ・トゥユェバ・グゥマー墨城(略称クマ墨城)。

 そのクマ墨城を内包し、地獄の景色さながらのアトラクションが楽しめる温泉迷宮都市ダニジ・ゴック。

 

 ダニジ・ゴックの衛星都市であるダティでは、古の武芸者と伝えられるサムライ・ニンジャ、スシゲイシャ達が日夜、ハラキリセップクブレイウチなるものに励んでいるという。


 ダニジ・ゴック、そして、ダティより更に北に進むとサポローツの奥座敷ジョンザン池が見えてくる。


 かつて高名な僧侶ジョンザン上人がその地を訪れると、水魔カッパドキーアに苦しめられる人々がいた。


 彼らを救わんと、ジョンザン上人は使い手の魂を削る代償に魔を滅ぼす霊験あらたかなる魔槍を手に三日三晩の激闘を繰り広げ、とうとう水魔カッパドキーアの本体である頭の皿をかち割り、調伏を果たす。


 三日三晩に及ぶ激闘に疲れ切ったご様子のジョンザン上人。

 ふらりと杖代わりに槍を地面に突き刺した途端。

 温泉が沸き出し、ジョンザン上人もまた遥か彼方へと吹き飛ばされてしまったではないか。


 人々は空に消えたジョンザン上人に感謝の念を忘れまいと「ジョンザン池」と土地の名を改め、また調伏された水魔カッパドキーアに対しても──厳重なる封印を施した上で、更には、ご当地名物として様々な商戦の展開を目論み──祭り上げた。


 そのジョンザン池にあるお堂の奥。

 そこには、カッパドキーアを鎮める為に、今も尚、三十三柱もの御仏が座しているという、地元民にはちょっと小粋なパワースポットして知られている、らしい。


 日中ならば、その三十三柱もの御仏を拝める、みたいなので──拝観料は掛かるが、温泉旅行という非日常お財布ゆるんでフィーバー! フィーバー!

ならば、何の問題もない額だろう──もしも、お立ち寄りの際は、ゆったり温泉と石窟に座する御仏効果で心身共にリフレッシュ!! をお薦めしたいところだ。


 ただ、構造上……換気が宜しくない為、たまにモワッとする事があったとしても、そこもまた旅の醍醐味として、大目に見て頂きたいところだ。



 はてさて、激闘の末にカッパドキーアを調伏せしめたジョンザン上人が飛ばされたのは、ジョンザン池より更に北。

 そこでジョンザン上人の足跡はぷつりと跡絶える。

 一説によると、ここも飛び越えて落ちた先の流氷に乗ったまま、何処かへと旅立ったとか、旅立たなかったとか。



 ──幽玄なる峡谷、キョウンソー──


 東に南に北に南に、と温泉迷宮都市は各地に存在する。

 特に此処キョウンソーは、温泉は勿論のこと、景勝地としても名高い。


 その奇岩絶壁に霧が掛かった風景は、神仙が住まうとされる深山幽谷。

 ジョンザン池とは趣の異なった温泉地ではあるが、何よりの共通点は交通の面が不便だ。


 そんな温泉迷宮都市キョウンソーを越えた、遥か先──



「キョーマ! どんだけ規格外なんだよ!」

「さすがはお兄様!」

「キョーマ……カッコイイ」

「さすがはご主人様!」


 俺の名前はキョーマ。

どうにも記憶が定かじゃないんだが、どうやら草原で気を失ってた所をオッサン──カラ・ムーティオって名前なんだけど、俺はオッサンって呼んでる。

 大剣を振るう、厳つい歴戦の戦士って風貌だけど涙脆くて情に厚くて、酒とお金にだらしない男──に助けられたらしくて、目覚めてみれば知らない天井。

オッサンはコワモテだけど世話焼きで、俺も大変お世話になっている。


 そのオッサンの右横には、金髪ドリル髪のお嬢様──ショコラッテ・ガトー・チャンペ・アルフォトだったけ。

 自称、世界一の魔法使いのコイツとは最初は喧嘩ばかりだったけど、クレイジーソルトドラゴンと戦った時から急にお兄様呼ばわりされるようになった──が、頬を上気させて叫んでいる。


 オッサンの左横には無口な少女、名前はカプリチョーザ。青みがかった銀髪の色白で14、5歳位の女の子だ。

 前にオッサンとドリルと三人でクレイジーソルトドラゴンを倒した後、オッサンの家で打ち上げをしようとした時に命を狙われ──何故、命を狙われたのかは覚えていない、最近ずっとこうなんだ──気付けば、仲間になっていた。


 オッサン達が並ぶ後ろに居るのは、すったもんだで奴隷商人に捕まっていたエルフ──名前はアンチョビ──を助けて、俺達のパーティーが出来たって訳さ。



 そして、たった今、迷宮の中でも難攻不落と謳われる『古都レシ』の迷宮第十階層ボス・タンチョヅールにオッサンが吹き飛ばされ、その辺の仲間達がボロボロにされる中。

 ほとんど使った事はなかったけれど、起死回生の俺のとっておきスキル「鑑定」で、何とか倒すことが出来たんだ。


 出来た、んだが、



 「おいっ! キョーマ!? しっかりしろ!!」


 どうやって、倒せたのか、解らない。解らないんだ。


 「お兄様!?」

 「キョーマ……!」

 「ご主人様……!?」


 流れ込んで、くる、情報量、が、世界が、


 「お、おいっ!?」

 「お兄様! しっかり!」

 「キョーマ……体が!」

 「透けてます……! ご主人様っ!!」


 ろくに使ってなかったスキルを一気に上げるもんじゃなかったな、たはは

 

 音が、色が、鼓動が、流れが、流れ、あふれ、


 寒い、どうして、鑑定、なんかを、あつい、


 もしかして、俺、やっちゃいました?


 もう遅い? 時が、とまり、はやく、おそく、



 ひとつなるところへ ああ そうか 




 ああ 世界は なんと 美しい のだろ う








 大いなる大地よ。

 偉大なる微睡(まどろ)みの母神よ。

 嗚呼、我らがイヤサァッサァーよ。



 どんな夢を見ている?

とりあえず、この辺で。

ありがとうございました。

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