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覇王セリスの後日談  作者: ダンヴィル
1章、平和な世界
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天空城1


 11月27日


 天空城へ来てから約2週間が経ちました。

 風邪はまだ治りきっていません。

 固形物は喉が痛くて、文字通り食事が喉を通らなかった訳ですし私が思っていた以上に悪い状態であったと認めるしかありません。

 この2週間、殆どずっとこの部屋に閉じ籠っていました。

 何故かと言うと、廊下に出るとどこまでも続いているようにしか見えないのですから。

 ドリーミーは種族としてヒューマンより視力が少し劣りますが、それを踏まえても廊下の先が見えないのは広すぎます。

 これでは出る気がしません。

 セリスの言っていた生きるには問題無いけど生活しにくいという意味が良く分かりましたよ。


「いくよメリル~」


「はい……んっ………」


 上質で柔らかな布をお湯で濡らしたものが背中に当たる。

 その感触にいくら事前に言われていてもビクリと体が跳ねてしまいます。

 もう2週間、日に二回してもらっているのだから慣れても良いでしょうに、種族的というのもありますが体が敏感でこういう風に触れられるのが少々苦手です。

 始めてしまえば気持ちが良いのですけどね。


「熱くない?」


「はい、丁度良いです」


「なら良かった」と機嫌良さそうに拭いてくれる。

 最近は体の調子も良くなってきているので自分でやろうとしたのですが、あからさまに残念な気配をされてしまって頼むことにしました。


 しかしこんな毎日も……それも日に二回も体を拭うなんて事するのは最低でも下級貴族くらい地位の高い者だけだと思っていましたよ。

 まさか私がこんな扱い………セリスに大事にされすぎて、それに甘えすぎれば人として駄目になってしまいそうな気がして……

 けれどセリスも匠な話術で本当に甘えさせ上手でして、何かと甘い誘惑を提示してきて逃げ道を塞いできますし……

 現に今の状況がそうですしね。

 なんかセリスに堕落させられそうで、そこのところ最近唯一の不安です。


「はい、拭き終わったよ」


「ありがとうございます」


 セリスにお礼を言う時につい布へ目が行ってしまう。

 真っ白な布。


 城に来て初めて体を拭いてくれると言ってくれた時は嬉しくてとても良い気分になったのですが、終わった後のタオルが茶色になってしまうほど汚れていて驚きました。

 商人ですからね、体は綺麗にする事を意識していたのですが凄かったです。

 同時に、なんて状態でこの値段が思い付かないほど上質なベッドの上で寝ていたんだと青ざめそうになりました。

 ベッドはセリスの魔法で一瞬にして綺麗になりましたから良かったものの……本当にもうっ…………

 肝心のセリスといえば「まあまあ、大丈夫だから」と言うばかりなのですが、その一言じゃ普通は解決しませんよ。


「はい、じゃあこれ飲んで」


「それは……エリクサーですよね?」


「そう、そこまで体力が戻っているなら飲んでも大丈夫だよ。

 以前飲んで危険だったのは風邪よりも体力とか削れすぎていたからだしね。今なら大丈夫」


 セリスの言うとおり今は凄く調子が良いです。

 まだ風邪が直りきってないのは確かですが、先週までは喉も痛くて固形物は食べにくかった程です。

 例え食べ難くても食べないと死ぬので食べていたんですけど。


 その話は置いておくとして、私がセリスの持っているエリクサーを見て思ったことは……『勿体ない』です。


「その……ここまで回復したのですから後は自然と回復するのを待った方が良いんじゃないかなぁ~と……」


「…………」


「えっと……はい、飲みます。

 心配掛けてごめんなさい」


「よろしい」


 セリスに無言で見詰められて折れました。


 今回の件で一番迷惑掛けてしまったのは間違いなくセリスですからね、遭難中もとにかく私を気遣ってくれました。

 これ以上自分のパートナーに気遣いさせるのは良くないです。


 エリクサーよりも私の事を優先してくれているのですから。

 これはセリスの厚意ですから、受け入れるべきですね。

 セリスと話し合いパートナーになったのですから、こういうところは早く慣れないといけません。

 意地を張って風邪を悪化させた事に後悔はしてませんが、セリスのお陰でとても反省しています。


 それでも人生で2度もエリクサーを飲むなんて本当に夢にも思ってなかったなと考えつつ、意を決して飲みました。


「う……苦い………本当、魔法薬は即効性強いですよね。

 体が軽くなったのが分かります」


「それは良かった。良く飲めましたえらいえらい。

 そんなえらいメリルには私の大好きなキャンディーをあげよう」


「ありがとう」とお礼を言いキャンディーを頬張るとセリスが私の頭を撫でてくれる。

 少しだけ霧がかかったかのようにボヤけていた感覚がクリアになり、撫でられたところが羽の間近というのもあり鮮明にセリスの優しさを感じられて、自然と暖かな気持ちになった。


