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覇王セリスの後日談  作者: ダンヴィル
最終章、大きな決断と私達の一生
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メリルの魅力


 メリルに告白された。

 メリル本人にも言った事なのだが、『私はメリルとそういった関係になる事に抵抗は無い』という結論は揺るがない。


 私はメリルが好きだ。

 私の力を知り、過去を知って尚私を私として受け入れてくれるメリルが大好きだ。

 だが、私の好きは友人や親友に向けるようなものだと思っていた。

 仮にメリルに対する私の依存性を表現するならば、祖国の為に命を投げ捨てる狂信的騎士に近いものがあると言えるかもしれない。

 それは間違いなく祖国を愛しているからできる行動であって、仮に祖国というのが人だとしても恋愛感情と言えるだろうか?

 私の価値観としては言えないと断言しよう。


 うむ……我ながら珍しく例えが悪かったかもしれない。

 メリルの緊張に呑まれ私も私で混乱してしまったのだろうか?


 けれど少し前までは間違いなく私の中ではこの考えで固まっていた。

 実際ドリーミーだから、魔族だからとかふざけた事言いながらメリルを殺してしまった輩が現れたのなら……

 私はその土地を生き物が住めるだけの環境に留めておける自信が無い。

 メリルの為に私はそこまで怒り狂え……いや、メリルの悲惨な死を見てしまったのなら今度こそ私は壊れてしまうだろうね。

 それだけメリルを愛している。


 だがそれも先に考えた通り少し前までの私の考え。


 では現状の私はどうなのかと言われればあまり変化は無い。

 ただ、違った視野からメリルを見直そうと考えている。


「セリス、中に入れてもらえませんか?」


 足をだらしなく垂れさせベッドに寝転がりながら考えを整理していると、ノックに続いてメリルの声がしたので上半身を起こし返事をした。


「開いてるから入って良いよ」


「失礼します」


 いつもと変わらない普通の寝間着。

 けれど素人が見てもわかるくらいにぎこちなく、緊張しているだろうメリルが入ってきた。


「何か言い忘れた事でもあったのかい?」


「いいえ、特に何も。ただ、セリスの側に居たかったので。

 その………用がないと駄目でしょうか?」


「いいや、別に構わないよ。

 そうしてくれた方が上手く整理できるかもしれないし」


「ありがとう」


 隣に腰掛け、私に体を預けながら持っていた小説をめくり始める。

 その行動にどうしたら良いのか分からず、数分経って私も本棚から小説を取り出し読み始める。


 二人分のページが捲れる音と、メリルから聞こえる何の訓練もされていない素人臭い呼吸音のみがこの場を支配していた。

 特に何もすることもされる事も無く、いつもと変わらない距離なのだけれど、いつもは私から距離をつめるが今回はメリルからだった。


「もう良い時間ですね。私はそろそろ寝ようと思います。

 おやすみなさい」


「あぁ、おやすみ」


 そう告げて部屋を出ていくメリル。

 部屋を出るまで本当に小説に目を通していただけだった。

 ただ段々と体勢を崩していき、最終的には私の背中に寄り掛かるようにして寝転がっていた。

 その背中から直で感じる緊張したような、言葉も視線も無いが確実にこちらへ関心を持っているという少々特殊な場面であった。



 ・



「おはよう」


「おはようございます」


 起床し台所の料理酒が無い事に気が付き地下から魔法実験用として買っておいたアルコールを持って上がると廊下でメリルと鉢合わせた。


「…………」


 いつもの流れなら私からメリルの頬にキスをするのだが、昨日の事があってどうするべきかと悩んでいると目を閉じ、キスをしやすいよう少しだけ顔を出してくる。

 そんなことをしつつもメリルはかなり意識しているのか、若干怯えにも似たような震えが肉体に現れている。


 そこまでされてしないというのは無いだろうと考えいつものように頬にキスをし何事もなく料理を再開する。


 この時以降からはこの挨拶もいつものように行えるようになり、若干メリルに緊張が走ってはいるが問題は特に無い。



 ・



「セリス~。魔法具がある程度形になってきたので少し意見を下さい」


