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覇王セリスの後日談  作者: ダンヴィル
最終章、大きな決断と私達の一生
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セーちゃんとの旅行


 旅行は三泊四日、目的となる旅館へ向かい荷物を部屋に置いて封印魔法で部屋を閉じようという事になりまして、旅館に着いたのですが……


「やっほー。久しぶり霊菜!」


 巫女装束を着て宿の前で掃き掃除をしていた霊菜さん。

 レーナさんのモデルになった人…………まさかこんな所であえるなんてと驚きました。

 しかしこちらに振り返った霊菜さんの顔は、写真をペンでグシャグシャと雑に塗り潰したかのように見えて表情が読み取れない。

 ここに来るまですれ違う人達の顔がこのように塗り潰されているなんて事は無かった。

 ただ、セリスのお父さん達も同じように塗り潰されている所から考えてもこれはもう……


「おお、セリスさんじゃないですか。

 久しぶりですね。そちらの方は?」


「えっと「セーちゃんの彼女のメリーちゃんです」


 セーちゃんの腕をギュッと抱き締めこれでもかと密着して答える。

 セーちゃんは顔を真っ赤にして私の言葉にテレくさそうに賛同するばかりで私の考えに気付いた気配は一切無い。

 無茶苦茶な事をしているのは分かりますが、これから楽しもうという時に余計な事に気を使っていては全力で楽しめません。


「お……おおぉ………外国では同性愛があると耳にした事はありましたがまさかセリスさんが…………」


「う、うん……良いでしょ。ほら、メリー凄く可愛いでしょ?」


「確かに守ってあげたくなる身長に可愛らしさをした女性ですね。外国と違ってあまり派手な娯楽はありませんが、珍しい花なんかもあるので是非楽しんで下さいませ。

 とりあえず部屋へご案内しますね」


 商人からしてみても高得点をあげられる美しい接客で部屋へ通してくれました。

 初めに決めていた通り部屋の間取りなどの確認し終えたら霊菜さんに見送られながら町の観光へ。


 真っ先に向かったのは着物という衣類を売る店です。

 巫女装束とはまた違うけれど着るのが大変そうで、けれど飾ってある服はまるで芸術作品のように美しく素敵なものばかり。


「ねえメリー、せっかくだしお互いに似合いそうなのを選ぶってのやらない?」


「商人相手にソレを挑むの?目利きにはソレなりに自信あるよ私」


「おお、それは期待できるね。それじゃ私こっち見てるね」


 ニッ、と猫のような笑みを浮かべて離れるセーちゃんとは別の場所を見て回る。

 セーちゃんと違って私は着物の事を知りませんので一通り見てから考えようと決め、1つ1つ目を通す。

 やはりどの着物も美しく、その刺繍は一枚のキャンパスに描かれた絵画のようで作り手によって微妙な特徴などが見て取れる。

 こうやって眺めているだけでも十分に楽しい時間を過ごせる気もしますが、セーちゃんの方は何やら決めたのか店員に話しかけているので私も真剣に考えましょう。


 そろそろお昼になるだろうという時間になった頃、ようやくお互い決まり着せあいました。


 セーちゃんが選んでくれたのは緑色で茶色い帯の着物。

 着物には白い花と、全体に花びらが舞い散るように描かれていて普段私が選ぶような色とは違いとても明るい、けれどとても落ち着いた雰囲気を感じられる着物でした。

 それと赤に近いピンク色をした花の髪飾りを用意してくれまして、派手ではあるものの全体を見ればやはり落ち着いている。


 対して私が選んだのは赤い色……に、したかったのですが白です。

 選んでいる最中、セーちゃんに、セリスに赤は駄目だという考えに至り選び直したので時間がかかりましたね。

 赤い色は絶対に似合うと思うのですが、セリスは赤が好きであると同時に大嫌いです。

 赤はミィさんやミューズの色だから好き。

 赤は自分が見てきた悪夢を思い出してしまいそうになるから嫌いなのでしょうと、私はそう考えている。

 どうも赤い色に対しては微妙な反応を示し何でそうなのか考えた結果でして、セリス本人も赤はミィと同じ色だから好きだと発言していましたからこの考えは正しいと思います。

 しかし、今回はあんまりに楽しくて完全に浮かれていましたね。

 選んでる最中、セーちゃんの顔を見るまでその事を失念していたなんて自分でも驚きでした。


 それでセーちゃんに着てもらったのは真っ白な着物に金色の線で描かれた雲に黒い花が施された着物です。

 一度決まりかかった状態から考え直したにしては良い出来に仕上がったのではと言う考えと、もう少し慌てず考えられたらなという心残りのあるチョイスでした。

 しかし実際着たセーちゃんはとても嬉しそうで、「どうかな?」とクルリと色んな角度で見せてくれて、その姿を見てちゃんと選べて良かったと心の底から思えたのでコレはコレで良かったですね。


