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覇王セリスの後日談  作者: ダンヴィル
五章、少しの緊張と長い休日
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魔法使いの杖


 8月9日

 イナゴの大量発生が初めと比べたらまだマシなくらいまで落ち着いてきた今日この頃。

 私、メリル・ダンヴィルは二十歳になりました。


「ふ……ふあぁぁぁ………」


 上半身を起こし大きく延びをする。

 虫除けの結界内だというのに外はセミが騒がしく、もういい時間だというのが見てとれる。


 セリスは覚醒をしたら必要な睡眠時間が減るかもと言っていたのですが、いざ覚醒してみたら必要な睡眠時間が増えてしまいました。


 理由は単純明快。

 覚醒に魂が、つまり精神が肉体に追い付いていないからだそうです。

 かなりレアな事らしいですけど覚醒してすぐは弱体化するなんて事もあるらしく、今の私は正にそれでしょうね。


 ただ魔力を操る精度は圧倒的に上がっていまして、魔法具作るのが楽しいんですよね。

 不完全な状態で魔力切れになる直前までしているモノだから余計に睡眠時間が増えているのですが楽しいのでつい続けてしまいます。


 いい加減起きようと意気込み、クイックチェンジの魔法を使い一瞬で着替えを済ませる。

 本来は武器を変える魔法で全身の衣類を瞬時に入れ換えるなんて無駄に高度な使用法はしないらしいんですけど、私はこの使い方が一番便利で楽だ思うんですよね。


「ん……おはようセリス」


 廊下の曲がり角の方からセリスが来くるのがわかるので、角で鉢合わせる所でセリスの頬へキスをする。

 これもずいぶん慣れちゃったなぁ……


「………おはようメリル。あの、鉢合わせてすぐは流石の私も驚くよ」


「…………ん?それもしかして冗談ですか?」


「いや、冗談じゃないし危ないよ」


 会話中でも人の足音で個体を識別してしまうセリスが何を言っているのでしょう?

 私の疑問に対してセリスは本当に困った様子で、今の私の行動はいつか痛い思いさせてしまうかもしれないと思っているようです。

 それがなおのこと分からない。


「どう言うべきかな………そうだね。

 私にとってメリルはもう居て当然の存在になっているんだよ。

 例えるなら風の音と同じくらい存在してて当然の音で、油断してると近づいている事に気付けない時があるんだよ」


 セリスに限って人の気配に気付かないなんて有り得ないと考えていましたが……なるほど、慣れですか。

 私がセリスの頬へのキスを躊躇わなくなったのと同じように当たり前になっていると…………


「それは少し……嬉しいですね」


 セリスの中で私が側に居る事は当然の事。

 悪くありませんね。

 嬉しくて頬が自然に上がりそうなるのを手で隠してそっぽ向く。

 これは完全に気づかれているのかセリスは猫のように悪戯めいた口調でからかってくる。


「本当に少しなのかい?」


「少しの基準は人それぞれですので」


「ふふ、なるほど。そう言うことにしておくよ。うん。

 まあそれは置いといて、おはようって言ったけどもうおそようだよ?」


「おそよう?」


「もう昼だからね」


「……………お昼?」


「そうだよ」


「はぁ~……そっかぁ~…………朝食無いですよね?」


「今用意してる」


「ありがとうセリス。助かります」


 しかし、昨日はかなりギリギリまで魔力を消費してましたけど、まさかこんなにも長い時間まで寝てしまうとは。


 昨日は本当に調子が良かったんですよ。

 覚醒前に作った使用者の状態を示す魔法具を試しに作ってみたらそれはもう簡単に作れまして、以前セリスがこの魔法具なら金貨5枚だってベテラン冒険者は即決で買うと話していたのを覚えていたのですよ。

 材料費が銅貨2枚の他費用は私の気力と魔力と時間だけで金貨5枚ですよ?

 それはもう調子にのって量産しますよ。


「でも起こしてくれても良かったんじゃないですか?」


「メリルが頑張っていたの皆見ていたから寝かせてあげてたんだよ。

 特に昨日、ミューズなんて尊敬の眼差しでずっとメリルを眺めていたのだけど気付いていないだろう?」


「え……そうだったんだ…………気付かなかった。

 私もしかして可哀想な事しちゃったかな?」


「まさか。むしろ釘付けにされててこっちもミューズに声かけられなかったし」


「うんん~……?

 それはそれで………むず痒いのだけど良かった……のかな?」


 自分でミューズを引き取ると決めたのだから、その辺ちゃんと気にかけてあげないといけない筈ですし、やっぱり不味い気もしますが………


「メリルは少しミューズを認めても良いんじゃないかい?

 確かに思考は子供だけど良い判断能力を持っているんだからさ、自由にさせていても良いと思うけどね」


「しかしそれは無責任すぎる気が……」


「そう思うならメリルから遊ぼうって誘ってみたら?

