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覇王セリスの後日談  作者: ダンヴィル
2章、軽い刺激
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ダンジョン攻略


 町の地下にある迷路のように複雑な用水路から一変して私達はまるでどこかのお屋敷のような通路を進んで行く。


 数歩前にいたセリスの歩行速度が上がり、流れるようなとても優雅な動きで不恰好な泥の人形達の横を通りすぎると全て纏めて崩れ落ちた。


 手には若干水色がかった美しいミスリルの剣が握られていて、剣に刃こぼれが無いか確認するセリスの横顔は、村娘の格好とは裏腹に女神や戦乙女という言葉が似合うほど美しくて神秘的な雰囲気を感じさせる。


「うん、剣は久し振りだから不安だったけどこれなら問題無さそうだね」


 ヒュンッ!と一振りしてから剣を鞘に納めると、ダンッ!と地面を踏みつけると魔法陣が出現し、剣の消滅と共に新たな武器が出現する。


「それじゃ次はこれでいってみようかねぇ」


 そんな気楽な声に似つかわしくない程凶悪かつ破壊を求めているような、紫、赤、黒色と禍々しくも巨大な斧。それを肩へと担ぐ。


「いつもそんな感じなら凄く格好いいのに……」


「ん?あぁ、本当は今頃私達は祭りでデートしてたでしょ?

 メリルには弱い姿ばかり見せてたからね、たまには格好いい私の姿も見せようと思ってね。

 どれだけ追い詰められようが気品ある勝利をしてこその覇王!」


 バッ!バッ!と言葉を区切る度に悪く言えば変な仕草、良く言えば格好いいポーズを決め、パチンと指を鳴らすと村娘の服装から赤と黒の豪華で……フワリとしたローブ?へと変わる。

 なんでしょう?重力を感じさせないといいますか、少し浮いて……魔力を使っている感じがしないのに浮いてる?

 高価そうな黒ブーツが魔力と反発する感じで浮いている……んでしょうか?正確にはわかりません。


「呪い系統魔法の王者で覇王であるのはこのセリス・アルバーンただ一人ッ!!!ハーッハッハッハッハッハ!!!」


 手で顔を押さえて高らかに笑う姿は何かの演劇の悪役のようにわざとらしいのに、違和感を感じさせるものでなく身に付いた動作なのだと思わされる。

 服装も合わせて見た目が凄く邪悪に見えます。

 それでも神秘的に感じる所が凄い。


「デートって……魔法使いなのに剣士も真っ青な剣技を使うし、町娘と変わらない格好してたし色々言いたい事がありすぎてどうしたら……」


「誉めてもキャンディーしかないよ。

 よし、私の大好きなキャンディーをあげよう」


 その高価そうなローブの袖からキャンディーの入ったビンが出て来て、格好のせいで何かしらの魔法薬に見えますね。


「誉めていませんよ」


 思わずため息が出た。

 だけど疲れて出たのではありません。


「……でもキャンディーは貰います」


「うん、素直でけっこう」


 キャンディーを口に放り込み、主張しすぎない優しい甘さにホッとする。


 先程ため息を出してしまいましたが、セリスには感謝しています。

 正直、セリスが覇王様全快なお陰でこの場で感じる気持ち悪さがとても和らいでいますから。

 このキャンディーにしても本当に助かります。


「しかしデートですか……私も女性ですし、普段どこか抜けていてもセリスみたいな紳士的な人とならそう言うのは憧れますよね。

 行商の旅にそう言った出会いを期待する方が悪いですけど」


「紳士的って失礼な、私はどこからどう見ても立派な淑女で覇王だぞ?」


「淑女で覇王……?

 ……やっぱりセリスは紳士的って感じなんですけど」


「どっちだって良いだろ!?

