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覇王セリスの後日談  作者: ダンヴィル
最終章、大きな決断と私達の一生
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自分の胸に聞け


 半壊した柱を蹴り、攻撃を回避しつつ頭上を取りフレイムアローを放つ。


 それに対し覇王が放ったのは………


「クリムゾンフレア」


 その魔法はフレイムアローのように真っ直ぐ飛ぶ。

 だが、衝撃を受けた時に大爆発を起こす。

 間違ってもこんな至近距離で放つ魔法ではない。


 私のフレイムアローとぶつかり合ったクリムゾンフレアはこの部屋全てを飲み込み、結界で守られているターニャ以外は何もかもボロボロだ。


 だというのに、目の前の覇王は余裕に満ち溢れている。

 例え自慢の城が壊滅しようが自分さえ居ればそれで良い。

 それが覇王だ。


 私の人生でここまで一方的にやられた経験があるだろうか?

 まともな魔法を使う余裕は無く、こちらが手を出せば全て読み切られまるで未来視でもされているかのように状況は悪くなり、行動を制限され、ソレしかできない状況に何度も追い込まれた。


「ッ……」


 またしても選択肢がない。

 取れる行動は複数あるが、1つを除いて他の全ての行動が決着まで持っていかれる為に取れる行動は実質それしか無い。


 複数の魔法によるフェイクに混じられて放たれる鞭のようにしなやかで鋭い左足の蹴り、嵐のような怒濤の攻め故に生じた隙のせいで避ける事も魔法を放つ事も許されない。

 強い衝撃をにより、ガードに使った腕の骨が軋むような感覚が走ると同時に繰り出された右足による蹴りが胸に入る。

 この一撃でわざと飛ばされナイフを投げた時には覇王の姿はソコには無い。


「誰を探しているんだ?」

「ッ!?」


 空中で後ろに吹き飛んでいる最中だというのに背後から髪を撫でられた。

 自分自信で選べる選択肢を潰すあきらかに無駄な行動。

 背後を取る事自体に意味はあるが、今この瞬間にこんな行動する意味がどこにある?あまりにも不合理。

 先程からこういう謎の行動も織り混ぜられて覇王の動きがまるで掴めない……クソッ!


 そう自分の中で悪態を付いたのがこの戦闘の最後だった。

 これまで覇王の気まぐれで何度も戦闘不能を免れてきたが、とうとう覇王の気まぐれも終わってしまったようだ。


「ディメンジョンスラッシュ」


「……ゴフッ…………」


 覇王はその指で私の体を斜め一直線に撫でる。

 そして撫でた後を追うように体ごと空間を両断し、私は肩から真っ二つとなり落ちる。

 咄嗟に魔力の糸で体を縫ったのでバラバラに落ちる事は無かったとは言え、すぐに死んでもおかしくない状況。

 誰かが私を叫び呼んだ気がしたが、そんな事を気にしていられるほどの余裕は当然無く、今にも途切れてしまいそうな意識の中、震える手でエリクサーを取り出す。


 そのエリクサーは、無情にも手の届かない位置まで蹴り飛ばされた。


「メ………コボォ……ゴェ……………………」


 死にたくない。

 何度死の淵に立とうが考えた事も無かった想いがこれでもかと私の中でのたうち回る。

 これからもメリルと、皆と共に同じ時間を過ごしたい。

 栄光も、力をいらない。


 私はただ、幸せに生きたいだけ…………


























「ゴフッ、ガバッカハッ……」


 私に何かがかかり、焼けるような痛みと共に傷が癒えていき、口の中の突き刺すような鉄臭さと共に意識がハッキリとしていく。


「大丈夫か!?」


「………ターニャ?」


「私だってわかるんだな!?

 良かった、意識はある………お前……こんな血塗れになって…………」


 ターニャが涙を浮かべ私を抱き起こしていた。

 よく見れば私とターニャは血溜まりの上にいて、この出血量普通の回復薬なら死んでいた。

 つまり先程かけられたのはエリクサーしかないね。


「グッ……ターニャ、頼むから少し、力を緩め………」


「あ……わりぃ…………」


 だからと言ってこの血溜まりに落とす事ないだろうに。

 エリクサーを使用した特有の消耗によって抵抗もできず血溜まりの上に横になる。


「まったく……貴様は私と全く同じポテンシャルを持っているとは思えないほど弱いな」


「覇王……っ!」

「待て待て、もう戦うつもりは無いらしいし通してくれるって言ってくれたからもう戦う必要は無いって」


 杖に魔力を込め戦う姿勢に入ろうとした所でターニャに押さえ付けられ無理矢理大人しくさせられた。


「確かに通すと言った。もちろん嘘じゃない。

 元々貴様の覚悟を見定めるだけのつもりで挑んだからな。

 まさか死ぬ瞬間まで生きる事に執着するとは思わなかったぞ」


 本来なら認められたと受け取るような台詞ではあるが、どこまでも見下したような笑みで見下ろす覇王からの評価は"お前はそこまでの奴だ"と決め付けられたような不快感しか感じられない。


