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覇王セリスの後日談  作者: ダンヴィル
1章、平和な世界
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身分証の発行


 セリスさんの演技力もあり検問を無事に通過した私達は身分証を発行する為に冒険者ギルドを目指して進む。

 その途中、我慢しきれなくなりターニャが口を開く。


「おい、流石に挙動不審すぎるぞ?」


 先程から忙しなく色んな物に目を向けるセリスさんは声を掛けられると猫のような笑みを浮かべて言葉遊びをするような口調でこう言った。


「いや~、メリルちゃん曰く私は人混みが苦手みたいでね、街になんてあまり来ないのが普通のようだからねぇ~。

 それなら目新しい物が多いのも当然で気になって仕方なくても仕方ないとは思わないかい?実際目新しい物ばかりだしねぇ~。

 ほら、あそこで売っているのとか凄く美味しそうだと思うのだけどターニャちゃんはあれを食べたことはあるかい?」


「ターニャちゃんとか言うな。ターニャで良い。

 あれってリンゴだろ?私は焼いた方が好きだな」


「ターニャね、りょーかい。

 焼いた方が好きって事はそのままでも食べられるのかな?

 それじゃあれは?こっちの方では羽を食べる文化があるのか?」


「あれはコウモリの翼を揚げたもので酒に合うぞ」


「なるほど、酒に合うのか。

 冷えたエールが飲みたいねぇ……」


「これから寒くなるのに冷えたエールが飲みたいって物好きだな」


「冷えてないエールなんて甘い飲み物でしか無いだろうに」


「私は甘い方が好きですけどね」


「メリルちゃんは甘いものが好きなのかい?

 なら私の大好物のキャンディーをあげよう」


「ありがとうございます。これ美味しいですよね」


「お~、気が合うね。私も昔からキャンディーが大好きでね、そう言ってくれるとあげるかいがあるよ。

 ターニャもいるかい?甘味は食べるだけで心が落ち着くと私は思うし」


「そう思うならそもそも煽ってくんな。……1つ貰おう」


「素直で結構。……ふむ、これだけ覚えれば一応良いかな」


 そう言いセリスさんは満足したように周囲を見渡すのを止めて荷台に寝転がる。


「何を?」


「何って言語に決まってるだろう?

 魔法で翻訳付きで言語を聞かされてたからね。

 これだけの時間聞いてれば日常会話くらいできるようになるでしょ?

 と言うよりも私は門番に話し掛けた時魔法を使わず喋ってたと思うけどどこかおかしかったかい?」


 なんて事無いようにセリスさんは言ってのけたけど凄くないそれ?


「いえ……おかしくは無かった……と、思います……よね?」


「あぁ、そうだな……」


 ターニャが私の方を向き一瞬お互いの顔を見会う。

 その意図は当然、そんな短時間で覚えられる物なのかと言うもので、少なくとも私には絶対に無理だと首を振り操縦に集中する事にした。


 数分後、ようやく目的の冒険者ギルドへと到着した。


「着いたみたいだね。ここが冒険者ギルド?」


「はい、冒険者ギルドの第2本部ですよ」


「第2?」


「そっちとは規則が違うのか?

