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覇王セリスの後日談  作者: ダンヴィル
1章、平和な世界
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価値観の違い

前回5話と6話順番間違ってしまっていたので直しました。


 昨日のお酒はとても美味しかったです。

 しかし、ブランデーというお酒は葡萄酒よりずっと酔いやすいお酒だなんて聞いていませんでした。


 普段から酔いやすいターニャがいつものペースでそんなお酒を飲んでいたら酔い潰れるのは当然です。

 見ててちょっと気の毒なくらいの二日酔いになってしまって今日はセリスさんと二人だけで行動する事になりそうです。


 セリスさんにその事で遠回しに文句を言いましたが、

「それに関してはすまないと思うが私はターニャが酒に弱い事を知らなかったんだよ?

 それにブランデーは度数がかなり高いから口に入れたらどれだけ強いかくらいわかりそうなものだろう?」

 と完全に論破されてしまいました。


 全くもってその通りでターニャの自業自得となってしまって可哀想です。

 ごめんなさいターニャ、やはりセリスさんは強敵で仇はとってあげられませんでした。


「それではこれからセリスさんの売買をしに行きましょう」


 なんてやり取りがあったのですが気を取り直し、私に掛けられた物騒な契約魔法を早く完遂してしまいましょう。


「あれ?てっきり明日になると思ってたのだけど?」


「え?何か予定あると言いましたっけ?」


「いや、メリルはターニャと仲良さそうだから二日酔いを見捨てないと思っ……」

「あ~……少し……静かにしててくれないか?」


「すみません」


 ターニャの低く唸るような言葉を聞き、廊下に出てから答える。


「それは完全にターニャの自業自得ですよね?」


「意外とその辺割り切れるんだね……」


 セリスさんは何故かうんうんと感心したように深く頷き、満足したのか近づいてきて私の手を取る。


「それじゃ今日も私はメリルと二人きりでデートになるわけだね」


「デートって女性同士でですか?」


「ん?年頃の子の間じゃそう言うんじゃ……

 あぁ、なるほど。こっちじゃまた違うんだね」


 手を握るセリスさんは笑顔でそう言い私は意味が分らず数秒考えたが、情報が少ないしそもそも何故女性同士でデートになるか分からない。


「セリスさんは遠くから来たのですよね?

 それこそ海の向こうくらい。なら違って当然なのでは?」


 セリスさんは握った手を放す事無く首を横に振り話し出す。


「いや、実はこっちと私の方は文化とかそっくりな部分がとても多くてね。

 海の向こうよりもっと遠くから来たのに不思議だよね。

 それで、私の方だと年頃の若い子は女の子同士で遊ぶ時にデートって言ったりするのを聞いたことあったんだけどその辺は違うようだねって話。

 まあ、私はもうすぐで三十路だけども……」


「なるほど……ん?」


 あれ……それってもしかして……


 違和感を感じてこれまでのセリスさんの行動を思い返し、私はセリスさんが握ってきた手を握り返し真っ直ぐ顔を見る。


「セリスさん……昨日も情報の話してましたけど、もしかしなくてもそうやって沢山の情報を私の無意識下から引き抜いていましたよね?しかも魔法使って」


 今まで何で気付かなかったのか、そして何故今気付いたのか。

 簡単、それはセリスさんが魔法を使うことを止めたから。


 そんなセリスさんは私の言葉を聞き、猫のような笑みを浮かべて頭を帽子越しに撫でる。


「フフフ、良く気がつきました。60点」


「それ百点満点だったら不合格じゃないですか……もしかしてまだ何か隠していますね?」


「人聞きが悪いなぁ。

 私はメリルをもっと知りたいから隠してるだけだよ?」


「本当ですかぁ?」


 今のセリスさんから感じるのは楽しいって感情ばかりでからかってるのか、本当の事なのかわかりにくいんですよね。


「ええ、本当だよ。もっと沢山知りたいし知ってもらいたい。

 だから私はメリルを逃がさない」


「……昨日のは聞き間違えと思いましたが本気なんですか?」


 逃がさない。セリスさんは昨日と続きそう言うのですが、その表情と魔力は優しさに溢れていて心地好いものです。


「当然。例えどの様な驚異がメリルを襲おうとも私が守ってあげる」


 ……どうしよう………なんで?

 一昨日出会ったばかりで過ごした時間で言えば1日程度で何故そんな事を言えるくらい私の評価上がってるのでしょうか?


「え~……なんか、セリスさんがその驚異になりそうな気がするんですけど……」


「ん~?メリルが本気で嫌がるなら止めるよ?

 私はただメリルと親しくなりたいだけだもの」


 む……それくらいなら良いかもしれない。

 さっきの言い方はなんか色々と重たい気がして……


 しかし……う~ん………いったいセリスさんはいつここまで私に好意を持つようになったのでしょう?

