表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
覇王セリスの後日談  作者: ダンヴィル
最終章、大きな決断と私達の一生
111/119

変わらない量で発生する差異


 眩い光が収まる。


「ようこそ我が城へ」


 そこは正に絶対なる王の間。

 左右には自分達が小さく思えるほど巨大な柱が何本も並び、支えられた天井はとても遠く、その柱から降りる旗の細かすぎる装飾は1つたりとも違いがない。

 そんな空間に伸びる真っ直ぐな赤い絨毯は階段に続き、玉座にまで届いている。


「覇王……」


 その玉座に座る理不尽の塊は私達を見下ろし、何が面白かったのかクツクツと笑いを堪えつつも品定めを止めない。


「ククッ……貴様が私を覇王と呼ぶとは、やはり貴様はどこまでも弱虫で無責任な小娘から変わらないか」


「……否定はしないよ」


「小娘って所は否定しろよ、んな年齢じゃねーだろ?」


 ふむ……思っていたよりも正気を保ち、軽口も叩けるのか。

 ターニャは思っていたよりも遥かに成長していたようだが、その軽口はあまりにも的外れ、クツクツと笑いを堪えていた覇王が耐え兼ね笑い始める。


「ハハハハハ!なんとも愉快だとは思わないか小娘!

 ククッ、認識の違いとはこうも違うものか!

 親になろうと戦士である事を止めぬ気高き者よ、よく聞くが良い。

 我々からしてみれば年齢など関係無いのだ。

 少女だろうが男だろうがそれを指すのは性別や年齢などではなく、その者の在り方を指すのだ!

 男とはどこまでもアホで大人ではない。

 女も同じで大人と呼ぶにはあまりにも程遠い。

 大人とはどこまでも良き対応ができるモノであり、理性的で人の世界に深く適応できる者の事を言う」


 カツン……ッ!


 と、杖で赤い絨毯のひかれた大理石を強く叩く。

 それと同時に来た暴雨のように強く、痛いくらいのプレッシャーに私は無意識に握り拳を作って耐えていた。


「それを踏まえてあえて名乗ろう。

 我は王!無駄なモノ全てを切り捨て絶対なる力において全てを捩じ伏せる事で全ての覇権を握った覇王である!」


 ビリビリと肌が震えるような錯覚さえ覚える咆哮にも似た力強い宣言。

 名乗り終えたらプレッシャーは消え失せ、まるで興味が失せたかのような、つまらないモノを見るかのような瞳で私を見下ろす。


「それに引き換え、貴様はなんて脆く弱いのだろうなぁ?

 耐えきれなくなり真っ暗な部屋に閉じ籠り、最も大切だったモノを失い逃げ出した。

 こんなはずじゃなかったと泣きわめき、自分の本質に触れられ受け入れられればすぐにソイツを信じ、その甘さに浸り今まで起きた嫌な出来事全てから目を背ける………これで泣き虫で臆病な小娘と呼ばずしてなんと呼ぶ?」