 Dランク以上のランクに上がるには本部と呼ばれる十分な設備が揃った場所でしか受ける事ができない試験があって、それに合格しないとD以上になれないんだ。

 だから本部と言っても第2、第3が存在する」


「不正防止とかかね……その辺は私の方より良くできた仕組みかもしれないね」


 セリスさんはとても興味げに頷いた。


 私の認識としても冒険者ギルドの治安が良くなる度にその設備や目的に変化が起きていて、最近では民間人にとっても入るのに躊躇の要らない程良い雰囲気をしている。

 怖い顔をした人とかも要ることは要ますがやはり昔とは違う。

 これはセリスさんの言うとおり『良くできた仕組み』へと変わっているから起きる現象としか言いようがありませんね。


「さて、ここでおもいっきり派手に入ってメリルちゃんが恥ずかしがる顔を見るか普通に入るかどうか……」


「普通にしていてください」


 真剣な表情をして何言ってるんでしょうか、隙あらばからかおうとしてくる遠慮の無さ。

 ここに来るまでの間にいったい何度からかわれたか。

 だと言うのに本気で嫌だと思わせる事はしてこないのが不思議です。


 ですがそれとこれとは話は別です。

 共に行動してる間に1度だけでも仕返ししたいところですね。


「それで何処で登録を済ませれば良いのかな?」


「あっちの受付に行って名前や年齢、天職なんかを書けば良かったと思うぞ」


「転職?」


「セリスの天職は魔法使いだろ?私は剣士だ」


「転職……いや、天職かな?うん、そう言うのもあるのか。ありがとう」


 お礼を告げてターニャに教えてもらった方へセリスさんは向かって行った。


「なあメリル、セリスの事どう思う?」


 セリスさんが話始めたのを確認してから話しかけてきた。

 正直あの人なら話しながらでもこっちに注意を向けられると思うので無駄だと思いますが。


「そうですね……ナイフを突きつけられた私が言うのも変かもしれませんが、セリスさんが悪い人だなんて思えませんね。

 むしろ優しい人だと思います。

 それと他人が好きなのかもと思いました」


「他人好き?」


「ええ、セリスさんは他人が好きだから楽しませたり困らせてみたり色んな表情が見てみたいのではないかと……」


 そう、セリスさんの行動に対して少ない時間で出した一時の答えがコレ。

 セリスさんの私に向けてくる魔力の気配は好奇心で溢れている。

 私の色んな姿を見て好意を向けてきてくれているのがわかる。

 その柔らかな感情の魔力が心地よくて私も少しは緊張がほぐされている。

 もしそうでなかったら命を掛けるプレッシャーでもっとガチガチになっていたと思いますからね。


「他人が好きね~……私には無い着目点だな」


「私は種族が種族ですからね。

 安全な場所の見極めはどの人種より敏感だと自負していますから」


「なるほど、そりゃヒューマンとじゃ見方が違うわ」


「あとセリスさんただ者じゃ無いですよね。

 魔法使いとしても盗賊としても天職として他を寄せ付けないのではないですか?」


「だよな~……」


「それと……」


「まだ何かあるか?」


「はい、セリスさんはとても綺麗でカッコイイ人だと思いました」


 月明かりに煌めく銀髪に吸い込まれるような赤い瞳。

 その神々しさに対して信じられない程人懐っこくて、堂々とした佇まいがカッコイイと思う。


 そう思いながら厚着の隙間から出ている自分の銀髪を軽く撫でる。

 本当、同じ銀髪だというのに私とでは雲泥の差……

 なんて綺麗なんだろう…………


「綺麗なのは認めるがカッコイイか?ウザイと思うんだが」


「それはターニャの接し方が悪いだけですよ。

 むしろあんな露骨に嫌そうにしてたターニャをそよ風みたいにあしらっている所は素直に尊敬できるかな」


「まあ……自分のペースを乱さないのは凄いよ」


「でしょう?」


「そうだな………メリル、なんか楽しそうだな」


「………?そうでしょうか?」


「そうだよ。ま、楽しそうで何よりだ」


 聞きたいことを聞き一先ず満足した様子で私も安心した。

 気になる事を言われましたけど、言われてみればそんな気もしますし、こんな簡単な事でどれだけの利益が得られるか楽しみなのも事実ですからね。


 それから少ししてセリスさんが戻ってきた。


「お待たせ、こっちの冒険者ギルドって思った以上に細かなルールがあるんだね。

 私は規則を全て暗記できたけどさ、最低限の教養がある者じゃなきゃ冒険者にもなれなそうなんだがスラムは平気なのかねぇ~」


「10歳から12歳までは義務教育がありますからね。

 義務教育では文字は学びませんが、冒険者になれる程度の最低限のルールは学びまから」


「な……え……それは……凄いね……」


 この辺では当たり前の事を話したのですがセリスさんは本当に信じられないと言いたいかのように驚いていた。

 冒険者としてと言いましたけど、正直農民だろうと最低ランクのモンスターを一対一で倒せる強さまで鍛え、集団戦の練習や避難誘導等その他色々な知識を学ばないと死んでしまいますからね。