「構わないよ~……って、今回はまた随分と多いね………」


 収納魔法から取り出された紙の量は軽く500を越えており、置かれた際にそれなりの重量の紙が集まった時特有の音がした。


「そうなんですよね~。今の魔法技術じゃ私が求めている効力を発揮するにはこれくらいの量を入れないと駄目なんですよね」


「ふむ……ん?もしかして魔力で個人の能力を数値化して測定する魔法具かい?」


「おぉ……流石セリス。良く分かりましたね」


 もしかしてと思って言ったら当たっていた。

 細かすぎて数百ページ目を通したくらいじゃわからず、普通なら全てのページに目を通した頃には記憶に漏れが生じて何をしたいのか分からなくなるレベルだ。

 普通は分からん。


 正直コレを解読する事はできるけど、同じものを何も見ずに一から作れと言われたら不可能だ。

 しかもこれ……


「……これは私が作る場合かなり運に頼らないとできないね。

 千回やって一回でも成功品が作れれば良いレベルなんだけど大丈夫かい?」


「はい!やれる自信はあるので!」


「なるほど………ところで、ここのページ、こことここで重複しているからここと繋げた方が良いと思うんだけど?」


「あ~……やっぱりその部分そう思いますよね~………

 しかしそこはこことここに直接的な関係があるから」


「うんうん、それなら単純にもっと純度の高い魔石を使えば良いんじゃないかい?」


「それですと費用が……」


 費用ってコレを商品化するつもりなのか……

 こんなもの出来たら軍事機密レベルのモノだし国宝と言っても過言じゃないと思うんだけど……面白そうだからいいや。

 というより最近忙しそうにしていたのはこんな楽しそうなモノを作っていたのか。

 私だって役に立てるだろうからもっと早く入れてほしかったな。

 この問題を解決するとして……例えば…………うん、アレが良いね。


「魔王……じゃなくてミューズに魔石を作ってもらえば良いんじゃないかい?」


「…………あ。セリス天才ですか!?

 それなら他の所に費用回せますね、もう少し考え直してきます」


「ちょっと待って、私も考えるのまぜてくれないかい?」


「はい、もちろん良いですよ。行きましょう」


 柔らかな笑顔を見せ、私の手を引きメリルの自室へ行き二人で語り合い気がついたら夜が明けていた。



 ・



「セリス様!お使い終わったよ!」


「ありがとうミューズ、お礼に私の大好きなキャンディーをあげよう」


「やったー!」


「セリス、私にもください」


 いつものようにキャンディー1つで喜ぶミューズの後ろから声をかけてくるメリル。


「良いよ」


「あ~ん」


 目を閉じ、控え目に口を広げる。

 恥ずかしいのを我慢しているが、してもらいたいという気持ちも感じられる。


「………はい、あ~ん」


 その口に優しく押し込む。


「うん、甘い。ありがとう、セリス」


「………どういたしまして」


 ニッ、と小さく笑うメリルに返事をするのが少し遅れてしまう。

 その後何事も無かったかのようにメリルは作業に戻った。



 ・



「ふぅ、随分買い込んだね」


「本当ですよね、砂糖も塩は調合にも使いますからあっという間に無くなりますし、収納魔法があるとは言えこの量は店を回るだけで疲れますね」


「普段あれだけ嬉しそうに買い物引き受けるミューズの凄さが分かったかい?」


「それはもう身に染みて………」


 近道をしようと細い道に入る。


「………メリル?」


「人目があると恥ずかしいですが……無ければ外でもこうしていたいです………」


 私の腕に両手で掴み、頭の羽を擦り付けながらそう言ってきた。

 自分で行動しておいて恥ずかしすぎたのかそれ以上は何も無く、人の気配を察知すると離れてしまった。



 ・



「あ、セリス丁度良かった。

 そこの棚にインクのストックがあるので取ってもらえますか?」


「ん?ん~……あった。はい、黒で良かったかい?」


「はい黒であってます。ありがとう、セリス」


「ん……どういたしまして」



 ・



「………という感じで気が付いたらメリルが天使になっていた」


「いつもとあまり変わらないんじゃねーか?」


「いや、そうなんだが意識し始めて私に好意を持っていると分かった上だとグッと来るものがあってね」


「ならもうOK出せよ」


「それは……恥ずかしいだろ?

