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覇王セリスの後日談  作者: ダンヴィル
三章、闘技大会
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休憩時間


 1時頃のバトルロイヤルが終了し二時間の休憩後勝ち抜き戦が始まり、前大会のベスト8位まではバトルロイヤル免除組としてA~Dブロックで勝ち残った計8人が勝ち抜き戦に参加する事になります。


 16人から対戦相手と何戦目か決まるのですが、これは完全にランダムなのだという話です。

 一戦で用意されている時間は10分なのですが、5分もしないで終わる事の方が多いので1日で終わるんですよね。


 先程選手の紹介表なるものを見てきたのですが、恐らくセリスの狙い通りの結果。

 セリスの紹介文は地味で運営すらも期待してないように感じられます。しかし、狙い通りだとしても私は不満を感じました。

 セリスはとても凄い魔法使いなのにと。


 大会での掛けでは第一回戦が始まる前に優勝者を予想するというものもありまして、トーナメント開始前に優勝者を予想する掛けは一勝毎のものとは倍率が違います。

 ちなみに出場選手は掛ける事ができませんのでセリスが自分に掛けるなんて事はできません。


 私は当然セリスが優勝する事に銀貨一枚を掛けました。

 周囲から止めとけ等と野次が飛んで来ましたが知ったことではありません。


 周囲の話を聞く限りセリスに掛けるのは銅貨一枚半ですら大穴狙いだろうって……それは流石に失礼過ぎではありません?


 本当は金貨どころか全財産掛けても良いんですよ!

 ただ、私が掛けたのが銀貨なのはその……あまり大金になりすぎると後で血の雨が降りそうな気がして怖いので………


「只今戻りました」


「おかえりメリル」


 個室に戻ると元々私が座っていた席にセリスが座っていました。

 ミカエルさんも戻ってきているみたいでセリスと雑談していた様子です。


「おかえりなさいセリス、勝ち抜き戦進出おめでとうございます」


「当然だけどありがとう。メリルに誉められると嬉しいよ」


 セリスは笑顔でそう言いましたが、私はその姿を見て首をかしげる。


「セリス……なんか元気ありません?」


 私の言葉を聞きセリスはピクリと小さく反応し、次には疲れたような雰囲気の魔力が駄々漏れになる。


「はぁ……抑えていたつもりだけどメリルにはお見通しかぁ………」


「そんな様子で仕合は大丈夫なんですか?」


「ん、あぁ……心境云々で勝敗が左右するほど拮抗した実力者が居ないからね。出るからには勝つ」


 横で見ていたミカエルさんは表情とは裏腹に魔力が露骨にホッとしたような様子を見せる。

 いったいいくら掛けたのでしょう……


 しかし今はそれよりセリスが心配だ。


「セリス、私にしてほしい事は何かありませんか?」


 何度か見たことある状態に似てるけど、今の状態はどうみても折れる一歩手前まで来ている。

 ここでするのは恥ずかしいけど……

 それよりもセリスが大事だから行動に移りましょう。


「えっと……ミカエルの前だけど……良いのかい?嫌じゃない?」


「私は、セリスが消えてしまいそうな程の不安を抱いている事の方がずっと嫌です」


 私が真剣にそう答えると、「そっか……」と口にしてセリスは頬を緩めて俯く。その魔力から喜んでくれているのだと感じて私も少しホッとする。


「それじゃあ……少しこっちに来てくれないかい?」


 セリスは自分の膝をポンポンと叩きそう言う。

 私はほんの少し躊躇いましたが言われるがままセリスの膝に座ると、いつもより強めの力で抱き締められます。


 セリスのこの様子を初めて見たミカエルさんはかなり驚いた表情をしますが気にしていられません。

 私からはセリスの表情を見ることはできませんが、きっと今のセリスはとても苦しそうな表情をしているはずですから。


「メリル……」


 消え入りそうな声で私の名前を呼び、抱き締める力が強くなる。

 しかし込められる力と同時に感じる不安も大きくなっていき、私はセリスの手を撫でながら声をかける。

 セリスが安心できるよう、精一杯の思いをのせて。


「はいはい、私はここに居ますよ」


「そうだね……」


「…………どうしたんです?セリスは何がそんなに不安なのですか?