「………そうか。どちらにしろ先を急がないとね。メリルが待ってる」


 言いたいことは山のようにあったものの先に進む方が良い。

 そう判断して立ち上がろうとする。


「今はまだ待って居ないと思うがな」


「どういう意味だい?」


 立ち上がる途中、そう声をかけられ再び溢れだした戦意を込めて睨み付けるが覇王は何ともない様子でこう答えた。


「その問いの答は簡単すぎると思うがあえて答えよう。

 自分の胸に聞くが良い。これ以上の答は無いと分かっているだろう?」


「分かっていても聞きたいものだよこういうのは」


「ハッ、だから貴様は小娘なんだ。

 まあ良い。どちらか片方しか残らなかろうが私が滅びることは無いのだからな……………とでも言うと思ったか敗者が」


 一瞬にして世界の重力が変化したかと錯覚する程重苦しい気配に包まれる。

 向けられていない筈のターニャですらこの気配に強い危機感を抱き剣へ手を付けた。


「全て貴様が蒔いた種だ。甘えるのもいい加減にしろ。

 まったく、少しは楽しめると思ったが期待外れも良いところだ。

 さっさと私の前から消えろ」


 魔力を圧縮して人為的に起こす魔力爆発による衝撃波によって私もターニャも吹き飛ばされ、触れもせずに開いた扉の奥へ飛ぶとまた見覚えのある場所だった。


 そこは雪と氷の世界。

 吹雪で視界の悪い中でも目の前に圧倒的存在感のあるソレは、雲の先まで伸びる巨大で所々黒い色をした不気味な山脈。


「ケホッ!ケホッケホッ!口入ったッ!?寒ッ!?なんだここ!?」


「魔の山脈……あぁ、今の体調じゃここはキツイがやるしかないか………」


「オイオイ……アレを登るのか?お前さっきまで重傷だったし私はこの軽装で?」


「重傷というより一度死んだんだが……大丈夫、目的地はアレの体内だから近いよ」


 あの巨大な山脈は生き物だ。

 その中には1つの文明が存在し、同じ世界でありながら全く違う異世界のような進化を遂げた人類が存在している。



 ・



 私の視界に写る世界が高速で流れる。

 暗い中での林道、それも木々の側をこんな高速で移動してしまえばぶつかってしまうのではないかと最初はビクビクしていたけれど、そんな事も無く慣れた頃に木々は無くなり、広い、とても広い海と、美しい日の出が姿を見せた。


「綺麗………」


「ふふ~ん。やっぱり気に入った?気に入ったかな?