「それは……う~ん……どうなんだろーな…………」


 腕を組み悩む。

 今ターニャが悩んでいるということは、否定できないでいるとかでなく同感って所だろうね。


 私ですら覇王の言っている事には共感できる。

 その上その語りには確かな力があり、その力に劣っているようでは共感してしまうだろう。


 確かに共感できる、それでも私は止まる訳にはいかない。

 もう決めたから。


「それは理解している。

 それでも私はやっと譲れないモノを手に入れた。

 私はメリルを迎えに行く。だから通しておくれ」


「そうか……それが貴様の覚悟か………」


 覇王が微笑む。どこまでも残虐な笑みであり、つり上がる口は裂けてしまいそうな程な三日月の笑み。


 その残忍な笑みを認識した時だった。

 覇王の目の前にソレが突き刺さる。


「下がれターニャ。アレは不味い」


 空中から落ちてきたソレは鉈だ。

 ただ愛が深すぎる故に父親を殺したリザードマンを根絶やしにし、母を殺した盗賊がヒューマンだったから一国のヒューマン全て根絶やし呪詛にまみれた呪いの魔鉈。


 その魔鉈を確認した瞬間収納魔法にあるはずの主力武器が何個か無くなっている事を確認できた。


「やはりコレから感じる力の波動は心地良く美しい……

 そうは思わないか?小娘」


「………悪趣味」


「ハハハ、だろうな。この美しさは凡才には理解できんよ。

 グロテスクであるからこそ美しい……

 さぁ、これ以上の会話も愚問としか言いようがないだろう。

 この先に進みたければその価値がある事をこの私に示せ!」


 初手、フレイムタワーを乱発してきた。

 足下から4メートル程の太さの火柱が発生し天井まで届いている。

 その大量の火柱は一見乱雑に見えるが視界を悪くする目的は当然、遠近法すらも計算に入れた……


「グッ!」


 咄嗟に取り出したミスリルの剣で鉈を防ぐ。

 鍔迫り合いに持ち込んだ覇王はただ真っ直ぐ、自分で出したフレイムタワーの中を突っ切る必要があるにも関わらずただただ真っ直ぐ突き進み私へと鉈を振り下ろしてきたのだ。


 1つの手段で複数のメリットを用意したにも関わらず、そのメリット全て放棄したあまりにも否合理的な行いに受け流しに持っていくタイミングを逃してしまった。


 大理石が砕け、クレーターが出来るほどの衝撃。

 本来であるならミスリルの剣を捨て体術へ持ち込むのがベストなのだが、あの鉈が相手なら話が変わる。


 生じた衝撃波により鉈から霊体の形をした呪詛の塊が解き放たれ、確かな憎悪と共に襲いかかってくる。

 コレは受けてはならない。


「カハッ……グッ!……つぅ…………ッ!!!」


 腹部に強い衝撃が走り、壁に亀裂が入る程の威力で激突する。


 馬鹿な……何を考えている?

 今ので確かに私の腹部に呪いをかけられたが、呪いごと私を蹴っては自分の足が呪われてしまう……

 壁へ吹き飛ぶ最中、追撃の一手ではなく覇王の理解不能な行動に気を取られ、これが最大の悪手であり、この瞬間から私は戦闘の流れを全て渡してしまった。


 しかしその事に気付く事さえ許されなかった。

 休む間も無く追撃とばかりに鉈の投擲、加えて衝撃により再び死に陥れる霊体が来るッ!


「ゴフッ……」

「いい加減気付け」


 回避に専念しようと煙幕を張り抜けようとしたのだが、気配を殺し、初めから私の行動を分かって待ち伏せしていた覇王に腹を殴り飛ばされ…………



 ・



 師匠からこの世界の事を教わってから体感的に2週間が過ぎました。

 どうやらこの世界の時間の流れは外の世界より速いようで、私の羽で感知した情報が正しければ元の世界は一時間も経っていないようなんですよね。


 相変わらずこの世界に来た時の幼い姿に擬態したまま楽しんでいます。

 楽しい時間はあっという間ですけど、実際に時間の流れが速くなるというのを経験する事になるとは考えたこともありませんでした。


 この2週間、本当に楽しい事が沢山詰め込まれていて目を回してしまいそうでした。

 初日の博物館、あれはとても信じられないものでした。


「ねえセーちゃん……これって魔列車の図面だよね?」


 博物館の初めにドン!と目に入る魔列車のレプリカにも強い衝撃を受けましたが、その横に展示されてあった図面を見てもっと強い衝撃を受けた。


「ふっふっふ、どうだ凄いだろう!」


 自分が用意したモノでもないのに胸を張り自慢してくるけれど、その自信に溢れた表情はいつものセリスとは毛色の違う、どちらかと言えばミューズに似た明るい雰囲気で可愛らしかった。


「えぇ……凄いですけどこんな軍事的機密にでもなりそうなモノをこんなふうに公開しても良いモノなのでしょうか?」


「って言われてももう数百年前のモノで時代遅れだから、歴史的資料という価値しか無いんだよね。燃費悪いし」


「コレで………」


 燃費が悪いという言葉が信じられず、とにかく集中して改良点を探す。


「綺麗……」


「え?何か言いました?」


「背中から金色の翼出てるよ。やっぱり蠱惑の翼は凄く綺麗だね」


 セリスに言われて蠱惑の翼を出してしまっている事を知り急いでしまうと名残惜しそうな声を出されてしまいました。

 見せてあげるのも良いかもしれませんけど、蠱惑の翼をずっと出してると本来の姿に戻れてしまっている事に気付かれるかもしれないと思ったのでこの時は我慢してもらいました。