「……と、そうだメリルちゃん。

 情けないが私お金が無くて登録がね……」


「おっと、そうでしたね。渡し忘れていましたごめんなさい」


 登録料が必要なのがわかっていたのに渡し忘れ、少しの恥ずかしさを覚え焦る感じで手渡しました。


「ありがとう。

 ところで少しだけ軽い試験をするみたいなんだけどさ、二人とも良かったら見ないかい?」


「え?良いのですか?」


「私の切り札の1つや2つバレたって何の問題無いよ。

 何故なら、仮にも私は元覇王だからね」


 冒険者の中でも魔法使いはそういうの隠したがる人が多いのにバレても気にならない程沢山の技術がある……それは素直に凄いですね。

 職業魔法使いではありませんが、魔法を使用できる者として興味が湧きます。


 ただセリスさんの覇王押しはよく分かりませんが………


「ではお言葉に甘えて」




 ・




「それでは魔法使いとしてのセリス様の試験をさせていただきます」


 冒険者ギルドの地下室にある訓練所へ訪れた。

 ターニャとの付き添いで何度か訪れた事はあるけど本部の地下訓練所は相変わらず広いですね。

 他のギルドはこの広さの1割もあれば十分で、下手をしたら訓練所なんて無いギルドも少なくありません。

 それに、時間も時間で人が少ない事もあって尚更広く感じます。


「セリス様は天職魔法使いとしてのご登録ですので試験内容は攻撃魔法の威力、速度、正確性を調べる試験としてあちらに並ぶ的五つを左から順番に得意な攻撃魔法を放ってください」


「まとめて吹き飛ばすのは良いのかい?」


「基礎がどれだけできているかを調べるものなので駄目です。

 パーティを推奨する場合にあたっての目安として使われる資料になりますので」


「わかった。それじゃ仲間を巻き込まない魔法にしよう」


 フフンと余裕の笑みを浮かべたセリスさんはゆっくりと手を向け……途中で手を止める。


「……あの、セリスさんどうしました?」


「ん~……せっかくメリルちゃんみたいな子に魔法見せるんだから華やかなのが良いかなって……しかし地味でも洗練されたものの方がメリルちゃんの魔力感知能力的に受けが良いだろうか………」


 ペチペチと人差し指で自分の下唇に触れながら思考してしまう。

 ……なんでしょう、微妙な顔立ちの人がその仕草やってもどうとも思わないのですが、セリスさんの場合はまるで絵画のようにとても美しく思えてしまうのは気のせいでしょうか?


「よし、決めた」


 手を大きくあげ、パチンと指を鳴らすと同時に空中に50本程の白銀のレイピアが出現し、手を振り下ろした。


「凄い………」


 レイピアはうっすらと青い魔力の輝きを宿し、光の線を引きながら高速で的へと飛んで行き、その全てが順番に、それも的の中心へと正確に突き刺さる。


「ん……まあ良いか」


 セリスさんが腕を振るとレイピアの全てが消えてなくなり、残ったのは穴が1ヶ所に異様としか言いようがないほど密着した的だけで、周囲に居た人達の僅な音すら消える。

 今の光景は端から見ていた他人からしてみても異様としか言いようがないのでしょうね。


「それで、他に何か試験はあるのかい?」


「え……あ、いいえ!

 本来はありますがセリス様には必要無しと判断しこれで終了となります」


「そうかい、お疲れ様」


 試験も終了し、その後何事も無く冒険者カードを発行してもらいGランク冒険者としての身分を手に入れられました。




 ・




「それじゃ私はいつもの宿に行って先に取っておくよ」


「ありがとうごさいます」


 冒険者ギルドでの用が済んだのでターニャにいつも泊まる宿を取ってもらう事にし、僕は知り合いの商人に物資を売る為に別行動をする事になります。

 ここまでは概ねいつもの流です。


「セリスさんもターニャの方に行っても構いませんよ?

