愛し合う
「………って、一回戦目からセリスですか?」
「そうみたいだね~」
わああああ!!!という歓声の中で猫のような笑みでクックッと笑うセリスに私も思わず笑みを浮かべる。
参加したからこそ知る事ができたのですが、闘技大会出場者の控え室には次の対戦相手はどこにも書いていないんですよ。
観客側は把握できるんですけど、不思議ですよね。
私としてはセリスかミューズにぶつかって派手なパフォーマンスで宣伝して終わるのが目的でしたので何回戦目でぶつかるかなんてどうでも良かったのでスタッフに聞いたりしなかったのですが一回戦目ですか。
「そうだ、さっき言い忘れていましたけどこの杖有難うございます。想像以上に肌に合うと言いますか、予想以上の効力が発揮されてしまいましたよ」
「確かに凄かったね。即興であんな魔法使うとは思わなかったよ」
「あれは失敗作なんで禁書に書き込んで地下送りですよ」
「この世界には確かに似合わないものね」
「お二人ともそろそろ初めても宜しいでしょうか?」
キリが良さそうなタイミングで審判の人が確認を取ってきたのでお互い大丈夫と答える。
そして試合が開始する。
しかしセリスも私も動かない。
お互いじぃ~……っと音が聞こえてくるようなほど見つめ合い、セリスは単純に動いてくるのを待っていたらしく、あまりにも棒立ちで動かない私に対して苦笑する。
そんなセリスの様子を見て私から動く事にする。
ただ、戦う為でなく、その前に伝える事ができたので。
いつもとなんら変わらない足運び、家の廊下を歩く時、本を借りに開けっ放しのセリスの部屋に「本借りますよ~」と言う時となんら変わりのない日常の足運びです。
まあ、足運びがどうのって素人の私が意識したところで無駄でしょうし、そんな事考えるくらいなら魔繊手でで浮かびますね。
「う~ん、どうしましょっか?
いろいろ考えていたんですどセリスはどうした方が良いと思います?」
そんな無防備な足取りでセリスに近付き、トトンと踊るように少し斜めの位置に寄り、私が考え事してるとミューズが時々してくる動作に習ってセリスの顔を覗き込んでみる。
この動作、ミューズがどうしても遊んでほしい時にしてくる動作で自分の可愛さを熟知しているからこそする行動なのですが、悪意は無くて純粋な好意故に甘えてきているのと同じでとにかく可愛いんですよね。
それを私がした所でどうなんでしょうという話なんですが、少しくらい可愛いと思ってくれるなら嬉しいのですけどね。
「う~ん……そうだねぇ………」
私の頬をかすめるようにして髪を一撫でし、数歩進み背を見せる形で考え込む動作を見せ、ヤレヤレと大袈裟に首を振り私へ向き直る。
「祭りは参加してこそというのがあるからメリルが参加する事には反対しなかったけれど、それでもやはり対峙して理解したよ。
例え守りの呪いが付与されているからと言ってメリルを傷付ける行為をする行動そのものが私は怖い。
メリルには是非見てほしい。
ほらこの手、笑ってしまっていて止まらないよ」
どこまでも大袈裟すぎるという動作から流れるように、それでいて困ったように差し伸べてきたその手は私にもわかってしまう程に震えていた。
試合開始直後、私が近付いた一番の理由。
それこそがセリスから感じた僅な恐怖。
期待と楽しさに隠れていたけれど、しっかりと感じ取れる恐怖に気付いたから何時ものように近付いた。
「セリス、魔法は好きですか?」
「ん?…………そりゃあ好きだねぇ」
「奇遇ですね。私もセリスが大好きです!!!」
一歩下がり片手を大きく上げてくるりと一回転。
その回転で半回転する時に冷却の魔法を上空へ放ち、破裂してキラキラと光が反射して輝く粒が降らせ、笑顔で大好きだとセリスに言った。
こんな公共の面前で私はセリスが大好きだって言ってやりました。
どう聞いても言葉足らずで魔法が大好きだと発現したよう解釈するだろうけど、私はセリスが大好きだってハッキリと告白をした。
「私は魔法なんて護身用くらいだけ覚えていればそれだけで良かったとずっと思っていました。
けれど私はセリスと出会った。
私の中の魔法の価値観が変わってまるで………」
力一杯溜めて溜めてセリスの両手を握り目を見てハッキリ言う。
「まるで私の知ってる世界の全てが変わるようなものでした!
私はセリスが楽しそうに語り魅せる魔法の数々、それを見て、それらを含めて全部大好きになった!
魔法とはこんなにも面白くて奥が深い!」
握った手を離し、杖を出現させ魔法を使う。
「これは……天気雨?」
「あれ~?気付いたのはそれだけですかぁ~?」
「………っ!?」
ふふ、気付いたようですね。とても驚いた様子です。
光、水、冷気を使用した魔法で作った太陽を囲う虹の指輪。
「覚えていますか?