「ただ、これは即効性が強い分体への負担も強くてね、先に汚れを取ったのも回復処理箇所を減らすためなんだよね。

 エリクサーは皮膚に付着した汚れを消す事も回復箇所の一種として行うから、負担が大きいんだよ」


 皮膚の汚れまで……だからセリスと初めて契約した次の日に体を拭いてもあまり汚れていなかった訳ですか。


「なるほど………んっ……ちょっと、どさくさに紛れて羽の付け根撫でないでくれませんか?」


「ん?ごめんね、嫌だったかい?」


「嫌ではありませんが……そこを触られるのは首を絞められそうになってるのと似た感じで落ち着かないと言いますか………」


「なるほど……今後は気を付けるね」



 ・



 水色のネグリジェから良質な生地を使った黒いスカートと白のワイシャツ、それに以前セリスが買ってくれた黒のケープという格好へ着替える。

 ネグリジェもそうですがこの服もセリスの服です。

 ケープも高かったですがその他全てがケープと比較してはいけないくらい高価な素材をふんだんに使った魔法防具なんですけど、それがズラリと何着も並んでいる光景は圧巻でしたね。


「良く似合ってるよ」


「そうかなぁ……」


 もう何度目になるか、廊下を歩きながらセリスがまた褒めてくれました。


 最初に服の話題を振ったのは私なのですが、お世辞だとしても少し嬉しくて変な笑みが溢れます。


 しかし……セリスが着ればカッコイイのだろうけど、私が着てもどことなく子供っぽく見えてしまいますね。

 ネグリジェの時も色合いも相まって余計にそう見えましたし…………セリスが喜んでいてくれたので別に良いんですけど。

 そう、つまりこの格好はセリスの趣味です。

 そう思っておきましょう。


「メリルは小さくて可愛いと思うけど?」


「……ありがとう」


 本気でそう思ってくれていると翼が教えてくれてこそばゆい。


「それでどこに向かっているのですか?」


「とりあえず外の光景を見せてあげたくてね。

 この天空城はどこにいようが常に適温で暑くも寒くも無いからゆっくり見れるよ。

 外を見てからどこで旅を再開して、どこに向かうかとか決めるのも良い………あ」


 ん……?何か不味いって思ってる?

 今の流れの何処に?


「どうしました?」


「あぁ……大したことないよ、うん。

 それで、どこへ向かうか決めるのも良いって思ったんだけど、肝心なメリルの意見を聞き忘れていたよ。

 この天空城でどこか行きたいところはあるのかい?」


 あ~……なるほど。

 報連相(ほうれんそう)をちゃんとしてほしいと約束しましたからね。

 これくらいの事なら良いですけど、セリスは何か言うより先に行動しますからね。それもかなり大事になり得る事を。

 振り回されないように報連相くらい慣れようと約束しました。

 それをわかっているからセリスも慌てたのでしょう。


「う~ん……行きたいところと言われましても…………

 この城の事殆ど知りませんからね。…………天空城?」


 え……天空に浮いている城で天空城って事ですよね?

 来た時に雲の上の光景を一度見ていますし……という事は………


「あの……セリス?この城って……これ程大きな城が空を飛んでるんですよね……?もしかして……いえ、確実に地上に混乱したりしてますよね?」


 気付いてはいけない事に気付き、焦ってしまい少し変な言葉使いになりましたが気付かないほど血の気が引きました。

 そんな私にニッと猫のような笑みを浮かべて答える。


「それは大丈夫だと思うよ?

 この城には光をうまい具合に反射させて見えないようにする魔法があるから。

 だからこそ天使が好き勝手暴れてくれて見つけるのが大変だったんだよ」


「……え?すみません、それって光を反射させると見えなくなるという事ですか?何故?

