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覇王セリスの後日談  作者: ダンヴィル
最終章、大きな決断と私達の一生
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セリスと付き合い始めてからの出来事


「その、本当にこれだけの事で銀貨3枚も出して宜しいのでしょうか?」


「先程も説明致しましたが1人でも多くの情報が欲しいので、個人情報の保護は致しますが絶対ではありませんので」


「それで宜しいのでしたら……はい、以上で手続きは終了となります。今から募集を始めますが宜しいでしょうか?」


「よろしくお願いします………お待たせしました」


「集まると良いね」


「3日もあれば集まりますって」


 私とセリスが付き合い始め、一番最初にデートとして訪れたのは冒険者ギルドです。


 何故この場所に訪れたかと言われれば、正式名は決まってませんがセリスとの共同開発で作った魔法具、仮名として個人能力測定カードという魔法具の実験です。

 この魔法具はその名の通り個人の能力を測定し数値化して割り出すという代物で、世にある計量器の魔法具番と同様に世界に革命をもたらすくらいの便利品になる予定の代物です。

 少なくとも私とセリスはそう確信しています。

 何より凄い所はコレ、セリスとミューズの魔力量を測定しきったというところです。

 今まで散々測定不能で私の魔法具をダメにし続けてきたセリスの魔力に耐えるだけの測定器ができた事が既に革命的なのです!


 けれど、今の受付の人やターニャやアリスの反応を見るにその凄さをいまいち伝わりにくい様子ですね。


 確かに良く考えてみれば商人や魔法使い、料理人や大工なんかと言った数字や図面、文字が大きく影響する職業の者でなければこの凄さは実感できないのかもしれません。

 受付の人はただ読み書きができるだけで、その中の数字がもたらす意味なんかは金銭意外全く無意味、管轄外と言ったところなのでしょうね。


 これから3日間場合によっては延長して最低でも百人くらい、千人も行けば最高と考えています。


 あぁ、この実験には商人のミカエルさんにスポンサーになってもらっています。

 当然ミカエルさんはこの魔法具の凄さを理解している理解者です。

 やはり商人のような数字と深く関わりがなければわからないのでしょうか?


「しかし人がいませんね」


 依頼の写しができるまで座って待ち、改めて周囲を見渡し正直な感想を漏らします。

 本当に人が少なく、簡単に数えられるくらいしか居ません。


「アリスも言っていたけど皆ダンジョンに行ったんだろうね。

 しかしこの町に群がるダンジョンも不思議だねぇ。

 ダンジョン同士が共存するなんて事は良くあるんだけど、ダンジョンが人を家畜ではなく共存相手と理解しているんじゃないかと思えるくらいには人体への悪影響が無い」


「え?そんなモノがあるんですか?」


「それがあるんだよね。弱い者が一月もダンジョン側で生活してるとヴァンパイアがするみたいに眷属にされてしまうなんて事があるんだよ。

 それで助けに来た者も入れて連鎖して餌を招き入れる生き餌に~……って、この手の話苦手かい?」


「うぅ……そうですね。気が付いたら手遅れというのは一番嫌です」


 表情に出ていたのか、セリスがごめんねと撫でてくれる。

 ついでに抱き上げられ膝にのっけられてギュッと抱き締められた。


「こんな感じにメリルを捕獲し養分を吸い、殺さず生き餌として使い、私みたいな餌を釣るんだよ~」


「えぇ……?それはただの自殺では?」


「ふふ、この仮定は無謀すぎたね。なんせ私が相手だからねぇ~。

 それは置いといて、ダンジョンと人類にとって今の関係ほどお互いにとって合理的な生き方は無いと断言できるのも確かなんだけど、それをダンジョン側が理解しているみたいなのが不思議で不思議で仕方なくてねぇ~」