 二人の着物姿を写真を納め、昼食を済ませ、色々な場所を見て回る。

 そこで文字通り季節がメチャクチャになるくらい不思議な体験をしました。


 水面に浮かび色とりどりに並ぶ幻想的な蓮華の花。


 少し肌寒い風が吹く、真っ赤に染まった紅葉の林道。


 僅に雪が降り、少し前までどこを見渡してもあった紅葉が夢だったかのように無くなり、寂しげでありながらもその光景がまた美しいその光景。


 その全てをセーちゃんと二人で楽しんだ。

 この光景、その全てが私に見せたかった、過去にセリスが一瞬だけ見て美しいと心引かれた光景の一部なのでしょう。

 心引かれたから、ゆっくりと、誰かと楽しみたかった。

 そんな思いを感じられる。


「ふう、安全な所は全て見終わったね」


「安全な所?」


「そう、安全な所は!このニャッバーンは危ないけれど、だからこそ美しいとっておきな場所があるんだ!

 絶対にメリーに見てほしくてね!けどそれは明日のお楽しみだね!」


 こうして私達の旅行一日目は終了しました。



 旅行二日目。

 町の真ん中にある山に伸びている長い階段を上ると寺が存在し、その寺の中にある一部屋、数えきれない程沢山の仏像が並ぶ不思議な空気の漂う部屋へやってきました。


 仏像1つ1つが全く違う顔をしていて驚きつつもこれ程精密なものをこんなにも沢山作ってしまう事に感心しながら眺めていました。


「うん……どれもこれも凄いわね。

 みんな立派な刀や槍を持っていますし本当に細かい」


「楽しんでもらえて何より。でもメリーに見せたいのはここじゃないよ」


「でしょうね。セーちゃんが危ないって言うほどの事が起きてないもの」


「その通りなんだけどその信頼はなんか嫌だなぁ~……と、ほら、この先だよ」


「………真っ暗ね」


 セーちゃんがおもむろに床を外すと底が真っ暗で見えない空洞が姿を表す。

 こんな所に隠し床がある事でもう怪しい気配がします。

 この先がきっとセーちゃんの言う危ない場所なのでしょうね。


「危ないって言ったけど私とメリーなら危なくないから気軽に行こうよ。それじゃ私先に行くね!」


「あっ……まったく………仕方ないわね」


 先に飛び降りたセーちゃんを追うように飛び降りる。

 飛び降りた先は不気味な洞窟で、壁に手錠が付けられていたり拷問器具が散乱していたりと既に危険な臭いが凄い場所でした。


 セーちゃんの先導で進む道でアンデッド系のモンスターとの遭遇もありましたが、私の羽による感知能力で先読みしセーちゃんの迎撃により危なげなく足を進めていき、やがて洞窟を抜ける。


「これは……」


「はい、到着。メリーに見せたかったのはコレ。

 黄泉の世界と現実の世界を曖昧にしてしまう門であり、危険であると同時に最も儚く美しい桜。あやかし桜だよ!」


 その桜という木はとにかく巨大で、舞い散る桜の花びら1枚1枚その全てが怪しく光輝いている。


「どうかなメリー。………メリー?」


 私はその桜の木から目を離す事ができなかった。

 ただただ何も感じずその光景を見るばかり。

 何を感じているのか自分でもよくわからない。

 その光景を見て、今まで見てきた光景の何に自分は心を引かれていたのだろうという疑問が浮かぶばかりで……

 ただ、不思議と懐かしさを感じて、私はこの光景に何を感じて私の魂が震えているかのような不思議な感覚でした。


「な……泣くほど心打たれたのかなぁ?