 それとも光を反射させる事で発動する魔法なのですか?」


「生き物の目は基本的に光の反射で物が見えるんだよ。

 だから光の無い真っ暗な中では何も見えない。

 それを利用して光の反射を上手く調整すれば見えなくさせる事ができるんだよ」


「ん~……どうやら私には難しすぎて理解できないようです。

 そもそも明るくないと見えないのはヒューマンなら当たり前では?」


 ドリーミーはどれだけ暗くてもハッキリ見えますけどね。

 私は視力悪いですけど夜眼が効くんですよ。

 目は使っていませんけどね。


「まあこんなの知ってても知らなくても死ぬことじゃ無いからそういうものだとだけ覚えておけば良いよ。

 そんな事よりもどこか思い付いたかな?」


「そうですね……気になるこ……と…………」


「……メリル?」


 廊下を進んでいると、途中からセリス側の壁が緑色をした別の素材で造られた物へと変わっていた事には気が付いていました。


 私側にある壁は足元と同じ白い石でできているのにです。


 最初はそういう構築なのかなと気にも止めてませんでした。


 しかし、今その緑の壁の中には白が見えました。


 私はその白を辿るように見上げる。


 そこには、見通しの良い緑の水の中で青い神秘的な鎧を全身に纏い、片方に6枚、計12枚の白銀の羽を持つとても巨大な天使がいたのです。

 その天使は優に10メートルを越えていて、何よりもその膨大な魔力量はセリスを越えている。


「なんですか……………これ……………」


「ん?…………大天使アンドロメダ……だったかな?

 確か天使が私達の世界を襲いかかったのはコイツの眠りを覚まさせる為だったと思う。

 かなり強力でやっかいそうだったから私の最も得意な系統魔法でもある呪いで封印を強化してね、最早ここにあるだけのオブジェみたいなモノにしてやったから気にしなくていいよ」


 まるで冗談めいた雰囲気で気軽に話すセリスですがこれは………


「これがもし暴れまわったら世界は本当に滅んでしまいそうですね……」


「メリル、もしなんてあり得ないから。

 この私の最上位呪い魔法を何重にも使用して強化した封印だよ?」


 セリスは自信満々にそう言うけどその言葉って……


「……私が子供の頃に聞いた昔話の悪い魔法使いが同じことを王国の英雄ミカエル様に言ってた気がしますけど、悪い魔法使いの言うあり得ない事が起きましたよ?」


「覇王がそんな未熟者と一緒にされるなんて心外だよ」


 未熟者って……

 まあ、ミカエル様は4メートル程のレッドドラゴンと死闘を繰り広げたという話で、対してセリスはこの天使を封印してしまう力があるし、言葉を聞く限り倒すのが面倒だから封印を強化したって言い方ですし……セリスはどれだけ強いのでしょう?


 旅してるとドラゴンが空を飛ぶ姿を希に見ますけど、この天使と比べたらドラゴンは1割の魔力量すら保有できていませんし……


「……そうですね、セリスは昔話の英雄を通り越して神話の神様って言われても私は信じますよ?」


「神って……流石にそこまで万能じゃないよ?」


「うん、知ってる。私の風邪も治すのにすごい時間かかりましたし」


「それは意地ばっか張るメリルの方が悪い」


「ちょっと何を言ってるのか良く分かりません」


「本当図太いねぇ……いやまあそこが可愛いのだけど」


 セリスが笑みを浮かべ私もつられて笑う。

 この様子なら本当に大天使なんか無視しても大丈夫だろうと思ったから。


「あ、思い付きました!私お風呂入りたいです!

 ほら、ターニャの髪が光っていたじゃないですか!」


 大天使が謎の水で浸されている姿を見て思い出しました。

 お風呂です。

 ターニャがやたら綺麗になっているんですよ、あのがさつなターニャが。

 髪が光を吸収したかのように光っているんですよ。

 どんな物かわかりませんが、魔法具でなく手軽にできるらしいので、本当であれば貴族を中心に高級目線で爆発的に売れますよ絶対に。


「ヘアトリートメントね、了解」


「ヘア……うん、たぶんそれですね。行きましょう」


「さっき体拭いたばかりだけどね。

 でも病み上がだし精神衛生的にもあまり連れ回して興奮させすぎない方が良いのかな?」


 私の事を可愛いって言ってくれますけど、今みたいに私の要望を優先してくれたり、人形好きだったりするセリスの方が可愛いと思います。


「セリスって可愛いですよね」


「ん、そうか………ん?そんな事言われたのは初めてだよ。

 どういうところが?」


「そういうところが」


 面食らうと頬を掻く癖とかも可愛いと思うけど教えません。

 セリス相手だと教えてしまうとすぐに直してしまう気がするのでそれは勿体ないです。


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