覇王セリスの後日談4
7月15日
日課であるターニャとの模擬戦の後にメリルとミューズを連れて釣りをした。
とても退屈であったがやはりこの退屈こそが私にとって大切なものだと再確認できた。
正直、ミィの元同族であるセンの出来事はあまりにも私の世界で起こる殺伐としすぎた出来事に似ていたために少々精神的に参ってしまった気がする。
あの救いも答えすらも無い感じが懐かしい。
例え解決しようとしまいが絶望の色が変わるだけで誰も救われない感じが胸に突き刺ささるようで、お前は変わることはできないと言われているような気がした。
センは確かに救われたかもしれない。
しかしミィは、いつもの笑顔が痛々しく感じるほどだった。
ミィならばあれだけ大勢の仲間がいるのだからきっと立ち直れるだろうけれど、同じ立場に私が立たされたと考えた場合、今度こそ心が折れるかもしれないと思った程だ。
そんな訳で私にとって3人で釣りをしていたくらい退屈な時間がどうしようもなく尊く感じる。
ここ数日同じような内容ばかり書いている。
それほど私の心に深く突き刺さったのだろうか?
過去の事ばかりに捕らわれるのも悪いだろうから今日の事を書く。
首都ブルンガルドへとやってきた。
ティナの根回しによりとんとん拍子で物事が運んだ。
しかしブルンガルドへ来てから何処からか見られている。
勘違いでない事は確かだ。
どうやって見られているか分からないのは、隠れるのが上手いのでなく何処にいるか分からなくなるほど弱い力の持ち主によって見られているからだろう。
弱い使い魔の特徴と一致しているのだから大きな音で吹き飛ばすのが一番簡単なのだが、ここは首都だ。それはできない。
敵意も無いようだし諦めるとしよう。
7月16日
根回しを念入りにさせておいたお陰で二十四時間以内に終わった。
これで爵位式でターニャを面白おかしく祭り上げられる。
ターニャ達はブルンガルドへ置いてメリルを迎えに行き、馬車での移動をする事になった。
もう要件は済んだも同然であるし私達はオマケなので、3日間に渡り行われるパーティにのみ英雄の友人として参加してれば良いのだからゆっくりと向かうことにした。
その旅の中、メリルが見せてくれたネックレスの出来映えには驚かされた。
メリルの才能は確実に開花していっている。
これはいつ覚醒を迎えてもおかしくないね。
7月17日
今日は1日馬車での移動になった。
移動での休憩中、川の水を馬にやっている時の事だ。
・
「ケホ!ケホッ!これ全然美味しくない!」
「あれ?ミィが吸っているのと同じモノの筈なんだけど……」
「子供が煙草なんて好きなわけ無いでしょ?」
私は魔法使いになる前の13~17歳までは彼等の影響で中々にヘビースモーカーだったんだが……
「いやいや、ミューズはミィと同じだから煙に混じる魂の欠片を味わうはずだと思ったんだ」
「魂の欠片に味なんてあるので……あるの?」
「言ってしまったのを無理矢理修正しなくても良いんじゃないかな?」
「セリスが良いならそうするわ」
「それで、今のメリルなら分かりそうだけど……ドリーミーは体が弱すぎるし変に中毒になられると困るから止めた方がいいかもね」
「中毒って……元々煙たくて好きじゃなかったからどうでもいいけど………」
「とは言え生き物であるからには魂の欠片を接種しなければ死んでしまうし、何事も程々がぁ~…………」
そういえば……何で進化させてあげないんだろう?
十分強いでしょその子。
「……セリス?」
私の視線が、水を飲んでるついでにブラッシングされている馬へと向いている事に気付いたメリルが手を止める。
「この子がどうしたの?」
「う~ん……まあこの辺は拘りとかあるからあまり言及するつもり無いんだけど、その子いい加減進化してあげたら?」
「………………ん?今何て言ったの?」
「進化させてあげたら?って」
「………何を?」
「その子を」
「……………この子?」
「うん」
………………あれ?話が噛み合ってない?
