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覇王セリスの後日談  作者: ダンヴィル
最終章、大きな決断と私達の一生
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メリーとセーちゃん


「メリルーッ!!!」


「……………え?」


 私の目の前には姿見鏡が置かれており、その鏡により今の私の状況が否応なしに把握させられる。

 見慣れた自分の部屋で尻餅をついたかのように座る私の姿は何処と無く幼くなっており、覚醒する前の姿で背中の羽が消失している。

 その幼くなった私にこれまた幼い姿のセリスが私の名前を呼びながらベルトのように巻き付き、私のお腹に顔を埋めて甘えてきている。


 ………冷静になりましょう。こういう時こそ深呼吸。

 いったい何が起きたの?

 雪が降ってきたから本格的に降り始める前に提出するもの提出してしまおうと考えて外出の準備をして……その最中引きずり込まれた?


「あぁ……やっと合えた、やっと触れた………」


「あの、セリス?」


「っ!そう!私がセリスだよメリー!」


 勢い良く立ち上がり手を胸に当て興奮した様子で自分がセリスだと主張するセリス………というより……………


「メリー?」


「メリルのあだ名!可愛いでしょ!」


 このセリス凄くテンション高いなぁ………

 セリスが甘えたがりやな気質がこれでもかって表に出てきているかのような………でもこんなセリスも悪くないかも………


「う~ん……そうですね」


「ふふ、そうでしょ!」


「…………」


「…………」


 う……なんか凄く期待のこもった瞳を向けられてるんですけど……

 あだ名を付けてほしいということでしょうか?

 セリス・アルバーン……セーア?それならセアのが発音しやすいような………しかしそれは………う~ん……………


「ならセリスはセーちゃんですかね?」


 口にしてから何でコレを出したかは私が一番分からない。

 なんでこんなあだ名出て来たのでしょう?


「セーちゃん……うん、ちゃんと考えてくれてたし、ありがとう、嬉しいよ」


 しかし肝心のセーちゃんは納得している様子です。


 ふう、これはミューズと似たような接し方で大丈夫なようですね。

 ミューズより控えめな喜びかたがまたセリスっぽくて可愛い。


「ところで、ここは何処でしょうか?」


「何処って……どこからどう見てもメリルの部屋でしょ?

 寝ぼけてるの?」


「うん?……うん、そっか、そうですよね」


 セリスが使わなそうな毒舌に驚いた。

 けど覇王も魔法使いも使わないような…………


「あ、なるほど……」


「ん?」


「ううん、何でもないですよ」


 つまりこの小さなセリスも覇王や魔法使いとしてのセリスと同じで、何かしらの理由で必要だから作られたセリスの人格という訳ですか。


「それよりもう行こうか」


「何処に?」


「学校!」


 学校?……がっこう……………?

 何故いきなり学校が出てくるのでしょう?

 このセリスがどんなセリスか分からない。

 ここはどういうセリスなのか見えてくるまで従っておきましょう。


「分かりました、学校ですね。何か特別持っていく物とかはありますか?」


「今日は特に何もいらなかったはずだけど?」


 今日はですか。

 つまり今日だけじゃなくて明日も続ける予定なんですね。

 提出する資料封筒ごと消失してしまっていますし、いろいろと戻ってほしいです。


 階段を降り、一階に降りるとセリスが手を大きく振る。


「行ってきますお父さん!」


「お父さん……」


 そちらを向けば3人の男性が居た。


 一人は身長がとても高く、熊かと勘違いしてしまうほどガッチリとした体格の人で、重りを持ちトレーニングをしていた。

 一人はスラリとした長髪の男性でポニーテールで纏めている人で、新聞を広げて読んでいた。

 一人はエルフの男性で、その周囲には沢山の種類の武器が乱雑に置かれていて、その刃を研いでいる最中だった。


「おう!」

「行ってらっしゃい」

「気を付けろよ」


 皆手を止めてこちらに振り向き手を振ってくる。


 その3人の顔が、まるでキャンパスに書いた似顔絵を無理矢理鉛筆か何かで塗り潰したかのように、セリスのお父さん達の顔が分からなかった。


 けれど、その不気味な光景に反してとても暖かく、幸せに包まれていると言えるような雰囲気を強く感じる。


「優しそうなお父さん達だね」


「そうでしょ。みんな怖い顔なんだけど厳しくもあり優しい人達で私の自慢なんだよ」


 家を出てから訪ねてみると機嫌良く答えてくれる。

 確かセリスのお父さん達は6人と言っていた気がしますので残りの3人も見る機会があるかもしれません。


 ……と、考えた所である事に気が付く。

 セリスのお父さん達の顔は見えないようになっていた。

 だというのにすれ違う人々は誰一人顔を塗り潰されているなんて事はありません。

 自慢な父親だと言っていたのに……もしかして顔を思い出せない?