 包囲されたのを殲滅してくれた事には感謝するが早く解決するべきだ!」


 私とセリスの会話にトーマスさんが割り込んでくる。

 その言葉を聞いてセリスはポカンとした顔をしたと思ったら……


「ちょっ……も……ムリ……ハハ……アハハハハハハハ!!!」


 お腹を押さえて爆笑しはじめた。

 なんかすごく珍しい……

 なにがって、面白くて笑ってんじゃなくて馬鹿馬鹿しくて笑いを堪えられないとセリスの魔力までもが全力でトーマスさんを煽っているのですから。

 そのトーマスさんはセリスの魔力に包まれ、笑われている事に僅かな怒りを感じているようですが、それ以上に恐怖を感じているようですね。

 まるで、目の前の強大な何かに蹂躙されるのを恐れるように。


 ………そんなに怖がらなくても良いのに。


「アハ、ハ、ハハハハケッホケホケホ!ハハ……は~、お腹痛い、フフフ、いや、面白いこと言うね本当、フフ!」


「面白いだなんて微塵も思ってないくせに」


「あ、当た……フフフ!ハハハハハ」


 あ……これ演技してたら変にツボに入って止められなくなってますね。

 それでも必死に私に指差して当たりと言ってる。


「スゥ~……フ~…………

 魔力切れの未熟者が生意気言うじゃないか、うん?

 魔力が切れてからメリルは当然、手抜きで攻撃魔法1つ使わない私より活躍できてないって自覚できてないのかい?」


「ぐっ……」


 トーマスさんは何も言えなくなってしまいました。


 かなりのんびり進んでいますが、私の羽は最短ルートだけでなく何処にどのような罠があるか教えてくれてますので罠に掛かろうとする方が難しいです。


「……って、今手抜きって認めましたね?」


「魔法使いが魔法を使わない時点で手抜きでしょ?

 私は剣の技術はあっても剣の技は使えないし斧も同様ね」


 確かにさっきの剣は技ではありませんでした。

 技を使用すると剣が魔力で光るんですよ。

 そもそも技は武器や肉体から放たれる魔法のようなモノで魔力を使っています。

 技が使えないというのは、技と魔法は原理は同じでも出し方が違うらしいです。

 ですが意図的に技を放つ為に必要な場所を塞ぐ事により魔法の威力を上げているらしいです。

 その分魔法の出力が上がりすぎてじゃじゃ馬のように扱いにくくなるので本人の腕の見せ所になるとセリスが言っていました。

 しかしそれは今は置いておいて……


「セリス?ファスタム辺境伯もいるのですから手抜きなんてしないでくださいよ」


「いや、ワシは珍しいこの場所の魔力の流れなんかを感じ取れて充実しておるからもう少しゆっくりでも良いと思っておるぞ?」


「あ……えっと……」


 先程も思いましたがセリスが居るからまだ大丈夫ですけど、私はこの場所が気持ち悪くてたまりません。

 足場や壁がまるで脈打っているかのように魔力が流れているのが、どこまでも不安を煽ってくるような気持ち悪さを感じさせて早く出たい気持ちで一杯になりそう。


 だから私は口実を考えて1つ口に出した。


「実戦で!実戦の中でここにいる大魔法使いであるセリスの魔法の数々が見れるかもしれませんよ!

