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覇王セリスの後日談  作者: ダンヴィル
最終章、大きな決断と私達の一生
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セリスの世界


「メリル、一度私は元の世界へ戻ろうと思うんだが一緒に来てくれないかい?」


 セリスが起こした事件が済んで1年程が経った頃、ありふれた日常の中でその言葉は唐突に放たれた。

 私は走らせていたペンを止め、前の席に座るセリスと顔を会わせ、


「良いわよ。ただ準備とかあるから一週間くらい待ってちょうだい」


 唐突ではあったものの、いつか来ると予想はできていた事なのでそう返した。


 ゼイネプさんが死んでしまった後の事をまだ引きずっているのか、ミューズにはいつもの元気がほんの少しだけ無くて少し心配なのですが、違う方向からの刺激を入れてみれば多少変化があるかもしれないと結論付けミューズに一時的責任者として任せることにしました。

 技術は教えてきましたし、ミューズならきっとできます。

 その為の準備期間の一週間でもありますしね。


 そうして引き継ぎもし約束の日、私とセリスの二人でセリスの世界へ向かう。

 行き方としては、ミィさんが封印されていた洞窟を使うという話でその場所へ転移魔法で来たのですが、なんとセリスと初めて出会った場所から馬の足なら1日もかからないような距離でした。

 私とセリスが出会ったのは完全に偶然でしたが出会うべくして出会ったと思えるくらい近い距離に居たんだなとビックリしました。


 真っ暗な洞窟を照らし中を進んでいく。

 水気が多いのかとても瑞々しい空気がして、いろんな場所から水滴が落ちる時のポチャン……という音が聞こえる。

 そんな洞窟の終着点、セリスの魔法により封じられた大きな穴があった。

 その封を開き、セリスが私へ手を差し伸ばす。


「行くよ、メリー」


「えぇ、セリス」


 セリスに抱き寄せられ私達はその穴へと飛び降りた。

 かなり長い時間落ちる感覚が続いたと思ったら急に逆、落ちてきた方向へ引っ張られる感覚がするようになり、やがて完全に止まり、逆方向に引き戻されて行く。


「ここからはレビテーションを使って行くからね」


「お願いするわ」


 私が飛ぶよりセリスに任せた方が早いので任せてみれば、落ちる時よりも早い速度で移動しあっという間に抜けた。


「本当は初めからレビテーションで突っ切った方が早いんだけど、それだとメリルの体が持たないかもしれないからね」


「えぇ、気遣ってくれてありがとう。

 それより………ここがセリスの世界?

 なんか、私が想像してた良いずっと自然豊かで平和そうな場所ね」


 私達が降り立ったのは高い崖にある隙間道のような場所。

 その細い隙間の先から光が差し込まれていて出入り口がとても近いので外の様子が見えるのですが、下には森が続いて遠くに草原と馬車道が見えます。


「う~ん……ニャッバーンから強力な妖術師でも連れてきたのかねぇ?

 それならこの自然も納得行くけど荒れ果てたこの場所がこんなに早く森にまでなる訳ないだろうし……」


「ここでじっとしてても仕方無いしとりあえず町を目指しましょ?」


「そうだね、うん。そうしよっか」


 とりあえず森を抜けるまではレビテーションで移動し、馬車道を歩いていると途中で荷馬車が通りがかったので乗せてもらう事になりました。

 ドリーミーという種族はこの世界に居ないそうなので当然羽は全て隠している状態にしてあります。


「いやあ、まさかこんな所で美人が二人も居るなんて思わなかったよ。あ、俺はジークって言うんだけどお嬢さん達は?」


「私はメリー、こっちは親友のセリスです」


「セリス?」


 これは初めから話し合っていた事で、この世界に居る間は私の事はメリーというあだ名というか、偽名で通して名前を魔法により悪用されないよう対策しようと決めました。

 セリスの方は珍しくもない名前らしいですし、セリスの名前を知っただけで悪用できるようなら過去に覇王はこの世を支配していません。


「セリスってそりゃまた……酷い名前付ける親も居るもんだなぁ。

 昔話に出てくる覇王様と同姓同名じゃないか」


 ……と、思っていましたがいきなり予想外な事に直面しましたね。

 彼以外人が居ないこの場所で判明して良かった。

 セリスがやって来た事によってセリスと名付ける人が居ない……

 この時点で時間の流れが違うとか色々思い付きますが、その前にどうしましょうこの状況……


「う~ん……その事にはあまり触れないでほしいけど、私の親は私が悪党になろうが正義の味方になろうが、どうせなら覇王セリス様と同じくらい大きな事ができる人になれってセリスと名付けたんだよ」


