許さない
私の目の前には空中を丸く切り取り他の場所の景色を写し出しているよくわからない魔法が浮いている。
その魔法に写る光景はメリルを庇うようにしセリスに対峙する17くらいの少し幼い姿をしたセリスだった。
「なんか予想よりもずっと凄い敵意むき出しだな」
「まああの子の精神はまだまだ子供だからね。
詰めも甘いし覚悟も足りない、けれど熱意と行動力は凄まじいったらありゃしないって」
「こんな世界作ってミィさん達集めちまったくらいだしなぁ……」
復興の進みきっておらず瓦礫がまだまだ残る廃墟のような新生アバロン帝国の一角、各々自由に座るモノを用意し魔法で最後の結末を見届ける。
私も最初はこんな風に見届ける形になるとは思っていなかった。
これは少し前の話のやり取りなのだが……
「元気にしてたかい?セリスにターニャちゃん」
「あぁ、元気にしてたよ。ターニャなんて双子の子供を生んだくらいだ。一卵性で瓜二つなんだよね」
「え……」
子供の話を持ち出した瞬間、敵意を向けてきていたミィさんの気配が一瞬で引っ込み何と言って良いのかわからない感じの反応をし始める。
「それは……おめでとう?……………えっ?あの子食ったのか?」
「そうそう、ターニャが酔った勢いで」
事実ではあるがこの場所、このタイミングで話す内容か?と思いつつ背後、ティナへ視線を走らせる。
完全に挟み撃ちの形にさせられた訳だが、どうやら話が終わるまで襲うつもりは無いらしくミィさんが出現したタイミングで取り出し構えた剣を地面に突き刺し様子を伺っている。
僅かながらセリスの回復も見込めるし普通に話していた方が良いだろうと判断し私も会話に加わる事にした。
「あのな、あれは旦那があんまりに可愛い事言って誘ってきたからで私は悪くない」
「そうなのか……そうなのか?いやいや?どちらにしろ子供相手に?」
「そういう性癖だっただけだろう?」
「それ言い出したらお前は完全にレズビアンだろ」
「その解釈でも別に良いけれど、厳密に言うと私は生物学的なメス、女性が好きなんじゃなくてメリルっていう一個体を愛してるんだよ」
「魔法使いに性別の概念はあって無いようなモノだからなぁ~。
………で、私達は今何の魔法を使われたんだ?」
魔法?そんな気配は無かったが……セリスならあり得るか。
今の実力じゃ深く考えても無駄と結論付けてセリスの顔を覗く。
「私だってこの2年で成長したんだよ。
自分で自分の呪いを解呪できるようになるくらいにはね。
だから3人にかかっている私の呪いを解呪させてもらったんだよ」
「なるほど、それじゃもうこんな事しなくて良いね。
良かったなミカエル!お前セリスと対峙するって聞いてビビりっぱなしだったしな!」
「止めろ、痛い」
バンバンバンとミィに強く叩かれるミカエルを見て、同感だなと心の底から思った。
一緒にあの地下で感じた覇王セリス様による殺意は未だに忘れられないもんなぁ、そりゃ怖いって。
「解呪されたなら私は仕事に戻るわね」
「ティナ!」
「何?」
「迷惑かけたね、ありがとう」
「………貴女の口からその言葉を聞く日がくるなんて夢にも思わなかったわね。気にしなくても良いわよ。
だってこれは私の幸せ、栄光の為にしている事だもの」
「それでも、ありがとう」
セリスの二回目のありがとうを聞く前にティナは煙のように消えてしまった。
それと入れ違うかのように声が響く。
「ちょっと待って下さい、解呪って何ですか?
これだけ強力な呪いがあんな一瞬で消えたと言うのですか?」
何もない空中に光の粒子が集まり人の形を取り、一人の女性が現れたのだが……コイツは見覚えが無い。
「何かいるとは思ってたが自称精霊か」
「仲間に引き入れる最低基準にでも引っ掛かったんじゃないか?
待機していた天使達もついでに解呪したんだが、やつらは姿見せずににげてしまったよ。
それで、その天使と比べても正直コイツ弱すぎて話にならないんだが」
「お、意見が会うね。魔力を削る為だけに用意したって所だろうな~」
「それ以前に奴らは私の事大嫌いだからね、声聞いただけで条件反射で怖がるのは見てて腹立たしい」
「それはお前が悪いだけだぞ?」
ミィさんと一緒に何とも言えない感じに苦笑したセリスが精霊?に手を向け魔法を放つ。
「な……何故私には呪いをかけているのですか!?」
「お前はティナと違って人に友好的ではあるが、人の価値観をまるで理解できないからだよ。
死ぬまで管理してあげるから消さないだけ感謝しな」
「そ……そんな…………私が今までどれだけ帝国や王国に、いえ、人類に影響を与え守ってきたと思っているのですか!?