 ねえメリー、大丈夫?気分悪いの?ねえメリーってば!」


「えっ………あっ、えっ?何!?えっと、呼んだかしら?」


「うん呼んだよ。メリー大丈夫?何で泣いてるの?」


「え?………本当だ、何で泣いてるんだろう……………」


 セーちゃんに指摘されるまで気付かなかった。

 確かに私は涙を流しており、いったいどういう心理状況でこんなにも涙を流すのが理解できないでいた。

 先程も言ったけれど、感じるのは強い懐かしさだけなのに。


「ねえ、近づいても大丈夫かしら?」


「もちろん。刺激を与えなければ触ったって大丈夫な筈だよ」


「そうなんだ」


 触れても問題無いと聞き、その大きな桜へ近付いて触れる。

 上を見上げ、少し前まで昼だったというのに星々の浮かぶ夜空よりも美しく、淡くも星より強く光る桜の花びらを眺め、不意にまた涙が溢れ、私は自分の羽を押し当てるようにしながら思考した。


 押し当てる羽から感じとる桜の木の気配を感じ取りながら、

 1つの単純な事をようやく理解した。


 あぁ、私はこの光景の虜になったんだ。


 この世でこれ程美しい魔力を私は見たことがない。

 確かに、セーちゃんが、セリスが気に入る訳です。


「ふふふ、物凄く気に入ってくれたようで何よりだよ」


「ええ、本当に、本当に素敵。ありがとう、セーちゃん」


「それじゃここで花見としようか!

 お酒もおつまみもちゃんと用意したんだよ!」


「この光景を見ながら…………それは、とても贅沢ね」


「そうでしょうそうでしょう!

 それじゃそこの岩にでも座りながら眺めようか」


 セーちゃんに手を引かれその岩に腰を下ろす。

 お互いのコップにお酒を注ぎあい、乾杯と軽くぶつけて口にする。


「ねえセーちゃん、こんなに大きくなくて良いから持ち帰れないかしら?」


「んおっ……メリーさん凄くお気に召したようですね。

 でも残念ながら桜はデリケートだし、この桜はそもそも封印の術式を施す為のモノであって普通の桜はこんなに光らないよ」


「そうなの……それは残念ね」


 ………ん?つまり術式さえ理解してしまえばこの桜のレプリカを作ることもできてしまうのではないでしょうか?

 それは私なら難しい事でもないような………


「ねえメリー」


「なあに?」


 二人で静かに桜を眺めながらお酒を嗜み始め数十分、ようやくセーちゃんが口を開く。


「私ね、メリーに見せたい光景がまだまだ沢山あるし、もっと一緒にやりたいことがこれでもかってくらいあるんだ。

 メリーは……私と居て楽しい?」


「ええ、仕事をして、本を作って魔法具作ってとする日々とはまた違った楽しさがあってとっても楽しいわよ」


「そっか……それじゃあさ、コレからもずっと私と一緒に居てくれないかな、メリー…………」


 もの凄く不安そうな表情で私を見上げるセーちゃんに驚きどう答えたら良いかわからない。

 やはりこういう所もセリスとは違う。

 セリスには無い部分で…………


「………メリー?…………んむっ……」


 じっ……と見つめてくるセーちゃん……セリスにキスをする。

 唇を軽く吸い付くようにし、僅に開いた唇から舌を刺し込んでいく。


「ん……んちゅっ………」


 お互いの唾液が混ざりあい、少し卑猥な音がする。

 けれどハッキリと私の思いを行動として伝えられたと思う。

 だからこそ、言葉でもハッキリ伝える。

 ギュッと抱き付き、蠱惑の翼も出し、私の全部で包み込みながら。


「私はセーちゃんが……セリスが好き。

 私が私の事を好きでいられるようにしてくれたセリスが、色んな光景を見せてくれたセリスが、こんなにも素敵な桜と出合わせてくれたセリスを何よりも愛しています」


「う……うん…………私も……愛してる……メリー……………」


 ボーッとした様子の少し幼いセリスがとろけるような笑みでそう答え、今度は幼いセリスから、もう一度キスをする。


「………ん、うん!そろそろ戻ろっかメリー!」


 キスを終え、幼いセリスはまたもテレ隠しで明るく振る舞い戻ろうと洞窟の方へ足を進める。


「………メリー?」


 動かない私に疑問に思って振り返り首を傾げる幼いセリスはとてもかわいらしい。けど……


「そうね、もう戻りましょうか。セリス」


 私は幼いセリスに近付きながら擬態を解いて元の姿へと戻る。

 背中に立派な羽を持つ、覚醒を終えたいつもの私の姿に。


「セリス、この世界は凄く幸せに包まれているけれどセリスにとっての新しい発見は何一つありはしないわよ?だからいっしょに帰りましょ?」


「メリー………それは…………それはまだ……できないよ……………」


「それは私が居るからかい?」

「ッ!?メリー!」


 幼いセリスが目にも止まらぬ速さで私の後ろへ出て庇うように杖を構える。

 その幼いセリスの前方には、見慣れたセリスの姿があった。


「セリス……」


「迎えに来たよ、メリル」


 大人びているけど、幼いセリスと変わらない猫のような笑みを私に向けてくれた。


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