去年、白い虹の輪が月の良く見える夜にでていましたよね。
でも、太陽の時に七色の虹が輪を作った方が綺麗だと思いません?」
「うん、とても美しい日暈だね」
雨が上が、ほんの少しの水気を帯びた白い髪をサッとかき分け光る。
私が何を伝えたいのか伝わったのでしょう。
もうセリスの中に恐怖は無い。
けれど、私はあえてハッキリ口にする。
「分かったようですね。ですから、愛し合いましょう。
私とセリス、二人でこの瞬間を!」
「そうだね、お互いの愛と技術と知識とアイデアとその全てをぶつけ合おうかメリルッ!!!」
私が杖を振りかぶり、それに合わせてセリスも杖を出現し、魔力を帯びた杖同士でぶつかり合いお互いの魔力な混ざり合う感覚と、漏れた魔力がリングを走り震えている。
やがて私はセリスの反則みたいな魔力量を処理しきれなくなった結果、魔力反発によりお互いに吹き飛ぶ。
生き物の魔力は元々世界の魔力、空気中に存在する魔力を魔石という魔力袋に蓄え自在に操るのだけれど、一個体に入れた魔力を別の個体の魔力と合わせてまた1つに戻そうとすると反発する。
単純だけどこの現象で起きる力はかなりのモノで、なんの強化魔法もしていない人なら子供の魔力でも簡単に浮かべてしまう程の反発力を見せる。
それほどの力を私はあえて魔力操作で本来とっくに反発する上限を越えているのに無理矢理押さえ付けた結果、セリスすら吹き飛ばす衝撃として反発した。
実はこれ、私の中でけっこうお気に入りの現象です。
吹き飛ばされる中、私は大きく翼を広げ魔繊手も使い減速と同時に攻撃の体制に入る。
「レインボースコール!」
魔繊手を活用し火、水、電、風、土、氷属性ボールを雨のようにばら蒔くよう射ちつつ、私本体は狙いを定め重力魔法を放ち、ばら撒かれたボールを避けにくくするというイメージで作った魔法。
◯◯ボール系の魔法は初心者向けで目で捕らえられる速さでは避けるのも簡単ですが、これだけ密度が濃ければ普通は回避できませんし、狙わずばら撒く事でセリスのように人の思考を読む人が相手でもきっと有効でしょう。
「ふふ」
風と重力の魔法でしょうね。
有効と思いつつもセリスならたぶん回避も出来るでしょうと期待を込めて使った魔法は小さな笑いと風によって空へ打ち上げられ……
「パーフェクトフリーズ!」
私の指から放たれたパーフェクトフリーズは空中を糸のように伸び、網のように広がり打ち上げられた魔法全てを凍り漬けにした。
氷の中で、本来なら消える筈の火や風の魔法もそのままの形を保って凍る。
これは火や風を凍らせたのではなく、魔力を凍らせたから起こる現象。
「えっ?ちょっとメリル?」
「やああっ!!!」
パーフェクトフリーズにより手から伸びた氷はいびつなハンマーのような形をしている訳だし、強化魔法を使用しそのまま振り下ろす。
セリスの動揺した声が聞こえましたが気にしまん。
どうせ無事でしょ?
地面に激突し砕け、衝撃により活性化した魔力が大爆発を起きると思い結界を張ったのでしょうね。
パーフェクトフリーズにより魔力が凍り付き炎の魔法などが凍った。
それはつまり魔力が混ざり合い無理矢理くっ付けられた状態で、打ち上げられた時にセリスの魔力を大量に受けたボール系魔法はもう私の魔力とは言い難い。
つまり反発する訳でして、これから私が起こすだろうとセリスが予想したのは、セリス魔法で最も破壊力を持つ自爆する魔法と同じ現象でしょう。
ですから防御に回るのは当然ですね。
「ざんねん。ハズレですよ~」
それは破壊力のみ求めた場合で、制御から外れた場合にのみ起こる現象なんですよ。
私はその反発による活性化から起こる爆発する筈のエネルギーを利用して本来の量だとエネルギー不足で使えない魔法を構築したのです。
砕けた氷から吹き出たシャボン玉のような魔力の球体。
空をたゆたうその球体に腰掛けポカンと見上げるセリスの姿を見下ろす。
「フ、フフフフ!なるほど、なるほどね。これは面白い。
本当に派手な魔法実験教室みたいになってるね。ンク……クックッ」
「いや~、咄嗟だった訳ですけど我ながら上手くいきましたよ。
防いだり相殺したりもできたのに打ち上げてくれましたからやらなきゃ勿体ないと思いません?」
「いやいや、私にはそんな事できないからとてもじゃないけど思えないねぇ~。
さて、お礼にメリルができない事をしてあげよう」
「へ?」
セリスがそう宣言した瞬間日陰になり強大な魔力が上空に発生し上に引っ張られる。
「うわっ!」
咄嗟にシャボン玉を小さく分離させクッションにしましたから背中から落ちてもダメージは無いですが驚きましたね。
「これは……」
しかしそれ以上に驚いたのは重力魔法で空に浮かぶ砂鉄の大地を造り上げているこの光景ですよ。
この奇妙すぎる光景は一見地味ですけどかなりの魔力制御能力と私では到底敵わない程膨大な魔力を持ち得ないとできない芸当です。
「ふふふ、凄いだろう?」
「うん凄い。でも……」
重力がすっかり逆転した砂鉄の大地に魔繊手を突き刺し魔力を馴染ませて………
「この状況は私の方が有利なんじゃない?」
「んん!?う~ん……流石にこれだけの魔力を込めたのに乗っ取られるとは思わなかったよ」
そう、私は私の周囲、この真っ黒な大地を乗っ取りコントロール権を得た。
セリスもかなり驚いてとても楽しんでくれているけれど、やっぱり驚かすだけで勝てるビジョンが一切見えてこない。
それから私の持ち得る全部をぶつけたけどセリスには敵わず、最後の最後で短い時間で許容量を越える魔力を消費した事によって私は意識を失い敗北してしまいました。