第1話:決意
クソみてぇな異世界転生話を読む時は頭空っぽにして女子中学生になりたかったおっさんの気持ちになって呼んでね!
「おう!ガキがこんな所でうろちょろしてんじゃねぇ!迷子ならアッチに避難所が…」
アルバ=テトロイド公:ハイドラ王国第九騎士団長、いまいち情報収集能力にかけ部下には脳筋馬鹿と下げずまれている。
「先輩!この子アレっすよ!最近召臨された勇者のひとりの…」
カスト=マルドラ:ハイドラ王国第九騎士団の兵士、上下関係はしっかりしているもののいまいち空気の読めないところのある男、目の下のクマが凄い。
「何?こんなガキが!?」
「はい!不肖天王寺はるか!精一杯頑張らせていただきます。」
(ひぇぇ、怖い顔した人がいっぱいだー!怖いよぉ)
現在ハイドラ王国は隣国ワルイー王国との戦乱真っ只中である。その戦力差ワルイー王国の兵士約300万に対してハイドラ王国騎士団の兵約100万、武装、兵士の練度共にハイドラ王国騎士団が上回っているもののワルイー王国の物量に劣勢を強いられていた。
「じゃあ嬢ちゃん、あんたの勇者様のお力とやら、見せてもらおうじゃねぇか」
ここ、オカノ丘はハイドラ王国一体を見渡すことの出来る敵にとって絶好の拠点候補地である。しかし障害物が少なく両者塹壕に篭もり攻めるに攻められないのっぴきらない状態が続いていた。そんな状況で天王寺はるかの戦力は自身の身一つ、与えられた神の奇跡は「どんな状況からでも復活出来る回復の奇跡」と「とってもすごい肉体強化」のふたつである。女神ルルイエによれば「戦い続けていればいずれ自分に合った能力が増えるから」とのことである。そんな状況で天王寺はるかに出来ること
(…それはつまり)
「ここここれは!短期決戦と言う奴ですね!」
特に意味の無いガッツポーズを胸の前で作る。
「何言ってんだ嬢ちゃん」
アルバが訝しげに天王寺はるかを見ている。その目には最初から「期待」の2文字などない。
「長期戦になるに決まってんだろ。馬鹿の思いつきで戯言言ってんならお前も塹壕堀りな」
そう言いながら先のかけたスコップを1本渡す。
「長期戦ですか?」
「そ、長期戦」
「それってどれ位です?」
「カス、どんなもんだったか覚えてるか?」
「今日でちょうど半年くらいなもんで…まぁ順当に見積もってあともう半年は睨めっこ状態が続くんじゃないっすか?」
「半年ー!?」(半年もあったら私デザトレアのケーキコンプリートできちゃうよー!?)
「まあそんなもんだ、なんも出来ねぇならなんも出来ねぇなりに穴掘りな勇者様」
アルバがそう言って自らの作業に戻ろうとした時天王寺はるかは動いた。塹壕の壁に飛び乗り渡されたスコップを敵陣のある方向にむける。
「おい死にてぇのかテメェ!」
「貴重な青春時代をこんなむさくるしい場所で終わらせるなんて嫌だー!」
そう叫ぶ天王寺はるかの眉間に敵方から飛んできた銃弾が突き刺さる。戦場慣れした2人であっても流石に子供が死ぬ姿には目をそらす。しかし
「やっぱりこれは短期決戦だよアルルン」
回復の奇跡で倒れる前に復活した天王寺はるかを見て歴戦の兵士が言葉を失う。そんな2人を尻目に一瞬足を深く沈みこんだかと思うと土を蹴りあげ走り出す。
「せ、先輩、いいいいまのみました?」
カストがなんとか声を絞り出す。
「…だ」
「だ?」
「誰があるるんだー!」
その言葉は天王寺はるかには届いただろうか、おそらく届かなかっただろう。天王寺はるかはそのすぐ先の塹壕に足を滑らせて落ちていたからだ。
「いったぁー!なんでー!銃弾はあんまり痛くなかった気がするのにぃ!」
そう言いながらもう一度壁をよじのぼる。少し走ってぬかるみですべってこける。また立ち上がり走り出す。またコケる。それを何度も繰り返す。いくら身体能力が上がっているとはいえ脳の処理能力は元のままなため体を操ることが上手くいかない。また次の瞬間には腕を撃たれ吹き飛ぶ。あまりの痛みに治るまで泣きわめいた後遂にその場から動かなくなった。
「もうやだぁ、なにこれぇ、むぅりぃ!ああああああああぁぁぁ!!!!」
普通の人生を生きていたら味わうことの無い壮絶な痛みに少女の心は完全に折れていた。もう撃たれないように塹壕にはっていくとなにか生暖かいものに触れる。
「ヒェッ…」
目の前に現れたのは死体。この世界に来て始めてみる死体。極最近まで生きていたであろうそれはそれを思わせない無機質な、少なくとも人だったとそう思いたくないほどの崩壊をしていた。
「なんなのよぅ…こんなのちっとも…ウッ…」
初めて見る人間の中身にひとしきり吐き、喚き、女神ルルイエに対して何度か暴言を吐いた後少女は立ち上がった。
「…許さない」
少女の瞳に決意の光が灯る。
「こんなこと許す訳には行かないんだから!」
再度壁に登る。次は鉄板を両手に持っている。いくら身体能力に脳の処理が追いつかなくてもものを持つだけならば難なく行うことが出来る。
走る。銃弾が鉄板に当たる。斜めに構えた鉄板は玉を受け流す。もちろんその反動は大きいが強化された肉体なら耐えられる。走る。走る。走る。
「な、何なんだよてめぇ!」
遂に敵地の塹壕に飛び込むと鉄板を投げ捨てて片っ端からスコップで殴っていく。塹壕内は狭い。1度敵の侵入を許せばその排除は困難を極める。仲間を撃つことを気にして躊躇うもの、仲間ごと撃とうとして仲間だけ打ってしまうもの長くつづいた停滞がもたらした気の緩みは塹壕に大混乱をもたらした。
「ま、待て!やめろ!やめてくれ!」
敵の指揮官は想像していたよりもすぐに降伏してきた。しかし
「人を殺しちゃ!ダメでしょうがー!」
全力のスイングがスイングが顔面にあたり鼻血を吹き出しながら倒れることとなった。
天王寺はるか:敵地塹壕に単身乗り込み制圧、驚くべきことに死者はゼロであった。
「こんなにたくさんは養えねぇな」
アルバは呆れ顔で言った。
「何人かやっときます?あだっ!」
提案したカストを天王寺はるかがたたいた後ウィンクなどしながらこういって見せた。
「もう!終わったんだから殺したりしちゃダメ!みんな仲直り、ね?」
「やべぇやつが来たな」
「はい、そっすねぇ」
この日を境に世界は動き出すことになる。
「所でおなかすいたんだけどご飯ない?」
「あー、肉鍋ならあるっすよ?」
「え、どこどこ…あ」
と指さされた先にあったのは栄養バランスもクソもなく大量の肉が盛られた鍋だった。上の方などは火が通りきらなくてまだ生の状態だ。
(どっひゃー!)「…も、もう生モツは懲り懲りだー!」
えー!私が切り込み隊長!?
新しい先輩は怖いしなんかあたりがキビシーよー!あれ?アルアルもそんな感じだったっけ?でも決闘なんて無理ー!やっぱり先輩こわーい!
私どうなっちゃうのー!
次回「迎合」