 あの青い魔方陣から出される魔法とか結局見れなかったですし私見てみたいですし!」


「メリル」


「ほら!セリスもやる気で……」


 私が思い付く事を勢いで口にしていたらセリスに引っ張られ抱き締められる。


「メリル……平静でいるように取り繕うとしてるけど流石にわざとらしすぎるよ?落ち着いて、どうしたんだい?何かあったのかい?」


 セリスは不安そうな顔をしながら、とても大切なものを触れるように私を撫でてくれる。

 大人しく撫でられて、私はようやく自分が冷静ではなかった事に気がついて「ごめんなさい」と言ったら「何に謝ってるの?」と笑われてしまいました。


「……セリス、私はこの場所が気持ち悪くて一早く出たいんです。

 この場所は、壁や床の魔力が脈打っているようで、セリスはさっき口の中と例えましたが、私にはまるで本当に丸飲みされたのではと思えてしまえて怖い……」


「……壁や床が脈打つだって?」


 ファスタム辺境伯が私の言葉に食い付く。


 私は自分の本心を語った事に後悔した。

 魔法使いであればそこはとても興味を引くところなのでしょう。

 だから、今のでここに居る時間が延びることになったと思ったら……


「わかった、これから全力で奴の排除とメリルの安全を第一にする……後者の部分は今と変わってないけどね」


「え?……良いのですか?」


「何がだい?」


「だって脈打っていると言ったらファスタム辺境伯が興味を持ちました。それはつまり魔法使いにとってそれは……」


「メリル、私はそんなどうでもいい物よりメリルを選ぶよ」


 瞬間、閃光が放たれた。

 そう錯覚するほどの強大で膨大な魔力。


「さてメリル、このダンジョンの魔力の進む先、つまりダンジョンの奥地だね。

 大まかで良いからダンジョンコアのある奥地がどっちだったか覚えているかい?」


 最早紺色一色、私の羽はセリスの魔力しか感じられない。

 それだけ強力な魔力を放つ本人は猫のような笑みを浮かべて質問してくる。

 この聞き方、たぶん私がセリスの魔力のせいで他のものを見失ったと理解しているのでしょう。


「あ……あっちです」


 私が指差す方向は壁。

 けれどそっちに魔力が集まり、またダンジョン全体へ走るを繰り返している感覚がしていたのでたぶんそれがダンジョンコアというモノなのでしょう。


 ……今更ですけどやっぱり私場違いですよね?

 ダンジョンはなんとなく知ってましたけど、ダンジョンコアなんて初耳ですよ?


「なるほど……さてメリル。良く見ていておくれ。

 メリルを信じて私は本気を出す。

 ただし、これはまだ私の全力には程遠いということを理解してほしい。

 私の全力は、大切な人までも傷付けるから出すことはできない。

 だから出せるのは本気まで」


「………???全力と本気って何が違うんですか?」


「大違いだよ、その辺メリルはまだまだ純粋だね。

 いくよ!レイジングカノン!」


 指先を壁へ向けると凄まじい魔法が放たれる。

 その赤いエネルギーはダンジョンの壁を消してしまい一本の巨大な道を作ってしまいました。


「凄い……」


「あ……あんな魔法……実在して良いのか………」


「っ……」


 私の言葉の後に、トーマスさんがまるで悪夢でも見ているかのような、とても小さいけれど確かにそう言い、それを耳にして自分の愚かしさを理解した。

 セリスはその力ゆえに全ての恐怖の対象とまでなったと言っていた。

 その力の一端でさえコレだ。

 私は、ここでもセリスに同じ事を繰り返させる気なの?


「あ、セリ「メリルッ!」


 セリスの背中に手を伸ばそうとしたら怒鳴るように名前を呼ばれてビクリと体が硬直した。

 その一瞬の間にセリスは振り返る。

 いつもの優しげな笑顔で。


「これで良いんだ、メリル。メリルがドリーミーなのと同じ。

 私もいつかはこの力を出さなければならない時がある」


「……ですが、何も今である必要は「あるよ」


 セリスが腕を大きく振る。

 すると魔法陣が出現し、ドールズファンタジアが発動する。

 ただ、いつもの小さな人形ではなく、等身大の人形。

 その全てが舞踏会で使用するような仮面を付けていて、その中の一人は………


「ミィさん……?」


「そうだね、ミィ人形だよ。

 この子達は本物に敵わないけれど、本物の細胞を利用する事で限りなく本物に近い事ができるようになっている。

 これが、私が無敗で居続けられた1つの要因。

 私は、私が殺した奴を文字通り自分の力にし続けていた。

 そうしなければとてもではないが生き残れない、そんな過酷な世界を生きてきたからこそ言える………平和とは!」


 セリスが一体の人形の顔をわしづかみ、仮面ごと砕けると人形は崩れ落ちた。


「平和とは、次の戦いまでの準備期間にしか過ぎない。

 こちらに来ようとそれは変わらない。

 300年、300年も良く平和が続いたものだ。素晴らしい。

 けどね、たった300年なんだよ。たった300年前には戦争があった。

 強者はたった300年じゃ寿命で死んだりしない。

 そして絶対に忘れない。その時に受けた傷を、痛みを、悲しみを……その感情は新たな力を生み、その力は新たな惨劇を描く。

 平和はそんな奴等が確実に何かを殺す為に力を蓄える準備期間なんだよ」


 ……このセリスの瞳、天空城で、アカシックレコードで見た過去のセリスがしていた表情とそっくりだ。

 目の前のセリスは笑顔なのに、何でそんな悲しそうな『顔』ができるの……?


