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父親の疑念は一瞬で晴れた。
何故なら直ぐに真犯人が捕まったからである。
彼らは常日頃から、その公園に溜まり、騒いでいたらしく、更には相当頭が悪かった。自分達で周りに「俺達はやってやったんだぞ」と言い触らしていたのだ。
妹が通う中高一貫校の去年の卒業生だった。妹が話せないことを知っていてやったのだ。
弱い、と思った。やってやったと言いながら、叫べない妹を選ぶのだ。
妹を無い事のように扱ってきながら、家族は皆、怒りに震えていた。私もそうだった。
妹は悪い子ではない。虫が好きで、虫に好かれていて、何も話さないだけだ。こんな目に合う道理はない。
と、家族全員で思いながら、その事については深く話さなかった。話してはいけなかった。
そうして、忘れよう忘れようと思っているうちに、隣の家に住むおばさんがある噂を伝えてきた。
「ほら、この間、妹さんがあんなことになったでしょう?可哀想にね。でもね、その犯人たち、今は皆人が変わったって。」
「はあ、」という相づちからおばさんは何も感じないらしい。
「一人なんて入院してるらしいのよ、精神科に」
「はぁ。」、今度は少し興味があった。
「なんかね、俺にまとわりついてるって騒ぐんだって」
「何がですか?」と聞きながら予想はついていた。
「む、し。」
ちょうどその頃、私は大学をやめた。発達心理学に私の知りたい答えはないことに気づいたからだ。
そして、その後には他のどんなことも答えにはならないというところまでも気づけた。
私はなぜ妹に聞かなかったのだろう、答えないと知っているからだろう、しかし私は二度も妹の声を聞いている。試すだけの価値がある。
「伽耶、何でそんなに虫に、好かれてるの」
キッチンで料理を作る妹の周りにコバエが飛び交っていた。
子供の頃、何故食事の前に宿題をやらされるのか気になっていたが、その答えはこれだったのだろう。
妹の手が止まり、振り返った。
「妖精だから」
その声に満ちた喜びと果てしない愛が、飛び交うコバエの音にもまさって、私の耳に届いた。
そして、私はできる限り精一杯の理解を込めて「良かったね」と肩を撫でた。