 図面を暗記し、セーちゃんと手を握り資料館を廻り、喫茶店でお茶をして少しの睡眠、夜中になったら廃墟に訪れました。


 廃墟の周りは木々に覆われ近くに建物は一件も無い。

 魔法の実験で住人に危険が及ばない為か隔離されるように建てられているその建物に行くまでの途中、フェンスに危険、関係者以外立ち入り禁止など貼られていたり中々に不気味な雰囲気で、セーちゃんに受けた説明が本当みたいだという期待度が上がってほんの少しワクワクしたのを覚えています。


 廃墟はそれなりに大きく、私達からしてみれば侵入することは凄く簡単ですぐに実験室らしき場所を発見できました。

 その部屋には様々な機材が置かれていますが、その全てが埃を被っていました。


「うん?………駄目だ、読めないな。

 メリーはわかる?私は一部しか読めなかったんだけど」


「セーちゃんが読めないって私も読めないと思いますよ?」


 そう言いつつも目を通し、古いけれど私の世界で使われている言語である事が分かり、私にはコレを読む事ができました。

 この資料を目に通して分かったのですが、この廃墟に設置されているモノはまだ師匠も解読できていない魔法書の技術を沢山つぎ込んでいるモノでした。


 修行していた頃に発覚したことを纏め師匠が立てた仮説なのですが、私の世界とセリスの世界はとても近く、どれくらいの周期で起こるかは分からないけれど、世界が繋がる事があるみたいで大陸その物が行ったり来たりする事があるのかもしれないそうです。

 実際お互いの世界に一部の土地が唐突に消えたり増えたりする現象が存在していて、名称に違いはあれど、共通してある種の災害として扱われていたりしますのでこの仮説はかなり高い可能性なのではと私も考えています。


 なのでこの場所にある資料は元々私の世界にあってセリスの世界へ飛んで行ったものだと考えられます。

 そして……


「何ですかあの化物!?」


「私が聞きたいよ!」


 解析ができてないのにこの廃墟は図面のみを元に、何をする魔法具かも分かっていないモノを恐らく師匠の手で沢山量産されていて、いろいろ触っていたら不定形の化物がドロリと出て来てそれはもう驚きましたよ。


「くっ、シャイニングレイ!」


 セーちゃんの放つシャイニングレイによって化物は悲鳴すらも上げられず浄化されましたが、次から次へと化物が量産され……


「……よし、ぶっ壊すよメリー!」


「えぇ!援護は任せて!」


 その後何とか魔法具を破壊して事なきを得ました。

 そして廃墟を出る頃には日の出でしたよ。


「はあぁ……やっと終わったぁ~……」


「そうですね~。セーちゃんが適当に起動させなきゃこうならなかったですけどね~」


「いや、それはぁ~……」


 セリスとセーちゃんは別である事は簡単に説明されたのですけど、この時に見せた何とか誤魔化そうとするセーちゃんの様子を見て、化物が出てきた時の慌てようを見て、私への接し方やその他も含めて、この瞬間、私は初めてセリスとセーちゃんは同質だけど別人であると受け入れられました。

 これがセリスが失くしていた子供らしさ、強い感情。

 だからこそ普段のセリスとは違う接し方をしようと決める事ができたのがこのタイミングですね。


「むぅ………メリーは楽しくなかったの?」


 困って返答が出なかったからと私の言葉に質問で返す。

 だから私は今の気持ちをめいいっぱい表に出して答えました。


「楽しかったに決まってますよ」


「そっか、うん、そうだね!

 やっぱりメリーと過ごす時間は楽しいね!私も楽しかったよ!」


 たった1日、けれどぐっと距離が縮まった関係になれた。


 もう既に私とセーちゃんとの距離感にぎこちなさは無くなり、普段の生活でも接し方が積極的なモノへと変わり、軽くつつかれたりつついたり、座ってるとダラリと寄り掛かられたり、とくに話題も無く二人でゴロゴロしたり、旅行の計画をしたり、あっという間で、たったの2週間。

 けれどその2週間は仕事をするとは別の、確かな充実感がありました。

 この生活も心の底から楽しいと言えるモノで、セーちゃんと過ごす日々が楽しくて仕方ありません。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