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2章 律-4 東京に隕石が落ちようとした日に

「隕石が落ちて来た日の事って、伯父さんは覚えてる?」


 アルガス解放に至る経緯については、平野にも誰にも聞いたことがなかった。キーダーの存在意義(そんざいいぎ)(くつがえ)す凄い出来事だったと称賛(しょうさん)されてはいるが、詳細までは(ほとん)ど伝えられていない。


 「そうだなぁ」と米神(こめかみ)をかいて、颯太は記憶を絞り出すように首を(ひね)った。


「三十年も前の話だろ? 俺がお前くらいだった頃の話だぜ? そこまで詳しくは覚えてねぇけどよ。テレビがどこのチャンネルも一斉に緊急放送に切り替わったんだよな。周りが騒がしくなって警報が鳴って、避難だ言われても、俺は最後までブラウン管の前から離れなかった。こんな感じの青空に赤い光が白い尾を放ちながら流れて行って、その先に見たことある風景が映ってよ」


 言われるままに想像して強く息を()みこむ修司に、颯太はふっと短く笑う。


「東京タワーが見えた時、もう駄目だと思ったのはハッキリ覚えてる。けど、その映像をテレビで確かに見た(はず)なのに、その後一度もテレビで流れてないんだよな。どれもこれも再現フィルム。大舎卿(だいしゃきょう)を英雄に仕立て上げる判断を下した国が、反対派の意見をぶった切る為にそうしたんだろうな」

「反対派?」

「出る杭は打たれるっていうだろ? 難癖付ける奴は小さい粗も見逃さないからな。大舎卿の行動も功績も、誰かが否定できるようなものじゃねぇが、いまだにキーダーを悪だと思ってる奴は山ほど居るのさ」

世知辛(せちがら)い世の中だね」

「ま、半分は俺の憶測(おくそく)だ。あの日、隕石の落下予測地点で、小さいオッサンがカメラに背を向けて光を放ったら、隕石が軌道を変えて吹っ飛んで行ったんだ。もう、俺は凄ぇ興奮したんだぜ」

「大舎卿は、人類の盾になったんだね。それって今のキーダーの理念を築いたってことだよね」


 キーダーは人類の盾である――何かあったらきっとキーダーが助けてくれると、今の世の中誰もがそう思っているだろう。


「隕石が落ちて来なかったら、能力を持った人は今どうなってたんだろうね」

「昔のままか、若しくはキーダーが内部で反乱起こしてたかもな。キーダーが国の脅威(きょうい)だと植え付けられた国民の偏見(へんけん)(くつがえ)すには、隕石の落下が彼等にとっての絶好のチャンスだったんだ」


 うんうんと自分で納得しながら、颯太は「だから」と修司へまっすぐに視線を向けた。


「お前もチャンスは逃すなよ? 行動を起こせるタイミングなんて、突然やってくるもんだからな」


 修司の肩をポンと叩くと、颯太は「なぁ」と重い溜息をついた。


「お前の力を隠したこと、(うら)んでるか?」


 急に何言うんだと眉を上げつつ、修司は横に首を振る。


「俺は母さんが好きだったから、母さんの息子として最期(さいご)看取(みと)れて良かったと思ってるよ」

「俺に気なんて遣うなよ。でも、そう言って貰えると、俺も婆さんも……千春も喜ぶよ」

「そんなの遣ってないよ。本当に、ありがとう」


 口にしたものの急に照れ臭くなって、修司は紅潮(こうちょう)する(ほお)の熱を冷ますように鉄のフェンスに顔を押し当てるが、少しずつ上昇する気温のせいで逆に熱いくらいだった。


 颯太は笑いながら「ありがとよ」と言って、鼻歌交じりに部屋へと戻って行く。


 両親を亡くした修司にとって、颯太の存在はとてつもなく大きかった。

 気を遣わないというのは本心で、けれど全てではない。

 女性好きの彼が、五十前の今まで独身なのは自分がいるせいだと未だに感じている。

 そんなことを本人に言った所で、彼は笑い飛ばすだけだろうが。


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