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覇王セリスの後日談  作者: ダンヴィル
1章、平和な世界
23/119

天空城3


 セリスのテレポーテーションにより一瞬視界が暗転し、同時に浮遊感を感じて着地する。


「綺麗………」


 風が髪を撫でる。


 視界いっぱいに広がるオレンジ色の世界……

 日が沈もうという僅かな時間帯に見れる幻想的な世界に目を奪われる。


 見下ろしてみると、雪で真っ白になっている山の表面もオレンジ色に色付いていてとても綺麗。


「綺麗か……眩しいばかりでそんな事思ったこと無かったな」


「私はメリルに付きっきりだったからね。

 前は余裕無くてターニャと同意見だったけど、今は綺麗だって思えるよ」


「そうですか、それは良い事ですね」


「本当にね」


「………あれ?」


「どうした?」


「あ、大したことじゃないんだけど………私さっき起きたばかりなのですがもう夕暮れなんですね」


 朝食として白パン食べて、歯を磨いて、本読んで、セリスとお話しして、体を拭いてもらって、お風呂に入って今です。


「そりゃ、あそこにずっといれば時間感覚狂うだろ。

 メリルは殆ど寝たきりだった訳だし」


「あ~……外が遠いですからねぇ……」


 私は天空城が広いって事しか知りませんでしたから。

 寝て気が付いたらあの部屋に居て、どっちが外へ通じてるかもわからないうえに、部屋から先程の大浴場まで歩いて一時間ですよ?


 お風呂行くのにそれだけ広いって……しかも一度階段を降りたので大浴場が一階な訳でして、途中で階段見つけられなかった場合、出口かと思えば二階でしたなんて、心が折れそうですよ。

 生きる分には申し分ありませんが生活しにくいですね本当。


「せっかくだし夕焼けをバックに撮る?」


「良いですね」


 と言うわけで写真撮影。

 一枚、二枚と普通に撮りました。

 三枚目「冒険者のお約束だから」とセリスが言い出し夕陽に向かって同時にジャンプする後ろ姿を撮りました。


「なんかこのセリスの後ろ姿凄く楽しそうですね」


「実際楽しいしね~。次どうしようか?」


「どうせなら場所を移して撮りません?

 次は城をバックにするとかどうです?」


「それならちゃんと太陽が上ってる時にした方が良いんじゃね?」


「う~ん……」


 と言われてもせっかく起きて健康になったばかりなんだし何かしたいという気持ちがあるんですよね。

 流石に懲りたので天空城から降りてなんてのは皆と相談するつもりですし、だからやる事がありません。

 セリスから魔法を教わるのも良いかもしれませんが……


「あ、ちょっとセリス。

 杖を抱えてあの瓦礫に座ってもらって良いですか?良い絵になりそう」


「これかい?」


「そうそんな感じです」


 セリスは私の指示通りに壊れたオブジェの残骸だろう瓦礫に腰掛ける。

 自然溢れる中、夕焼けの光を浴びて瓦礫に腰掛けて髪を撫でる美女。

 その周囲には柱等の形の残ったオブジェも存在し、セリスも分かっているのか魔力を垂れ流していて、それら全てがセリスを引き立てつつ、セリス自身もその神秘的な風景の魅力を際立たせているような写真が撮れました。


「うん、綺麗。ありがとうセリス」


「どういたしまして」


「本当は絵を描きたかったのですが時間がありませんのでこれで」


「ならまた明日付き合おっか?」


「良いんですか?」


「もちろん」


「ありがとうございます。

 あ、ほらこれ撮った写真です」


「……綺麗すぎだろ、誰だこいつ?」


「前から言ってたじゃないですか、セリスは美人なんですって」


「いや、それは認めるがここまで美人か?」


「ターニャ、適当に盛り付けるのと、食器から盛付けまで拘った料理、同じ味でも後者の方が美味しく感じるのと同じ理屈だよ」


「なるほど……まあ少しわかるな」


 え?わかるんですか?