 おぉ、流石セリス。

 話している感じからして田舎のじっちゃんばっちゃんでも知ってるレベルの悪名かもしれないのを上手く切り返しましたよ。


「おぉ、なるほど……それならさっきの言葉は撤回するべきかなぁ。

 うん、どうせならそれだけ大きな……なるほどなぁ、そんな解釈もあるのか………」


 と言う感じに一難ありましたが、無事に町周辺まで到着し、自分の世界だからと魔法による雑な手段で町へ不法侵入し情報を集める。

 その結果分かった事なのですが、覇王セリスは歴史上の人物であり、この世界はセリスが居なくなってから2000年以上も経過した世界だということ。

 そして覇王セリスは子供に読み聞かせる絵本の悪役として登場する程に有名な、邪悪の象徴のような存在として扱われていました。


「ねえメリー、そんなに怒らないでくれないかい?」


 酒屋の一角、すぐ近くで私とセリスの距離でも言葉が聞きにくくなるくらいに馬鹿騒ぎしてる集団が居るので、どうせ何を言っても他の人たちに聞かれないだろうとアルコールの力も加えて不満をぶちまける。


「これで怒らない訳無いじゃない!

 本当何あれ?セリスが居なくなったせいで一度全世界の国々が滅んだとか書いてる癖に、生き残りは世界の滅亡よりセリスの方が悪いとか怖いとか好き勝手書いて!

 何よりセリスって武力が無くなったから滅んだって言うのが納得行かないわよ!

 セリスに恐怖してた癖に、居なくなったから次に発生してしまった時の為に何か対策するのが普通でしょうに!

 どの文献を漁っても何の対策もしてなかったって馬鹿じゃないの!?

 セーちゃんだってそう思うわよね!?」


「まあそうなんだけど、その事に関しては私の代わりにメリーが怒ってくれているから別に良いかな「良くないわよ!」

「まあまあ落ち着いて。……私はそれよりもさ、ティナが使った世界を崩壊させる呪いが消えている事に驚いているよ。

 まさかあの呪いを解除する方法は一度全てをメチャクチャに破壊してしまう事だったなんてねぇ………」


 私がイライラしているのは何もセリスを悪く書かれていたからだけじゃなくて、セリスがらしくないから。

 こんな小さな事でセリスはへこんだりしないけれど、やはり覇王として過去にしてしまった事の重みというモノが少なからずあるのでしょう。

 だからこそセリスがへこむ分代わりに私が怒ってあげているんです。


 それにしてもセリスは本当にへこみすぎです。

 私もセリスの代わりに怒って怒りに任せてアルコールジャンジャン飲んで、セリスのへこみ具合が強い分益々イライラして……


「もう良いです!もう寝ましょう!」


「え……ちょっとメリー?」


 その後、私の方からセリスに襲い掛かったらしいです。

 私から誘って押し倒した所まではギリギリ覚えていますがその後の事を今一覚えていなくて、二日酔いがありましたが魔法薬飲んでスッキリしましたし、セリスも吹っ切れたのかとても清々しい様子を見せてくれました。


