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覇王セリスの後日談  作者: ダンヴィル
五章、少しの緊張と長い休日
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覇王セリスの後日談5


 7月26日

 今日はターニャと別れた。

 半年もすればまた会うだろうが随分とアッサリとした別れだった。

 私達は予定通りメリルの実家へと進んでいくのだが、その途中でメリルが覚醒に入り繭になってしまった。

 今まで様々な覚醒を見てきたが繭になる人種がいるなんて驚いた。

 ドリーミーはモンスターや魔族として扱われていた過去があると以前メリルから聞かされていたが、私の知っている限り繭になるなんてモンスターの進化でしか知らないので確かにモンスターと言われても仕方がないとは思った。


 それよりメリルの覚醒だがだいぶ深く、重い魔力変動を起こしている。

 これは遅くて10日、早くとも3日はこのままかもしれないね。

 という事でズルをした。

 メリルの居ないゆっくりとした馬車の旅に99割意味なんて無い。

 イビルホースの足で休まず3日歩き続けて到着できる場所まで転移して3日後出て行く事にして、結界で何重にもメリルを守り外で遊ぶことにした。


 この日は色々とルールを用いて小鳥狩りをする事にした。

 特定の状況下に陥るか決められたワードを呟くまで身体能力と魔力が一定まで低下させられる呪いをかけての狩り。

 これが中々面白かったのかミューズと打ち解ける事ができたと思う。



 7月27日

 二人で町を見ていたのだが、ミューズが安物の剣をポッキリと根本から折ってしまった。

 剣を抜くのは素人からしてみればそれなりに大変だろうとは思うし、屑鉄と言っても良い材質であるのを加味しても折ってしまうのは予想外だった。

 無言で助けを求めて見詰めてくるミューズについ笑ってしまい少し可哀想な事をしてしまったが、どうせ安物の剣だし良い経験になっただろうね。


 その後簡単な剣の使い方を教えて試合形式で練習してみたのだが、やはりミィの細胞から創られただけあって吸収が早く、1日で1年そこいら経験を積んだ剣士よりは上手くなったと思う。



 7月28日

 今日は視界が悪くなるほどの大雨が降り、川が溢れかえるのではと思い至り渋々雨の中川まで行き、川の底をさらに深くし横幅も拡張した。


 宿に戻ってからはボードゲームやカードゲームをミューズとしていたのだが、けっきょく雨が止む事は無かった。


 夜、ミューズが一緒に寝てほしいと私のベッドへ来て駄々をこねた。

 そしていつの間にか私の事もセリス様と様付けしてくるようになった。

 私は自分の事を様付けされるのは嫌っていると思っていたのだが、それが純粋な好意からだからか不思議と嫌な気はしなかった。



 7月29日

 昨日の大雨が嘘のような晴天だ。

 とはいえまだ足元がぬかるんでいるので転移魔法で1日分の移動をパッと済ませた。


 ここまで来ると田舎っぽく空気が旨い。

 やはり都会の方は臭い。ブルガンドは例外だったけどね。

 魔法具等で生活水準が高くなっておりマシになっているとは言ってもそれでも臭う。

 貧民街の方なんて特に血生臭い。

 どれだけ■■■■■■■■■■■■■(文字が塗り潰されて読めない)


 この考えは良くない。今日はここまでにする。


 日記を書くのを止めメリルの様子を確認したら魔力が強くなっており、繭が薄くなっていて微かに呼吸音が聞こえる。

 覚醒が終わるのも近そうだ。



 7月30日

 ゆっくりと移動を開始した。

 メリルの生まれ故郷であるフレイ村が良く見える山道にコテージを作り覚醒を果たすギリギリまでのんびり過ごす事にした。

 繭をメリルだと言い張っても信じてもらえないだろうからね。

 そう説明し、我が儘を言われる事もなかった。

 ミューズが聞き分けの良い子で本当に良かった。



 7月31日

 書くことが多すぎる。

 まずはメリルだ。メリルが覚醒を果たした。

 覚醒したメリルは覚醒前より少し身長が伸び、羽が4つに増えた。

 身長が伸びたのはミューズの存在が大きいと思われる。

 覚醒は自分がどうなりたいかという無意識の願望が含まれる事があるので一目でミューズより大きい身長へと変化したのだと思われる。

 しかしこの変化は強くなり始める前の身長に戻っただけなのでプラスマイナス0だろうね。

 羽の方はまだよく分からないが増えた背中の羽からは目には見えないほど細く透明な触手を何万も伸ばして物を取ったりできるようだ。

 しかもその触手はメリルの全体重を乗せてもびくともせず空をたゆたっているように見えて可愛らしい。

 けっきょくそばかすは消えなかったと残念がっていたが、先程も書いたように覚醒の変化は無意識の願望が含まれるのでメリルはそばかすを自分が思っているほど嫌っていないという事なのだと思う。


 しかし本当に可愛らしくなった。

 前も可愛かったがより可愛くなったよ。

 触手という何万もの手足を手に入れた代償か、メリルの両手両足は少しだけ小さくなり、何よりも生まれたての赤ん坊かと思うくらいに綺麗で、覚醒前の努力の結晶とも言えるペンだこ等が失くなってしまっていた。

 メリルは私の手と自分の手を見比べて恥ずかしいとよく言っていたが、私はメリルの小さいけれど努力が見てとれるその手が好きだったので失くなってしまった事が少し残念だった。