 失礼かもしれないけどターニャはそういうの疎いかと思っていました。


「……そういやCが作った生き物がいないな。

 メリルに見せてやりたかったのに」


「……作った?」


「そうなんだよ、様々な種族の細胞を駆使して究極の生命体を作る為の実験で作られたよくわからなくて面白い生物がこの辺に沢山いるはずなんだが……夜になるから巣に戻ったのか?」


 究極の生命体……作る?

 え……Cってさっきの青い髪の少女?


「あの……さっきの少女が産んだのですか?」


「違うよメリル。ちょっと見てておくれ」


 セリスが一枚の紙を出現させ、放り投げる。

 するとその紙は折り曲っていき鳥の形へとなる。

 次の瞬間、魔力が急速に集まり、光ったと思えば白ハトになって飛んでいってしまいました。


「え………えっ!?」


「ハハハー、私と同じ反応してらー」


「ターニャは知ってたのですか?」


「セリスに見せてもらったからな。

 知ってるか?この世の生き物の全て肉体を保つには魔力が必要であり魔力が無くなる事は死ぬなんて生易しい物ではない。

 輪廻転生もできない完全な消滅と同意義なんだってよ」


「輪廻転生って……死んだ後に生まれ変わるってものですよね?」


「そうだよ。

 ただ、ターニャの説明に付け足すなら今の魔法は魔力で紙を分解して魔力を混ぜながらモノとしての存在を再構築するモノであってね、まさにこの魔法こそすごく簡単な輪廻転生みたいなものなんだよ」


「それは………凄いですねぇ…………」


 なんか、凄すぎて訳がわかりません。



「ところでターニャの探してる動物だけど、私がいるから皆奥の方へ逃げたんだよ」


「あ~……なるほどなぁ~………」


 あれだけ大暴れしましたからね、どんな馬鹿な動物でも普通は逃げますって。

 ターニャが面白いと言うのですから少し期待していたのですが、また機会はありますよね。


「だからちょっとつついて出すことにするよ」


「あの、そこまでして見たい訳ではありませんのでしなくて良いですよ?」


「……良いのかい?」


「はい。それに無理矢理は可哀想ですので」


「わかった。……もうすっかり日がくれてしまったね。

 3人で夕飯食べてゆっくりしてから寝よっか」


「他の人たちは誘わないんですか?」


「メリル、コイツに近づかないのは動物だけじゃなくて天使も同じなんだよ。つまりCがさっき逃げたのコイツが居たからだ。

 そんな可哀想な真似できるか」


「事実だが覇王と呼ばれるようになってから私の目の前でそんな事を言えたのターニャが初めてだ」


「………」


 流石に失礼だと言おうとしたけど、セリスもターニャも口喧嘩しそうな雰囲気なのに魔力は楽しそうにしている。

 なんでしょう、凄く不思議な感情です。



 ・



 それから数日し、私達目線からすれば広すぎる小天使用食堂にある大きな時計を見つめながらこう言うと……


「今日は11月28日ですよね?なら12月1日に天空城を降りて町で暮らしません?」


 ガシャン、とコップが割れる音が響いた。


「な……何か不満な事があったかい?」


 軽い絶望感と焦りの雰囲気の魔力を漂わせながら聞いてくる。

 え?そこまでショック?