 私もだけど、メリルから何かしようって誘われると嬉しいからね。さ、座った座った」


 話ながら移動して部屋についたので座って向かい合う。

 座る時一瞬ですがキラリと魔力の糸が光って見えました。

 私も人形を操作する事はできそうなんですけど、雑談しながらとなるとセリスみたいには操作できないなと思い苦笑してしまいました。


「どうしたんだい?」


「同時に複数の事を人形でするのが凄いなって」


「ああ、そういうこと。そんなの得意不得意の差だよ。

 安い量産品の武器を延々と作り続けるのと、名のある職人が作り上げる至高の一品。

 これくらいの差があって、後者はきっと前者のようには沢山作れないし、前者は後者のようなクオリティを出すなんてできないんだからそれで良いんだよ」


「なるほど……」


 セリスにしては珍しく需要と供給的な例えをしてきましたね。

 私が最も受け入れやすいだろう例えを自然と選べるくらい当たり前になっていて私としては有り難いです。


 しかし……何故だか変な事ばかり気になりますね。

 これも覚醒の影響でしょうか?

 今回は嬉しい事柄なんで良いんですけど、魔法具とかで一度気になりはじめて答えが出ないと泥沼になってしまうので気を付けないといけませんよね。


「……魔法使いの思春期かな」


「思春期?」


「ううん、なんでもない。

 それより聞きたいんだけど、これ使って人形作っても良いかい?」


「それって私の……」


 セリスが取り出したのは覚醒する段階で私の体を覆っていた繭みたいなモノ。


「そう、メリル糸」


「私の糸だからメリル糸って……まあそれはいいですけど何に使うのですか?」


「何にって、これ程魔力伝達の良い素材は滅多に無いよ。

 これやクローン作成法を使って自立型の高性能人形を作ろうかと思っていてね、私が操作しなくても店の手伝いをできる子になる予定なんだけど構わないかい?」


「人と変わらないように雑用なんかしてくれる感じなの?

 う~ん……それなら構いませんよ」


 出されてコレを使うって言われた時は断ろうと思いました。

 自分の体の何処かから分泌したであろう謎の素材を使うなんて言われたら戸惑いますよね普通。

 しかしそれで仕事を始めるにあたって問題であった人数の確保ができるのですから良いでしょう。


 そんなやり取りをしているうちに朝食を人形が持ってきてくれました。

 要するにコレを人形の意思でしてくれるようになるんですよね。

 生きているみたいに見えますが、今はセリスが操作していますから。



 ・



 本当にお昼過ぎまで寝ていたらしく、食事を済ませてから少しお腹が空いてきたなと感じる程の時間が経過した頃には夕暮れになってしまいました。

 なんというか、今日はあまりにやる気が起こらずセリスの作業をずっと眺めていました。


 夕食を済ませ、作業を再開したセリスを眺め、そろそろ寝ようかという時間、セリスが立ち上がる。


「メリル。時間も良いし外に出よう。

 どうしてもメリルに渡したいものがあるんだ」


「ここでは駄目なのですか?」


「ここじゃ人目があるからね。

 アレをする時は二人だけの方が良い……けど、その前にこの服を来ておくれ。その服じゃ流石に格好つかない」


 何が不味いのかわからないし夜中になんてと思いましたけれど、セリスから何か頼む事は珍しいので従います。

 白のワンピースに黒いローブを羽織った感じで、ローブはボタン1つで前を閉じて大きく開いてるようなデザイン。

 それに魔女を彷彿とさせる大きなとんがり帽子、見た目だけが立派な何の効力も無い杖……私には似合わないんじゃないかなぁ?


「メリル様格好いい!」


「お姉ちゃん流石に背伸びしすぎじゃない?」


 お見送りで玄関まで来てくれて、ミューズとアシュリーが誉めてくれるけれど……


「似合わないのはわかってるから」


 なんというか、セクシーな感じな服なんですよね。

 腰回りのラインがハッキリと見える服で、私が着るという意味では縁の無さそうな感じの豪華さがある服。

 私が来た場合身長の問題で幼さを感じさせられて少し嫌です。


「そんな事無いよ、似合ってる」


「うん!凄く似合ってる」


「私も似合うとは思うけどね?」


「それよりセリス、人目があっちゃ駄目だったんじゃないの?」


 いえ、聞いてますけど分かってますよ?

