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覇王セリスの後日談  作者: ダンヴィル
五章、少しの緊張と長い休日
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セリスセリスセリス


「え?ブルガンドに行ってしまうんですか?こんな時間に?」


 釣った魚を夕食にして皆で食べている時にセリスが都市ブルガンドへ向かうと言い出し手を止める。


「ごめんね、早い方が良いだろうし私ほど確実にできそうなのは居なさそうだから」


 セリスが私の側に居ながらも魔法で何かしているのは知っていましたけど、いよいよセリス本人が動かなければいけないのですか……

 今回の出来事はそれだけ大事な事だと言うのも分かりますけど、セリスはいったいどこまで関わるつもりなのでしょう?

 私としてはあまりセリスに重い責任を背負いこませるような事はさせたくないんですけど、そうも行かないのでしょうか?


「あの、セリス?私に何か出来ることはありませんか?」


「普段だったら手伝ってもらおうとも思うんだけどねぇ……」


「………あぁ、なるほど」


 セリスの視線の先はシルバーも使わず手掴みで骨も丸ごと噛み砕き夢中で胃に納めていくミューズの姿。

 確かにミューズの世話が私の仕事ですよね。

 今後町で暮らすのですからシルバーの使い方くらい覚えさせたいのですけど、ミューズがシルバー握ると握り潰してしまうんですよねぇ……

 人に対しては加減できるのですが、物をずっと持ってるとどうしても加減を間違えてしまうそうで、潰す度に泣きそうなくらい悲しい気持ちに包まれてまるで私がミューズを虐めているみたいで可哀想で………


「わかりました。それでは仕方ありませんね」


「メリルの代わりににターニャとセシルが来るし、本当に面倒な所は全部ティナに任せるから」


 それでターニャもいなければ屋敷全体が一際騒がしいのですね……


「しかし都市って……何しに行くの?」


「ふふ、時期が良かったんだよね。年に一回、多ければ二回に分けて城で表彰があるのは知っているだろう?」


「あぁ、爵位式ですか」


 爵位式とは昔は爵位を渡された者達の顔を覚えて貰うように皇帝直々に何かして、そのあと城でパーティーをするという式だったそうです。

 現在も形式は全く変わっていないそうですが、国益にそれなりに良い影響を及ぼした者も表彰されます。

 数年前大商会のお偉いさんが表彰されたくらいには爵位とは関係無い人まで表彰されるんです。

 商人の間ではプロパガンダという言い方もしてますが……この辺は私にとって天の上、まさに雲をつかむような話なので詳しくは知りません。


 私が何故知ってるかと言われれば爵位式に合わせて町が軽いお祭り騒ぎになるから知っているだけです。

 行商人でこの規模の祭りを耳にできないとなったら悪い事は言いません、向いてないので辞めた方が良いです。じり貧で破産しますよ?

 祭りとしてはそこまで大規模と言うほどでもありませんが顔を覚えて貰えるチャンスでもあるのですから。


「で、その爵位式これを見せようと思ってね」


「カメラ?」


 ……と、もう1つは水晶?

 その用意された水晶が真上に淡い光を放ちはじめる。


『メイルシュトローム!!!』


 その光の中に幻影が映し出され、幻影の私がメイルシュトロームを放つ………ってこれは…………


「セリス……いつからネームレスとの戦いを見てたの?」


「メリル達がダンジョンに引きずり込まれる所からだね」


「始まる前から合流できてたって事じゃないですか……」


「ま、これを上手いことチョチョッと弄くってターニャには英雄的活躍をした冒険者として祭り上げられて貰おうかなって」


 ターニャの性格的にそういうのは望まないと思うしそれよりも……


「大丈夫だよ。ターニャの了承は得てるから」


「それは意外……ってそうじゃなくて、それ私も映ってるじゃないですか。ただの商人が英雄と共に戦ったなんて話が広まったら色々面倒ですよ」


「それって今更じゃないかな?

 それにメリルはただの商店じゃなくて、魔法商店を開くんだから魔法使いとしての技量を売っておいた方が良いんじゃないのかい?

