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覇王セリスの後日談  作者: ダンヴィル
最終章、大きな決断と私達の一生
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選択肢


 学校で出席するべき授業が全て終了し深夜になるまでは何の予定も無いというのでセーちゃんに頼んで図書館にやってきました。

 一般公開されているモノでは私の見たこともない程の規模の図書館に訪れました。


「それにしても、いっつも何か作ってるイメージのメリーが図書館なんて珍しいねぇ~。スランプでもした?」


「別にそういう訳ではありませんが魔列車なんて魅力的なもの見たら気になるじゃないですか」


「ん?……あぁ~、そっか。メリーはこっち来たばかりだもんね」


 こっち?………なるほど、おそらく魔列車を知らない事での矛盾点を無理矢理軌道修正したと言った感じでしょうか?

 魔列車の無い田舎からやって来たメリーちゃんはいったいどれくらい凄い田舎からやって来たのでしょう。

 私の実家くらい田舎なのでしょうか?


 セーちゃんが頬をかき納得したと言った気配から一変、ニッと悪戯な猫のような笑みをし私の手を掴む。


「それならメリーにとっておきの所に連れてってあげるよ。

 私もお気に入りの場所なんだけどさ、メリーなら絶対に気に入るよ」


「魔列車関係ですよね?」


「行ってからのお楽しみだよ」


 図書館から出てセリスが収納魔法からエアボードを取り出し乗り、手を差し伸べる。


「コレに乗るのも初めてでしょ。心の準備は良いかい?メリー」


 なんか……セーちゃんはセリスですので、セリスと同じ魅力を感じるのは当然なのですが、やっぱり違いますね。

 セーちゃんは良く笑顔を見せる。

 感情を表に出して、基本的に物静かだけど行動で熱を伝えるセリスと違って愛情がとっても分かりやすく、私に好意を向けてくれるセーちゃんの姿が同じだけど違うと感じさせる。


 けれど、これもセリスなんだと心のどこかで納得している自分がいる。

 だから差し伸べられた手を重ねた。


「最初はスピード出さないけど少しずつ速くするから駄目そうなら言うんだよ?それじゃ行くよ!」


「はい!」


 私の腰に手を回し、グッと引き寄せられるので特に抗う事もなく身を任せたのでしたが失敗でしたね。

 テレポーテーションを連続し長距離移動する時とはまったく違う感覚に軽い恐怖を覚えてセーちゃんにしがみついた。


「ちょっもセリス……」


 速度を下げてもらおうと名前を呼びタップするけれど、私の様子を面白がってかセーちゃんは更に速度を上げ、結果的にあっという間に目的地に着きました。


「速度さげてくださいって言いましたよね!」


「いたっ、グーは止めて!」


 とか言いながら冗談みたいに面白そうな様子。

 わりと全力で叩いてますが何の魔力も込められてない私の腕力じゃセーちゃんにとって痛くも痒くもないんでしょうね。


「ごめんごめん悪かったって。メリーが可愛かったからつい」


「それでも私は怖かったんですよ!」


「本当に怒っちゃった?ごめんね?」


「怒ってます!」


 移動を始めてもセーちゃんの腕をグーで叩き続け、痛いと口にしながらもとても楽しそうなセーちゃんに私の怒りは徐々に薄れ、目的地だろう施設の入り口へ到着する前には消え去ってしまいました。


「それで、ここはどこなのですか?」


「博物館だよ。デートは夜中だけの予定だったけど、どうせならこういう場所でデートするのも良くない?」


「博物館?」


 私の疑問に対しセーちゃんはどう説明するべきかと本気で悩み、出した結論は見れば分かると言う。

 口頭での説明が上手くできないと判断したのでしょうね。


「はい、これ入場許可書。セーちゃんの奢りだよ」


「ありがとうございます」


「どういたしまして。それじゃ入ろっか。

 メリーなら絶対気に入ると思うよ、ほらこっ……」


「………えっ?」


 この時起きた事を言葉にして説明するのなら、

 世界がひび割れた。

 でしょうか?