「ちょっとセリス落ち着いて、不満なんて無いです……から………広すぎる以外……」


 食事の最中、様々な料理を人形達がテーブルへ並び終えたところで私がそう切り出したのですが、セリスの動揺具合が凄い。


「あのですね、これだけ雪が続いて2ヶ月以上どこの商業ギルドにも寄らないと死亡者扱いされて取り消されてしまうんですよ」


「な、なるほど……だとしてもまだ余裕はあるしすぐ戻れば………」


「セリス、ここの暮らしはとても裕福で過ごしやすいです。

 しかし過ごしやすすぎです。

 前にセリスと私で話しましたよね、私の夢の事。

 私は自分の店を持つ事が夢で、冬だからと店を閉じてここで過ごす訳には行きませんから」


 セリスの肩を掴み、一つ一つ丁寧に理由を説明していけばちゃんと頷いてくれて感情の高ぶりも収まっていく。

 そんな私達を見世物にして口にしたフィナンシェで甘くなったのを苦い紅茶で整えていたターニャが渋々と言った感じに私に同意する。


「私としては戻りたくないが一理あるな。ここは全ての質が高過ぎて慣れると戻った後の食事も満足できなくなるよな」


「…………なるほど」


「セリス、前にも言ったけどメリルの事になると視野が狭くなるの悪い癖だぞ」


 うん、私もそう思う。

 という意思の現れで頷いてみますが、セリスは私の行動が気に止まらないくらい上機嫌に話し出す。


「あぁ~、それなら大丈夫だよ。それは近いうちに減ってくから。

 なんたってメリルが私の弟子になってくれるのだから強くなるのは当然。

 並の冒険者なんて束になっても敵わなくなるくらいになるよ」


「え?そこまで強くなるつもりはありませんよ」


 ただ空を飛べるようになるとか、魔法による雑学を学びたかっただけなのに冒険者より強くなる必要性を感じられませんし、なによりそれは商人ではない気がします。


 そんな私の都合は他所に「それはどうかなぁ~?」と、これまた上機嫌に出した意見を否定する。


「フフ、そんな事言って良いのかねぇ~。

 正直、並の冒険者が束になってもターニャには敵わない。

 けどね、私基準で魔法の基礎ができるようになってしまえばターニャと同じ事ができて当然だよ?

 そして何より、その時期が一番魔法が面白い時期なのだよ」


 くるくると踊るように、劇の舞台かのような振る舞いで大げさな仕草で説明を始める。


「そうなんですか?」


「そうだよ。むしろこの世界が平和すぎて皆弱すぎる。

 私の世界はね、まるで地獄だよ。

 さっき言った一番面白いって言った魔法の部分、皮肉にも他国の誰かをより多く、より沢山殺すために作られたモノなんだよ。

 この私からしてみても、この方法を思い付き、実現させた魔法使いは、この私からして見ても素晴らしい才能を持っていたと思う。

 この世界で……セリス達とゆっくり過ごす時間ができて良く思う。

 私の世界は悲しすぎる。

 その素晴らしい才能を復讐の為にしか使えないよう世界が追い込み、そしてその力は新たな悲劇と憎しみを産み、また別の殺戮の術を造り出す根元となる……」


 セリス……だいぶ変わったな。

 心に余裕ができたのか、悲しいって気持ちもあるけど、たぶんその光景を思い出して懐かしみつつ迫真の演技で、一つ一つ丁寧な動作で悲惨さを説明する。


「……っと、これだけ言うと物騒な魔法だね。

 まあ実際に物騒ではあるんだけど要は使い方なんだよ。

 包丁を使って魚を捌くのは危険かい?金槌で釘を打つのは危険かい?

 どちらも武器として使えば十分に人を殺せるだけの殺傷能力はあるのだからね。それと同じ」


 と、そこでググッ……と溜め、「レビィテェーーーションッ!!!」っと力の限りの勢いで宣言し浮いた状態で言葉を続ける。


「レビテーション!知っての通りただ空を飛ぶ為の魔法だ!

 だがそれは一人の天才が復讐の為、殺戮の為に造り上げた凶悪で無慈悲で卑劣極まりない魔法である!

 この魔法は巨大な岩石を城塞都市へ落とす為に創られたのだ!

 この魔法で奪われた命は数万にも及ぶ!何故それほどまでの被害が招じたかと言えば当初は魔法で構成された物質を防ぐ術はありふれていたのだが、個人の魔力で構成された魔法ではなく、世界の魔力で構成された物質だろうが生物だろうが岩石だろうがそれらは同じ世界の魔力で構成されたモノ!