 いくら私でも言ってくれなければ分かりませんよ?」


 数秒の無言の後に「そうだね……」と呟きポツポツと口にする。


「さっきの試合……私の実力に気付いてくれるような……そんな強者がいてくれる事をたぶん私は望んでいた…………

 でも……私はそんな実力者など存在せず平和な世界をメリルとのんびり過ごしたいと望んでいるんだよ……」


 のんびり過ごしたいというのはお互い何度も確認したことですので大きく頷いてから確認をする。


「セリスは戦いがしたいのですか?」


「違う……なんて説明すれば良いのかな……私は戦いたいとか、そういう意欲とは違う……言うなれば狂気。

 私の中に狂気があるんだよ……

 どう戦うか……とかそんなんじゃなくて………どう壊すか…………

 メリル……知っているかい?戦う事は大変かもしれないけど……ただ殺す事は意外にも簡単なんだよ……」


 狂気……その言葉を聞いて天空城で見た悪夢のような過去の出来事を思い出し、あの時に見せたセリスの表情が過る。

 確かに、あれは狂気と言う言葉が一番しっくり来るかもしれない。


「だからあんなもの(メリル)に見せて良いものではない……

 な~んて思っていたりしている訳ですか?」


 私の言葉を聞いたセリスの力が緩む。


「よっと」

「あ……」


 なので私は手を退けて立ち上がる。

 セリスは私へ手を伸ばそうとするも、途中で諦めたのか下げてうつ向いてしまう。

 これは予想以上に重傷ですね。


「セリス」


 さっきのお返しとばかりにセリスの頭を抱き締めて語り掛けます。


「残念ながら私はその姿を既に見たことがありますよ?

 上位魔法のアカシックレコードでしたっけ?

 それと同じ現象の時に見たセリスは、まるで張り付けたような笑顔をしていて、狂ったような高笑いをしながらも大粒の涙を流していました。

 それでもセリスは戦っていた。生きるために……

 セリスが私に見せたくないと言うその姿を既に私は見て、感じ取っています。だから大丈夫。

 私がセリスの側から離れないでいる事が答えで良いじゃないですか」


 抱き締めるのを止める変わりにセリスの頭を撫でる。

 ……うん、ミカエルさんは出て行ってくれましたね。

 助かりますけど本当に申し訳ない。


「……セリス」


 撫でていた手でセリスの髪をかきあげ、私はセリスのおでこにキスをする。

 額へのキス。意味は深い信頼。


「………メリル?」


「げ……元気出してください……今の、凄く恥ずかしかったんですよ?

 私は……セリスの事をなにがなんでも信じますから………

 セリスがそんなだと、私が不安になってしまいます」


 私の行動がかなり意外だったのかセリスは私をじっと見つめて何も喋ってくれない。

 ただ、その視線はどことなく熱い感じがします。


 あ……あああああ!何でこんなことしたんだろ私!

 ヤダ、恥ずかしくて死んでしまいそう……

 さっきから胸もドックンドックンと緊張しすぎと恥ずかしさで五月蝿いです!


「……怖くなかったのかい?」


「え?」


 やっと話してくれたと思ったら何が………って、天空城での光景の事ですね?


「あぁ、あの光景ですよね?もちろん怖かったですよ?

 セリスだって私が怒ると怖がりますよね?」


「ん、そう……ん~?それとは違うんじゃないのかい?」


 首を傾げて否定するセリスはもう殆ど正常なセリスに戻っていてホッとする。


「確かに違いますけど似たようなものです。

 私も私なりに考えたんですよ?