それを何で!?」
「何でって……魔王を、ミィに力を与えたのってアンタだろ?」
「……は?」
「それが何!?すぐ死んでしまう可哀想なワービーストの体よりずっと良いじゃ………ヒィッ!?」
世界の空気が一瞬にして凍り付く。
そんな風にしか表現できないほどあまりにも冷たく、絶対的に命を消しにかかるような殺意が広がる。
「ミィ、こんなでも宗教的にまだ消しちゃいけない奴だから。
殺しちゃ駄目だよ」
紫の稲妻を全身に惑い、どんなものでも切り裂いてしまいそうな殺意を放つミィさんの肩に何の躊躇も無く、軽く手を置き宥める。
「…………ふぅ、大丈夫。私はまだ冷静だ。
それよりセリス、扉は私が繋いであげるから迎えに行ってきな」
ミィさんは扉と言ったが、地面から膨れ上がったそれは、赤黒い泥のようなモノだし扉とは呼べないだろう。
私の実家の庭で使われたのと、今この場所に現れた時と同じモノだろう。
「入り方分かるだろう?」
「あぁ、分かるよ。……ありがとう、ミィ」
「おう、終わらせてこいよ」
……………と言う事があり、現在一人で先に向かったセリスを眺めている訳なのだが。
「あぁ……こりゃ完全に一触即発じゃねーか」
「大丈夫だよ、セリスがあんな優しい魔法作れたんだ。
なら大丈夫、どうすれば良いか分かってるって私は確信した」
「なら良いけどな」
ま、ここまで来るのに殺される事はあってもセリスが人を殺す事は無かった。
今回の騒動、そこまで深く関わっていないから何が結末になるか分からないけれどミィ姉さんが大丈夫だと言うなら大丈夫だろう。
・
「迎えに来たよ、メリル」
「セリス……」
嫌いな……私の大嫌いな奴がメリーの名を呼ぶ。
たったそれだけだカッと胸の奥から熱い怒りが込み上げてくる。
いけない、冷静に……冷静に……………
「あれだけ……あれだけ露骨に警告したのにどうして……何で来るの!
確実性の為に友達を見殺しにしたような奴が私とメリーの前に出てくるな!帰れ!お前なんかにメリーは渡さないッ!!!」
いけない、こんな感情を剥き出しにして勝てる相手じゃない。
なのにどうして言うことを聞かない。
今はメリーが居る。
流されちゃダメ、コレじゃ……私も大嫌いなアイツと変わらない………
「はぁ……はぁ………」
「セリス……」
声をあらげ息の乱れた私の手を掴み、メリーが心配そうに声をかけてくれる。
守らなきゃ。私が。コイツじゃない。
私がメリーを守るんだ。
「大丈夫だよメリー……私が勝つから。
確かにメリーの言う通りだ。私が間違っていた。
こんな理想だけの場所に閉じ籠っていて未来なんて無い。
私は、メリーとこれからの未来を共に生きたい!
お前じゃない!お前なんかに絶対メリーは渡さない!