 いきなり全てが真っ黒の世界になり、白い輪郭のみで全ての光景を画いたようになっていて、そんな世界にヒビを入れた状態。


『やっと隙を見せた』


「セリ……師匠?」


 すぐ近くにあったガラスの窓から声が聞こえ、振り向けばそこには見慣れてしまったやる気の感じさせないセリスの姿が写っていた。

 このやる気の感じさせない冷めた表情をするのは魔法使いのセリス、師匠くらいしか存在しない。


『あんまり長く話せないから率直に言う、貴女と行動しているセリスは貴女が覇王と呼ぶ存在や私と違う。

 私達は作り出された存在であり、そのセリスは作り物でなく本物』


「どういう意味です?それじゃいつも私と過ごしているセリスは?」


『それも本物。セリスは自分の意思で二つに割いた。

 メリルの言ういつものセリスの方に私達が居たのは単純に肉体を持っていたから。肉体の有無以外に関心は無く、故に中立。

 今居る世界の創造なんかの関係無い所で手を貸しはしたけれど、私はあくまでも見届けるだけのつもりだった。

 今回の出来事に無関係である筈の出来の良すぎる弟子を巻き込むなら話は少し変わってくる。

 ……時間が無いね。

 メリルはこの創られた世界の最後で今後の一生を決める選択を迫られる。

 だからこそ深く考えず私の創った世界を二人で楽しみなさい。

 それがメリルにとっての最善な答えの手助けになる筈だから………』


 フッ……と煙のように窓ガラスに写る師匠の姿が消えて世界が元のように動き出す。


「初めて見た………」


 楽しみなさいと言った師匠は柔らかな笑みを私に向けてくれた。

 基本無表情な人で感情というものが欠落してしまっているのではないかと思ってしまうほどに変化の無い人なのに。


「メリル~?どうしたの~?」


「今行きますよ」


 自作自演かと思っていましたけど別人格が創った世界であるなら二人で楽しめそうですし、素直に師匠の言葉に従う事にしました。

 一生を決める選択というのも気になりますが、今は気にしても仕方ない。だからこそ思いっきりこの世界を楽しみましょう。



 ・



「………鉄くせぇ」


 扉を開くと今まで一切しなかった血生臭さが突き刺すように強く感じ、それは私だけでなくターニャもそうで、眉を潜めながら小さくそう呟いた。


 この家は先程の洞窟に住むヤツを作り出し食われた頭のおかしい錬金術師の家であり、私の記憶が正しければ研究資料なんかが散乱していて少なくともこんな赤黒い不気味な部屋ではなかった。


「ん?……駒?」


 赤黒く染められた家に入り何かを踏み確認すればチェスの駒が落ちていた。

 ただ、それが何なのかすぐには分からなかった。

 理由はその駒には頭部の部分が無いからだ。

 手に取ったのがポーンだと理解できたのは、赤黒いのが付着しているがしっかりと白い部分が存在していた事と、同じように黒の駒が床に転がっている事を確認できたから。

 合計で6つの駒が存在し、それら全てに頭部が存在していない。


「ッ!?」


 ガシャンと音が響き身構える。

 音の発生源、血塗れで錆びて使い物にならない鎌だった。

 先程までは確実にそんなモノは存在していなかった。

 同じようにいろんな場所から音が続き、その度に使い物にならないような状態の武器が同じようにあった。


「……なんだこりゃ?」


「Barthold……」


 そのうちの一本の槍、その槍に彫られた文字を指で辿り呟いた。

 この名前、忘れられる訳がない。


 分かっていた、分かっていた事じゃないか。


 どれだけ話で解決しようとしてもきっと私は許されない。

 それでも決めた。

 その時が来たのならもう目を背けない。


『ほう……それを見ても意思は変わらないか………』


 テレパシーが響く。

 こんなにも速く遭遇する事になるとはね。


『歓迎の支度はできている。いつでも入ってくるが良い』


 赤と黒の世界に極め細やかな美しい装飾の施された純白の扉が出現する。


「ターニャ、心の準備は良いかい?」


「こんな所まで来てそれ聞くって愚問じゃね?」


「そうかもね……それじゃ行こうか」


 扉を開けると眩い光が世界を包み辺りが見えなくなった。


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