「そう言われるとその事に関しても調べてみたいですね………それより、いつまで抱えているんですか」


「え……」


 スルリと抜け出してセリスの横に座り直す。

 私が抜け出すなんて微塵も思っていなかったからか、意外そうな雰囲気で名残惜しそうに手を伸ばしかけ、理性から止めていた。


 今朝からなんですけど、付き合い始めてから吹っ切れたのかセリスのスキンシップがいつにも増して過剰になっているんですよね。

 強い愛情を感じられてとても良いんですけど、獣じゃないんですから少しだけ大人な付き合い方をした方が良いと思います。


「ん……ごめんね、嫌だったかい?」


「いいえ、嫌じゃありません。

 ただ、多少の悪ふざけなら目を瞑りますが公共の面前で度が過ぎた事は止めますよ」


 まあ理由はそれだけでなく、そういった姿はセリスにしか見せるつもりは無いし、セリスの最高に緩んだ甘えた顔を他の人に見せる気もありませんからね。


 そんなやり取りをし数分経ち職員の男性がやって来ます。


「変わった依頼を出したダンヴィルさんであっているかい?」


「ええ、1人銀貨3枚で依頼を出したメリル・ダンヴィルです」


「コレ依頼の写しなんだが……コレ、冒険者止めた奴でも受けられるって書いてあるが俺も良いか?

 元冒険者で新参にダンジョンの心得なんかを教える役割でギルドに雇われてるんだが」


 なるほど、道理で言葉が粗い訳ですね。

 始め言葉に眉を潜めかけましたがそれなら納得です。

 むしろこの屈強そうな指導員の男性が丁寧な言葉で話していたら新参に嘗められてしまいますよ。


 彼にも個人能力測定カードを触れてもらい浮かび上がったデータを用紙に記入させてもらいました。

 それでこの人、名前ミキャエルさんは筋力が87,6というかなり高い数値出ましたよ。

 コンマを除いた場合セリスの筋力が42、私が12、ミューズが298ですのでヒューマンにしては高い数値ですね。

 まあ筋力は結局魔力の数値の高さでいくらでも強化できるので高い数値出ても魔力の数値が低かったらあまり意味無いですけど。

 セリスの魔力ですけど13億と桁が違いすぎて一瞬理解できませんでしたね。ちなみに私の魔力は7000ちょっとでした。


 そんな訳で少しずつ作業を始めてですね、不意にセリスが……


「今気が付いたんだけど、付き合い始めて初のデートで男をとっかえひっかえするこの状況を簡潔に字面としたならかなりヒドイね」


「間違ってませんけど何ですそれ?嫌すぎるんですけど……」


 と、こんな事言い出したのが凄く印象的でしたね。


 個人情報収集の時に気が付いたのですけど、特定の年齢層の名前なんですが、ミカエルと直球な所から始まり、ミキャエル、ミュカエル、ミカール、ミーエル、ミエール、ミュエールとミカエル人気の高さですよ。

 多い多いとは思っていましたがデータとして纏めるとここまで多いとは予想していませんでしたね。

 国民的英雄章の正にブーム世代は英雄ミカエルのように強い子に育ってほしいというの意思から似た名前が多いようです。


 この日はけっきょく六十人弱と少ないデータしか取れませんでしたが、次の日、また次の日と人数は増え、結局延長もする事になり5日で千人のデータが取れて十分すぎる成果を成し遂げることができました。



 ・



 個人能力測定カードでの収集データを纏め、種族別に分けて平均値を割り出してスポンサーである商人のミカエルさんに提出。

 それからしばらくしてから数値とは別にアルファベットで能力評価を出せるようにできないかと注文が来まして、修正するのに1ヶ月使用しました。


 ただその1ヶ月で一度行き詰まりセリスと少し問題が発生しまして、その………私もセリスもどっちかっていうと猫なんです。

 ……通じませんかね?