皆を殺したお前を絶対に許さないッ!!!」
杖を向け、魔法を放とうとした時だった。
「え………」
私の横を抜け目の前の敵に斬りかかる巫女装束を着た黒髪の……
「霊菜……」
私はその予想外の来訪者の名を無意識に口にしていた。
・
「戦技、線花一輪」
ピンク色に輝く刀身で低い位置から切り上げ、軌道にそって触れたものを切り裂く桜の花びらのような魔力の塊が優雅に、そして確実に敵意が込められ襲い掛かる。
友達か……霊菜、今だからこそ分かる。
アンタは間違いなく私の友達だった。
だと言うのに、私は霊菜を助けられたのに確実性の為に見殺しにした。
言われた言葉、その事全て何一つ間違っていない。
だから必死なんだ。
メリルが……メリーが大切だから、今度こそ絶対に失わない。
この世界に来てからこれ程一途で硬い覚悟と決意を持ち、ここまで入念に用意するような奴は誰一人居なかった。
「ッ……」
連続で畳み掛けてくる斬撃を避ける中、不意に飛んできた矢を弾き落とし、畳み掛けるようにファイヤーボールが放たれた。
ファイヤーボールに巻き込まれないよう霊菜が飛び退き、土煙を掻き分け襲い掛かって来たのは壁と見間違う程巨大な盾。
その盾によるタックルを魔法障壁で和らげ残りの威力を利用し距離を取る。
そうして目に写した、その場に揃う彼等を見間違う事なんて私にはできない。
例え顔を塗り潰されていたとしてもそれは絶対に無い。
「…………メンタルフィールド」
この世界に来てから私が創った魔法は解呪だけじゃない。
メリルに出会ったからこそ理論を組み立て創る事ができた魔法。
その魔法を使う。
どうやら私は考えるのは得意だが、ちゃんと言葉にして想いを伝えるのは苦手なようだから。
この魔法は言葉を伝える魔法じゃない。
私の想いを、覚悟を心で理解させる魔法。
・
「父さん………」
霊菜に続き、父さん達までこの場に現れる。
あの魔法使いは限りなく本物に近い魔法生命体を創ったと言っていたけど、少なくとも父さん達がこの場に現れたりするのは不自然すぎる。
何が私は傍観するだけだからだと思ったりもしたけれど、これは素直に有難いと心の中だけで感謝の言葉を口にした。
「メンタルフィールド」
そんな中、アイツが妙な魔法を使う。
その魔法はアイツを中心に円形の結界のようなものを張る魔法なのだけれど、この場所全域を覆う広さがあるだけで別に攻撃を防いだりしている様子は無いようだ。
「こんな魔法いつの間に……暖かくて、優しい魔法ね……セリス………」
どんな作用があるか考察に入る中、メリーの口から漏れ出すようにそう呟いた。
「メリー、この魔法が何か分かるの?」
「えぇ。セリスがどうしてセリスを嫌っているかは大体分かるけど、今のセリスはセリスの思っているような人じゃないわよ?
この魔法はまるでその証明のようでとても暖かい。
だから、今のセリスをしっかり見てあげて」
「メリー……人はそんなすぐには変われないよ………」
「そうかしら?私はそうは思わないけど?」
…………気に入らない。
何であんな奴がこんなにもメリーに信頼されているんだ。
元々気に入らないし大嫌いだけど、もっともっと大嫌……
『霊菜……』
「………ッ!?」
声が響いた。
何か幻覚系の攻撃かと思ったけれどどうも違うようで、魔力抵抗を試みたけれど検討違いだったらしく空振りで終わるだけだった。
『鬼になった子供を殺し、精神的に苦しむ私の事を決して1人にしまいと、どれだけ怒鳴られようが私の側に居ようとしてくれた私の友達……』
テレパシーの頭の中に直接響くような声とは違う、声として言葉は全く聞こえないのだけれど、確かに私の中のどこかで響いて伝えようとする奇妙な感覚……
「な……何してるの!攻撃を止めないで!」
どうやらその感覚は私だけでなく皆にも発生している現象らしく、もっとも鋭い攻撃を繰り出していた霊菜が完全に動きを止めてアイツを見つめていた。
『不器用な私はこれ以上傷付きたくないと1人になりたいと怒鳴り付け、人は1人では生きられないと私の事を叱ってくれた。
それは全く間違っていなかった。
今だからこそ強く実感できる。
1人で生きることなんて誰にもできない。
そんなにも私を気にかけてくれていた大事な友達だったと言うのに、私は助けるどころか何一つ言葉をかける事もできなかった。
すまない、そしてありがとう』
セリスの言葉を受け、私が散々試しても無理だった顔を覆うモヤが晴れていき、柔らかな笑みを浮かべた霊菜が口を開く。
「セリスは、本当に良い人に出会えたのですね。
それも心の底から、その人の為に命をかけられる程大切な人が……」
「あの時他人の為に死ぬ事を選んだ霊菜の気持ちを理解できなかったけれど、今なら痛いほど良く分かるよ」
「分かってくれたのなら良いんですよ。
私の行動をただの無駄死にだって言った事も特別に許してあげますよ。だって私は、セリスの友達ですから」
その言葉を最後に、霊菜は煙となり風にのって空へと消えてしまった。
「何で……」
本物に限りなく近い……吸収した魂の欠片を分離させ、魂を創る魔法。
けれど今の霊菜の仕草、しゃべり方は本物だと見間違えるほどだった。
数億にも届こうっていう無数の魂の欠片から態々霊菜の魂の欠片だけを選んで創られた魂なのだと理解して声を漏らした。
何で態々そんな事を……コレじゃまるで………
「あの魔法使いに……人の心が…………」
『父さん……』
霊菜が消え、再び動き出したが攻撃が届くよりも早く、またアイツの言葉が響き渡る。
アイツに父さんと呼ばれ皆動きを止める。
それは霊菜以上の強い衝撃を私に与えた。
まさか……父さん達も?いや……ありえない…………
アイツは父さん達の魂の欠片を吸収した量は本当に微量、そんな量で創るなんてできるわけ……できるわけが…………
『チャールズ父さん……貴方はとにかく手癖が悪くて意地悪ばかりで正直、あまり好きじゃなかった。
けれどそれはチャールズ父さんなりの仲間へ、家族へ対しての愛情で照れ隠しでもあったんでしょ?