 元々この爵位式ってプロパガンダ的要素が強いんだし、何より冒険者の町で商売をしていくなら、メイルシュトロームを使える凄腕の魔法使いと知った上で見下してくる奴は居ないだろうからね」


「なるほど………」


 うん、確かにそうかも……しかしセリス……………


「……ごめん。なんかメリル、納得していない?」


 そこまで見通して気づかない………


「………だって、セリスはよく考えて様々な選択肢からこの方法を選び抜いて、私はいきなり聞かされてほぼ決定事項で否定できる案も無ければ選択肢なんてあって無いも同じ。

 セリスに適した事はセリスに任せるとも言いったけど、少しは私にも教えてほしかったな。

 だから案に不満は無いけど、そんなに大事な事であったなら私に教えて、一緒に考える余地があったら良かったなと思いまして」


「あ………うん、そうだね。今回は完全に私が悪いみたいだ。

 一緒に歩んで行くってそういう事だろうし」


「うん、次からそうしてね」


「そうするよ。ありがとうメリル」


「え?何が?」


「叱ってくれてありがとう」


 叱る……あぁ、確かに今の私の言い方は叱ってましたね。

 気づきませんでした。


「どういたしまして」


 私はただそう返事して食事を続ける。


 食事を終えた数十分後、沢山の書類が入っているだろう鞄やらを持った数名が来て、セリスは彼等と一緒にゲートでブルガンドへと行ってしまいました。


 あの手荷物……アイテムボックスや収納魔法に入りきってない物がアレだけあるってどれだけ大変な事をしているんでしょうね………



 ・



 コンコン……と木製の扉をノックする音が響く。


「メリル様」


 もう寝ようと二人で決めて30分もしないうち、そろそろ眠れそうだなという時にミューズの声が聞こえた。

 その声と魔力だけで分かってしまう。


 ミューズが寂しくて怯えているということを。


 そして、ミューズの感情に同調するように私も酷く寂しさを感じてしまうことを。


「ミューズ」


「メリル様、あの……」


 鍵を外し扉を開くと安堵の感情が流れてくる。

 さっきまで感じていた心細さが無くなり落ち着いていくのが良く分かる。


「………メリル様?」


 抱き締め、優しく撫でる。

 ミューズが何故私の側に来るのかという理由は分かっている。

 今までずっと一人で、だからこそ、誰かと過ごす暖かさというものを知ってしまってから一人になる事を恐れている。


 私もその気持ちが良く分かる。

 行商の旅を一人でしていた時は酷く心細かった。

 ターニャが「安定した収入」とか理由付けして、格安で護衛という形で旅をしてくれるようになって感じなくなった心細さ。

 暖かさを知った後に元のように一人旅を続けるなんて長期間は無理です。


 ミューズは一人でいる事が当たり前で、知ってしまったからこそひとりぼっちに戻ることを酷く恐れている。


 では何故距離を置いているかというと、『寄り添いすぎるのも悪い結果になってしまう』とセリスとの話し合いでまとまったからです。

 なので最初は一人で、そして自分から進言して来るようであれば受け入れても良い。

 そういう小さな事が結果的にミューズの為になるでしょうから。


「ミューズさえ良ければ一緒に寝よっか」


「うん!」


 抱き締めたミューズから嬉しいという感情が津波のように押し寄せる。


 ………なんか少しだけ気持ちが悪い。

 嫌じゃないんだけど……例えるなら馬車に揺られて酔ったような……

 ミューズから感じる感情はとても良いものなのだけれど、不思議な感じ。


 そう感じながらミューズを招き入れて眠る。



 ・



「メリル様……メリル様ぁ!」


「うぅ……今度な「そんなに怯えること無いだろう?」

「っ!メリル様ぁ!!!」


 悲鳴に近い必死さで私を揺する、流石に異常事態だと気付き「ミューズ!!!」と勢い良く起き上がる。


「………セリス?」


 目の前に居たのはセリス……いえ、覇王セリスと言うべきですね。

 表面上の部分からまるで鋭利な刃物のような凶器を向けられているような危険さを感じさせる魂の持ち主。


 いつの間にか私達は寝室からどこかのお城の玉座がある場所へ移動していて、そこに私とミューズ、セリスだけがいた。


「久しぶりだねぇ、眠り姫」


「眠り姫って………何事ですか?」


「何も」


「何もって………」


 起き上がった私の背中に必死にしがみつき怯えているミューズの姿は『何も』で解決して良いような怯え方じゃない。


「あっ」

「メリル様!」


 私の体がセリスの魔力により引き寄せられる。


「そうだね……強いて言うなら撫でてあげたんだよ。

 こうやって……そしてね、『この前は仕方なかったとはいえやり過ぎてしまった。すまないね。……何を怯えているんだい?

 メリルの大切なものなら私の大切な物なのだから。

 せっかくだ、私と友達になろうじゃないか』」


 頭を一撫でし、顎を持ち上げ、揺らぐことの無い絶対的な自信の籠った瞳で私の瞳を覗きながらそう言った。


 ……もしかして怯えているミューズに対してそんな事をしたんですか?