 見ていても面白いものではないでしょうし」


「いや、私はメリルちゃんの方が気に入っているから契約関係が無かったにしてもメリルちゃんの側にいるよ」


「そうですか」


 さっきの凄い魔力コントロールを魅せたセリスさんに笑顔でそう言われるのは何となく良い気分になりますね。


「まあ……確かに喧嘩腰のターニャよりは良いかもしれませんしね」


「セリスに喧嘩売るなんて命知らずな真似しねえよ」


 まあ仮に喧嘩を売っても軽く流される未来しか見えないのですけど。




 ・




「こんにちはレートンさん」


「お、久しぶりだな坊主。

 今回は何を持って……どうした、えらいべっぴんさん連れてるな。

 ちと目付きが鋭すぎる気がするが……」


 目的の出店へ到着した僕を向かえた店主の目がセリスさんに移りそう言った。


「ん、ああ。私はこの子の姉のセリスって言うんだ」


「坊主にこんな姉がいたのか……」


「違いますよ、瞳の色が違うから解りますよね?」


「ん?同じ茶色じゃないか」


「えっ?」


 私が驚いた様子でセリスさんを見ると、確かに瞳は茶色になっています。

 セリスさんは私と目が会うと猫のような笑みを浮かべる。


『丁度同じ髪の色だしその方が説明は楽だろう?』


 口を動かした様子は無いのにセリスさんの声がハッキリと聞こえました。

 しかしその声はレートンさんに聞こえている様子は無い。


 その事に僕は軽い混乱をしていたらセリスさんが帽子越しに頭を撫でてくる。


「ほら、身内が見てるからって変な緊張していたら一人前にはほど遠いでしょ?」

『昨日聞かれたから説明したろ?この魔法は対象に伝えたい事を理解させる魔法だ。別に口に出す必要は無いんだよ』


 セリスさんの言葉が重なって聞こえる。

 だと言うのに二つの言葉は混ざる事無く自然と理解できる不思議な感覚をしている。


 ……って!?


「撫でないでください!」


「お、すまないね」


 私はサッ……っと血の気が引いて無理矢理手を払う。

 ……この人は多分………私の種族ドリーミーだと知っても差別しない。

 そんな風に心の何処かで感じている。

 だから頭を触れさせる事を許してしまった。


 頭に羽を生やした人種はドリーミーしか存在せず、私をドリーミーだと知って態度が変貌する人を何人も見てきた。


 だから、少し怖かった。


 だというのにセリスさんはとても楽しそうに謝罪してきた。

 全く謝罪の意思を感じられません。


「仲が良さそうでいいな坊主。それで何を持ってきたんだ?」


 ハッ、いけない。

 今は商談中………


「釘と岩塩です」


 セリスさんにかき乱された気持ちを直ぐに商談モードへ切り替えて答えた。


「ん?釘ならフォンドで売った方が良かったんじゃないのか?」


「そこは行商人の定めと言いますか、旅の途中でこちらに来た方が良い事態に陥りまして……」


「そりゃあ災難だったな。

 だが相場より高く買い取ってやれるほどうちも余裕はねえな」


「いえ、そのようなつもりはありませんとも。

 それにしてもここの…………」


 こうして何時も通り他愛のない会話に織り交ぜ商談を進めていく。

 出だしは悪かったですがセリスさんが愛想良く話しかけて私を援護してくれたりしたので上乗という感じの結果に終わりました。


 その後レートンさんと数十分程情報交換をしてからターニャの待つ宿へ向かう途中でセリスさんが口を開く。


「メリルちゃん、私は商人と言う人種は理解できても商売の事まではそこまで詳しくないから不思議なのだけど、何故あの場で私の売買はしなかったんだい?」


「ああいう店ですと大すぎる金額は動かせません。

 セリスさんが売る予定の物は高すぎるのもありますが、今回の場合は僕が売ったばかりなのでその額を越える売買を続けるなんてとても見込めません。

 ですのでセリスさんの方は個人の経営ではなく商業ギルドの方へ明日にでも向かおうと考えています」


「ふうん……ねえ、メリルちゃんに頼みがあるのだけど良いかい?」


「なんですか?」


「私無一文だから奢ってくれないかな?」


 ………あれ?何で態々聞くのでしょう?

 冒険者登録みたいに無いから欲しいと言えば………もしかして契約上宿代なんかは含まれていない?


「……もう契約はしたくないので宿と食費は奢りますよ。

 と言うよりも初めからそのつもりでした」


「え、本当かい?悪いね~」


 全く悪いと思ってない口調でそう言いながら手綱を持つ私に体を預けてくる。

 出会って全然時間は建ってない筈なのに、ここまで接近されても嫌だと思わないどころか、不思議と安心感さえ覚えてくる。

 ついさっき拒絶してしまったばかりなのに。

 セリスさんはやっぱり不思議ですね。


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