 いつの間にか『メリルちゃん』から『メリル』になっていますし、これは認められたと素直に受け取るべきなのでしょうか?

 でも本当にいつ?


 セリスさん程の存在に認められるのは素直に嬉しい事なのは確かなのですけど、何が認められる切っ掛けか分からないのは少し不安です……


「親しくなりたいですか……それではまず友達になりませんか?」


「え……えぇ?」


 私の言葉を聞いたセリスさんはいきなり固まり、繋いでいた手がするりと離れてしまう。

 それだけでなく、今までで一番呆気にとられたような表情で固まり声が少し裏返っていました。


「……セリスさん?」


「あ……私が……その、な……友達で……良いのだろうか?」


 セリスさんはうつ向いて弱々しく言葉を発する。

 全身に纏っていた自信に溢れる魔力がまるで嘘のように消失していて、不安で押し潰されそうな、そんな魔力……


「まだ……二日しか建ってないし…………私は初対面で……それなのに……」


 そこでセリスさんはハッと息を飲み勢いよく私に頭を下げた。


「メリルすまない!初対面でナイフを突き付けておいてあんな軽い謝罪をしてしまって……」


「な、もう過ぎた事ですから良いですよ!頭を上げてください!」


 いきなりで慌ててそう言ったが、セリスさんは頭を上げず言葉を続ける。


「そんな軽い事じゃないだろ……私はただメリルを気紛れで生き延びさせたんだぞ……

 もし過去に戻れるなら殺す勢いで私に全力の魔法を叩き込んでやりたいくらいだ……」


 ギリギリと音がするほどセリスさんは自分の手を強く握りしめていて、その手から血が出そうで怖い。

 えっと……私にどうしろと…………?


「その……セリスさんが私の傷つくところ見たくないのと同じように、私もセリスさんが傷つくところは見たくないので、仮にできたとしても止めてくださいね?」


「だが……」


 今までのセリスさんの行動は露骨すぎたり、そうでなかったり、どこか演技がかった雰囲気が多かった。

 しかし今のセリスさんの態度はとても演技だとは思えない。


 何故急にここまで私に心を開いたのかすごく疑問なのですが、今のセリスさんを見る限り、急に私を『メリル』と呼ぶようになったのも私を認めたらからだと憶測から確信に変わるのに十分でした。


 正直に言うと、私はセリスさんとでは釣り合わないと思う。

 歳の差や美貌や力とかでなく、完成された器の大きさが違いすぎると思ったからです。

 だからこそ昨日した権利の話は断った訳ですし……


 だが……とセリスさんが何かを言いかけましたが何も言わず、数秒お互い無言を貫く中で私が先に動きました。

 私は自分の帽子を外し下げられているセリスさんの頭を両手で触ります。


「セリスさん……顔を上げて私の羽を見てください」


 セリスさんは私の言葉を聞いても数秒頭をあげてくれませんでしたが、やがてゆっくりと上げ私を見てくれます。


「セリスさんは私の羽を素敵だって言ってくれましたよね?

 セリスさんは知らないかもしれませんけど、私はドリーミーと呼ばれるワービーストの一種なのですが、ドリーミーと言うだけで帝国、王国共に両国ではあまり良く思われません。

 と言うのも、私が生まれる数十年前までは私達ドリーミーは魔族と呼ばれていたからだそうです。

 このドリーミーとしての象徴とも言える羽は意味嫌われるものです。

 その私の羽を嘘偽り無く素敵だとセリスさんは言ってくれました。

 私はそれが嬉しかったんですよ?」


「……」


 私はセリスさんの右の握り拳を緩めさせ、両手でその手を握り笑顔で答える事にした。

 セリスさんの本気の意思に。


「ですから、友達になりませんか?

 私もセリスさんと仲良くなれると思いますので」


 私の言葉にセリスさんはゆっくりとうつ向く。

 その反応と魔力に私は少し不安になります。


 セリスさんに何があったかはわかりませんが、セリスさんにとっての友達というモノの価値は私が思っているよりもずっと重いものなのだと魔力から強く感じ取り、ほんの少しだけ理解できたから。


 そう考えているうちにセリスさんは顔を上げた。

 セリスさんはその鋭い目付きにはあまり似合わない涙を流していて驚いたけど、泣きながらも確かに笑顔を作っていた。


「そうだね、友達になろう。

 フフフ、まさかこんなにも早く友達ができるとは思わなかったよ」


 セリスさんは指で涙を拭い私の手を強く握る。


「それじゃメリル、ここでじっとしてても仕方ないし行こうか」


「……はい!行きましょう!」


 セリスさんは出会ってから良く見せる猫のような笑みを浮かべそう言ってくれて私はとてもホッとした。


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