「とまあこんな具合に言ったら……くく、発狂しちゃって……いや、すまない、ふふ、ああ可笑し」


 私を解放して演技じみた素振りで笑い始める。

 その笑い方ですら人の心を抉るようで、現にミューズは耳を必死に押さえて聞きたくないと怯えている。

 逃げないのはたぶん、私がいるからでしょうね。


 こんなに怖い思いしてるのに、やっぱりミューズを保護して良かった。

 こんな優しい子、放置できませんよ。


「あの……何の用なのでしょうか?」


「何の用……ふむ、私の用は長期的な物だから先に奴の方を済ませようか」


 奴……?私達の他にもこの場所に誰かいるのでしょうか?

 いえ、それよりまずは……


「ミューズ、大丈夫?立てる?」


「メリル様……」


「怖いかもしれないけど本当に敵意は無いみたいだから、少し話聞いてみよ?ね?ほら、手繋いであげるから」


「………………うん」


 良かった。

 怯えはあるものの冷静さはちゃんとある。


 けど、私は手を繋いであげるって言ったのですが、そんなにくっつかれると動きにくい……まあ、良いか。


「それじゃ場所を移すよ」


 私が「はい」と返事をするよりも早く周囲の光景が変化する。

 輪郭がぶれ、捻曲がり、別の輪郭を形成していき書斎へと変わった。


 その書斎で一際目につくのは積み上げられた大量の本。

 そして積み上げられた本に囲まれた机で書き物をしているセリスの姿………


「セリス……」


 いや……違う。

 彼女もセリスだけどセリスじゃない………


「おい、連れてきてやったぞ」


「………私が言った事覚えてる?」


「興味があるんだろ」


「かいつまみすぎでしょ?

 興味あるのは確かだけど、今の彼女じゃ役に立たないもの」


「興味あるなら少しは見てやったらどうだ?」


 覇王の言葉に、本当にチラッとこちらに目線だけ向け興味を失ったかのように作業に戻る。


「………魔法使い」


「分かるか?」


「えぇ……なんとなく………」


 私の呟きが嬉しかったのか、ニッと笑みを見せて聞いてくる覇王。

 ………この笑顔1つでもセリスとは違うなぁ。

 きっとセリスならもっと優しげな笑みだったろうけど、覇王はどこまでも自信に満ち溢れたような、そんな風に感じる笑みを向けてくる。


 それで、ペンを走らせ魔法の理論を組み上げていくセリスは正に魔法使いに見えた。

 たぶん覇王セリスと同じように必要だったから生まれた魔法使いとしてのセリス。


 前にセリスは魔にその身を委ねる?みたいな事を言っていて、それがとても危険な行為ではあるのだけれど見返りが大きく何度もやったと話してくれた。

 だから魔法使いとしてのセリスはつまり………

 憶測の域を出ないけれど、たぶん合っていると思う。


「覇王セリスが私を宝物みたいに見てるのは知っていますけど、魔法使いのセリスが私に興味があるのは何故です?」


「あなたにはあまり興味無いけど、ドリーミーという種族には興味がある。

 試しにイデアに干渉しドリーミーになろうとしたけれどなれなかった。

 理由はとても簡単で魔力に対する適正が元となるヒューマンとドリーミーでは差がありすぎた事が原因。

 肉体を完全に捨ててドリーミーとして生を受けない限り私がドリーミーになる手段は現状存在しない。だからあなたが羨ましい」


 こちらに顔を向ける事もなく報告書を読み上げるかのような色の無い声色で答えてくれます。

 答えたのだから早く帰れという色も見てとれますね。


「………ドリーミーである事が羨ましいなんて初めて言われました」


「だろうね。私は絶対に嫌だぞそんな弱い種族になるなんてな」


「大丈夫。そんな効率の悪い事をしている暇があったら他の事に手を付ける」


 …………そしてみんな無言になりました。

 話す内容が無いという感じですかね?

 なんで私連れてこられたの?


「あ……あの~………一応どれくらい魔法の知識を付けたら役に立てますか?」


「…………最低これくらい一人で出来るようになりなさい」


 手を止めて私に見せてくれたのは片手で掴めそうな大きさの魔法陣………だと思います。

 その魔法陣は球体で、びっしりと魔法文字で埋め尽くされていて、一秒経たない僅かな時間で常に別の文字へと変化し続けていてとても美しいものです。


「メイルシュトロームだな」


「………え?」


 この魔法陣がメイルシュトローム?

 ………………う~ん???