 その……つまり………私もセリスも……その………どっちかって言うとするよりされたい……みたいな感じ……です………………


 そうそう、それは置いといてミカエルさんからの注文は無事にできましたよ。

 最低がZから始まり最高がAランクです。

 項目によって評価基準は異なりますが、魔力でAランクを出す場合は10億を越えないと出ない設計です。

 私の魔力評価はKランクでして、この時点で他を寄せ付けない程高いランクですのでAランクを出すのがどれだけ異常な事か分かってもらいたい。


 無事に提出を終えた個人能力測定カードですけど、正式名アビリティカードとミカエルさんが名付け、爵位式で三人で出すという事が決定しています。

 既に同じものを5個作っているのですが当面の目標は2つ。

 ミューズに魔王の魔石を作ってもらわなくても済むよう代用魔石を創る。

 私が一回一回魔法文字を刻まずに済むよう、簡略化の為文字を刻む用の魔法具を作るなどですね。

 大きな目標はコレですが掘り返せばまだまだ出て来ますよ。


「セリス~。セリスに教わってきた基礎的な事を纏めてみたのですが目を通して貰えませんか?」


「もちろん、今見ても構わないかい?」


「はい」


 そんな爵位式に出る事が決まっている私達ですが、恋人として夜にやる事は本当に一度きりで大きな変化は特にありません。

 一応私達は強い力の持ち主であるので性欲が普通よりずっと少ないですし、こういう関係が私達らしいですからね。

 一見冷めているように見られてしまうかもしれませんが、スキンシップは取りますし、私達はやはり愛し合う時の目線が普通とは異なる事が多いです。


 セリスの内なる魔力は激流のように激しく、あるいは熱湯のように熱いというのに表面は厚い鉄か何かで覆い隠されて更にデコレーションされていてとても美しい彫刻にも見えてついつい見とれるって話してわかりますかね?

 とにかく私はこの自慢の羽全面でセリスを感じているんです。

 セリスを感じているからこそ、セリスの意識がこちらに向いていて、どんな感情を向けてくれているか分かる。

 それがどれだけ心地好いかなんて、それこそ私と同レベルの種族能力を持つドリーミーでもなければ分からないと思いますよ?


「うん、良いんじゃないかな?

 最初役所の書類みたいだったのが凄くわかりやすくなってるよ」


 セリスに渡した書類は二種類。

 論文として提出する方と、論文の内容をわかりやすくした魔法書の原稿。

 論文は細かな誤字の修正、論文はセリスの言った通りの修正。


「なら良かった。誤字も無いですよね?」


「元々魔法文字以外の誤字なんてどうだって良いんだけどねぇ」


「商品だろうと論文だろうと誤字はダメですって。

 それより絵を付けるというアイデアは助かりました。

 まさかここで趣味が役に立つとは……」


 セリスがページ数増やしてでも図面の他に具体的な絵を入れてみないかというアドバイスをくれたので入れてみました。

 今の魔法具による写し技術ではセリスの作った写真には到底及ばない精度なので製本するのに写真は使えないんですよね。

 なので手書きで描いたのですが、これからの時代の流れ、今起きているというより、今起こしている魔法技術革命、この大きな津波に乗って近い未来誰かがより優れた発明してくれるでしょう。

