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覇王セリスの後日談  作者: ダンヴィル
最終章、大きな決断と私達の一生
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魔列車


 魔列車が走る時独特の揺れに間隔が空きはじめている事に気が付き、プシュー……と、大きく蒸気を排出する音によって目覚め、思考がクリアになっていく。


「ん?起きたかいメリー」


 目覚めればセーちゃんの顔がすぐ側にあった。

 私がセーちゃんにもたれかかって寝たのだから当然と言えば当然なのですけどね。


「残念だけど目的地はあと二駅くらい先………んっ!?」


 なのでいつも通りセリスに……じゃなくてセーちゃんにキスをします。

 おはようのキスなので軽めに、けれどしっかりとセーちゃんの唇の感触を認識するよう少し長めに唇を合わせた。

 ビックリしたのかピクリと体を震わせ、反射的に体を離そうと私に力を一瞬だけ入れたのでしょうが、力を入れた時には何をされたのか完全に理解したのか、本当に一瞬だけでそれ以降は拒む事はしない。

 最後とばかりにセーちゃんの下唇をチュッと音が鳴る程度に軽く吸い、離れる。


「ん……おはようセーちゃん」


「う……うん……………おはよ、メリー……………」


 唇を手で隠し、恥ずかしいのか目を反らしながらもしっかり挨拶はしてくれる。


「その……メリー、外なのに今日はやけに大胆だね………」


「それはほら、セーちゃんと二人っきりだから」


 普段はセーちゃんが先にキスをしてくる。

 頬っぺたにだけど。

 セリス……セーちゃんと私は付き合っているという事はこの世界でも変わり無く、相思相愛の関係ですのでこういった事もするのだと意識していましたが、セーちゃんは頬っぺたにしかしないんです。


「人目も無いしここ個室でしょ?

 ならいつもよりこう言うことしても良いんじゃないかなって」


「うん……そうだよね…………へ、へへへへ………」


 目を合わさないものの、嬉しさから変な笑みを溢しながら口元に手を当てるセーちゃん。


「………うん、お弁当売ってるんだったよね?

 お腹が空いたし朝食に買ってくるわね。セーちゃんも何かいる?」


「お茶!お茶がほしい!」


 元気一杯、精一杯恥ずかしさを誤魔化していて可愛い。


「はいはい、お弁当は同じでいいわよね?」


「う、うん!行ってらっしゃい!」


 セーちゃんに手を振り返し個室から離れ…………


 ……………物っ凄く可愛いかった。

 まさかあんな反応をするとは……あんな反応セリスはしてくれません。

 というより私から行くのはセリスが中々構ってくれなくて、いつもならキスも構ってくださいというアピール程度のモノだった筈なのにあの反応かわいい!


 それでもやはり僅な緊張を覚え、慣れない事をするものじゃなかったなと思いつつ車内の売店でお弁当とお茶を二人分購入し部屋へ戻る。

 部屋に戻った頃には私はいつも通りでしたがセーちゃんはそれはもう意識し過ぎで可愛い。


 あ~……でも、この様子じゃセーちゃん相手にこれ以上の事までやるのは無理かもしれませんね。

 今でも私からセリスに仕掛けるなんてできませんし、私から誘ったとしてもけっきょくされたいのでセリスに任せ続けていたのが仇になりました。

 目の前の彼女で乙女なセーちゃんをどうしたら良いのか分かりません。


 でも……キスはして良かったかもしれませんね。

 意識してますけど、時折幸せそうに綻ばせるセーちゃんの姿がとても可愛いです。


 朝食を済ませ、セーちゃんの説明を受けながら外の景色を楽しみ、雑談をしているとあっという間に目的の駅へ到着しました。

 駅のホームへ降り大きく伸びをする。


「う~ん……快適だったけど荷馬車とは違った大変さがあるわね」


「かなりの距離を高速で移動してきた訳だから少なからず体に負担がかかるものだよ。

 それよりせっかくだから写真撮ろうよ写真!」


「えぇそうね。ドア近くだから余裕があって良かったわね」


 セーちゃんが人形を操り写真を撮る。

 片手をお互いの腰に回し、魔列車をセーちゃんが手を大きく上げ私も真似するも周囲の目線が気になり控えめに上げてしまった。


「うん、メリーらしくてかわいい!

 良い写真撮れたね!」


「む……私よりセーちゃんのが可愛いと思うんだけど?

 キスの後とかこっちをチラチラと見な「はいはい終わり!その話は終わり!」


 大げさなまでに咳払いをしたセーちゃんはたたた……と軽い足取りで距離を取り、バッと先程まで魔列車が居た方向へ手を差し向ける。


「さあ、ここが目的地のニャッバーンだよ!」


 1つ前の駅からニャッバーンまで海ばかりの光景でした。

 辛うじて遠くに小さな家が見えるくらいだったけれどどんな所かは分からなかった。

 魔列車が発車したことで見えるようになった光景は、まず真っ先に私の実家を思い浮かべた。

 私の実家と似た家々が建ち並び、似てるけれどうちとは違い何段も重なったような構造の家まであり、何よりうちはポツリと1つだけ建っているけれど、ここまで並ぶと別物に見えてくる。

 その町並みを歩く人達も変わった格好をしていて遠い異国に来てしまったかのような………


「凄い……けど、私のこの格好もしかしなくても目立つ?」


 私の今日の格好は全体的に黒に近い灰色で白っぽい灰色の水玉付きのワンピース、お腹の部分に黒のベルトをしていて黒のケープを羽織り、レギンスに黒のブーツで全体的に黒いです。

 かなり高価な魔法錬金の衣類で纏めたのもあってとても浮きそうですね。


「アハハ、メリーらしい反応だね。

 でも大丈夫。観光客事態は珍しくないから、通りに出れば見慣れた服装の人もチラホラ要る筈だよ。

 なんなら服も買って実際に着てみない?