「別に戦争なんてやっていよう構わない。けれど、メリルがいる間は駄目だ。だから私は考えたんだ。

 そして出した答えは、自身が戦争の抑止力になろうってね」


 そこまで言い終えたセリスの笑顔は、いつものような無邪気さを感じさせる猫のような笑みを浮かべていた。


「けっきょく、遅かれ早かれ私はこうしていたよ。

 その結果私は平和の象徴になるか、破壊の……恐怖の象徴になるのかわからない。

 それでも構わない、こんなにも軽やかな気持ちでいられるのはメリルのお陰だ」


「………セリス。そんな大事な事、もっと早く教える事、できなかったの?」


 あ……セリスのこの感じ、また勝手に決めていた感じですね。


「………ん、んん、まあ……その」


「怒ってませんよ。セリスがそう決めたなら私はこれ以上何も言いません」


「……本当かい?」


「本当です。……ただ、セリスの決めた事には言いませんけど、そこまで言い張るなら心の準備をする為にも思いっきり派手に解決して。

 セリスならこれくらいできるってわかっておかないと後々大変になってしまうかもしれませんので」


 私の周囲、セリスの魔力の雰囲気が暖かなモノへと変わる。

 怒られると不安そうにしていたセリスはニッと猫のような笑みを浮かべて宣言する。


「そっか。それじゃご注文通り飛びっ切り派手に、それでいてさっさと終わらせて帰るとしよう」


 人形の一体が動く。

 赤い髪をした女性の人形が手に持った棍を振るう。

 すると空間にヒビが入りガラスが砕けるようにダンジョンが崩壊する。


「な……なぁっ!?」


「ふふ、本当はここまでする気は無かったけど、そんなリアクションされたらやった甲斐があるよ。

 ………見つけた」


 割れたガラスのような空間が降り注ぐ黒染めの紙のように真っ暗な世界の中、セリスが指し示す方を見れば紺色の明かりを放つ何かが浮かんでいた。


『ーーーーーーー』


 聞いたことの無い言語を発し詠唱に入ると紺色の巨大な魔法陣が展開される。


「マジックディザスター」


 魔法が完成する。

 魔法は1枚の光でできたカードのような形となり、投げつける。


「エナジーフィールド」


 セリスが球状の魔力のバリアを展開する。


 その次の瞬間、世界が震えた。


 辺り一面光りに飲まれ、ビシビシィ!と絶え間無くバリアが鳴いていて、何より、バリアの外、光の中は雷、炎、風、水のそれらがのたうちまわるようで……


「………なんて言ったら良いのかわからない」


 ただ、一つ言える事は。

 こんなのを受けて生きていられる生き物が存在するだなんて思えない。


「これでもまだ優しい方の魔法なんだけどねぇ」


「これでですか!?」


「そうだよ、この魔法はまだまだ優しい。

 中にはこの私さえ口にすることすら恐ろしい魔法がある。

 あれは魔王を越える存在、魔神を召喚して怒らせるだけの魔法で使ったら最後、私も含めて全てが消えるだろうね」


 え……え?なにそれ………


「それ……使いませんよね」


「どうだろ?万が一、メリルも何もかも、もう一度、私にとって私以上に大切なモノ全てが踏みにじられ壊されたらわからないね。

 私だって、どうでも良くなる事くらいある。

 さ、ダンジョンを抜けるよ」


「きゃっ!」


 セリスがいきなり私をひっぱりお姫様だっこした瞬間。

 用水路へと私達は戻っていた。


「ふふ、きゃっだって。かわいい悲鳴。

 しかし、ちゃんと着地できたのは私だけかい?だらしないね」


 そんな事を言いながら丁寧に下ろされた。

 コアが壊れたら一瞬で戻るなんて事前情報ありませんでしたからね。

 その変を配慮してくれたのでしょう。


「フム、これで解決したんじゃない?」


 セリスが拾い上げた物を私も一緒に確認してみると、それはとても小さくて不格好な翡翠でした。

 こんなモノが魂を持ち、あんなダンジョンを作ってしまうなんて不思議ですね。


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