 お互いお仕事頑張った甲斐があったね」


 ガタン……ガタン……

 と、一定の感覚で小刻みに揺れながら指定の個室から窓の外を眺めていた私に荷物を整理しながら話しかけてきたセーちゃんはニッと見慣れた猫のような笑みを向けてくれる。


「そうね、魔法薬の量産があんなにも面倒なんて……そのかいあったわね」


「しばらくは青臭い草なんて見たくないよね~」


 学校生活が2週間、1週間は学校終わってひたすら魔法薬作成が私達の主な生活でした。

 その間に私達の関係は益々親しいものになり、第3者が私達の関係を見たならばセリスと私よりもセーちゃんと私の関係の方が親しく感じるでしょうね。

 それくらい私達は良い関係になっていると自覚しています。


 私とセーちゃんが親密になるにつれて理解した事が2つほどあります。

 1つは私が何故セリスに砕けた口調で話せなかったか。

 それは単純にセリスの接し方、セリス自身が口調を崩してくれず本来の自分より良い魅力を見せようとしているからでしょう。

 態度こそ砕けてはいましたが、いくら親しくなろうと掴み所を見付けられない、あの笑顔と同じく猫のような性格をしているからです。


 対してセーちゃんは犬みたいな性格ですね。

 後ろからギュッと抱き付き、明るさいっぱいで構ってくれとまるで犬のように可愛くて。

 セーちゃんと違いセリスは抱き付いてきたりもしますが、撫でてくれるばかりで撫でさせてくれるなんて事はしませんからね。

 どうしても守ってくれる存在としての敬意も無意識下で感じてしまっていたから敬語を外すことができなかった。

 セリスと距離をおいた今だからこそそう感じます。


 2つ目なのですが……


「メリーもキャンディー舐める?」


「えぇ、頂戴」


「はい、あ~ん」


 これです。セーちゃんに食べさせてもらいながらそう再認識する。

 この世界で楽しめと師匠は言った。

 けれどこの世界は私を楽しませる為に創られたものではないと分かった。

 この世界は、セーちゃんが楽しむ為、セーちゃんがしたかったけれどできなかった事をする為の世界。

 学校という1つの社会も、ほんのちょびっとの刺激と新たな発見、二人で過ごす全く意味の無いけれど価値のある時間の浪費。

 それら全てとても充実した時間で私もとても楽しかった。


 そしてその全て、私がセリスの記憶から見せてもらった光景の中では何一つとしてまともな形を保てていた事が無い。


 セリスがほんの少しだけ羨ましいと眺めた学校の光景、その光景は数日後魂を食らうキメラソウルであるティナさんの事件により一瞬にして人一人存在しない廃墟となった。


 新たな発見は新たな不幸を連鎖的に引き起こす切っ掛けになる事があまりにも多かった。

 その中でも魔王の出来事は悲惨としか言いようがない。

 新たな発見により見出した魔法はミィさんを助けるためのモノだった。


 けれど、魔王として覚醒したミィさんの肉体機能を停止させる最後の切っ掛けとして使われたのはその魔法をほんの少し応用した魔法だった。

 助ける為に創った魔法が殺す為に応用することになるなんて、なんて皮肉なのでしょうかと心底思いました。


 良く言えば二人で過ごすゆっくりとした時間。

 悪く言えば退屈な意味の無い時間の浪費。

 誰にだってある、忙しい農家や借金奴隷ですら僅ながらそう言った時間はあるでしょう。

 しかしセリスにはそんな暇は無かった。


 この世界に来たばかりの数ヶ月の間、セリスは自分に眠りの魔法をかけない限りどんな小さな事であろうが異変が起これば目を覚ます。

 真夜中寒くて目覚めた私の呼吸の変化に反応し起きるなんて異常としか言いようがありません。

 けれど、あれ程凄いセリスがそれほど強い警戒心を持たなければ生きられない程の場所であったという裏付けでもあった。


「セーちゃん、隣に移って良いかしら?」


「ん?ちょっと待って、今退ける……はい!良いよ!こいこい!」


「それじゃ少し失礼」


 頭では理解しているのでしょう。

 もしも自分が普通の学生で、普通に暮らしていたならあの時自分も魂を抜かれティナさんの糧となっていたと。


 もしもあの時あんな魔法を創らなければミィさんを殺す事はなかった。

 その場合、死んでいたのは自分で魔王という魔力の塊による殺戮が終わることは無かっただろうということ。


 この空間、この世界全て、セーちゃんが、セリスが憧れたモノ。

 セリスは諦めてしまって、セーちゃんは無茶をしてでも経験してみたかった事の集大成。


 セリスの記憶の中に魔列車に乗るなんて経験は無かった。

 知識として持っていただけで、魔列車を動かす技術は持っていない。

 持っていた人達は例外無くティナさんに食べられ消滅してしまった。


「ごめんねセーちゃん。やっぱり朝早起きすぎてまだ少し眠いみたいなの」


「そうなのかい?なら三時間以上乗ってる訳だし寝ちゃいなよ」


「うん、そのつもり。だから少し失礼するね」


 そう言って私はセーちゃんにピタリと体を合わせる。

 私の行動が意外だったのか、魔列車を間近で見て興奮していた私よりも落ち着かない様子で、一分、二分と間を開け、照れ隠しなのか私の羽を摘まんだりし始めた。

 心の中でその様子を可愛いなと思いながらも実際に眠気に襲われている最中の私は気が付けば眠りに付いていた。


 この世界はセーちゃんの為に創られた世界であるのはもう疑いようがない。

 けれどそれは、私が居てこそ。

 私がセリスに、セーちゃんにとって必要な存在である事がとても誇らしい。

 だから私は師匠に言われたようにこの世界を存分に楽しむ。

 それがセーちゃんの為にもなるから。


覇王とセリスの実力の差はそもそも考え方が違います。

セリスのプレイング、命を大事に。

覇王、死ななきゃ安い。

自分に負担をかけて相手にもっと大きな負担を強いる覇王の考え方をセリスには理解できないんです。


カードゲームで遊戯王には自分のライフ(命)を半分払って使える強力なカードがありますが、覇王はカードゲーム感覚で死なずに勝利へ近づく限り何でも代償として払います。

セリスはディメンションスラッシュで切断された後に自分の体を縫い留めてましたが、覇王ならその糸で敵の首を両断してから回復に移ります。

そんな事を現実でやってしまうから、完全な合理主義者とは言えないものの、合理性の強いセリスには不合理にしか思えず追い詰められる。

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