 一週間とか言っといてまだ5日しか経ってないし……」


 現在私はターニャと二人きりで冒険者ギルド内の酒場で飲んでいる。

 私の我が儘で無理を押し通しこの場でメリルの可愛いと思った所を数個ほどピックアップして説明したのだがメリルの魅力はこの程度では収まらない。


「それ言い出したら同性に告白したメリルの方がずっと恥ずかしいし怖かった筈だと思うんだがな。

 ここまで仲良くなって関係が崩れかねないんだからメリルらしくない決断だ」


「魔法を使いこなす者に性別なんて関係無いだろう?」


「メリルは魔法使いじゃなくて商人としての常識のが強いからな」


「あぁ、なるほど……」


 最近は魔力制御という一点に限っては圧倒的なまでに実力を引き離されてしまったのもあって抜けていたけど、メリルは魔法使いというより普通の人の考え方をする色が強いからね。

 もしかしたらメリルの理性はまだ同じ性別で付き合う事に強い抵抗があったのかもしれない。

 それでも自分の心から来る想いを止められなかったと……


「………なんだいそれ、反則みたいに可愛い」


「なんだ?もう酔ったのか?」


 つり上がった頬を誤魔化すように私は意味もなくテーブルを拭き始める。本当に何の意味も無いけど。


「しかしメリルがねぇ……

 話聞いてて思ったんだがメリルにしてはセリスを頼ってたよな。

 実際私もそういった場面良く見てたし」


「それはどういう意味だい?」


「メリルは魔法使いになろうと根っからの商人魂の持ち主だと私は思っていたんだよ。

 だからこそ自分でできる事は自分でする。

 手が回らない所だけ人を雇って適材適所で仕事させるのが商人だろ?

 旅商人だったメリルは尚更1人で何でもこなす事が多くて人に頼る事を慣れていないからな。

 大きな失敗して破綻しかけた時も敵の密輸の証拠を暴いて力のある大きな教会に突き付けるぞって脅して乗り切った事があるくらいだし」


「その話は初耳なんだけど」


「事の発端は新たな貨幣が作られるって話になった時なんだよ」


「その話題は普通に死人が出そうだねぇ………」


 金銀の含有量を調節する通貨改鋳は、本当に通貨そのもののコストが変わって、それで経済が動く。

 貨幣はその国そのものの信頼であり、信頼の厚い国の貨幣が新たに作られるとなったのならそれはもう膨大な利益になるね。


「それなりに大きな商会にメリルのような行商人をハメて大金を得ようとしてかなりの数の行商人が被害にあったんだが、メリルのような感情を見通すドリーミーに喧嘩売ったのが間違いだったね。

 ハメられた行商人が1人じゃないという事に重苦しい感情から割り出し仲間に入れてな、そこから能力を使って使い走りを捕らえたり、見つからないよう室内に侵入したりして得た決定的な証拠を掴み脅して動きを封じて終わり。

 教会に出すという脅しをする前に領主にコネある奴を通して開示してもしもの時の後ろ楯も作って徹底的に動きを封じてな、新たな貨幣が生まれる事で生じる利益をかっさらって~………

 最後の最後には後ろ楯になってもらった領主に美味しいところ大半かっ拐われた訳だが、大がかりな仕掛けをしていた商会は一銅貨足りとも利益を得られず、メリルの方は予定の一割も入ってこなかったが十分な利益を得られたって事があってアレは凄かった」


「それは……素直に凄いと感心するねぇ………」


 私が領主だったら結束した行商人ごとき皆殺しにして金品全て奪って魔物に殺された事にさせるかな。

 ついでに騒動起こした商人には不死の呪いをプレゼントしてあげて町から追放するね。

 別に回復速度が異常に早くなるとか、老いる事が無くなるとかじゃなくて本当に不死だけ。

 ミンチにされようがミイラになろうが意思はそこにあり死ねないって呪いだよ。


「まあそんな強いメリルが頼るってのが少し変な気がするって思ったけど、単純にお前に話しかける切欠作りって考えたらそれは可愛いな」


「なるほど……うん…………可愛すぎないかい?」


「それ経緯を聞かされる前にも聞いた」


 その後、ターニャが娘を任せっぱなしにはできないという事で早めに戻る事になったのだが十分すぎるほど心の整理ができたので明日にでも、今度は私が自分の気持ちを伝えようと思う。


 という事でメリルにしっかりと伝え、今までに見たことないくらいにテレた様子を見せ……


「早速ですけど、明日は休みですしデートに行きませんか?」


 ニッとイタズラに成功した子供が見せるような笑顔で恥ずかしさを誤魔化しながら言ってきた。


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