 そう思ってしまうくらいには綺麗なお手てをしていて全体的にメリルの面影は残しつつとても美人になっている。

 本人に鏡を渡して見せてみたがあまり違いに気付いていないようだった。

 私はメリルをじっくり眺め変化を楽しんでいたのだけど、普通そんなにじっくりと自分の変化を眺めたりしないものね。

 毎日鏡に顔を合わせてただ髪を気にしているだけじゃむしろ変化には気付かないかもしれない。


(中略)


 いくらこの日記のページ数が無限であり、望んだページを出現させる効力があろうとも流石にやり過ぎたかもしれない。

 このままでは時間の許す限りメリルの事を書いてしまいそうなのでメリルの事はここまでとしよう。


 次にメリルの妹のアシュリーちゃんなのだが、性格はメリルと似ても似つかない。

 顔付きが出会った頃のメリルと少し似てるくらいでそれ意外の外見的特徴も殆ど違っていた。

 金髪だしヒューマン寄りで頭の羽も少し小さいけど、控え目な性格を投影しているかのようでそこが可愛らしい。

 何より自分に自信をあまり持っていないような感じなのだが、


(中略)


 アシュリーちゃんとメリルを比較するのが予想以上に楽しかった。

 今は与えられた個室で日記を書いているのだがいい加減日付が変わってしまうのではないだろうか?

 魔法使いに睡眠は必要無いがやり過ぎなのは明らかだ。


 このフレイ村に来て思った事だが、何故私の世界の東の方の国であるニャッバーンと似た家の構造なのだろうか。

 それはたぶんこの土地の浅い所に枝分かれのような水脈が存在しているからだろう。

 畑を作ったり、横に長い木の家を建てるには問題無いだろうが都会のような岩を使った2~5階の建物ってなったら厳しいだろうね。

 ゆっくりと陥没していって水脈まで届き水没してしまうかもしれない。

 だからこそこういう形へと自然となったと考えられる。

 しかしこれは最もあり得そうな希望的観測でしかない。

 何故なら、良く似ているというレベルではないからだ。

 この土地はニャッバーンと何かしらの関係があると考えるのが自然であり、つまり黄泉の国への入り口がある可能性もある。

 それが何処にあるかは置いておいて、態々つついて大災害を起こすような真似はしたくない。普通に暮らそう。


 家を囲っている塀なのだが、虫除けの呪いが施されていた。

 これがまた中々に高位の魔法で感心した。

 新しい魔法術式の可能性を感じるのに十分過ぎるくらいだったからそのうちメリルとこの魔法術式について語り合おう。


 そう、メリルと言えば私の記憶を送り続けそれを処理するというそれはもう


(中略)


 私も平和ボケし過ぎているのかな。

 まあ、こんな平和な世界なのだから平和ボケしても良い気はするのだが、メリルの母であるジニーさんが起きて家事を始めてしまった。

 もうそんな時間なのかと驚いたが過ぎてしまったものは仕方ない。

 この辺にして私も家事を手伝うとしよう。



 8月1日

 今日は挨拶回りをしてきたが中々に面白かった。

 始めにメリルの商人としての師匠であるミーネという老人に挨拶をしに行ったがアレはもう長くない。

 そう遠くないうちに寿命を迎えると思う。

 エルフである事を考えればあと一年か二年だろうか。

 久々に死の匂いを感じ取った気がしたが、これは伝えない方が良いだろうと判断しメリルに伝えるのは止めた。


 ミーネとメリルの会話はとても簡単なものだった。

 どんなものを見て、どんな成功をして、どんな失敗を経験したか話すばかり。

 ちゃんと聞いてはいたものの、ミーネの対応は冷たいものであった。

 その冷たい対応がミーネなりの優しさである事を分からないメリルではないので、「自分とは居たくないみたい」と言いながらもどことなく悲しそうでありながらも、ちゃんと良い結果を伝えられたと嬉しそうな様子を見せていた訳だし、これで良いのであろう。

 メリルの中で1つの区切りができたのであれば、それで良い。


 最後のご近所さんであるエックハルトと出会った。

 一目見てコイツは強いと思った。

 戦う才能は王国の英雄ミカエルと比べてしまえば余りにも小さいものだったろう。

 小さな村では一番でも世界を見たらあまりにもちっぽけな才能の持ち主だったんだろうと見て取れた。

 それを技術で補ってきた。

 彼は私と同じで戦う才能よりも何かに集中する才能を持っている。

 運良く経験の乏しい頃を抜ける事ができたのなら、こういった者はとにかく伸びる。


 そんな彼との会話だが、始めに一言二言交わした後は特に無い。

 外へ出ていったミューズとアシュリーちゃんが戻ってくるまで、彼は私とメリルが会話するのをずっと見ているだけだった。

 彼は私の実力を察している様子だったし、敵意が無い事だけ理解してもらえれば良かった訳でお互いに目的を果たし、二人が戻ってくる頃には会話は無くとも多少和やかな雰囲気になっていた。


 ミューズが移動中グラストードというカエルを捕まえたのだが、目を放した隙に名付けによる魔法契約をしてしまったらしく魔王の魔力を与えていた。

 あんなちっぽけなカエルがそこいらのモンスターを返り討ちにできるだけの力を得るなんて相変わらず魔王の能力は恐ろしい。

 もっと力の使い方を学ばせる必要がありそうだ。


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