お調子者の癖して素直になれないけれど、誰よりも私に構ってくれて、父さんが教えてくれた、エルフ特有の気配を消すのでなく、気配をその場の空気に混ぜる方法に何度救われたか分からないよ……
ゴード父さんは体がとにかく大きくて、無口だし、表情にもあまり出なくて正直一番怖かったけど、誰よりも面白いことが好きな人だった。
今でも人としてどうかと思うけど、アダム父さんにナイフを突き付けここに居させてほしいって言う私を見て、腹を押さえて笑って置いてやろうって真っ先に提案してくれたのはゴード父さんなのを良く覚えている。
面白い事が好きで、変な性格だけど義理堅くて、ゴード父さんは何かと私にアドバイスを一言だけくれたり、時間も忘れて夜遅くまで勉強していた私に付き合って一緒に起きていてくれていた。
不器用で変な人だけど、私はゴード父さんから技術以外の事を言葉じゃなくて、心で教えてもらった……
アダム父さんはドワーフなのにかなりのロマンチストで普段から沢山の武器を隠し歩いていた二番目に変な人。
やたらと悪党である事に拘る人で、その堂々とした振る舞いが格好良くて憧れを持ったのを良く覚えている。
立ち振舞いから上品で、とても武器なんて隠し持っているようには見えなくて、私の暗殺技術の基本となる部分の多くがアダム父さんから見て学んだこと。
辛い時こそ笑えって、どうせ自分達は何かを殺して生きる悪党なのだから、悪党は最後まで悪党らしく誇り高く生きろって言葉が私の中で今でも特にお気に入りだ……
バルトルド父さんは頭が良くて、とにかく強くて、今でも体術と槍術じゃ勝てるイメージがわかなくて、自然の中での適応する方法を教えてくれた。
雨の匂いも、雷がくる時の変化も、地鳴りが来るのを予知する方法も……
どれもこれも、私の命を救う結果になる事が多くて、バルトルド父さんが教えてくれた実技と同時進行で行われる勉学が楽しくて、私にできた親友に同じ教え方したんだけどとても好評だったんだ。
そんな優しくて強いバルトルド父さんが……やられてしまった事はずっと信じられないでいたけど、今なら信じられる。
きっと、バルトルド父さんは鋼鉄の槍がどれだけ原型を留めないくらい壊れても最後まで皆の為に戦い続けたんだって……
トーマス父さんは、ワービーストでありながら魔法が得意で、やっぱり女の人みたいに華奢な体しているけど、今見返してみると男の人の骨格をしているんだなって良く分かるね。
私が魔法を覚えるのが何よりも得意で、トーマス父さんをあっという間に追い抜いてしまった。
けれどトーマス父さんは嫉妬なんかもせず、お前は天才だ、誇りだって誉めてくれて、私の事を初めて誉めてくれて、認めてくれたのはトーマス父さんなんだよ。
自分の存在価値なんて全く分からなくて、何で生きているかも分からない私に生き甲斐をくれた。
だから私はもっと期待に答えようも沢山勉強した…………』
・
温かく、柔らかい魔力がこの場を包み込む。
セリスの言葉を聞くと彼等、曖昧でノイズの入ったかのような存在感だったセリスのお父さん達がハッキリとした存在感へと変わっていき、自らの意思で道を開ける。
そして最後の一人、ミスリルの剣を持つ男性の前へ立つ。
『デニス父さん……デニス父さんは一番私に厳しかった。
けれどそれは、デニス父さんが幼い頃に妹が死んでしまって私をその妹に重ねて見ていて少しでも多く生き残る術を教えたくて厳しくしてくれていた。
リーダーであるデニス父さんが私に教えようと言ってくれなければ、皆面倒は見てくれても物事を教えようとはしなかったと思う。
一番厳しかったけれど、デニス父さんは私の大好物になるものをくれた。
デニス父さんも大好きだったのに、男がそんなモノを好きである事は恥だなんて、私は女だから今でもその男心って言うのはよく分からないけど、ずっとずっと、私は甘味の中で何よりもキャンディーが大好物だ。