「まさか動物をモンスターに進化させる技術とかはこっちでは判明してないのかい?」
「そんな方法あるのですか?」
「えぇ……?それでどうやってテイマーはモンスターを使役してるんだい?」
「どうって……そこら辺の野生のモンスターをテイムしてとしか………」
「逆に凄くないかいそれ?」
野生のモンスターをテイムするって、成長しきった野生の猛獣とそう変わらないだろうし、高い知能や理性を持つ高位のモンスターはプライド高くて人種には基本懐かない。
生まれて直ぐの頃から側に置いて、『手加減』と『愛情』を理解させ、そして『教育』を施す事にようやく使い物になるというのに。
野生のドラゴンをテイムしてドラゴンライダーを軍事レベルで用意できるってなるとこの世界の軍事力は思っていたよりずっと高いのだろうか?
「そう言われても、普通のスライムのような愛玩用みたいなのばかりですよ?」
「スライムってかなり強いモンスターだと思うけど……」
「え?いやいや、きっとセリスが想像してるのとかじゃなくてぇ~…………あ、いたいた。
ほらコレ。こんな感じに何処にでもいるような弱いスライムですよ?」
キョロキョロと周囲を見渡し拾ったのは小さなカップサイズをした、赤いゼリーを彷彿とさせるようなスライム………
「あぁ~………確かにスライムだけど…………」
「だけどじゃなくて、私達の世間一般的に言う普通のスライムって言ったらこのサイズを指すんだよ?」
「そっかぁ………それがかぁ…………」
このスライム、小いけれど少し大きめな虫を食べる程度なのだと言う。
とてもじゃないけれど人を襲えるようなスライムじゃない。
しかもこのサイズのスライムは大型の普通の虫に補食されるくらいに弱い。
仮にもモンスターなのに、一匹の普通の昆虫に生きたまま補食されるくらい弱いんだよ?
「この世界の基準はメリルの体並みにひ弱なんだと再認識しよう」
「ちょっと、私ってどれだけ軟弱だと思われてるんですか?」
「ま、まあそんな事より魔石を食べさせてみな。
その子ほど魂の欠片を接種した存在が魔力の保管庫となるものを接種させれば進化できるだろうから」
・
これにより強い馬からイビルホースへと変化を遂げた。
魔法使いである私が側に居たのだから妥当な進化で面白味が無かった。
強いて言うならメリルの反応が可愛かった。
7月18日
イビルホースに進化させたお陰で予定よりずっと早く首都に着きそうだ。
イビルホースに荷馬車を引かせていたら物資が大変な事になりそうとメリルに相談されたが、そもそも行商をする必要は無い。
それどころか店を開いたらこんなに長い休みは無いと話したら納得してくれた。
そのまま店の話しに移ったのだが、ミューズを雇うとしてもう一人くらい従業員が欲しいという話になった。
しかし残念ながら、いくら話しても私もメリルも雇っても良さそうな人物に心当たりが無かった。
7月19日
予定よりも早く首都ブルガンドへと到着した。
普通であればこの時期に宿を取るなど無理らしいがティナは本当に便利だ。
チェックインを済ませて観光をする事にした。
7月20日
昨日も思ったがやたらと目線が集まる。
初めは何故かと思ったがメリルもミューズも美人だからね。
ようやくメリルという原石に気付いたか間抜けなヒューマンどもめ。
明日の為の準備もしたのだが、それもあってなおのこと目を引いている。
メリルは美人さんだからね。
この世界ですが、描写してませんが抜こうとすると叫んで威嚇する植物がありふれていたり、認識するに値しないだけで視界の中に数十~数百のモンスターがいるのはザラです。
メリル目線が基本であり、メリルにとって当然の光景なので描写に値しないと考えています。
例えば最寄り駅にどんな店があってどんなオブジェがあるって描写はしても、通行人やハトやスズメがいるまでは描写しないと思います。
少なくとも私はしない。
つまりメリルにとってそれくらい当たり前すぎて描写する機会がなかったんですよ。
スライムは夏場に見かけるセミと同じ程度には見かける存在です。