「駄目です、綺麗だって事意外はサッパリ分かりません」


「でしょうね。これを感覚だけで成立させてしまうドリーミーには驚かされたけれど原理を理解してもらわないと意見を求める事もできない」


「はい、おっしゃる通りですね」


 ぐうの音も出ないとはこの事ですね。

 今もメイルシュトロームを使える自信はあるのですが、使い方を教えてと言われてしまうと説明できません。


「終わりなら私の用を言うとしよう。

 メリル、この世で最も分かりやすい、どんなバカにだって分かる最強足る力の象徴を作ろうじゃないか!」


 ジャラジャラジャラー………と、金銀財宝が図書館に溢れる。

 まるでいつだかセリスが堀当てた石油のように黄金が………


 ………最強足る力の象徴?


「終わったら片付けないと消し飛ばすわよ?」


「そうふて腐れるなって、お前だって興味を持ちそうなプレゼンテーションをするんだから黙って聞いてろ。

 メリル、貴様に問おう。

 貴様にとって力とは何を指す?」


「力ですか?………えっと、財力でしょうか?」


 私の不安げな問いに、まるで肉食獣のような笑みを向けられたと同時に、パアンッ!……と覇王が手を叩き、静けさも相まって音がやけに大きく聞こえた。


「その通り!

 だが、どれ程の財力で強大な力と呼べる?」


 どれほどの………


「レヴィエ大道金貨一千万枚くらい……でしょうか?」


「ふ……ふふ……ふははははははは!」


 覇王が笑い出す。

 その笑い声には魔力が籠もっており、声そのものに重さを感じる。


「弱い、弱すぎる!

 そんな物はレヴィエ大道金貨一億枚だろうが一兆枚だろうが同じだ!

 どれだけの金を持っていようが頭上から大魔法シューティングスターが炸裂すれば一瞬で蒸発する。

 そんな力、あまりにも虚しいものだとは思わないか?」


 あ……なるほど………

 確かにその通り………魔王やセリスが本気で暴れた光景を私は一度見ている。

 そして、今の問の答えも私は知っている………


「だからこそティナさんは集めるだけでなく使う事で守る手段を確立しようとしている……」


 ティナさんへの扱いを見て「気の毒だな」とか「可哀想だな」なんて思って完全に他人事だった為に咄嗟に出てきませんでした。

 ネームレスの事が無ければ出ていたかもしれませんが……


「そう、それこそが財力による力だ。

 例え周囲がどんな悪環境になりうる事態が訪れても自分は安全に、優雅に、贅沢に暮らし続けられてこそ初めて財力による力だと言えよう。

 だがその力の使い方をこの世界の者の何人が理解しているのだろうか?

 私が見た限りでは他に誰一人としてその事を理解している者は居ない。

 全く、平和など次の戦争までの準備期間だというのにお気楽なものだ……」


 一度そこで区切りセリスは私とミューズを眺める。

 ただ、その視線が普通じゃない。

 鋭く、同時にねっとりとしたその視線は裸にひんむかれて全身隠すこともできず見られているような、不気味で、強い不安感を覚えるものです。


「力を持つ弱者、力を持たぬ強者。

 あまりにも対照的だとは思わないか?」


 力を持つ弱者と持たない強者………?


「メ……リル様………」


 私の手に声まで震えきったミューズの手が触れる。

 あまりの恐怖に震えすぎて触れる事はできても掴む事がままならないような状態で………


「なるほど………大丈夫、大丈夫だよ。

 怖くない、ただちょっと試されてるだけだから……ね?」


 ミューズを抱き締め、大丈夫だと口にした辺りでセリスは威圧するのを辞めた。

 プレゼンテーションとは良く言ったものですね。

 抗う力を持ちつつも立ち向かうことすらできない弱者のミューズと、抗う力を持たないものの立ち向かい力以外の方法でどうにかしようとする強者の(メリル)……ということですか。

 実に分かりやすい…………


「………ただそれを理解させる為だけにミューズをこんなに怯えさせて、こんな事する意味あったのですか?」


 なんかちょっと……いえ、かなりムカつきました。

 感情に任せて睨み付けるも……セリスは笑っていた。


「いい眼だ……私はその眼に惚れ込んだんだ………

 本当………抉り取ってしまいたくなるよ…………」


 気が付けばセリス……覇王は私と目と鼻の先にいて、普段セリスが撫でるような優しい手つきで私の瞼を撫でた。



魔セリス「1+(メイルシュトロ)1は?(ーム使ってみて)


メリル「2です(使えました)


魔セリス「suc(じゃあ……)(0)=1, suc(これは?)(1)=suc(suc(0))=2,

suc(2)=suc(suc(suc(0)))=3」


メリル「………はい?」


覇王「(メイルシュトロ)だな(ームだな)

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