戦闘中だろうと辛い時、悲しい時、隙さえあれば口にして、父さんが見ていてくれてるって、情けない姿見せられないって意思を保っていた………
本当に……本当にありがとう…………
それ意外言葉が見付からないよ………
父さん達にはどれだけ感謝しても感謝しきれない……本当に……ありがとう…………』
最後の一人、デニスさんの存在感もハッキリとし、操られている人形のようだった動きからハッキリと意思を持った動きを見せる。
静かに涙を流しながらデニスさんを見つめるセリスをいとおしむかのように撫で、ほんの一瞬だけ塗りつぶしたようなモザイクが消え、素顔が見えたかと思えばセリスのお父さん達は霊菜さんと同じように消えてしまいました。
「ありがとう……」
うつむき、ポツリと呟くと幼いセリスへ真っ直ぐと目を向けた。
もう目を背けない、絶対に譲れない何かの為に行動しているという事が伝わるほど強い眼差しを受け幼いセリスが一歩引く。
「何で……何でなんだよ!一度捨てた癖に!
今更、何が……それでも私は絶対にお前を許さない!
お前は!父さん達のお墓の1つも作りさえしない!
それで何が大切だ!何がありがとうだ!ふざけるな!ふざけるなよ!!!
………ぐ……うぅ………ううぅ…………」
「セリス……」
もう決着は付いた。
幼いセリスはもう心で認めてしまっている。
それでも、許せない。許しちゃいけないと大粒の涙を流し吠えるように拒絶の意思を表した。
本当、子供でもセリスは不器用で責任感が強くて何でも一人で抱えようとする。
そんな幼いセリスの正面に立ち、両手を握り語りかける。
「ねえセリス、聞いて」
卑怯と言われようと私が背中を押そう。
師匠がどちらか選べと言った。
その選択肢とは違う選択肢でしょうけど、私はどちらのセリスも捨てたくない。
大きいセリス、幼いセリス、どちらの時間も間違いなく楽しくて、幸せな時間だったから。
「私は貴女を愛していて心の底から信じているわ」
「ひく……うん………私もメリーが大好き…………」
必死に涙を拭い、私に笑顔を向けてくれる。
それでも涙は途切れる事無く今も溢れだしていて、私はその涙を一度拭ってあげてから続きを語る。
「うん。でもね、貴女はあのセリスが嫌いみたいだけど、私からしたらあのセリスも貴女なのよ」
「…………」
「今までの全部が無ければ今のセリスは居ないの。
ねえ、セリス。
ほんの少しだけで良いから、私の信じるセリスを、自分の事を信じてあげて………」
私の言葉を受け幼いセリスは顔を伏せ、震えた声で「ずるい…」ととても小さな声を漏らし、顔を上げセリスへと足を進め、力の限り思いっきり殴り付けた。
「許さない……メリーまで殺したら絶対に許さない!
次は無い!絶対、絶対に!私はお前を許さない!
私はお前の全部を信じない!
私はッ……私はメリーを信じるだけだから…………」
言葉を言い終え、殴られ口を切ったのか血を流そうと真っ直ぐと見つめるセリスの体へと手を付けるとその姿が、スゥ……とセリスの中へと混ざり、居なくなってしまいました。
「ふぅ……ごめんねメリー。随分と迷惑をかけたね」
「本当よ。でも許してあげる。だって私はセリスの恋人だもの」
「ありがとう……と、ここじゃキスはお預けだよ。
皆に見られてる」
目を瞑りキスしてもらうのを待つ体制をとったら唇に指を一本乗っけられそう言われた。
「………本当ですね、この感じミィさん?」
「流石メリー、良くわかったね。
それじゃ、皆が待っているから家に帰ろう」
「そうね。……ねえセーちゃん。キャンディー1つ貰っても良い?」
「もちろん。私の大好物のキャンディーだよ。
はい、あーん」
「あーん」
こうしてこの事件は結末を迎え、私達はいつもの日常へと戻る。
戻ってみれば鏡の中に入った時から日付が変わっておらず、その日の内に原稿を届け、次の日には何事も無かったかのようにお店を開いて、これからもずっと似たような、けれど確実に未来を目指し充実した毎日を送る。