 当時では世界の魔力、魔法法則ではなく物理法則による攻撃を防ぐ手段は魔法という手段では存在していなかった為としか言いようがない!

 しかし今はどうだろうか?レビテーションも最適化され自身の飛行移動以外での運用の方が圧倒的に多く、物質を動かす事に関しては若干の不備が発生しているのが現実だ!

 そもそもレビテーションを習うだけ習い過去の人物の使い方を学ばない限りそんな運用法が可能という事すら知らないでいる事があまりにも多く、そんなので一流の魔法使いを名乗る者がなんと多いものか!

 私も二十歳を越えるまでレビテーションはただ空を飛べるだけの魔法だと勘違いしたモノだからね!」


「セリスが勘違いしてたんですか!?」


 唐突に始まったレビテーションの講義。

 このレビテーションですが、セリスが使った魔法で私も覚えてみたいと溢した魔法の1つで、その魔法が元々は元覇王様にすら卑劣極まりないと言わせる魔法だったのかと驚きましたね。

 この雑学の混ざった話はターニャの興味も引いたのかこの日は魔法雑学で殆ど使う事になりました。



 ・



 12月1日。


「痛っ……」


 用意を終え、出発は午後にしようと時間を潰している間、トイレに行ってそれを確認しました。


「あの……セリス、ターニャ」


「なぁに?」


「その……言い難いのですがその、私は、あの日が来たみたいで……」


「……あの日?」


 ……本当にわかっていない様子ですね。

 セリスの世界ではこんな言い回しはしないのでしょうか?

 ならハッキリと言わなければ……


「はい、その、血を確認したので確実で……」


「なんだ生理が来たのか。

 なら仕方ないな、もう数日ここにいよう」


 ………ターニャありがとう。

 でも他人に言われた方が恥ずかしい気がするのですけどきっと気のせいですよね、そう思う事にします。


「……………あぁ!思い出した!本で読んだことがあるね!うん。

 なるほど……私は生理なんて起きた事無いからね」


「え?」


「ちなみに私も17の時から生理は来なくなったな」


「えっ!?」


 生理来ないって大丈夫なんですか!?

 確かにターニャはそういうの来てる様子無かったけれど、冒険者の知恵として隠すのが上手いのかと思っていましたけど……え?


「……大丈夫なんですかそれ?」


「私も来なくなった時はかなり焦ったよそりゃ

 真っ先に薬でも盛られて寝てる間にやられたんじゃないかって考えてたんだけどさ、一年建っても何も変化無いし、私より強い同性冒険者からそういうもんだって教わってね。

 だから気にしない事にしたんだが、この前答えが分かったんだよ」


「答え?」


「それは私が説明しようかな。

 と言ってもメリル前に話したでしょう?

 強さに比例して肉体は美しくなるって。

 美しくなるというのは生物としての格の変化であり、同じ生き物でありながら別の存在へ肉体が確実に変化しているからなんだよ。

 強くなれば大岩を片手で持てるようになる、強大な魔力でドラゴンを討ち滅ぼせる、全身の骨が粉々になろうが一時間後には完治している、殺されない限り寿命という概念が消滅する。

 これらに比べれば生理痛が起こらなくなるなんて微々たる変化だと思わないかい?

 私は生理が来る年頃には生理が必要無いくらい強かったから経験が無いんだよね」


「な……なぁっ………」


「流石に驚きすぎだろ」


 ちなみに生理現象が起きなくなろうと子供は産めるらしい。

 むしろ事を為した後、相手より強ければ自分の意思で身籠るかどうか決められ、母体が強靭であるだけ強い個体が生まれるらしい。


 その話を聞いて最低でも生理が来なくなるくらい強くなろうと硬く心に誓い、この日に出るのは中止して安静に過ごすことになりました。


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