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4章 再会-3 閉ざされた門の向こう側へ

 譲とはそこで別れ、修司はそのまま綾斗(あやと)の運転する車でアルガスへと向かった。譲には綾斗がそれとなく説明してくれたようだが、正体はバレている筈だ。


 あのスーツを着た三人組は予想通りホルスの戦闘員(せんとういん)らしい。綾斗の力による拘束を解かれ、時間差で駆け付けたアルガスの施設員(しせついん)に連れて行かれた。


 そして安藤律(あんどうりつ)という女性がホルスの幹部(かんぶ)だと教えられて、修司は耳を疑った。気を付けろと言った颯太の忠告が(よみがえ)る。

 あんな古いアパートで慎ましく暮らす愛らしい女性にそんな肩書があるなんて、正直人違いにしか思えなかった。無理矢理ホルスに引き込まれた下っ端とかならまだ納得もできたのに。


 ――「何処にでもいるような、普通の人ってことでしょ?」


 譲の言葉に納得はしたけれど、こんな謎解きを待ち望んでいたわけじゃない。


「俺はまだ、信じられません……」

「面倒に巻き込まれたね。君はバスクで居たからキーダーが嫌いかもしれないけど、俺が今一緒に居ることは、君にとって保護されたってことにはならない?」


 ハンドルを握る綾斗の手首には銀環(ぎんかん)が付いている。優しい音で(なだ)めるが、律の正体を否定はしてくれなかった。

 窓からの風景が律と初めて会った場所に似ている。あそこには綾斗と美弦も居たのに、修司は律と逃げることを選んだのだ。


 けれど、律に対する絶望感や嬉しい筈の美弦との再会よりも、今は颯太の事が気がかりでならない。修司がバスクだとバレてしまった今、そのルーツを問われる筈だ。自分の出生に係わった産婦人科医こそ亡くなった祖母と颯太なのだ。

 キーダー隠しは重罪だ。その事実が余計に今まで修司の意思をアルガスから遠避(とおざ)けていた。


 やがて三十分ほど走ったところで、フロントガラスの向こうにアルガスの茶色い壁が見えた。美弦と初めて会った日以来二年以上ぶりだが、相変わらず巨大な門扉(もんぴ)に閉ざされている。


「あれ、桃也さん戻ってるんですか?」

「いや、あれは長官用。また視察(しさつ)だってさ」


 建物を見上げた美弦が、綾斗とそんな会話を交わした。修司は何気に聞いていただけだが、美弦が「ほら見て」と指し示す屋上に銀色のヘリを見つけて、思わず眉を(ひそ)めてしまう。

 律と彰人と行った山で、サーチライトを浴びせてきたあの機体がいたのだ。突如(とつじょ)沸いた恐怖に身を(かが)めると、「何してんのよ」と横から美弦の茶々が飛んできた。


 そして、アルガスの扉が開く。覚悟を決める時が来たようだ。


   ☆

 護兵(ごへい)と呼ばれる二人の門番に導かれ、車が敷地内へと進む。

 門の奥のアルガスは、一見どこかの企業かホテルのようだ。

 車を降り、緑が香る芝の上を歩いて、修司はふと足を止めた。綺麗に整備された光景に外から感じていた物々しさも薄れてしまうが、二年前の冬ここは戦場だったのだ。


「えと、木崎さん。ここって二年前の襲撃があった場所ですよね?」


 建物の手前で綾斗は振り返り、「そうだよ」と苦笑する。


「俺の事は名前で呼んでくれていいから」


 「綾斗さん、ね」と美弦が補足し、修司も「綾斗さん」と繰り返すと、本人は満足そうに「うん」と頷いて側に飾られた胸像を見上げた。初老の男性モデルは、かつて隕石から日本を救ったと言われる大舎卿(だいしゃきょう)を連想させたが、台座には別の名前が記されている。


「これ、うちの長官でさ。一応、ここで一番偉い人だから」


 屋上のヘリはその長官の視察用だと言っていたのを思い出し、修司は頭上を仰いだ。真下のせいでその姿は見えないが、まだ飛び立った様子はない。このアルガスで一番偉いのがキーダーでないことを改めて実感すると、少し残念な気持ちが沸いて来た。


「その二年前の襲撃の時、うちの先輩がこの像吹っ飛ばしたんだよね、戦った相手に向かって」

「もう武勇伝ですよね、それ。私ももう少し早く着任(ちゃくにん)出来てたら見れたのに」


 残念がる美弦は、スターのショーでも見逃したような口ぶりだ。


「これって持ち上がるものなんですか?」


 キーダーの念動力とはいえ、手に持てる程度の重さを飛ばせる威力だと勝手に解釈していた。胸像の台に手を触れてみるが、硬い石が地面にしっかりと固定されていて、両腕で抱え込んでも動かせる気はしない。ましてや手放しの状態で、それが例え切羽詰(せっぱつ)まった状態だとしても武器にしようなどと考えることができるだろうか。


 さっき綾斗は三人の動きを同時に止めていた。三人合わせればこの胸像の重量を超えてしまうかもしれないが、動きを止めるのと持ち上げるのとでは負荷が全く違う。更に吹っ飛ばすなど、修司には神業としか思えない。

 あんぐりと口を開けて首を傾げる修司に、綾斗はにやりと笑って見せる。


「京子さんは怪力だから。まぁ、あんまりダメージは与えられなかったみたいだけどね」

「京子、って、田母神京子……さん!」


 その名前は良く知っていた。颯太のパソコンで見たキーダーの一人で、律と同じ歳くらいだろう髪の長い女性だった。綾斗も「そう」と大きく頷く。


 律もそうだが、力を持って産まれた女性というのは逞しいものだ。初対面で全然だと言っていた美弦も、この二年の訓練でとっくに修司を上回っているだろう。そんな境遇に少しだけ嫉妬して振り向くと、何か言いたげな美弦と目が合ったが、彼女は一瞬強く睨んでから視線を無理矢理()がし、綾斗を追って扉の奥へ移動してしまった。



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