 それも観光の醍醐味だろうし楽しいよ?それでいっぱい写真撮ろうよ、ほら行こう!」


「えぇ。でも、そんな急がなくても良いじゃない。

 セーちゃんと違って私はすぐ疲れちゃうわよ?」


「む、それは困る………オホン。では、私が案内するよ。メリー」


 ニッ、と猫のような笑みを浮かべ手を差し伸べるセーちゃんに手を重ね、私も笑顔で答える。


「えぇ、お互い楽しみましょ。セーちゃん」



 ・



 ぶよぶよとした空洞を通り、ようやく見付けた扉を開き次の場所へ辿り着く。

 その場所は発展途上で建設ラッシュの町の大通りだった。

 だというのに、この場所に私達以外一人足りとも人が居ない。

 日は高い位置にあるというのにだ。


「今度は何処だここ……」


「新生アバロン帝国。滅んだアバロン帝国をそのまま再興して私が王とる新たな国家、新生アバロン帝国として世界に名を轟かす事になった場所だよ」


「思いっきり廃墟じゃないか……」


「暴動を起こしたからね。

 内部侵略を起こされ取り返しのつかない状況になったアバロン帝国の民達に武力を与え、最大戦力である私は最前線で戦った。

 アバロン帝国の政治状況を何一つ残さないくらい徹底的に破壊して世界の驚異を退けた」


「世界の驚異って何だよ……」


「そうだね……ターニャ。ターニャは自分がターニャだと証明できるかい?」


「は?」


「この場所で起きたのはソレだ。鏡の世界からの侵略者。

 ソレは入れ替わった存在と見た目も、声も、力も、記憶すらも何もかも同じ。

 寝ている間にソレは本物と入れ替わる。

 けれど本物とソレは一切違いが無い。

 本物と入れ替わっている筈なのに家族すら気づかないんだ。

 私は人類を守る為に1つの国を滅ぼした」


「なるほど…………まあ、私はお前の事は良く知っている。

 だから今の説明だけじゃ伝えきれないもっと危険でよ、危なすぎる事があったんだろ?

 …………って、何だその顔?まさか私が幻滅するとでも思ったのか?」


「いや……別にそこまで思ってなかったが多少距離置かれるだろうなとは覚悟して語ったんだが……」


 驚きのあまり顔に出てしまった。

 しかしターニャは心外だと言うかのように「何を今更」と心底呆れた言葉を口にした。


 その言葉が、私は心底嬉しくて堪らなかった。


「やはり………もしメリルに出会ってなかったら私はターニャを選んでいたよ………」


「…………ハァ!?いやいやいやいや、私にはそう言う趣味は無いからな?別に二人の関係をどうこう言うつもりは無いが止めろよ」


「そう言う意味じゃなく友としてだよ。

 元々メリルとだってそうする予定だったのだが、メリルの魅力は完全に誤算だったからね。

 メリル程他人に共感し理解できる良い人は居ない」


「急に元気になったな」


「馬鹿言え、満身創痍で半分も実力出せないよ?」


「へえ、それは良い事を聞けたわね」


 話しつつ崩壊し放置されている城へと歩いていると若い女性の声が響いた。

 その女性、一目で見て少女とも呼べる見た目をしている金髪の女性で、ニコニコと人当たりの良さそうな作り笑いを浮かべながら私達の背後に立っていた。


「やあティナ。乗っ取った体じゃなくて本体が出て来て良いのかい?」


「それは自分の胸に聞きなさい。それに私達だけじゃないもの」


「そうみたいだね。久しぶり、ミィ」


「な~んだ、バレてたのか」


 その声が響くと同時に空が赤く染まる。

 赤い空に真っ黒な雲。

 真っ黒な雲は雲ではなく、雲の形に空間を切り取り、切り取ったその先は宇宙が見えていると表現した方が良いかもしれない。

 その宇宙に散らばる星々は星の変わりに眼球が浮いていて、例外無く私達を見ていた。


 そんな空に浮かぶ宇宙がドロリ……と溶け、地面に落ちるとスライムかのように集まり人の形を成してミィになった。


「やっほー、ミィ姉さんだぞ~。こっちはミカエルだ!」


 遅れて墜落してきたミカエルを受け止め楽しそうに言ったかと思えば不適な笑みを浮かべてこちらを見る。


「元気してたかい?セリスにターニャちゃん」


 その笑みは普段のからかうような感じではあったけれど、僅かな殺気を感じられた。


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