 セリスのお父さん達の最後は確か………原型も残らないくらい惨たらしく…………いえ、こういう考えはきっと目の前のセリスは望んでいない。

 何を望んでいるかちゃんと見定めないと。

 もしかしたら、このセリスは私をこの場所に閉じ込める気なのかもしれないから。



 ・



 メリルの店に泊めてもらってから7ヶ月以上経つが私は未だに居候をさせてもらっている。

 それどころか二ヶ月前くらいから旦那もこちらに避難させてもらっていてメリル達には本当に頭上がらないというのが私達夫婦の立ち位置。


「ふう……やっと眠ってくれましたよ」


「お疲れ」


 ……の、筈なのだがむしろ交代で子育てを手伝ってくれたりしてくれて夫であるハリーの子供の扱い方が中々上達しない。


 というよりミューズが子守り上手すぎるんだよな。

 ミューズが居るだけでそうそう泣き出さないし、話し掛けるだけならまだ分かるが、言葉を話せないクロエとジャンヌと会話して通じあっている様子なんだよな。

 種族的要因があるんだろうけど普通に羨ましいよアレは。


「っ!………ハリー、少し部屋から出るな」


「ターニャ?」


 マジックアイテムを使用し即座にナイフを出現させ部屋の扉を僅かに開けて待つ。


 ガシャン!と派手にガラスが割れる音がしたと同時に勢い良く飛び出し雷属性を付与したナイフを投擲……


「あ………わりぃ」


「いいや、ターニャの判断は正しいよ。こっちこそすまない」


 派手にガラスを突き破り変な体勢で着地して転がっている所でナイフ投擲され、貫通力を上げた一撃は生半可な風属性魔法じゃ貫通すると判断したセリスが自分の転がる真下に風魔法を放ち、セリス自身が私を飛び越えようやく止まった。


 立ち上がり服を叩くセリスに謝罪し、逆に謝罪されたのはついさっき飛び出した部屋から聞こえる二重に重なる泣き声に対してだろう。


「で、何事だこれ?」


「いや、人を殺さず無血で済ませるって大変だなって話し」


「つまりまたセリスか」


「またって何だい?」


「じゃあ違うのか?」


「いや……今回は私だが………」


「ほら見ろまたセリスだ」


「………もういい。それより姿見はあるかい?」


「だいたいどの部屋にも置いてあるだろ?」


「そうじゃなくて無くなってないかって事」


「は?」


 何言ってんだ?と思いつつ部屋を確認する。

 二人をなだめようと悪戦苦闘する旦那にどうしても目が移ってしまうがその視界にもちゃんと姿見鏡は置いてある。


「普通にあるぞ」


「なら良かった、すまないが鏡を借りるよ」


「ちょっと待てって、何に使うんだ……よ…………?」


 止めに入りセリスに触れるより早く、セリスの半身が鏡の中に入っていった事に驚き手を止める。

 鏡の世界の話は聞かされていたが、実際に目にするのとではその衝撃は違いすぎる。


「メリルを迎えに行くんだよ。ターニャも来るかい?」


「メリルを?」


「あぁ、私がメリルを好きすぎて起きた出来事で連れてかれちゃったんだよね」


「………なるほど?」


 正直何言ってるかわからないけど、旦那の方はレーナも居るし、同居人としてたまには役に立たないとな。


「まぁ、面倒ごとっぽいし散々お世話になってる訳だから手伝うぞ」


「正直助かるが……良いのかい?」


「レーナも居るしどうにかできるよな?」


「はい、自分の子ですし何とかしてみますけど、早く帰ってきて下さいね」


「だとよ。どうなんだ?」


「早ければ今日中に終わるね」


「なら決まりだな、行ってくる」


 頷き鏡の中に入って行ったセリスに続き、恐る恐る手を伸ばし、まるで水に触れたかのような感覚で自分の指が鏡に入ってるのを確認し、意を決して飛び込んだ。


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