 朝食を済ませ話し合った結果、記憶にある地形から目的地へと向かうのは無理と判断し私のドリーミーとしての能力を使うことにしました。


 今の私は好きな過去を見て、好きなように他人にも見せる事ができます。

 私の力を抑えるネックレスを外し空中から2000年前の光景を見て、案外簡単に見付けてしまった。


「凄く変わってしまったね……」


「ここが昔は森の奥にある洞窟だったなんて信じられないね」


 そこはとても広い湖でした。

 仕方なくその湖の隅にある日の光が良く当たる場所にお墓を立てる事にしました。


「こんなにも遅れてしまってごめんなさい。

 お墓を立ててしまえば死んでしまったと認めてしまい、戻ってこないんじゃないかって思えて怖かったんだ……」


 墓石に触れ、いとおしむような仕草でそう語るセリスの横で座り、祈りを捧げながら口を開く。


「セリスを守ってくれて有難うございます。お義父さん達。

 これからも私はきっと守られてばかりですけど、それでも私がセリスを幸せにしてみせます。

 ですから、どうか安らかに…………セリス?」


「いや……それは不意打ちでしょう?メリーはズルいなぁ」


 自分の口を押さえてこちらを見ようとしないセリスが可愛くてこの後ついからかってしまったけれど、私達が幸せだって事は見れば伝わる姿だったと思う。



 ・



 無事に私達の帰るべき家がある世界へと戻ってきました。

 かなりの時間を向こうで過ごしましたが予想通りと言いますか、穴に落ちた時から殆ど時間が経っていませんでした。


 戻ってきたら真っ先に家に帰るのが最初に決めた予定でしたがターニャの実家へ訪れる事にしました。

 一時期うちで居候していたターニャ家族ですが実家の方が武力や圧力でセリスはどうしようもできないと悟らざる終えない事態になり頼み込んで来たんですよね。

 実際の所はセリスの前に置いてあるソウルキメラであるティナさんというバリケードに躓いていた訳なのですが、存在そのものを悟らせず敵を排除するティナさんの手際の良さと言ったらもうこれは化物としか言いようがありません。

 私が化物と言うのは褒め言葉ですから良いんです。


「待たせたな。どうしたんだよ?手紙でセリスの世界行ってくるって送られてまだ……4日………………」


 客用の部屋で待つ事10分ほどでしょうか、いきなりの訪問にしては早い対応をしてくれたターニャが席について言葉に力が失われていく。


「気付いた?」


「いや……気付かない方がおかしいだろ………」


 ターニャの視線は私のお腹。

 見てもあまり楽しくないような体付きをしていたというのに、今ではあきらかに不自然な膨らみができています。


「ちょっと待て……最後にメリルの所行ったの一月前だろ?

 だが………確かにその中に気配を感じる………」


「ふふ、実はね………」


 ターニャの困惑した顔が見れて満足し笑いを堪えながら説明をする。

 セリスの世界は鏡の世界と同じく時間の流れが早く、2年くらいセリスと二人で世界を旅してきた事。

 その旅の途中、とある孤児院で発生していた問題を解決する事がありました。

 前々から薄々感じていたのですが、この時セリスが子供好きだと確信しまして、私も子供はいつか欲しいと思っていたのその日にねだりまして、どうせ初めてなら魔法具でなく産んであげたいと話た結果現在の私のお腹事情に至りました。

 そして以前ターニャに似たような不意打ちをされたのでやり返したいという事で、やり返したのが今です。


「魔法で体調の確認なんかもしててね、その過程で分かった事なのだけれどこの子は男の子みたいなのよね」


「ん……女と女で産まれるというのも変な感じなのに男ができるのか」


「別に魔法使いなら変でもないんだけどね」


「それでね、セリスと決めたのだけれど、この子の名前はデニスにしようって決めたのよ」


「セリスの父親の一人だったっけか?」


「そう。お義父さんみたいに優しくて立派な……悪党……みたいになってもらいた……ぃなって……」


「笑い堪えてんじゃねーよ」


 いやだって今私絶対に変な事言ってますよ?

 立派な悪党って何ですか本当。

 真面目な雰囲気で真面目に変な事を言って変な所に入ってしまい、数秒堪える事になってしまいましたが気を取り直して……


「ふぅ……いきなり来て悪いけど、この後私の実家に戻って母さん達に報告するからジャンヌちゃんとクロエちゃんに私のお腹見せて少し話したら行くわね」


「随分早いな……って言いたいが、その腹だからいつ出てもおかしくないのか?」


「予想では2日後には出るわよ」


「セリスと出会ってから落ち着かないな」


「それもそれで良いんですよ」


 魔法による予測は的中し、この2日後私達の初めての子供であるデニスを無事に出産しました。

 セリスは私に負けず劣らずデニスの事を可愛がって、それなのに私やセリスよりも先にミューズの名前を覚えて二人して軽く嫉妬なんかして、それからも大変でしたけど、私達はとても充実した一生を送る事になりました。


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