 ですがやはり親の前でべた褒めされ過ぎると恥ずかしいじゃないですか。

 ミューズとアシュリーの後ろで声はかけませんけど褒めてくる二人と似たような気配で暖かく見守ってくる姿になんとも言えなくて無理矢理話題を反らそう、あわよくば断ち切ろうとした結果出た言葉です。


「お見送りして良いかって聞いたら許してくれたんだよ」


「そういうこと」


「そうですか……まあいいです。それならもう行きましょ」


「そうだね、行こうか」


 狙い通り話題を断ち切る事に成功し家を出る事になりました。


「いってらっしゃい」という皆の声に「いってきます」と手を振り灯りの無い夜道を歩く。

 途中でライトを使おうとしたらセリスに手で止められます。


「ここから飛ぶからくっついて」


「ええ」


 素直に頷きセリスの背にくっつく。

 セリスが収納魔法から杖を取り出し地面を突くと赤い光を放つ魔法陣が展開する。

 魔法が発動し、一瞬の浮遊感と同時に視界が反転する。


「ここは……」


「見覚えあるだろう?そんな遠くに飛んでないから安心しておくれ」


 セリスの言うとおりとても見覚えのある場所です。

 山の中にある開けた場所で、もっと上に行けば昔の人が神様を祭っていた祭壇がある場所でして、他にこんな場所はこの村にありませんので夜中でもすぐに分かりました。

 その見慣れたはずの開けた場所に松明が6本立っていて、その松明を繋ぐように六芒星の魔法陣が存在している。


「なんか凄く本格的ですね」


「メリルの誕生日に合わせて準備してたからね。

 さ、そこに立っておくれ」


 言われた位置に立ちセリスと向かい合う。

 セリスがナイフを取り出し、指を軽く切り血を垂らす。

 その血には今まで見た中で最も魔力が込められており、その魔力の塊が魔法陣へ落ちた瞬間、六芒星の魔法陣が血の落ちた所へと収縮するように動き、淡い光の出現と共に1つの杖が現れ、セリスが手に取る。


「魔女、セリス・アルバーンとして、メリル・ダンヴィルを一人前の魔法使いとして認め、この杖を授ける。

 おめでとう、メリル」


 どこまでも真剣な眼差しで差し出してきたのはシンプルな形状をした木製の杖であり、並外れた魔力を持つ綺麗な色とりどりの石が7つ埋め込まれている。

 その中でも一際大きい赤い石はセリスの瞳と同じ色をしていて心が吸い込まれてしまいそうな程の強い魅力と存在感がある。


「それを……私に?」


「そう。メリルはやたら高価な物を渡そうとすると拒否するけれど、今回ばかりは譲れない。

 メリルはこの杖に見合うだけの実力がある。

 それに、私の弟子から初めて生まれた一人前の魔法使い相手だ。

 少しくらい背伸びさせてくれないかい?」


 受け取る時、セリスの手と触れ合い自分の頬があつくなるのを感じる。

 この時にストンと私の中で1つの答えが出てきた。


『あぁ……私はセリスが好きなんだな……』と。


 別に私は女の人が好きなんじゃなくてセリスが好きなんだ。

 セリスが男の姿になった時と似たようなドキドキとした感じが五月蝿いくらいで止まろうとしない。


 今みたいにしっかりと私の目を見て認めてくれるこの人が好き。

 私を信じて私の前で自分の弱いところを見せてくれるこの人が好き。

 私の事を知ろうとして、私の話に合わせてくれるから私もセリスを知ろうとして、知れば知るほど好きになる。


 私に沢山のモノをくれたこの人を愛している。


「……どうしたんだい?」


 けれど……セリスの好きは私の好きとは違うのでしょうね………


「………そうですね。ではありがたく頂戴致します、師匠」


 私がセリスから高価な物を貰うのを拒むのは見合う物を返せないから。

 けれどコレは違う。

 セリスが私の実力を認めてくれた確かな形。

 セリスがこの杖は私に見合う物だというのなら、私はこの杖に恥じないくらいの魔法使いになろう。


「師匠……ね。うん、この時だけなら悪くないね」


 でしょうね。

 セリスは『セリス』と名前で呼ばれる事を喜ぶ人ですから。

 過去の出来事からか、アルバーンや覇王と呼ぶとセリス自身も気づいているかは分からないのですが、確かにストレスを感じてしまっている様子を私の羽は確かに感じ取っている。


「セリス」


「なんだい?」


 ほら、セリス呼びの方が嬉しそう。


「これからも一緒にいましょうね。大好きです」


「………そうだね、私も大好きだよ。メリル」


 私は普段こんなにもストレートな言葉を発しませんから意表を突けたのでしょうね。

 驚いた様子で返答がほんの少しだけ遅れた。

 そんな様子を見て、私のこの想いはまだ話さない事に決めた。

 セリスならこの想いを伝えたら受け入れてくれると思う。

 今のこの雰囲気に流されて出た結論である、一年も建たずに色褪せるモノなのかもしれないから。

 だからそれまではセリスの友達として過ごそうと決めた。


 けれど、伝えない本当の理由は雰囲気に流されて等でなく、別の所にある事を私は中々気づけないで今後を過ごす事になる。


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