 本当は私達でやりたいんですけど体が足りません。


「メリルは絵が得意だからね。

 今度落ち着いたら遠出して何か描きにでも行ってみるかい?」


「良いですね。ついでに温泉街なんか行きたいです。

 しかし、今はやりたい事が多過ぎて……

 本当にどこから手を付けたら良いのか……」


「そうだね」


 今が幸せすぎて、充実しすぎて変な笑いしかできない。

 疲れたような、楽しいような、過去の思い出を楽しむようなそんな笑い。


「やっぱり、目標に向かって走るメリルの姿が一番美しいね………」


「………………えっ?」


 そんな状態から不意に向けられたセリスのアツすぎる熱。

 それもただ惚れたとかじゃなくて、具体的に何がどう、こういう所が好きだと、言葉だけじゃなくて、その魔力が私の根本の部分から認めているというのが分かる。


「そ……そうですか?えっと、さっそく提出してきますね」


 この言葉がとても嬉しくて、恥ずかしくてこの時は逃げるように小走りで離れていきました。


 その夜、心の準備も済ませて私は言葉にはしないけれどセリスにアピールしてですね、その………いえ、何でもないです…………



 ・



 アビリティカードの事が順調に進む日々の中、ほんの少しトラブルが起きました。


「メリル、少し不味い事になったんだが今いいかい?」


「はい、構いませんけどどうしました?」


 私の当番来たので洗濯物を干す作業を中断してセリスに近づくと資料を渡されたのでそれに目を通す。


「ふむふむ………なるほど、こんな事になるとは予想外でしたね」


 魔法具と違い、魔法書を書いて販売するには魔法ギルドが認めた魔法使いの目を通さないといけないので当然手続きの手段や権利の得る方法が異なります。

 私はその前に踏むべき筈の魔法書の権利保証を終わった後にするのだと勘違いしていたのです。

 本来ならそれだけじゃ他人が権利を奪うことはできないのですが、魔法ギルド方面の契約の抜け道を上手く突かれ、権利が他の人に奪われてしまったという内容が書かれています。


「店を持って一流になった気でいましたが私もまだまだですね。

 なので次から気を付けましょう。セリスも注意してくださいね」


「それは勿論だけど……良いのかい?」


「良いんです。こんな手もあるのかと感心しているくらいですし、今回の事は少し手痛い授業料だとでも思っておきましょう」


 今回の魔法書は実に画期的で今までの魔法技術の常識を覆すような内容すら含まれていて技術革命をもたらし世界の常識、それはもう世界の教科書として使われても何らおかしくない内容だと思っています。

 そんな内容を横から聞いたこともない名前の人が盗んだ。

 けれど商人としての基本、お金は持っている所からむしり取るという部分から言わせて貰えば騙される、怠った方が悪い。

 旨い話には毒があるのは当然の事。

 旨い話に小躍りして提出していた私は正に肉食動物が取り囲む草原に訪れた鹿か何かでしょうね。


「それに、私達はこんな小石で躓くなんて事ありませんもの」


 私達の目的は今回出版した魔法書によって魔法の認識、技術水準を上げること。

 お金儲けはついでで集まれば今後楽になる程度の認識。

 商人目線から言わせて貰えれば愚かな考えとしか言えない出費ですが、今回は全て魔法使いの目線での行動。

 副産物なんてどうだって良いのです。


「更に言うならこの人、随分と派手に本を刷っていますね。

 今から大きな手柄を立てて爵位式にでも出たいと考えているのでしょうか?」


「それは私も思ったね。

 これだけ作ってばら蒔いているんだから何ヵ月……下手したら一年経たなきゃ元が取れないんじゃないかい?

 この世界の流通速度を考えたら供給が間に合わないだろうし」


「ですよね。そこのところは商売が本職じゃないって感じしますね。これはもし爵位式で出会ったらお礼を言っておきましょう」


「お、メリルもそんな顔するんだね。嫌いじゃないよそういうの」


「お褒めに預り光栄ですわ」



 ・



 爵位式も無事に終わり、私達の作ったアビリティカードは国として大々的に発表される事となり王国との関係強化として作成できた50枚中25枚を渡すことになったらしい。

 その見返りとしてエアボードというモノの設計図を帝国は受け取り、時代は正に技術革命、技術競争真っ只中。


 私もエアボードの設計図と、何故かセリスがエアボードの現物を持っていたのでバラして設計を理解し益々魔法使いとして大きな成長をできたと思います。


「ふ……んんん~…………」


 ペンを置き、大きく伸びをしてなんとなく外を見る。

 あっという間に冬が訪れ窓から覗く雲から小降りではありますが雪が降っている。


「本格的に降る前に行きましょうかね……」


 時間があるので提出を後回しにしていた書類があり、雪が積もった時の事を考えたら今のうちに行った方が良いだろうという考えがポツリと漏れた。


 席を立ち、姿見鏡の前で軽く身嗜みを整える。


「ん?なぁ~にセリス?用があるなら……」


 鏡を見てるとベッドに腰掛けこちらを見守るセリスが居る事に気が付いた。

 私もセリスも時々勝手に部屋に入るので特に深く考えないで振り替えったのですが……そこにセリスは居ませんでした。


「……ん?セリ……っ」


 おかしいなと疑問に思いつつ、もしかしたら思い付きで何かしようとしてるのかと考えた所で私は背後に引っ張られ、ドボン…と水の中に落ちたような音を耳にした。


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