 私は、あの光景のセリスもセリスなんだと思っています。

 ああならなければ生きられなかったからとか、そんな事はどうだって構いません。

『どんなになろうと私はセリスを信じられるのか』そう自問自答した結果、例えああなろうとセリスになら私は命だって預けられますよ?

 それに、あれが無ければ今のセリスは無いんだと私は思っています。

 だから、その辺も、セリスの全部としっかり向き合うつもりなので不安にならなくても平気です」


「そっか…………うん、分かったよ。

 それなら私はその一面も隠すこと無く全力で戦おう」


「そうしてください、セリスは変なところを気にしすぎなんですよ。

 今更私はその程度の事でセリスから離れたりしません。

 例えセリスが本当は魔法使いじゃなくて、天使だろうが、悪魔だろうが、神であろうが……

 セリスが私を大切にしている分、私もセリスをいっぱい幸せにしますので」


 そう言って私は笑顔でセリスに手を差し伸べる。

 あ~もう、恥ずかしすぎる。

 ちゃんと笑いかけられてるかな?

 セリスを不安にさせるような感じになってないかな?

 恥ずかしさと不安と期待で胸がはち切れそう。


「ふふ……ありがとうメリル。

 私も、おせっかいになりすぎない程度でめいいっぱいメリルを幸せにするよ」


 どこまでも綺麗な笑顔をして、私の手を握ってくれる。

 はぁ……本当にセリスは美人さんだなぁ。

 私も今、頑張ってみたけどセリスの笑顔には敵わないなぁ……


「……ただ、神呼ばわりというのは少し嫌だなぁ。

 神の定義ってそれは色々あるけど、その中でも神と呼ばれる大半は人類ではどうしようもない程の力を持っている奴の事を言うんだよ。

 それの前では人々はただ祈り、願う事しかできない。

 あぁどうか……その力がこちらに向きませんように………と願い続けてそれが過ぎ去るのを待つことしかできない………

 そんな存在が神なんだよ」


 大袈裟な演技までして教えてくれます。

 しかし、それって……


「…………気のせいでしょうか?

 私の中で思いっきりそれがセリスに当てはまるんですけど…………」


 私の言葉を聞いたセリスは数秒の無言の後に一度吹き出して必死に笑いを堪える。


「フ……フフフフフ……ククッ……た、確かに……ミィやアンドロメダ、それと私はこの世界じゃ神に最も近しいかもね……フフッ!」


 フー、と息を大きく吐き、「よし!」とセリスは元気良く言った。


「ありがとうメリル、元気出たよ!

 それじゃ私は悪党冥利につきるくらい派手に勝ち抜いてくるね」


「大怪我させない程度に頑張ってくださいね」


「それはちゃんと気を付けるよ、またね」


 手をヒラヒラと振りセリスは鼻歌混じりで機嫌良く部屋から出て行くと入れ替わるようにミカエルさんが入ってきます。


「……なんと言いますか、思っていた以上に仲が宜しいのですね」


「本当に申し訳ありません、お恥ずかしい所をお見せしました」


 やっぱり扉一枚越しに居ましたか。

 うぅ……いったい何処まで聞こえて何処まで見ていたのでしょうか………


「いえいえ、しかしセリス様があの様な姿を見せるとは思いませんでした」


「私もミカエルさんの前であの姿を見せるとは思いませんでしたね。

 普段は私と二人きりの時しか見せないのに……」


「普段からなのですか?」


「普段から……という訳でもありませんが、ああ見えてセリスは甘えたがり屋さんなんですよ。

 背負い込んでいた重石のせいでその姿を見せられなかっただけで、本当は優しくてか弱い魔法使いなんですよ?

 ただ、セリスは警戒心が強すぎて見せても良いと思える人しか居ない時にだけ見せるので、提案しておいて正直意外でしたね」


 まさかあそこまでさらけ出すなんて思ってもみませんでした。


「そうですか……」


 ミカエルさん何か言いたそうな気配はしますが、私の中でのセリスは本当にそうなので嘘は全く言っていません。


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